2025/09/01 - 01:04~21:40 のログ
エリビオ > 時計塔の鐘が下校を促すように西日差す寂しげな校舎に鳴り響く。
友人と語らっていた少年は大きく伸びをして教室を出る。
その足が校舎の玄関ではなく貴族クラスの教室に伸びていったのは、何やら不穏なことを話す貴族クラスの集団と廊下ですれ違ったから。
微かに眉を顰めて学生鞄を肩に担ぎ直し、普段は足を運ばぬ廊下へとゆっくりと歩んでいく。
聞こえてくるのは扉ががたがたと鳴る音。
見えてきたのはモップを立てられかけて閉鎖された引き戸。
嫌な予感に眉尻を吊り上げながらその扉へと近寄り。
とんとん、と控えめにノックの音を響かせた。
続いて至極穏やかな声が教室内部の空気を揺らす。
「誰かいるのかい?」
リセ > 内側からではどうなっているのか分からず、当惑顔を浮かべてがた、がた、と幾度か扉を引いている内に。
「―――っ…」
微かに人の気配と……廊下側から扉をノックする打音に反射的にびくっと肩を震わせ。
「ぁ………、」
穏当な誰かの声音に跳ねていた肩を、ほう…と落して。扉に添えていた手を一度胸に当てて深呼吸してから。
「い、いま、す……、中に……いるんですけれど……ドアが……開かなくって……」
眉を下げて弱った表情とどこかおどおどとした声。外にいる学生らしき相手に呼び掛けて。
エリビオ > 中から聞こえてきた声に、忌みしげにモップを睨みつけて。
「廊下側にモップが取り付けられて引き戸が開かないようになってる。
待ってて。今、開けるから」
挟み込まれたモップを力任せに引っ張り上げ、引き戸をゆるりと開いていく。
見えた銀髪の生徒の姿に、哀れみに瞳を細めるのは、一瞬。
「通りがかって良かった。これでお家に帰れるね。」
朗らかに頬を緩めた顔を取り繕い、ゆるり、小首を傾げて黒髪を肩に零す。
リセ > 外からの声はどうやら害意はないようで安堵しながら耳を傾けていれば。
モップ…?何故そんなものか?と首を傾げて。
「モップ……で、すか……? どうして………
――あ、はい、お願い、します……っ」
扉を隔てた向こうの相手からは見えやしないだろうが、ぺこぺこと頭を下げて扉から一歩引いて。
外側から開けてくれるのを待った。
そして、先程はあれほど引いても開かなかった扉が障害物を退けられてあっさりと開くと、ほぅ…と安堵の息が漏れ。
見間違いかと思うような刹那……可哀そうなものを見る瞳があり。少し気まずそうに顔を伏せ。
「……はい…っ、ありがとうございます、助かりました……っ。
……お掃除の後に……片付け忘れて放っていかれたのか……挟まっちゃったんですね……」
開けてくれた男子生徒にぺこぺこと髪の先を揺らす様に何度も頭を下げて。
扉にかまされていたと思しきモップを見やって……本気でそうは思ってないけれど、有耶無耶にしておこうとするように呟いて、苦笑を浮かべて肩を竦め。
エリビオ > 気まずそうに顔を伏せられるを垣間見た。
表情は崩さずとも努めて明るい笑みを顔のあちこちに宿らせながら。
改めて地位が離れた相手の前に居住まいを正さんと襟元を指で正して黒髪を手櫛で整えてから。
「どういたしまして!
