2025/10/05 のログ
ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」にカグヤさんが現れました。
ヴァン > 旅館へチェックインし、部屋に案内され、浴衣へと着替える。
客室では「浴衣の下には何も着ないのが東方でのしきたりらしい」と大真面目にカグヤへ告げた。
男は自分で言った通りに浴衣へと袖を通し、帯を締めた。異国の装束だが、それなりに着慣れているらしい。

その後に向かった宿泊者専用フロアにある浴場は――予想通りというべきか、混浴だった。
番台に部屋の鍵を預けた後、浴衣が入っている籠を数える。
老若男女はわからないが、先客が十名ほどいるようだ。

「湯船に浸かる前に身体を洗うんだっけ……」

浴場への扉を開けると洗い場が並ぶ。端の方を覗くと誰もいないようだったので、そちらへと向かう。
端に積まれている木製の湯桶と風呂椅子を二人分掴むと、手近なカランの前に並べて置いた。
改装が行われたばかりだから、設備も備品もピカピカしている。

「カグヤさんはここに来たことはある?」

男は夏に汗を流すため、冬に身体を温めるために来たことはあるが、宿として利用したことはあまりない。
先日の会話でここの存在とそれにまつわる噂は知っているようだったが。

カグヤ > 文献では読んだ事はある。どれも信憑性の怪しい口伝を纏めたようなもの。その一節に彼の言葉の通り、寝間着を兼ねる物だという記載もあった。
寛ぐためなら、そう彼に連れられた部屋、その作りに納得は出来て、彼と互い違いに袖を通す浴衣。しっかりと胸の袂も閉じ、帯を締める。髪を降ろしていたが、早速湯へと誘われた事で、慌てて緩いお団子のシニョン風に髪を纏めた。

彼に連れられたまま潜る扉、当たり前のように誘われる混浴の脱衣場。
幸い、今は入浴中のためか人影はおらず、彼に従うよう浴衣をその籠の中へ。
長く大きいサイズのタオルで胸元から前面を隠す様腕で押さえながら、視線はきょろきょろと先客の存在を確かめる。

「えぇ、何度か……でも、安いお部屋で、混み合わない時期の話でしたから。」

今のように人のいる、まして混浴に浸かるなど考えても居なかった。
しかし、まだ一人では無い事、それが少しばかりの安堵に繋がっていて、彼が並べてくれる椅子へ腰を下ろした。
その時利用した部屋、利用した浴室とはその清潔さが違う。
細い指先がカランを、桶を撫でて、その綺麗さに感嘆の吐息を零す。

「先に、身体を──……。」

恥ずかしい、とカマトトぶるつもりはないが、それでも多数の人のいる場であれば羞恥は拭いきれず。少しばかり躊躇った後に、前を隠していたタオルを畳み、カランの上へと置いた。
彼の動きを真似するように、身体に湯を掛けて身を清めてゆくのだろう。

ヴァン > 洗い場をしっかり見てみると、何人かの姿が見て取れた。あまり近いと気を使わせてしまうと、男は彼等を避けたのだろう。
でっぷりと太った男が、女性の三助――どうやらここの従業員のようだ――三人に身体を洗ってもらっている。
年若い学生達が周囲を気にしながらも冗談を言い合っている。洗い場に女性客はいないようだ。

「大浴場は広い分、人もたくさん入るけど……時期によっては空いてるからね」

日帰り客も使える浴場は時折ハプニングめいたことが起こる。過去、男もその被害に遭った。
新しくできた場所、しかも宿泊客用なら大丈夫だろう。
場所柄、清掃は毎日しているだろうがそれでも時間が経てばどこかしら古びてくる。

薄手のタオルを湯につけて石鹸にあてて泡立てる。
夏の暑さは落ち着いてきたとはいえ、まだまだ汗をかくことが多い。かけ湯をしただけでは流せないだろう。
己の腕にタオルを押し付けようとして隣のカグヤの姿が視界に入った。

「折角広い浴場に来てることだし、お背中お流ししますよ、先生」

冗談めかした口調。人がいる場所でよもや変なことはしないだろう。
今男が浮かべている笑顔は――昼のものか夜のものか判然とし難い。
遠慮をものともせず、彼女の背後へと回るだろう。

カグヤ > 緊張の最中、彼の言葉を思い出す。これは記事になる仕事なのだと……。
だから羞恥になんんとか抵抗して向けた視線に飛び込んでくるのは、女性は居ても、その従事者であり、殆どが男性である事……。
とても、女性が気軽に使える風ではない、その点も踏まえなければなんて思案しながらも、それはそれで綺麗な設備には満足している様子もあり。

