2025/11/19 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」にアーシェさんが現れました。
アーシェ > 【待ち合わせ中です】
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」にグライドさんが現れました。
アーシェ > 午前の慌ただしさが過ぎ去り、夕暮れ時ともなれば閑散となる時間帯。
ほんの半刻程で、受付業務も終了する。
──そろそろ併設された酒場も賑わう頃合いか。

それに伴い冒険者達への応対が減ると、あとは決まって文章処理の作成に女は追われていた。
壁一つ隔てた場所では常連達が酒精と談笑に浸っており、
取り留めない声に紛れるように、ペン先を紙上に走らせるのだった。

「(……定時には、きっと終わらないわね。)」

持ち帰りが出来ない内容ともなれば、残るに他ならない。
何せ、戦況の定期報告ともなれば──流石にだ。
情報の流失は避けるべきであり、それが個人の生死に関する事ならば殊更に。

──女の気は重たい。今日届いた内容は、余り芳しく無い報せ。
遠く離れた国境線の街が、魔獣の甚大な被害に遭っている状況下なのだ。
それも、ずっと膠着状態が続いていると謂う。
現地とは距離もある故に、安否情報等は連絡が遅い反面、増兵要請が来る場合は即時。
──つい一週間前に増員を掛けて、ギルドからも人材を送り出したばかりだ。

「──二ヶ月にもなるのね。」

言の葉にすれば、睫毛は伏せられ翳りを帯びる目許。
ペンを走らせていた手を徐に止めて、スタンドに戻す。
考え込む一瞬の後に──利き手で、もう片方の親指をきゅっと握り込む様な仕草は、
いつの日か癖みたいなものになっていた。

グライド > 態々王都に討伐依頼が届くような状況、街だけでは対処が出来ぬ規模
或いは――強力な個体。 其の討伐隊が編成されたのが、二月前。
本来であれば、ひと月も在ればと言う予定だった依頼が、結局伸びに伸びて今に至る
其れほどに強力であったか、或いは厄介であったか。
何れにしても、暫しの間ギルドに音沙汰は無かったであろう

元より、最初の討伐隊で充分な戦力を投入した筈だった故に
連絡員と言う物を置いていなかったのが、報告に乏しい要因の一つだ
後追いの増員に連絡員を含めたとはいえ、到着する頃には如何なって居るか
そも、其の状況で連絡員だけが帰って来るとなると
――大抵の場合、宜しくない状況であろう。

ギルドは、平常通りだ。 酒場に居る連中も、変わり無く騒いでいるのだろう。
そんな折に。  ―――外が、ほんの少し騒がしくなった事に。
果たして、受付の女は気付いたであろうか。
其の騒がしさが次第に音を増して、幾人もの足音と気配と認識できるほどに変わり
程なくして、勢いよくギルドの扉が、開かれるのだ。

「―――――――よいさぁ! 討伐隊の御帰還だぜ!!」

快活な声、続いて盛大な歓声。 すっかりとぼろぼろになった見目の連中を纏めて。
先頭に立つ、大盾を背負った髭面の男が。 最初の討伐隊に参加した、傭兵であると
――はたして、少々見目が粗野に変わったせいで、直ぐに気付かれるか、如何か。

全員で受付迄歩いて進めば、きっと、集団の中から一人、代表者であろう男が
応対していた受付へと声を掛けて、きっと、報告をするのだ。
無事に依頼は達成、魔獣は討伐された、と。
被害を受けた街の印章が押された書面を提出すれば
――ギルド内が、一気に慌しさを増すだろう。 なにせ、駆け込みの対応だ。

そんな中を、少しばかり離れ、受付の端っこに凭れ乍ら、様子見している盾兵は
一息ついて、やれやれ、と流石に少々、疲れた表情を浮かべて居たか。

アーシェ > 二ヶ月──。最初こそ、ひと月もあれば終わる規模だと聞かされて居たのに。
こんなにも長く、こんなにも重たく──胸を締め付ける状況になるとは。
──そう、思ってなかったのだ。
報告書へと視線を落とし、ペンを手に取ろうとした矢先だった。

──大きくなる足音と、話し声の気配。
一つ二つでは無い。徒党の規模である事が知れれば、その騒々しさに女の意識は移る。
其れが何を示すのかまでは、直ぐには理解が追いつかなくて──
冒険者ギルドの前で、其れ等は一瞬だけ止まる。
そして勢いよく放たれる扉の音で漸く理解するのだ。
討伐隊の、帰還を。──皆の、彼の──無事を。
その双眸で、確と目に焼き付けるのだ。