そうだね。多分お掃除の後に片付け忘れていたんだろうね。ツイてないね。」
ぐっとモップを握る手が――果たして悪いのは掃除道具ではないが――きつく柄を握りしめていた。
本当にそうとは思ってないものの、これ以上彼女の矜持を傷つけぬようにと、表情と言葉には出さぬ気遣い。
――は、相手がいつまでも頭を下げる様子にクスリ、と喉を震わせて、心から滲む朗々とした笑みを零して手で制し。
「アハハ!もういいよ。そんなに頭は下げるもんじゃないって。
モップ、片付けよう。反対側の扉の奴も。」
片方の手に今握るモップ。もう片方に反対側の扉に備え付けられたモップ。
両手にもって教室に入り掃除用具棚にしまおうとした。
リセ > 覚醒前に扉の前で薄っすらと聴こえた声や物音から――故意であったことなんて明白である。
それに心当たりだってあった。
けれど、それをここで吐露したって相手が困るだけだろう。
そんな話をされても……と困惑させるだろうから、忘れられたモップがたまたま……引き戸に引っかかってしまったことにした方がいくらも穏当である。
だから、どこかほんのりと諦めた様な笑みを浮かべたが。
「でも……すぐに気づいていただけたので……全然、大丈夫です…っ、お陰様で。本当に……お手数をおかけしました」
彼は自分のクラスの生徒ではなかったので……この教室に用事という訳でもなかったのだろう。
だから何故すぐに気づいていただけたのか、若干不可解に思うが。
「………ぁ……そ……です、ね……すみません……」
反対側の扉にも仕掛けられていたモップ……いよいよ片付け忘れていた、なんていう理屈が通らなくなってくるが……その点に触れないことは暗黙の了解をしていただけたらしく。
けれど、なんだか気まずそうな表情で微かに俯いて。
モップを用具入れにしまってくれる彼に、また頭を下げかけて……途中でやめて。
「――こんな時間まで残っていらしたんですか?」
話題を変えるように問いかけた。
エリビオ > 「手数なんてかかってないさ。モップを外しただけ。それくらいしか能がないから。 」
何故気付いたかなど、イジメを行った連中が通り過ぎたからその先を追ったから、なんて口が裂けても言えず。
弓月の弧に絞ったまま、透き通る鼻歌を零しながら掃除用具箱にしまっていく。
仕舞い終えたのならば相手と再び対面し。
「うん。HRの時間に友達と話していて遅くなったんだ。
君はなにをしていたのかな?
……」
語りかける内に手を彼女の俯く顔にとめぐり。そ、と。気まずそうに窄められた頬をなぞようとする。
叶えば、柔らかなそれは、ただ、慈しみを篭めて、優しく擦りあげてゆく。
「君、綺麗な顔してるんだから、俯いてばっかりじゃ勿体ないよ。
俺の名前はエリビオ。君の名前は?」
リセ > 何が起こったのか、二人とも分かっている癖に素知らぬ振りをして……故意を事故と片付ける。
モップが引き戸から外されて仕舞われたのだからもう、証拠だって何もなくなった。
「あ、いえ、そんな……誰にも気づかれず放っておかれてしまったら……わたし明日の朝までここにいることになりましたから、本当に、助かりました」
そんなそんな、と首を振って。
この教室に縁がない筈の男子生徒が何故気づいたかについては敢えて言及を避ける。
彼は何もかも知っている様な気がしたから。重たくなりそうな空気を払しょくするようなその鼻歌を聞きながらそう感じた。
「お友達と……いいですね……楽しそう。
わ、たし、ですか……、えっと……その……ね、眠り込んでしまって、いて……」
居残り居眠り。返答するのをやや躊躇するように少し気恥ずかしそうに白状する。
そもそもぐっすりと熟睡なんてしていたものだから……こんな目に遭うのだ。
自業自得かも、なんて思っていると不意に伸びる手……反射的にぶたれる、と覚悟したようにきゅっと目を固く閉じてしまったが……まあ、そんなこと急にされる訳なくて。
けれど、頬に触れた感触に、びくんっ…と肩を揺らし。
「ぇ、っと……い、いえ、あの……そんな……滅相も……ありません……
リセ…、です……」
慰めてくれているらしい、と察すればなんとなく情けなくなったように眉を下げつつ。