「それに、碌な話も聞かない、と言った所かしら……?」

様々な男を相手に居はしているが、誰でもいいというつもりは無い。
故に、その状況には興奮する、というよりも未だ恐怖による緊張が強く。
彼に習うようタオルを泡立てながら首筋や腕を持ち上げわきの下を清めていた所……、口調はお道化ているものの、その真意は図りかねる彼の言葉に──。

「ぁッ──。」

有無を言わさず。背後に回り込んだ彼の手が背中に触れる事となるだろう。
シニョン風に巻いた髪がポニーと違い堂々と項を晒し、日焼け跡の少ない白い肌、普段隠れている背中はより白くその色は彼の目を楽しませることとなろうか……。

「も、ぅ……。」

きっと、彼へ何を言っても止まらないのだろう。
そうあきらめもついたから、背中を丸めて頭を下げる。背後の彼に全てを託すように目を閉じた……。
前かがみになり揺れる胸や少々重なる腹部等、通り過ぎたり覗き込む他の客の目にも触れてしまうやもしれないが。

ヴァン > 「混浴ってなったら男は前向きに、女は後ろ向きになるよな……。
おっと、その話は……」

仕事を頼んだ当事者として、ぽつりとそんな感想をもらす。
ろくでもない噂は文章にすると不味い。校正の段階でなんとかなるだろうが……。

「俺も人の事は言えないけど、白い肌をしている……?
これくらいの強さでいいかな。それとももう少し強く……?」

髪に泡がつかないように少しだけ手が首筋に触れる。
最初は弱くタオルが背中にあたった。少しづつ押し付ける強さを変えて、相手が望む触れ方を確認してから背中を洗い始める。
丁寧な手つきで続け、うなじから肩口、背中へと手が届かない所をタオルで洗っていく。
腰骨の上あたりで、こんなものかな、と呟いてタオルが離れた。

「カグヤさん、泳いだりするのかい? ちょっと意外だな」

背中からお湯をかけて、泡を流す。男の掌が直に触れるが、ただ泡を落とすだけの触れ方で、普段とは違う。
幸いなことに、その間二人の近くを通る人はいなかったために、彼女の姿が誰かの目に晒されることはなかった。
男が口にしているのは微かな日焼け跡に言及しているのだろう。

カグヤ > 「好き好んで衆目に素肌を晒したい女性は少ないでしょうね。
でも、それが売りであることは周知の事実だから……、そこは、ね?」

少ない、というだけでそういうことを好む人種も居る、或いはパートナーにそうさせたい、という需要も含め。そう今がそうであるように……。
彼の制止に微笑んでから頷いて一旦この話は無い事にした。

「私、すぐ真っ赤になってしまうのよ。だから……。
んっ……、もう少し、強く……くすぐったい、から──。」

彼の手つきにそういう意図が無い事はわかるから、優しい手つきでは少々くすぐったいと訴えて、気持ちよさそうに彼の力具合を堪能する。
その手が離れて、他者の手で身体を拭われるという存外の心地よさに、少しだけ頬を赤らめながら、感謝を口にし。

「ありがとう……。そうね、少し運動しないといけないのと……。
ほら、そういう本も一杯、あるから……。」

学生の水着から際どい紐のような物まで、生物の欲望には際限がない。
パートナーにさせられない、受け入れられない物ともなれば尚の事だろうか。

彼の言葉に顔を上げて、椅子を持ち上げて振り返る……。そして彼の手の中にあるだろうタオルへ手を伸ばせば、今度は彼の番、とでも言うように、つん、とその腕を押した。

ヴァン > 「うーん……言われて思い出したんだが、そういう声も汲むとかなんとか。
なんだっけ……」

女性に配慮した何かが新しくできた、というような話を聞いた気がするが思い出せない。
今思い出しても後の祭りだ。
言われた通り、少しだけタオルを押し付ける力を強め、洗い方も変える。

「家との往復と司書業務とで、それなりに運動をしていると思うけど……。
あぁ……なるほど……?」

食事量や酒量からは、そこまで運動が必要には思えなかった。とはいえ、女性に対して体重に言及するのは危険な行為だ。
続く言葉には納得したように頷いてみせた。
相手の身体を洗い終えてから、自分の身体へと戻る。自分のために置いた風呂椅子に腰かけてから胸元や腹を洗う。
腕を押されると大人しく椅子を少し動かし、背中を向ける。浴槽がある方向を向いた男が、あ、と声をあげてから視線を落とした。

