2026/01/26 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に篝さんが現れました。
■篝 > 食品や日用品、雑貨などの露店もあれば、酒場兼食事処や、錬金術師の営む薬屋、若者に人気のお洒落な品を取り扱う服屋などなど。様々な店が立ち並ぶ、平民地区の商店通り。
その中でも冒険者が多く立ち寄る店が集中する大通りは、昼間も繁盛しているようで沢山の人間が行き交っている。
武具店に併設された仕立て屋のドアが、カランコロンと軽やかな音色を立てて開き、店から出てきたのは一人の小柄な冒険者だった。
身体を覆う黒いハーフマントのフードを深く被り、僅かに出来た隙間から覗く口元もまた黒いストールで覆い隠す、見るからに不審な姿をしている。
が、金を落とすなら皆お客様だ。店員の陽気な見送りの挨拶は愛想も愛嬌も溢れていた。
小柄は足を止め、依頼していた防寒具の出来を今一度確かめ、軽く手を握り手首を覆う火虎の腕貫を一瞥。そのまま視線を下ろせば同じく火虎の毛皮で出来た腰巻と脚絆を見て、静かに瞼を閉じ、納得したように深く頷く。
「…………ん、あったかい。良い、感じ。……前払いにしてて、良かった」
ポツポツと独り言を呟いて、最後の一言は噛みしめるように。
魔法が掛かったハーフマントおお陰で真冬も変わらず温かいが、それだけではカバーできない部分もある。
そこを補うための防寒具をと、暫く前に毛皮を持ち込み依頼していた物がようやく出来上がった。
その出来はと言うと流石の一言に尽きる。火を纏っていた虎の毛皮なだけはあり、ぽかぽかと感じる温もりは格別だった。
これなら真冬の雪山も、遺跡探索も問題ないだろう。
色々と立て込んでいる間休んでいた冒険者の活動を再開しようと言うタイミングで、この防寒具が手に入ったことを内心で喜びながら、随分と痩せてしまった財布をまた太らせるべく地道に働こうと心に誓う。
■篝 > 手元の残金は、一般的な宿屋なら朝食つきで一拍できるくらいの金額。けして余裕があるとは言えない。
魔物の討伐依頼を受けれるか、それともまた無名遺跡に潜って色々発掘してくるか。少し迷うところだ。
……否、全てやろうと思えばやれなくはないか。
傀儡五体と己を合わせて依頼は六つまでなら大丈夫なはず……。
冒険者ギルドで掲示板に何か良さそうな依頼があればそれを。無くても簡単な採取依頼なら傀儡に任せられる。
その後、貧民地区まで行って盗賊ギルドの方でも依頼を受けて……。こっちは、隠形の術が必要なら己でこなす。
無名遺跡の方は浅い階層を傀儡に探索させて、深部に入る手前で口寄せで交代すれば良い。
「……ん。効率的。これで、沢山働ける」
よしっ、と頷き両手を握りしめ、早速冒険者ギルドに向けて歩き出そう。
と、したところで、ピクリとフードの下に隠した耳が動いた。
『ただの酒と思うことなかれ、これぞシェンヤンより伝わりし妙薬と言うやつよ』
そう自慢げに語る声が聞こえたのは酒場の前だった。
入口から中を覗けば、カウンターの中で何やら大きな瓶を抱えて話す店主と、それを話し半分に聞く二人の酒飲み。
阿呆臭いと半笑いで話を聞く者と、楽しそうにケラケラと笑い上戸で相槌を打つ者。
小柄はそんな彼らの様子を外から眺め、好奇心に誘われるままに酒場に入ってカウンターを隅っこの席につく。
■篝 > 曰く、その酒はシェンヤンで作られた薬であると言う。
滋養強壮。疲労回復。死んだ者に飲ませたら、忽ち飛び起き息を吹き返したとか。
神秘を使う仙人の長生きの秘訣だとか。