訊かれて名乗ると。
「………なんだかついてないことも多くって。もう慣れちゃいましたけれど」
故意なアクシデントをついていないことと表現し、自嘲気味に肩を竦めて。
別に珍しくもないから平気です、と云うように少し困り顔で笑って。
エリビオ > 「眠ってた……教室で。起こしてくれる人はいなかったの?」
硬くなる頬に人肌の温もりを伝え、緊張に揺れる体に掌はただ頬を撫でるだけしか行わない。
やがて下顎に手を寄せて仰がせた瞳に、眦下がる淡微笑を映し。
「俺は綺麗な顔してると思うけれどな……リセ。
俯くより胸を張って明るい顔を見せて欲しいな。」
下がる眉尻に人差し指を這わせて、少しだけ持ち上げようと繰り返す。
やがては掌はゆっくりと相手から離れて自分の胸元の腕に組ませた。
「……そっか。慣れるほど、こういうことがあったんだ。辛いね……。」
眉はあがることなく微苦笑を浮かべる少女の前に小さく唸り、暫くの沈黙。
急に苦しそうに腹を屈めて震える拳を彼女の前に突き出した。
すると、ぽん、と音を立てて拳の中から一枚の花が飛び出て彼女に差し出す。
リセ > 「基本……いらっしゃいませんね……ゆっくり寝させてもらってます」
有体にほっとかれてる…だけなのだが。少し強引にでもいい風に解釈すれば起こさないでおいてくれている…となるが。それはちょっと…自分で云っていても苦しいなとは思う。
それよりも……なんだか哀れまれているのであろうか。顔に触れる指先に……少々戸惑いと自嘲が過る。
よく知らない生徒にまで可哀そうに思われるようなやつなのか、と。
「い…いえいえ、いえっ…わたしなんて、そんな全然、全然そんなことないです……っ。
ぇ、っと……ぁ……ぅ……善処…します……」
自己肯定感の限りなく低い女生徒。顔も態度も自分ではちっとも良くは思えない。
ふるふるふるふるっ、と毛先を左右に揺らすよう首を振っていて。
明るい顔……と自分の頬をふに、と指先で持ち上げると。うーん…とやや悩まし気に首を捻り。
「え……といえ、そんな、全然、わたしは大丈夫、なので……ほら、こうして今日は運よくエリビオさんも通りかかっていただけましたし……」
だから差し引きして、今日はそんなについてなくもない、と処理していたが。
不意に沈黙が過り、苦し気に身体を折る所作に驚いて。
「ぇ、あ、あの…? あのっ、だ、大丈夫、ですかっ? 具合でも―――…………え?」
すわ何事かと慌てて拳を突き出す動きにも目を丸くし、あわあわと声をかけていたが……拳からぽんと現れたのは……お花?きょとん、と目を丸くして処理落ちしたように固まっていたが。
「~~~~わ。わ、ぁ……び、びっくり…しました~……」
ほおう…と大きく息をついてから、そして差し出された花に思わず笑みを誘われ。にこ、と自然に微笑むと「いただいても?」と手を伸ばしながら尋ねた。
エリビオ > 差し出したのは手品道具。名もなき野花の造花。
なれど目の前の人を驚かせ笑みを浮かばせることはできた。
その一連の作業を見届けた少年は苦しげに装っていた長身を起こしてから、そっと相手の胸元へ花を差し出し。
「ほら。やっぱり笑ったほうが可愛い。
魔法の前じゃ役立たずなんて言われていたけれど、手品を勉強していてよかったよ」
こちらも白い歯列を覗かせて鷹揚に笑う。二人して笑みで対峙させては場の雰囲気が明るくなったことにトーンが上がる声が閑散とする教室に揺れる。
「もし、友達がいないならば、俺が友達になろうか?
平民クラスの出の俺で良ければ。」
どう?と薄く小首を傾げた。
リセ > 作り物の花だったが、目の間でぱっと開くのには思わず笑ってしまう。
ふふ、と小さく笑気を洩らしては、差し出してもらった花をそっと受け取って。
ぺこりと会釈し。小さな花を見て、
「ふふ、かわいい……ありがとうございます……
……え、ぁ……か、かわ……そ、ですか……?
これも……とっても素敵な魔法だと思います」
魔術ではなく……奇術と呼ばれる類のものだったが、なんだか気持ちはちょっと解れた。
心を解すには十分な魔法であると、笑みを浮かべて。
「え……? お、とも…だち……に……?