学生だろうか。少女といって差し支えない三名が歩いてくる。
三名が三名とも、濃い茶色のワンピースのようなものを身にまとっている。
お揃い、というには年頃の子が着るような可愛げがあるものではない。
どうやら、宿泊客に貸し出しているようだ。一人の少女がカグヤを見て、不思議そうに首を傾げた。

カグヤ > 「あら……担当さんにしてはリサーチ不足ね。」

彼が先生扱いするのだから、こちらだってと意趣返しのつもり。
良い記事が書けるかしら、なんて冗談めかした言葉を紡ぎながらも、彼の手の心地よさに表情が緩んで。

「使う筋肉や負担の掛かり方も異なるから。怪我もしにくいでしょう?」

全力で泳げば疲労の仕方がいつもと異なるし、ウォーキングだけだとしても膝への負担は軽いからと。
そんな会話をしながら、彼より受け取ったタオル。そして向けられた背中の大きさにそっとタオルではなく掌を載せる。泡の乗ったそれが広い背中を撫でる様に触れてからタオルを載せて、両手でそれを掴むと背中を流してゆく……。

しかし、その瞬間、彼の声によって導かれる視線は湯舟の方へ、視界に入ったのは湯浴み着を着て歩く少女らの姿。
そして、不思議そうな視線、首を傾げる様子に思い至るのだろう。嵌められた、と。

しかし、ここで恥じらってしまえばそれは彼女らにも伝播してしまいそうで、彼の為にタオルを両手で握っているため、豊かな膨らみが大きな谷間を刻む中、その様を少女へと見せつけるように。
司書の対象は少女でも構わない、故に妖艶な姿を見せ付けながら、彼の背中へと其の豊満な胸を押し付けるように寄りかかって、両腕が彼の首から胸元へと落ちて抱き締められる……。

「知って、いたのかしら……?  ヴ ァ ン ?」

少女から見れば男を誑かす妖艶な女性、しかして彼の耳に届き、彼の胸元を詰めの先が、軽く痛みを与える様に食い込む。囁かれる言葉も、怒気を孕んで、その耳朶を、食んだ。
見てはいけない物を見た、或いは、はしたないと、少女が去るまで、そして去ったなら、タオルを床に落としてそのまま彼に背を向けた。
自らに残った泡を洗い流す様に。要は、拗ねた。

ヴァン > リサーチ不足と言われると返す言葉もない。
この仕事を依頼してきた人物からは、素晴らしいホスピタリティだとか言っていた気がするが……。

「水泳は……故郷ではよくやったけど、王都に来てからはご無沙汰だな。
陸ではあまり使わない筋肉を使うし……」

水の中を歩くのは膝への負担が軽くなる一方で、一歩を踏み出すために太腿にこめる力が増す。
健康に気を使う富裕地区の住人でプール利用が増えている、なんて話を聞いたこともあった。

いくら着ているからといって、壮年の男がじろじろ見ては少女達も良い気分ではないだろう。
顔と視線を落とし、何事もなく通り過ぎるのを待つ。
不思議そうに見ていた少女は、カップルがいちゃついていると判断したようだ。慌てて目を逸らす。
姦しい娘達の会話は歩き去った後ですら、嫌でも聞こえてくる。その内容を総合して、ばつが悪そうに口にした。

「湯あみ着……そんなのがあるのか。
いや……現地でのお楽しみとか何とかで、具体的には。番台で借りるのか……?」

白を切っている、というよりは本当に知らなかった様子。番台の店員が何も言わなかったことから、他で調達するのかもしれない。
背中にあたる感触は心地よいものだが、静かな怒りを含んだ言葉の前には霞んでしまう。
現状をどうとりなすべきか考えつつ、自らについた泡を落とす。

「薬湯みたいにお湯に色がついているから、湯船に浸かれば大丈夫じゃないかな……」

幸いなことに湯船までの間に人はいない。
あまり見られることはないだろう、とフォローをして。

カグヤ > 「なら、今度は水泳に誘って下さる? その疲れを、今度はそこで癒すのなら、リサーチ不足の誹りを返上出来るでしょう?」

とはいえ、今回は懐が痛まない話だが別の機会となればそうも行かないだろうから無い物ねだりと言った事になろうか。
冗談めかした提案、穏やかだった時間も少女等の到来で崩れてゆくのだけれど。

「はぁ……、どうしてくれるの、私すっかり変態じゃない……。」

見せつけに見せかけた彼への報復に少しだけ留飲が下がるものの、拗ねたまま聞く彼の独白に、
それが事実であろうがなかろうが、もう今さら湯浴み着を調達する事なんて出来ない。
だから、覚悟を決めるしかないのだが、そう簡単に、それこそまた彼女ら、或いはそれを目当てに来ている客の餌食にだってなりかねないのだから……。

