2026/01/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にナイトさんが現れました。
ナイト > 冒険者ギルドが一番混みあう時間帯と言えば、それは当然朝である。
本日の依頼はどれどれと、皆が掲示板に群がり依頼の争奪戦が毎朝開かれるのだ。
お目当ての割の良い仕事にありつけた者は上機嫌に口笛を吹かし、そこそこの依頼ならぼちぼち仕事へ出かけ、まともな依頼が得られなかった者は受付に泣きつくか、壁の肖像画の如く誰かが声を掛けてくれるまで待っていたりする。

今日も今日とて争奪戦が繰り広げられるその傍らで、依頼申し込み用の受付にもちらほらと短いながら列ができていた。
後ろから、薬草採取の依頼を出しに来た薬師の女性。郊外の街へ向かうための護衛を頼みに来た商人の男性。
先頭には迷子の子犬を探してほしいと泣きじゃくる幼い兄弟。弟はボロボロと涙を零して兄に引っ付き、兄の方は泣くのを我慢してたどたどしいながらも一生懸命に説明する。
受付嬢は優しい微笑みを浮かべながら、必要な情報だけを的確にまとめて、あっと言う間に書類を仕上げてしまった。流石受付のプロである。
そんな彼女らがテキパキと仕事をこなしても、昼を迎えるまでにこの列が途切れることは無いと言うのだから、王都にとって冒険者ギルドは無くてはならない存在と言えるだろう。

そうして、また一人――。

「……ふーむ……あっちか」

ギルドの扉を開いた艶やかな黒髪を靡かせる少女は、くるりと軽くギルドの中を見渡して、看板を見つけると真っ直ぐ進んで最後尾に並び、大人しく順番が来るのを待つ。

ナイト > いつものメイド服(仕事着)ではなく、本日は特別休暇を貰っての外出ということで、黒いワンピースと言うラフな服装。
本来なら貴重な休みは有意義にカフェや書店巡りをして、ウィンドウショッピングを楽しむべきところなのだが、急用なのだから仕方ない。

「ふん、ふふん……♪」

賑やかなギルドの風景を眺めながら、いつになくご機嫌な様子。
尾が出ていたなら、きっとブンブンと忙しなく振り回されていたことだろう。
それほどまでに機嫌が良いのは、とびっきりの良い知らせが届いたから。

数日前、出張から戻るなり、ドラゴンを卵から育てる!と言う夢を宣言した少女だったが、雇い主と上官の猛反対を受けて泣く泣く諦めることになった。その時は、それはそれは荒れたものだ。
荒れに荒れた少女の訓練に付き合わされた兵士達は翌日も動けぬ者が続出したし、何の前触れもなく何度も庭に雷が落ちたし、屋敷は局地的な嵐に見舞われた後のようになっていた。
だが、嵐の後は晴れ間が覗くもので。
行方知れずになっていた友人から手紙が届いた途端、少女の機嫌は一気に上昇し、この通りご機嫌なのである。

受付への距離が一人分ずつ縮んでいけば、少女の後ろにも列は続いていく。
そろそろ少女の番が来る頃だ。

『――お待たせいたしました。次の方、どうぞ』

明るい声に誘われ、少女は足を進める。

ナイト > 『ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご依頼でしょうか?』

「友達を探して荷物を届けて欲しいの。
 この国の何処かにはいるらしいんだけど、詳しい場所はわからないのよね……」

受付嬢は視線を外すことなく笑顔で此方を見つめ、相槌を打ちながらも手は休まずペンを動かし続けている。
さらさらと依頼用の書類に書き込まれる内容を見ると、人探し、配達、の欄にそれぞれ丸が付けられているのが分かる。
彼女はなかなかに仕事の出来そうな受付嬢た。

騎士である少女にとって、冒険者ギルドはゴロツキや旅人の集会所程度の印象しかなかったが、少しだけ見方が変わった。
何か手掛かりは有るかと問う声に、首を傾げて唸り、カウンターに肘をついて寄りかかる。

「うーん。確証は無いわ。王都にいるか、それともその近隣にいるか……。
 手紙に着いてた匂いが少なかったから、そこまで遠くでは無いと思うんだけど。
 ドラゴン便とか使われてたら、それはそれで竜の臭いがつくからわかるし……。

 で、冒険者なら色んな所に行くでしょ? 旅の道中で良いからついでに探してくれる人が居ればと思って!
 期限は……そうね、三か月くらいが目途かしら?
 こういう依頼の相場って私わからないから、値段の設定はギルドの意見を参考にするわ」

少女の声を聞き終えるとほぼ同時に依頼書が書き上げられ、くるりと逆さに向けて。書類の確認をと笑顔と共にペンが向けられる。
報酬額に記載されている金額を確認し、署名の欄へとペン先を乗せかけたところで、ふと少女は顔を上げた。

「……もう一つ要望なんだけど、冒険者の信用度とかって……選べたりする?
 出来れば、依頼の達成度とかじゃなくて、人間性って言うか。ギルドが信用できる冒険者だって保証できるような人が良いんだけど。
 そういうのって、やっぱり難しいかしら?」

その問いには彼女も少し迷ったのか、一瞬言葉が途切れる。

ナイト > 少女が抱いている冒険者=無法者と言う認識は、悲しいことだが事実でもある。
正義感に溢れた心優しい真っ当な冒険者も中にはいるが、それと反する利己的で乱暴な人でなしもいる。
掲示板に依頼を張り出せば誰がその依頼を受けるともわからない。
配達仕事など、適当に届けたふりをして済ませるかもしれないし、何より、信用が出来ない相手に友人のことを話す気にはなれない。

此方の込み入った心情を汲み取ってくれたのか、彼女はにこりと微笑み、『かしこまりました』と頷いて見せた。

『それでは、此方で冒険者を選別し、依頼をご紹介する形はいかがでしょうか?
 勿論、断られることもありますので、受領頂けるまでに時間が掛かることもございます。あと、手数料も少々』

「んー。わかったわ、じゃあそれでお願い。多少手数料がかかっても全然構わないから、よろしくね」

少女も受付嬢も納得し合い、深く頷き、改めて依頼人の欄に著名する。
書き終わればクルリとペンを回して、インクが乾く前に彼女の方へ書類ともども返せば、これで依頼は終了だ。
言われた金額を財布から取り出し支払えば、次の客が呼ばれ、彼女は今日も激務に追われる平日を過ごすのだろう。

此方はと言えば、残りの休日を満喫するべく、お昼ご飯を何処で頂こうかと考え始め、ギルドに併設された食堂の方へチラリと目を向け。
そこから漂ってくるスパイスの効いた肉の焼ける匂いや、香ばしいパンの焼ける香りをクンクンと嗅いで。

「ここでの昼食も悪くないかも」

人気のレストランまで行くよりも、やはり目先の料理に心を奪われてしまう。
空腹こそ最高のスパイスだとは、いったい誰が言ったのやら。