で、でも……そんな……あの、いい、んですか……? わたし……わたし、きっと……ご迷惑をおかけしてしまぅ、かも……」
お友達。降ってわいた出来事に目を丸くしてから、へどもどと口ごもって。
それからおずおずと窺うようなまなざしで見上げ。
こうして日常茶飯事みたいに意地悪されている女生徒。とばっちりを食わせてしまう可能性だってある。
だから、そうなってしまったらどうしよう…とまた困ったように眉が下がり。
エリビオ > 「可愛いと思うよ。それともお世辞で言ってると思った?」
澄んだ低い笑声は、微笑ましげにも揶揄するようにも響く揺らぎを伴って、小首を横に傾げる仕草を見せる唇から朗々と放たれた。
そして黒瞳を嬉々と細めて彼女がどう反応するか腕組みして伺ってゆく。
が、続く言葉には静かに腕を解いてから。
顎に指先を添えて思惑深めるかに瞼を閉ざして。
「ご迷惑……ねぇ。」
ちらり、片瞼を開いて伺う藤色の眼差しと視線を絡めて、その眉がまた下がるのに小さく吹き出した。
「友達は迷惑なんて気にするものかな?逆に助けてあげたいと思うのが友達じゃないか?」
頸を傾ぎ、また長い指をそろりと彼女に伸ばして―――その鼻梁を、きゅ、と摘んでやろうと、試みた。
何にしても相手を気遣いすぎる彼女への、ほんの些細な咎め。
リセ > 「う…うーん……ぁの……どちらかと云えば……慰めてくださっているのかな…と……」
多分客観的に見て――今日の自分は哀れっぽく見えているような気がした。
それを放っておけないような心根の優しい相手なのだろうと見当をつけていたので、それを正直に口にして。
しかし、いかにも明朗にそんな風に仰るので。思わずこてり、と首を傾げてなんだか物珍しい物を見るようなまなざしを彼へ向けた。
「絶対……わたし……すごくご厄介をかけてしまう……気がします……」
何せ所構わず寝入ってしまうし、ついたあだ名は『嘘寝』だ。
とてもじゃないが友達になってメリットなんて生じない……デメリットばかりになると予想されて思いがけない申し出に逡巡する。
「で、も……エリビオさんにまで……――ん゛」
鼻つままれた……なんだろう、めっちゃ触ってくるこの人……距離の詰め方が陽キャ過ぎて戸惑い。
驚いてはふ、と口から息を吐き出して。
「……あの……すごくありがたいのですが……でも、エリビオさんは……わたしとお友達になりたいって……思った訳じゃなくて……わたしのことを哀れんで仰ってくださったん、でしょう……?
だから……その……申し訳ないなって……」
こんな現場に居合わせたのだからそりゃそうも思うだろうが……その上巻き添えでいじめ被害が伝播したら……どう責任をとればいいのやら皆目不明である。
エリビオ > 「慰めてるならばこんな風に鼻をつまんだりしない。
友達としてふざけあってるつもりなんだけど。」
摘むことが叶った手はすぐに引き離して。
続く言葉に静かに耳を傾けた。
その一部始終を聞き終えてから、はっ、と小さく息をつめて。
「……申し訳ないけれど、リセさんの考えは間違ってると思うよ。
そもそも厄介だと思ったのならばモップを外した時点で俺は帰ってるよ。
哀れみで接してるならばもう少しやんわりと接するさ。
せっかく出会えたんだもの。友達になりたいと思うのはよくないことかな?」
じっと見つめる。言葉数少なくて何が厄介かわからぬとぱちぱち、瞳を瞬かせて相手の周りを巡っていくが。
「リセさんこそ、俺にかかる『迷惑』が自分にとって迷惑だと思ってないかな?
何が迷惑かもわからないけれど……それならば俺はもう何も言わないし帰るよ。」
ゆっくりと手を差し出してゆき。
「そうじゃないなら、友達になってほしいな。俺のお願いとして。」
リセ > 鼻をつままれて発音するもので大分不明瞭に。
「ほぅ、で、ふか……
っは、ふ……お友達って……こうしてふざけるものなのですね」
根底から何も把握していない。
友とは……と壮大なテーマに基本友達いない子は彷徨うのであった。
「……………………
だ、だけど……でも………わたし、なんて………お友達になりたい、よりも……きっと……なりたくない、人、で……だから……」
自己否定が強いし、自分のことも好きじゃない。
こんなじめじめと湿っぽいやつと友達になりたいなんてどうして思えるのか。
自分の考えでは正直分からない。
「そ、そんな…こと……だって……わたしのせいでなにか……不利益が生じたら……ほんとうに……申し訳なくって……」
考えたら少し泣きそうになった。じわっと双眸を思わず潤ませて。
まるで叱られた子供のような所在なさで。ただでさえ大きくない身体をさらに小さくしていたが。
差し出された手を見つめて。
「…………ぁ……その……わ、たし…で良ければ……喜んで」
おずおずと手を伸ばし……そぅっと遠慮がちにまるで壊れものかのように少し握って。
そのまま頭を沈めてしまうところが……徹底的に小心者のいじめられっ子であった。
エリビオ > 「……俺は、楽しいよ。リセさんとお話して。
ちょっと暗いけれど天然なところとかもあって、面白く感じる。
だから、少なくとも、俺はお友達になりたくない、なんて思ってない。」
手を差し出したまま、静かに、一言一言、丁寧に言葉を重ねていく。
「不利益が生じたら友達ってやめるものなの?
