2025/10/07 のログ
■篝 > 断っても関係なかったようで、男は酒を二杯も注文する。それが席代替わりらしい。
時間帯も相まって、三十秒もしない内に酒が届き男の手に渡った。
「…………? それは、どういう……――っ!
……承知した。が、勝手に人の愉しみを盗れば、恨まれる覚悟もした方が良い」
袋から取り出されたものに目を細める。一つは古びた金貨。もう一つは丸いピンのような……装身具?
それに見覚えがある様に感じ、半月前まで記憶を遡る最中、告げられた言葉の意味を理解して大きく目を見開く。
暗に言葉にはしないが、男はこう言いたいのだろう。『死人に口なし』と。
アレを見ていたと言うことは、師のことも見えていたのだろう。
細く息を吐き、緊張を悟られぬようにして金貨とピアスを受け取ろう。
「――友人? ああ、女騎士。……そう。それは聞いている。心配、していたと……」
お願い、などと言われるとまた身構え警戒したが、何のことは無い雑用のようなもので。
友人と言われ首を傾げたが、思い当たる人物が直ぐに頭に浮かび頭を戻し。
続く話には、知っていると首肯する。
同業者の青年がヴァリエールの屋敷を調べた際に見聞きし、感じたことを伝えてくれたから、屋敷の現状、そして女騎士の心情も知っている。が――
「別れの手紙……? 何故……?」
元主となったヴァリエール家に小柄が戻ることは二度とないだろう。ならば、死んだことにした方が都合が良いのではないか。と言う疑問。
そして、元気であると伝え安心させたいのに、別れを告げさせる理由は……
屋敷の者から己の記憶を消し、これまでの暗殺悪行の一端の痕跡を消した以上、接触は断たせるのが普通だとは思うが。
これは、情け……なのだろうか。小柄に対してではなく、女騎士に対しての――。
「矛盾している。……理解に苦しみます」
ポツリと呟き、真っ直ぐ、観察する様に男の眼を見つめて内を探らんとする。
■ヴァン > 「愉しみ……? まぁ、そうか。世の中、『掃除』を楽しみながらする人もいるか。
俺はそこらへん、よくわからないが……」
とぼけた台詞を吐く。どうやら、男にとって暴力は手段に過ぎないらしい。
半月前のことをあまり話すこともなく切り上げて、本題に意識を向ける。
巾着袋で金貨とピアスを掴み、少女の手元へと置いた。直に触ってはいないようだ。
「あぁ、それなら話が早い。
何故……と言われると困るな。彼女は君を心配している。今もだ。
俺も何も知らなければ慰めの言葉をかけるだけだが、君が――少なくとも生きていることを知っている。
彼女の気持ちを少しでも楽にしてやりたい、と思うのは変なことかな?」
男は伯爵と小柄の関係は知っているようだが、最終的にどんな決着に落ち着いたかまでは知らないようだ。
女騎士を思いやる発言をしているが、おそらく事情を知ってなお沈黙することに後ろめたさを感じるのだろう。
ぐぐっとスタウトを呷り、長い息をつく。
「手紙ってのは書き手の想いが滲み出るものさ。
君自身が書こう、という気にならなければ黒髪のお嬢さんが読んでも納得しないだろう。
だから……書きたくなければそれでいい。誰かと約束してできないとか、そこまで女騎士に義理はないとか。
君には君の事情や意思がある。だから、無理にとは言わない。それだけさ」
空にしたジョッキを端にやって、もう一杯を手に取った。
男は嘘を言っているようには思えない。ただ単に、あの屋敷で解決していないことを減らそう、というだけのようだ。
■篝 > 殺すことは手段であり、けして目的にはしない。
暗殺者と殺人鬼の違いは、この意識の差である。
恨みを持って刃を振るうことも、楽しみをもって殺すことも、あってはならない。
少女の中には暗殺者としての教えが深く染み付いている。
故に、『掃除』を愉しむ趣味は無い。
今世話になっている師も、それは同じだろう。
ただ、面白いことが好きな師にとって、其れに繋がるかもしれない切っ掛けを他者に盗られるのは、面白くないことだろうと弟子は考えていた。
丁寧に手元に置かれた二つを、懐から取り出した小袋に収め、続く話に耳を傾ける。
「相手の感傷を癒したいと思うことは、おかしなことではない。
……が、本当のことを教えずに、包み隠すことは優しさと言えるのか……疑問。
話せない理由がある、か。知られては都合が悪いから?」
女騎士とこの男が懇意にしていると言うのは、本当のことなのだろう。
そうでなければ、わざわざ己を探して手紙を書かせようなどと、気を遣う理由が無い。
己が屋敷に戻れない理由は、彼女には知られていないのか。
元主の裏での行いは、けして身内に対しても明かせない……それは小柄が働いていた頃も、今も変わらないらしい。
「……強要はしない、と。
書くことに抵抗はない。……騎士の主と、師から、許しが出れば書いても良い。
……それで狂犬が安心するか、暴れ出すか、保証は出来ない……けど」
景気の良い飲みっぷりを披露する男を観察し続けながら、頷き、ゆっくりと席を立つ。
「師から許可が出れば、其方の宿へ手紙を預ける。渡すかどうかはお前の自由」
一方的にそう言葉を掛けると、小柄は音もなく後ろに飛んで下がり、素早く扉を開けてギルドを去った。
■ヴァン > 「本当のこと、ねぇ。今は知らんが、これまでやってきたことは君も彼女に伝えてないだろう?
