2026/01/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒楼」に影時さんが現れました。
影時 > ――この刻限の夜は、冷たい。

街のそこかしこに火が灯り。温もりを与えていた陽光が去れば、風は体温を奪いにかかってくる。
そんな時に何が欲しいか。酒の一杯、二杯でもあればいい。
ただ、それが良いかどうかは、語らう識者によってはまちまちだ。とはいえ、最期に呑むものが何がいいかとなると、どうだろうか。
泥水よりも奇麗な水が良い。水よりは味のある茶が良い。茶よりも酔える酒が良い。

どうせ呑むなら、だ。

「…………」

王都平民地区の一角、シェンヤン風の様式を模して建てられた二階建ての酒場、否、酒楼。
食材こそマグメール王国の産物を材料にしているが、かの国風に近づけた味わい、作法等、“物珍しさ”が良いのだろう。
この刻限でも、この時間帯でも、意外に客足が途絶えない。その二階のバルコニー席で黙々と、酒を傾ける姿が独り、在る。
シェンヤン風とは言い難い羽織袴姿の男。供であり子分でありペットである齧歯類たちは傍に置かず、時折肴に箸をつけつつ、杯を呷る。

冒険者や武人にありがちなアイコン、得物たる剣も刀の類も、今はその傍らにはない。
仕舞っているのか。それとも寝床に置き忘れたのか。どちらでも大差はない。その身一つが一息で刃とも鎚とも変じるが故に。

そんな男が黙々と、時折右目を意識的に瞑りながら酒を呷る。
予め店の主には、飲み代はたっぷりと気前よく払い終えている。おかわりが欲しくなったら呼ぶ。済んだら勝手に帰る、と言い添えて。

影時 > 「…………」

ぱちりと目を閉じる。瞼を開く。その所作自体にはそこまで深い意味はない。
脳裏に走り続けさせる術式はただ思うだけで、“切り替えられる”。だが、意識してやることで効率的にやれる。意味を持たせてやれる。
昨今、脳裏に常駐させ続けることが多い術は身辺、寝床を守るために使い魔、分身、式神といった手妻のもの。
今もまた、そう。思うがままに事を運ばせるには、思うとおりにならないことも同時に考えなければならない。
例えばありもしない何かを恐れさせるようなことに、一々神経を払わなければならない。いい加減にして欲しくもなる。
だが、世の中の謀はそのようにして動く。裏の裏を、更に裏などを深く考えなければらない。
必ずこうなるという軽挙妄動程、下らない在り方はない。

その中で“他者に命運を左右させる”という選択、在り方もまた然り。
慮ることがなければ、配慮を廃すれば、するりと刃は抜け、凶刃と変じる。
そうしないのは、弟子含む諸々への敬意、配慮が故。それもない、その想像も無いのならば――手段を選べない。

影時 > ……長い長い人生であった、と思い返すにはまだまだ半端だ。
忍びの世界を思い返せば、年嵩だけで云えば倍の古老が老若曖昧なるものとして在り。
若い筈なのに干乾びた老人の如く見えるものも居た。己は――さて、如何に末路を迎えるものであるかは、計り知れない。
ただ、下らない死に方、無用の塵芥のような死に方を避ける方法ならば、知っている。
そうならないようにするための立ち回り方をよく知る。
その際たるものにして一番尖った方法なんて、古今何処でも同じだろう。……ただ、それは出来れば避けたい行為でもある。

「……――面倒なんだよなァ」

深慮配慮遠慮苦慮。露見した場合のリスク。実現出来なかった場合に転じて生じる危険命取りその他諸々。
ぱちり。ぱちり。右瞼を閉じ、開きながら、使い魔、式神を介して声が出ないよう気をつけつつ杯を呷り、小さく零す。
そこまで考えなければならない状況とは久方振りだ。
否応なく忍びとしての本来の在り方を、揺り起こされるかののよう。小賢しくも色々想像を巡らせられるお陰で、嫌でも神経を遣う。

弟子の動き、動向は把握している。
敵を知れ、と課題を出したのは他ならぬ己であり、様々な事情、観点から“目付け役”も付けた。
このようなあれこれを抱えだした事の発端を思えば、そうそうに口外できるものではない。

冒険や物語のように、斬ってするりと片付くだけならば、このような苦労はない。故に全く、今宵もこの世は複雑だ。

影時 > 今回、弟子に帯同させるお目付け役は、意外とデザインに苦労した。
鳥は便利なのだが、何かと目立つ。最終的に選ばれたのは――子分の片割れの姿をモデルにすることであった。
なお、今回モデルにされなかった片割れは随分とお冠であった。あれこれと宥めるのは苦労したのは、別の話として。
兎も角、依り代とする術符を拵えるにも苦労した分、まあまあいい具合に出来たと思われる。
モデルはあったのだ。その動きをよく見る、真似る機会には事欠かない。分身の術の応用も混めたのだから、餌にぱくつくのも餌を存在維持の糧とするのも朝飯前。

(…………)

そんな使い魔、式紙と対を為す術符を懐に呑み、最終的に得られる感覚情報を共有する。……反省やら何やらとかは、最終的に帰還を果たしてのこと。
だが、気は抜けない。――残心せよ。下手な安堵は転じて喉元を掻き切る致命の刃足り得る。

影時 > 「……クク」

何を聞いたか。見聞きしたのか。文字通りの目付け役を介して聞く内容に、不意に苦笑を刻む。
偶々階下で覗き見る者が居たら不気味がりもしただろう。ちびちびと。惜しむように、だが美味そうに呑む素振りのない男が嗤うさまは。
その内容の一部は、解せなくもない。そもそもの前提の認識把握が、という点をさておいた場合のみだが。
だが、お陰で矢張り、と思うこともある。
実際に相対した場合、刃を送り込むことに躊躇う必要も無さそうだろうということ。なお、これはは向こうも同じであろう、が。

使い捨てられる、良いように使われるなんて、このご時世、何処の国でも何処の世界、界隈でも同じこと。
割り切るか。己が如く需要が無くなった(オワコンになった)のを機に、身を振り直すか。……否、言い方を変えよう。冒険に出るか。
嗚呼。武勲、文句を言わせない程の功績を挙げたなら、セカイは変わる?とは、余り思わない方が良い。
それだけで世がはいそうですネ、とくるりと掌返しなんて、出来たなら……こういう世の中には、成るまい。

「…………とは言え、だ。弟子の夢見がちな所はいずれは――でもあるか」

夢を見る。幻想する。夢想する。……止めておけ、とは云う。云ってもそれで穏やかになるとはいかないのが、師として悩ましい。
気付けば空になっていた酒杯に手酌で注ぎ直しつつ、右目を瞑ったままで吐息し。

影時 > 「……………………は、ッ」

聞こえる句とその受け答えには、嗤う。虎狼のように嗤う。
ぺちと。お目付け役が弟子の手を叩くかもしれない。緩み過ぎ、喋り過ぎだ、と戒めるように。
小さな何から想像し、膨らませて解する手合いでもあろう。
改めては弟子からも初見含め聞き取るとして、気に掛かる点は出てくる。

「…………場所を移すか。」

如何に解するかも含め、今後を考えるべきかもしれない。聞いた内容が真実ならば、……さて。
ちらと上目で虚空を仰ぎ、ことりと、干した酒杯を置く。
酒肴に摘まんだものはそう多くはないが、全て平らげていることを確かめ、長居したことに対するチップも置きつつ立ち上がろう。

蕭――、と。夜風がそよげば。そこに居た姿はすでになく。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒楼」から影時さんが去りました。