「そういう問題じゃないわよ、馬鹿ッ……。 本当に、良いお風呂に綺麗な設備なのに……肝心な貴方がポンコツじゃない。」

うぅ、とうなるようにしながらも、身体を洗うという名目は済ませる事となる。奥に置いていたタオルを手に、胸元を隠せば、彼へと手を差し伸べて。

「ほら、行きましょう……。 折角、ヴァンが誘ってくれたんだし……。やっぱりむくれているのは嫌だから。」

そうやって、彼と大きな湯舟が広がる場所へと、ただ彼の身体に隠れるよう半歩遅れて歩くのだろうが。

ヴァン > 「いや、変態ってことはないんじゃないかな……」

とにかく、湯船に入れば羞恥心も収まるだろう。
ポンコツ扱いされるも、まったくもってその通りなので言い返せない。
あまり身長は変わらないが、男が前に出ればその分彼女への視線を遮ることができる。
湯船は大きく二つに分かれていた。透明なお湯と、緑色の濁ったお湯。

透明な方には複数の男女がいた。中年の夫婦と肉体労働者らしい筋骨隆々の男二人。
そして男たちに話しかけている女が二人。全員湯浴み着は着ていなかった。
ヴァンは少しだけ安堵したような顔になる。皆が一度、新しく湯船に近づいた二人に視線を向けたが、すぐ戻っていった。

濁ったお湯の方には……誰もいない。流石に不審に思って近づいてそれぞれに手を入れる。
緑色の方がやや熱いぐらい。今いる者たちは長風呂が好きなのかもしれない。

「変な効果は……なさそうだな」

先程の話の流れから、濁り湯で身体を温めた方がよさそうだ。
念のために安全を確かめてから、視線を遮れるようにしつつカグヤを促す。
湯船に浸かったなら、ひとまず壁側へ。首まで浸かり、長く息を吐く。
手が触れるくらいにするか、もっと密着するか……変な視線がこなければ良いか、と考えつつ。

カグヤ > 彼の背中に隠れる様にして歩く。少し濡れたタオルが身体に張り付いてラインを露わにするけれど。
行く先に広がる二つの湯舟、透明なそこには既に先客がおり、同じように裸体を惜しげも無く晒して男へと話しかける女性の姿に、安堵とも男を漁りにきたのだろうか、ともそんな思案を向けてしまう。

此方へ向いた視線がすぐ離れた事に安堵しつつも、彼が確かめてくれた湯の中へと足先からそっと、浸かってゆく。

「ん……あ、ッ……ふ……は、ぁ──。」

爪先が一度触れては引っ込む。思いのほかの熱さに何度か熱に慣らしながら身体を沈めてゆき、そうなってしまえば刺すような熱の刺激にも慣れてゆく。

彼に促されるがまま壁側へと歩み行けば、そこでタオルを湯舟の縁へと畳んで腰を下ろす。
彼が壁になり、壁側に居られるお陰で他からの目を気にする必要も無くなった安堵感から、やっと思考もまともな方向に戻り始め……。

「ごめんなさい、ヴァン……私ったら。随分と大人げなく貴方の事……。」

悪気が無かったことも、理解出来ていたのに素直になれなかったと謝罪を口にして、そっと、甘えるように彼の肩に凭れるよう身体を寄せた。
濁った湯は彼の目論見通り肌を隠し、ただ豊かな膨らみの上辺だけを彼に見せつけるようにして……。

ヴァン > 中年夫婦と男二人がほぼ同じタイミングで湯からあがり、脱衣場へ向かっていく。
女二人はやや憮然とした表情を浮かべていたが、洗い場から湯船へと向かってきた学生たちに声をかけ始めた。
どうやら、秋の夜長を過ごす相手を探しているようだ。学生達は引き込まれるように透明な湯船へと入っていく。

「いや……女性をデートに誘うなら、下調べをしておかないとな。君の言う通りさ。
とはいえ、あんなぶ……不案内な人にも伝わるようにすると、より良いのかも」

無粋、という言葉を飲み込む。チェックインの時、客室の案内書、浴場の入り口、貼り紙。
見落としがなければより良いだろう、と己の反省を伝える。レビューに書くとよいだろう、と。
近づく相手を受け入れるように手を伸ばす。体勢を崩さないように女の腰へと手を添わせて。

「……ま。レビューを読んだ人がより良くここで過ごせたら、それがいいんじゃないかな。
食堂でご飯を食べて、少し遊戯室を覗いてから部屋に戻ろうか」

乳房の先端は緑色の濁りの中に沈んでいる。男からすら見えないなら、遠くからはより見えないだろう。
見せつけるような仕草は、もう片方の浴槽にいる者達からは見えないだろう。
ただ、たしなめるように耳朶へふっと息をふきかける。