「───────っ!!」

思わず、席を立った。両手で口許を抑える仕草を隠せずに、感極まって。
他のギルド員達も討伐完了の知らせに一時騒然とするのも当然のこと。
其れも其の筈。定時前となれば会計から、素材鑑定師まで、あらゆる人員達が湧き立つのだ。

「──よく、皆さんご無事で。
 ……おかえりなさいませ。確かに承りました。」

労うギルド上官達と共に、証明印の押された書面を受け取ると、即座に事務処理を進める。
代表格の男から報告を聞き取り、暫くはギルド全体が騒がしくなるだろうか。
──そして、流石に二月もすれば、有り体も変わるだろう盾兵に、漸く視線を投げるくらいは許されようか。
ちらちらと、受付嬢らしくない様子に時折なるのは、騒然とした最中だからこそ許されたに違いない。
流石に声を掛けるのは憚られた。が。その代わり。きっと親指を握る仕草くらいは──した。

グライド > 流石に、2カ月の討伐と、何なら遠方からの大移動とあれば
誰も彼も、疲労の色自体は隠せないだろう、けれど
無事に戻って来れたと言う、其の一点、安堵と解放感で、顔色自体は良い。
出立前は綺麗に整って居た各々の武装も、今はぼろぼろで修繕が必要だろう
大なり小なり、負傷者だって存在はする。

だが――帰って来た、どんな状態であろうと、其れが、全てだ。

受付の中、事務処理に奔走する女を見つけて、視線を向ける。
流石にギルドの入口へは置けないが故に、討伐した魔獣は裏の解体屋へと運んで居て
きっと、作業やら討伐対象の報告やらで、指示と連絡が錯綜するのだろう
嗚呼、けれど、そんな中で。 一瞬だけ、視線が重なった折、女が見せた仕草に
ふ、と、口元へ、柔く弧を描くのだ。 

「おーい! 取り敢えず負傷者だけ先に移動しちまえー!
後、ギルドから医者の手配は頼むぜ、命に別状はねぇと思うが、念の為な。
給金は、別に今じゃなくても良いからよう。」

どうせ、査定と確認には時間がかかるのだ。
討伐隊の帰還者全員の名簿と、点呼だけを済ませれば、今夜は一旦解散の運びになろう
ギルド併設の宿へと泊まる者の大半は、報酬から宿代を差し引くのが通例
己も、流石に今夜は、此の儘宿に居座りたい気分であり。

「よう、宿部屋を頼めるかい?
まぁ、痛んでる連中を優先で、部屋が余ってたらで良いんだがよ。」

――ふと、主に依頼の確認へ勤しんで居る受付ではなく
書類仕事をしている女へと、声を掛ける。 部屋が余って居たら、鍵をくれ、と。
宿帳に記名もする必要が在ろうし、流石に、勝手に借りたりはしない。
強いて言うなら、負傷者の分以外の部屋は、早い者勝ちである。

アーシェ > ──余りやりたくは無かったけれど。
定時前の駆け込み報告ともなれば若干の走り書きもやむを得ない。
討伐の詳細に、現地での状況説明、被害状況を考慮した文章を──全てを書き記す。
走る筆跡の音。インクが乾く間すら惜しんで書面が上官や他の部署までも。
──情報の血脈という、流れ作業めいたもので騒然とする様子が窺えるか。
流石に会計は額が額だったらしく、後日然るべき所で、小切手という形で其々に手渡される運びとなった。

「──ええ。はい、では。負傷者の方は此方まで──」

──聞き取りと確認作業で定時を超えても尚、処理に時間を費やす者、
負傷した者はギルド専属の治癒師や医者への手配を頼む者、
更に併設された酒場から、帰還祝いだと酒を薦める者で、騒がしくもごった返していたことか。
──だからこそ。喧騒の中では、きっと個々までは注視されまい。
して、書面処理をひと段落させた女は──
ごく然りげ無く声をかけてくる盾兵と、漸く近くで言葉を交わすのだ。

「──……お疲れ様、です。
 部屋は未だ空きが御座いますが、ご希望の部屋はありますか?
 ……宜しければ、此方の帳簿にサインをお願い致します。」

──たったそれだけ、ほんの少しだけ話すだけでも──意識は、してしまう。
目線を合わせる事すら、難しくて。
帰ってきてくれて嬉しいはずなのに、心は掻き乱されてしまうのだ。
帳面を開きカウンターの前に置くと、記帳を確認した後に
──希望があればその部屋の鍵を手に取って、差し出した。
ちゃんと、笑えているだろうか。そればかりを気にしていたと思う。