2025/11/20 のログ
■グライド > 声を掛ければ、近付いて来る受付。
礼儀正しい其の姿を、片掌振って迎えれば、提示される帳面を見もせずに
先ずはとばかり、女の顔を眺めては、満足気に笑うのだ。
ペンを取れば、帳面へと自らの名前を記載する
殴り書きみたいな物だが、何時もと同じ字
「――――んー……そうだな…。
……取り敢えず、湯浴みできる部屋だな、それと、寝台はなるべく広い方が良い。
角部屋で、壁の薄い所は勘弁してくれ。 高い部屋でも構わねぇよ。
あとの報酬から、天引きしといてくれ。」
部屋の希望を聞かれたなら。 ……少しばかり考えてから、注文を伝えよう。
別に何の事は無い、図体がデカいから大きな寝台を求めて。
落ち着きたいから、防音のある部屋を求めて。
金も入って居るから、多少豪勢でも居心地の良い部屋を。
――傍から聞いて居れば、違和感なぞ何もあるまい。
「後は、部屋に後で、毛布の類は用意してくれるかい。
水浴びだのするからよ、少し多めにな。」
――告げて。 けれど、其の台詞、全部。
女の顔を見下ろしながら、何処か悪戯っぽい声音で告げるのだ。
相手が、此方に視線を合わせないならば、別に、其れは其れで構わないのだが。
周囲の喧騒が、まだまだ収まらない中で。 ふと、名前を記した帳簿を、女の掌の上へと乗せた。
傍目からは帳簿で隠れた、其の掌。 其処に、同じく自らの掌が、重なって。
指先が、不意撃つ様に、女の小指を、そっと捕らえるのだ。
「――――後は…、……いや、そんなもんか。
んで、部屋は足りるかい、受付嬢さん?」
―――わざとらしく問いながら、小指を、柔く握り込むのは。
きっと、先刻女が見せた、己への合図に対する。 ……きっと、答えの様な物、だ。
■アーシェ > 喧騒が遠く感じる。見ゆるその一瞬だけ、空気が静まる気配が──した。
発つ前は整えていたであろう男の成りも、今では半壊しかけてる鎧や盾、
髭なんて、伸びる所は伸びてしまっている。
──その様子を見るのはこれが初めてではない。
寧ろ、生還した証であり、強い意志を感じるまである。
故に、さして身形は気にしてない風に振る舞ってしまうのだ。
ただし、視線だけは逸らしてしまって居たけれど。
「──…でしたら角の部屋が空いてます。
併設の宿をご利用なさった事があるかと思いますが──
…魔導機による湯浴みの部屋も御座います。
此方で宜しければ、この部屋でお取り致しますね。」
──あの部屋だと。判ってしまう。
ああ──とても周りが騒がしくて。助かった。
人も疎らの方が、不自然に振る舞えば逆に注目を浴びるもの。
一つ一つの挙動に目が離せなくて、視線を投げる度に──
じわりと。手のひらが湿り気を帯びていると感じる。
男の低いバリトンの声に、湧き立つ我が心臓。
触れ合ったら、知られるも同じだ。
──帳面の下、不意に小指を捉えられ、握られるを合図に。
どくり、と心音が──身体の芯が、熱を帯びて行くのが分かる。
たったそれだけで、あの日、あの時の感覚を呼び覚ますには十分過ぎる程に。
「──かしこまりました。
リネンの類も多めに用意、しますね。
……お持ちするのは──いつ頃が宜しいでしょうか。
今からだと手が空いてない者も多く、直ぐには難しい、かと……。」
上擦る声音が入り混じる。本当に、周りが騒がしくて──助かった。
実際に、誰も気に留めては居なさそうだったから、
側から見れば、普通のやりとりにしか見えないし、聞こえない。
身体の奥底が、いまにも啼きそうになりながら。
──きっと、一瞬だけでも、熱の籠った目線を投げかけていたこと、だろう。
「……大丈夫、です。
怪我人を優先しても、まだ部屋が余るくらい、なので──
……問題なく、休める……と思います──グライドさん。」
敬称なんて、つけないというのに。
それでも受付嬢を崩すわけには行かないのだと。
──どうあれ、特に怪しまれる事はなく。
ひとつ、何かを身体の中で揺り堕とし。転がり落ちながら。
全ては、互いの内々の内へと収められるのだった。
■グライド > ―――誰かに、知らしめる必要は無い。
これは、ただ、二人だけが知る戯れだ。
言葉で問う事は無く、その答えを求める事も無く
ただ、其の様子を眺め、互いに感じ取る事で――勝手に、答えと為す。
女の言葉が一通りの説明を終えたなら、帳簿の下から、己が掌は離れるだろう
受付嬢の掌に乗せられた帳簿からも指を離し、鍵を受け取って、最後に
其の耳元に何事かを囁きかけてから、ゆっくりと離れよう
他の喧騒は未だに続いている中で、傭兵は一人、早々に退散を決め込むのだ
酒場での酒も、少し惜しまれる所では在ったが、別に今は良い
階段を上り、決められた部屋へと向かい、消えて行けば
きっと、暫しの間忙殺されるだろう女を残して――
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」からアーシェさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」からグライドさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 古書店」にラリーさんが現れました。
■ラリー > 平民地区内のその小さな古書店は、わりと地区の中心の近くにありながらほとんど目立たず、立ち寄る者もそう多くない。
また古書店という性質上、商品の劣化を避けるために出入り口の向きなど日差しが殆ど入らない設計になっていて、店内は薄暗い。
そんな店の奥、接客カウンターの向こうで椅子に座って文庫本を読んでいる店番らしき少年の姿があった。
この店は少年の実家が経営しているもので、書類上は別の人間を立てているが実質的な店長は少年が務めている。
それ故、この店は少年にとって学院の図書館以上に自由のきくテリトリーである。
獲物となる対象が訪れれば、ほぼ確実に術中に囚われる羽目になるだろう。
もっとも、客足の少なさから獲物の出現は図書館以上に運任せではあるが…その時はその時、が少年のスタイル。
ただ静かに、読書に没頭しながら客の訪れを待ち続ける。
なお主な客層は通常の書店では見つからないような商品を求めるマニアックな本好きか、
遠方の客との本のやり取りの依頼を受けた冒険者あたりとなる。
少年の修理の腕はそれなりに定評があるため、そうした依頼もぼちぼちやってくる。
「…ん」
そうしていれば来客を告げるドアベルの音が響いて、少年はゆっくり本から顔を上げ
珍しく現れた客の姿を視界に入れた。
さてその客は少年の獲物になりうるような者なのか、それともなんでもない一般客か…。