そんな概念なんて俺にはただの赤の他人だと思うな。
君は何も悪いことをしてない。ならば悪いのは不利益を生じさせる奴らさ。
大丈夫。俺、そこそこ強いから。気遣いなんて不要さ。
……ああ。」
藤色の瞳が潤んでいく様子に、そ、とハンカチを差し出す。
そして差し出していた手は恐る恐る握る手にしっかりと握りしめて。
「これからもよろしくね。リセさん……いや、友達になったからさん付けはおかしいや。
よろしくね、リセ。最後に頭をあげてほしいな。」
リセ > 「ほんとう……ですか?
おもしろ……? え、えっとありがとう、ございます。そんな風に云っていただけたのは初めてです。
ふふ……優しいんですね」
丁寧な語調でそんな風に言葉を紡いでもらえるとありがたさにやはり自然、頭が下がる。
腰の低さは最早習性と呼んで差し支えない。
「そう……じゃないん、ですか…? だって……お友達って一緒に楽しく過ごす為の相手なのに……厭なことがあったら……きっとやめてしまわれるもの、かと……
……で、でも……わたしが、なにも悪くなければ……きっと何もされません、から…多分…だから……わたしが悪いんだと思う、ので……
強……ふふ…それは、とっても頼もしいお友達、ですね。
ぁ、あ…だ、大丈夫です、よ……っ?」
ハンカチを差し出してもらったのに、泣き出しそうになっていたのか、と恥ずかしくなって、へっちゃらですと慌てて花を持った片手で目許をごしごしっと拭って、勢いよく拭ったのでやや赤くなった目許で、取り繕うように笑みを作って。
「こ、こちらこそ……大変至らない点も多いかと思い、ますが……よろしく、お願い……します…っ。
え、っと……さん付け……変、ですか……? で、では…エリビオ…くん……?」
さすがに呼び棄てるまでの度胸はない。見た所……大柄だが多分下の学年……だと思う。同級生でなんとなくでも見かけたこともないし……。
そろそろと顔を上げてから……きゅ、と一度手を握って軽く振り。にこ、と笑みを向けて。
――そんなこんなで大分時間を取ってしまった。斜陽の陰りは濃くなっていて……窓の外を見てあ、と気づくと。
「すっかりお引止めしてしまいましたね……すみま……いえ、ありがとうございました」
謝りかけて軌道修正してお礼にして。そろそろ下校せねばと教室を後にしようか。
エリビオ > 「リセが悪いのだとしても、俺には悪いものが見当たらないな……
もしかして俺の前で猫かぶっているだけで普段はすっごく悪い人だったりして。」
冗談めかして告げながらハンカチはポケットの中へ。
浮かべる笑みは心地よいものの、目元に残る赤い目元に、自分の瞼を軽く突いてそれとなく教えて。
「よろしくねリセ……さん付けは変じゃないけれど、他人行儀に感じるからさ。
だから俺のことも呼び捨てでいいよ。」
向けられる再三の笑みにこちらも片目を瞑る。
そうする間にも夕陽は色濃く教室に闇を落として2人の影を大きく引き伸ばしていた。
「ううん。俺が君と話したくてここにいただけだから。
どういたしまして。
それじゃいっしょに帰ろう……俺は寮だけれど、リセは家かな?だって俺と違って裕福だし。」
互いの素性を語り合いながらその姿は寄り添い、影を引き連れて教室から消えてゆく――
リセ > 「そうだったら……どうしますか?」
実は腹黒かったりしたら、友達やっぱやめ!となるのだろうか、なんて首を傾げたが――実際それはただの戯れの類で。
瞼を示す所作に……ぁ、と気づいて次は気まずそうに顔も赤くなるが……帰って冷やすくらいしか現状手はないし、帰宅した頃には赤みも引いているかも。
「呼び捨て……呼び捨て、ですかぁ……」
人様を呼び棄てたりしたことがない。うむむ…と小難しい顔で眉を寄せては。
量に帰るという相手に、肯いて。
「痛み入ります……なんて云うと…また他人行儀と云われてしまいますね。
えっと……はい、自宅の方へ戻ります」
今日できたお友達と。まだちょっと慣れない感じで教室出ては寮へと戻るところでお別れして、さようなら。と行儀よく…また頭を下げて帰路に就くのだった。
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 貴族・王族クラス 教室」からエリビオさんが去りました。<補足:学生服>
ご案内:「王立コクマー・ラジエル学院 貴族・王族クラス 教室」からリセさんが去りました。<補足:学生服>