「取材はしっかりしないとね……先生」

濁り湯はほとんどを覆い隠している。男の身体がどうなっているかも目で確かめることはできない。

カグヤ > 既に居た客が上がる。その水の音に視線を向ければ少しほっとしたように表情が緩む。勿論客は彼らだけではないしもっと奥に行けば他にもいるのだろうが……。
新たな、彼女等にとっての得物は手練手管だろう男を漁る女に対しては若すぎるように思え、取って食われてしまうのではないかと、その行く末を案じるだけに……。

「でも、お陰で提灯記事にならずに済んだと思うわ。良いところばかり書いたのでは信用もされないから。」

本当に、設備もこの湯の加減も、接客だって及第点を軽く超えているのだから文句の付け所が無い。
だから内容に苦慮していたのも事実は事実で、彼に礼を言いながら腰に回る腕をそのままに、掌を水面に出せばその濁り湯の透明度を測るように、掬っては落としと繰り返しながら……。

「えぇ、そうね。 安心して過ごせるようにも、上手くエスコート出来る様にもなるといいわ。」

彼の提案に、頷いてこの後の食事や遊戯室へ思いを馳せる。
火照った身体へと流し込むエールはさぞ美味しいだろうし、遊戯室で一汗掻いた後の風呂場はもっといいだろうと。

「んぅ……ば、か……そんなつもりじゃないわよ。 ただ……見えない方が見えるよりも想像を掻き立てないかしら?
それが、出会ったばかりの男女だったら……どう?」

もし、状況が違ったなら、湯の中で彼の物を探ったりなどしたのかもしれない。
彼もきっと同様だろう。見えない中だからこそ、昂るものもあると笑いながら、透明な湯舟よりもずっと、淫らに思えたこの風呂はそれなりに有益な情報かもしれないと。

ヴァン > 少年達は四人、女性客は二人。経験の差は人数差でカバーしそうだ。――旅館で美人局、ということもないだろう。
人の連れに声をかけたり、無遠慮な視線を向けたりといった迷惑な客はいないようだ。
ナンパは……判断が難しい所だ。客同士のトラブルがあると旅館も困るだろうから、度が過ぎれば対応をするだろう。
誰でも入れる大浴場と比べると、この「宿泊客専用浴場」は良いのかもしれない。

「注意点を書いておけば店側も改善できるし、読み物としての信用もされる、と。
食事はわからないが、遊戯室は使ったことがある。確か、ダーツとビリヤードがメインだった」

濁り湯を確かめる動きを眺めながら答える。
食事は季節ものが多い印象で、この時期に何を食べたかあまり覚えていない。店員にお勧めを聞くのが無難だろうか。
遊戯室には机上でテニスをやるようなものもあった気がするが……服がはだけてしまいそうなので黙っておいた。

「見えない方が……? 確かに、そうかもしれないな。
全部見えているより隠れているものがある方がより魅力的に見えるとか。
そう言われると、あの湯浴み着ってのも趣深いものに思えてくるから不思議なものだ」

ぽろりと失言を零すも、今回は気付くのが早かったようだ。
腰に回していた手で軽くとんとん、と触れて。

「身体が温まったら、ここから出ることにしよう。
思いついたことがあったらメモをしていないと忘れてしまうからね」

二人が客室に戻るのは、さてどれくらい後の話か――。

カグヤ > 「じゃぁ、本当にこう、富裕層メインの施設なのね。まぁ当たり前かもしれないけれど。」

自らが利用した場所はそれこそ、有象無象玉石混交の場所だったのだろうと思い知る。
ただ、比較すれば新たに見える景色もあるだろうから、それもそれとして。

「………………… 馬鹿。」

失言に、今日何度目になるだろうかその二文字。
しっかりしているように見えて今日は随分と抜けている。しかしそんな様を特段悪く思えないのだから不思議なもので……。
彼の手が腰に触れる、そして促される言葉にそのまま、少し悪戯をしようと思ったのは単なる気紛れ。

濡れてしまったタオルで身体を隠す事はせず。彼の腕に己の腕を絡めながら、口説く彼らの前を通り抜けてゆく……。
それは、彼らを狙う彼女等への助けとなったか否かは知らねど……。
食事で空腹を満たし、施設を巡った後、彼の仕込んだ嘘が発覚するのだろうけれど、今はまだそれを知らず。

ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」からカグヤさんが去りました。
ご案内:「温泉旅籠「九頭龍の水浴び場」」からヴァンさんが去りました。