それでも穏やかに同じ空間・時間を過ごすことはできただろう。
真実ほど人を傷つけるものはない。優しい嘘とやらが世の中をうまく回すこともある……了解した」
一杯目と同じように飲み、息をつく。用事は終わった。
男はゆっくりと立ち上がった。言葉の通り、十分どころか五分もかかっていない。
ジョッキに残った酒を飲干すと、右手をあげて会釈した。去り行く姿に声をかける。
「最後に二つ、詫びておくよ。さっきは軽々しく身体に触って悪かった。
あと……誰かが情報を漏らしたせいで1ダース相手にすることになったとか。
『同胞』のケジメは俺がつけさせておいた。いずれ詫びが向かう。『バカども』の方は君達でやってくれ」
バカが盗賊ギルドを示しているならば、同胞が何を指すかは自明と言えた。痩躯の青年が言及を避けた組織の名。
口ぶりからすると名前の一部だろうが――いや。もっと大事な事を男は伝えていた。そのことがわかるのはしばらく後になるだろう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 「冒険者ギルド」」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 「冒険者ギルド」」から篝さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にスルーシャさんが現れました。
■スルーシャ > 夏の暑さが和らいだ日暮れ前。
目貫通りが多くの人々を行き交う中、風景へ溶け込むように一人の女性が雑踏に紛れる。
人間は滅ぼすべきではない、相入るべきと言う思想の持ち主の魔族。
しかしそれは有用な資源として、人間達自身でさえ”活用”できない人間達の資質を最大限引き出し消費するものとして。
王都と言う伏魔殿のお膝元にあって多くの夢を、願いを、強い意志を持つ人間達が集まってくる。
その中で無二の輝きを持つ”素材”を”採取”する為に人の姿へ擬態して。
「今日はお酒でも飲みながら、と言いたいところだけれど……」
人間は酒と料理に関しては魔族を凌駕すると思っている。
そちらの愉しみを優先してみたくはあるが、それを置いておくほどの物と出くわせば話も変わってくる。
尖兵として染め上げて出荷する商品。それ以上に手元に置いておきたくなる愛玩の類。
良い出会いもあればそちらを優先しても良いし、
既に尖兵となった者と逢瀬に耽るのもよいだろうかと歩みを進めていく。
■スルーシャ > やがて一人の人間に視線が向けられる。
その後を追い、人ごみに姿を紛れさせて―
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からスルーシャさんが去りました。
ご案内:「魔術師ギルド周辺」にネーラさんが現れました。
■ネーラ > 10月の夜。
ギルド会館の間にある広場。
ネーラは、賢者である。
余人の思いもつかぬ長い時を生きる魔術の達者である。
したがって、魔術師ギルドのオブザーバーとして呼ばれることもあるが…あくまでも今はただの雑貨屋だが…
会議が終わり、老人と中年が多い出席者の中で、目立つ若くも妖艶な褐色の姿である。
その中で明らかに周囲に気を遣われている彼女はネーラ・サンブーカ。
病魔の魔女リリートゥともブラックオパールとも伝説にある存在である。が。
それはそれとして童貞を殺すセーターのワンピース版を着ていた。
「面倒ではないか。正装になんの意味がある?だいたい私が私であるというのはお前たちひと角の魔術師ならオーラなりなんなり読めばわかるであろが」
そのワンピースの上に黒いマントを羽織り魔女の帽子をつけている。
その帽子とケープの色は黒であり
その生地は漆黒の闇の色をしながらも妖しい七色の光を帯びる。
これらを見た魔術師はうっすらと畏敬の念を浮かべるが
「……いい加減皆忘れたと思っていたが……ふむ。…お前たちに気迫が足りぬということは、分かった。」
リリートゥ何するものぞ
ブラックオパールがなんだというのだ
かかる反骨などついぞなかった。
「年長者と見れば逆らう。悪いことではないぞ。そのくらいの悪逆、今や大した悪逆ではあるまい。」