眉唾物な与太話を面白おかしく自信たっぷりに語って聞かせる店主の腕も見事なもので。
どどんっとカウンターに置かれた大瓶の中には、これまた見事な蜷局を巻いた蛇が酒に漬けられ沈んでいた。
半笑いだった方が眉間に皺を寄せ言う。
『よせよ、んな気持ち悪ぃもん見える場所に置くもんじゃないぜ』
可笑しそうにケラケラ笑う片割れが瓶を覗き込んで言う。
『はっはっは! お前この前、大蛇討伐で尻に噛みつかれてたもんなぁー。びびっちゃうのもしょーがないってもんだ。
ほーれ、良く見てみりゃ可愛いもんだぞ。目なんてつぶらで』
そこから、『止めろ馬鹿。』『そう言うなよ。』とじゃれ合う酔っ払いの会話が続く。
すかさず店主が『一杯どうだ? 味はキツイが、効果は覿面だぞ』と誘うが、二人声を揃えて。
『『いや、それは遠慮する』』
きっぱりと断り、それぞれのグラスを煽る。
■篝 > しょぼん……。と眉と肩を落として哀愁を漂わせる店主は瓶を抱え上げ、こそこそとカウンターの下に戻そうとした。
だが、そこで一部始終を遠巻きに見ていた小柄が声を掛ける。
「……それ、いくら?」
淡々としていて、老若男女、何者にも聞こえる奇妙な声だ。
知らない内にカウンターに客が増えていたことにも驚く店主と、このゲテモノな酒に興味を持つ奴がいたことに驚く二人。
呆気に取られて少し返事が遅れたが、ようやく理解者を得たと喜ぶ店主は破顔して抱えた瓶を小柄の前まで運んで、どんっと置き。
『いやぁ、これは貴重だからなぁ。そこいらの安酒とは比較できんとーっても高価な酒なんだが……。
そこまで興味あるなら、少し譲ってやってもいいぞ。アンタ今いくら持ってるんだ?』
もったいぶった言いぶりで店主が尋ねる。
小柄は目の前に置かれた蛇と暫し見つめ合い、十数秒の無言の後、ポケットから最後の貨幣を二枚カウンターに置いた。
軽く酒を引っかけるには十分だが、ボトルを開けるにはちと足りない。これが本当に高価な酒だと言うなら、あと八枚は欲しい所だろう。
店主は渋い顔で唸り、腕を組んでじっくりと悩んでから言う。
『流石にこの金額じゃ瓶丸ごとは売ってやれねぇ。
……スキットル一本分、お試しってことで。これでどう――』
「了承」
どうだ?と聞き終えるより早い食い気味の返答に店主は声を引っ込めた。
そして、ニッカリと明るい笑みを浮かべて、小柄の手を取り握手を交わす。交渉は成立したらしい。
世の中モノ好きがいるもんだ。そうひそひそと囁く酔っ払い共の声は聞こえて来るが、当人たちは気にした様子もなく。
店主は棚を漁って未使用のスキットルを一つ手に取ると、レードルを使い器用に酒を移し替えていく。
■篝 > 出来上がったスキットルと残金全てを交換して、小柄はこれで正真正銘の一文無しとなった。スッカラカンと言うやつだ。
酒場の店主にもキツイと言わせるその匂いと味はどんなものか、蓋を閉じる前に軽く手で仰いで匂いを確かめると、思わず……。
「――み゛っっ!」
昼寝中に尻尾を踏まれた猫のような声を上げて固まる。
薬草とアルコールの混ざり合った野性味溢れる香りに気を逆立てて、ふるふると震えながらそーっと蓋を閉じた。
これはそのまま飲むには確かにキツそうだった。
『ほれ見たことか!』『馬鹿だなぁ』と飛んでくる酔っ払いのヤジを、『うるせぇ、商売の邪魔すんな!』と店主の怒号が撃ち返す。
昼間でも酒場の賑やかさは変わらず続き、小柄が店を後にしても彼らの楽しそうな言い合いの声はしばらく続いた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から篝さんが去りました。