2025/10/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 「冒険者ギルド」」に篝さんが現れました。
■篝 > 掲示板を埋め尽くすほどに貼り出された依頼書も昼間近には殆どが売り切れて、残り物がチラホラとまばらに並ぶ。
冒険者ギルドは今日も大繁盛だったことが伺える。
ゆっくりと左から右へ、売れ残りをぼんやりと眺めて歩いては踵を返してもう一巡。
駈け出し冒険者向けの採取依頼。
同じく初心者向けの街の清掃依頼。
――これらはレベルに合わない。報酬が安すぎるのでパス。
貴族の子息の護衛任務(若い女性冒険者限定)。
――報酬はそこそこ良いが、下心しかなさそうなので論外。
九頭竜山脈の村付近に出没した小鬼の群れの退治。
――……悪くはない。が、遠すぎる。日帰りで行けない場所には、まだ一人で行く許可をもらっていない。
「……んー」
歩みを止めて、腕を組み暫し考え込む。何か良い依頼は無いものか。
丁度、そんな時だった――
ご案内:「王都マグメール 平民地区 「冒険者ギルド」」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > ちゃりん。硬質な音がギルドの中で、やけに響いた。多くの者が視線をやる。
どうやら子供が転んだ拍子に、手に持っていた硬貨を床にぶつけてしまったらしい。
手で覆うようにしていたからか、周囲に現物が散らばることは避けられたものの、音はそうはいかなかったようだ。
何かのお使いに来たのだろうその子供に向かって、気のいい冒険者たちが大丈夫かと声をかける。
「やぁ、篝さん。少し話があるんだけど……いいかな?」
背後から湿った声がすると共に、両肩に一瞬だけ手が添えられる。
振り返ったならばいつぞやどこぞの酒場で見た銀髪の男を目にするだろう。
知人から気をつけろと促され、結果無関係だった筈の“聖騎士”。周囲に聞こえぬ低い声で制する。
「おっと……逃げるのは得策じゃないぜ、シロネコさん。逃げたら間に何が入ろうが、突き飛ばして追わなきゃならん。
子供、老人、妊婦……俺にそんな酷い真似をさせないでくれよ?
立ち話もなんだ……ちょっと腰を落ち着けてお話をしたいんだが……」
男は感情をこめずに話す。口ぶりから『逃げたなら間違いなくそうするだろう』という意思が伝わるだろうか。
装束で顔を隠したうえ、認識阻害の術をかけていてなお少女を識別してきた。あまりよろしい状況ではないが――。
■篝 > 金属が床に落ちる音が響き、皆が視線を向ける。その中には小柄もいた。
反射的に振り返った先に、子供が転がる姿が見えた。
手を貸すべきかとも思ったが、その役割はすぐそばにいた他の冒険者が当たり前のように進んで担う。
彼らに金銭を奪う様子は見られない。
「……、――――っ!?」
小さく息を吐いた瞬間、背後から男の声がした。と、同時に肩に手が触れる。
弾かれるように振り返り見えたのは、以前酒場で見た男。危険人物であると認識した者だった。
瞬時に一歩後ずさり距離を取って身構える。
何を考えているかわからない男は、テノールで囁き、脅し文句を枕詞に同行を要求した。
何故、この姿の己を認識できたのか。疑問が浮かび、警戒が一つ上がる。やはり得体が知れない。
先日も、そして先の瞬間も、男が斬るつもりであれば、問答無用で己を殺せただろう。対話を望んでいるとの言に嘘はない……か? 否、騙し何かに利用する算段の可能性もある。
得体の知れない、不可解、悍ましいと感じたら即座に逃げろ――師にはそう命じられている。
「……其の誘いに応じる理由が無い。
子供、老人、女……関係のない者がどうなろうと、応じる理由にはならない」
一拍の沈黙を挟み、男とも、女とも、老人とも、子供ともつかない奇妙な声が言う。
■ヴァン > 一瞬だけ肩に触れた両手を、何もしていないよとばかりにひらひらさせる。
穏やかな笑みを浮かべ、傍目にはぶつかったことを詫びているようにも見える。
男は小柄な少女から半歩の距離まで身体を近づけていた。少女は仕事柄、匂いを嗅ぎつけるだろう。
この男からは血の匂いがする。洗っても身体に――否、魂に染みついている返り血と死の匂い。人殺しの匂い。
「君を探していたからわかっただけさ。
あぁ……いきなり声をかけられても、あんた誰、って話だよな。俺はヴァン、という。
君も名前を聞いたことがあるだろう、さる貴族の友人をしている。一つお願いと、伝えるべき話があってきた」
なぜ声をかけたのか、答えになっていない返答をする。
応じる理由がない、との言葉には頷いてみせるが、意味ありげに笑った。
男は少女の名と、別名を知っている。
「今日は何か都合が悪いかな?
なに、十分もかからない。それに――こんな所で君に害など加えないよ」
獲物を視界に捉えた猟犬のように目を細める。この場をどうにかできても、そう遠くない将来にまた訪れてくるだろう。
次がどこかはわからない。人通りがあったり、知己が共にいる場ならよいが。
「何か、飲みたいものはあるかい?食べきれる前提で、好きなものを頼むといい」
ギルド酒場の端にあるテーブルを示す。人通りはないが、視界が通っている。戸も近くにあり、いざとなれば逃げられるだろう。
■篝 > 一見、人の良さそうな顔をしているが、その身体から漂うものは狂犬には隠せても、小柄相手には隠せない。
にこやかに笑う男は、何人もの返り血が混ざった、嗅ぎ慣れた殺しの臭いがした。
「今度こそ殺すため、か?
……否、そんな名は知らない。……――。」
今、この場で殺す気が無いことを理解しているからこそ言える冗談を投げかけ。
語られた名に聞き覚えが有ろうと、無かろうと、小柄の返答は変わらず、驚きも焦燥もなく抑揚のない平坦な声で返すだけだった。
伝えるべき話。願い。どちらも素直に聞き届ける理由は無い。――が。
「…………お前と会うと、いつも都合は悪くなる」
此方を見据える目の鋭さに対し、フードの隙間から覗く緋色は冷たく殺気も敵意もない、ガラス玉のような目をしていた。
減らず口で戯言を並べるが、即座に逃げれば背中から斬られる己の姿が浮かび、逃げ出したい足を思いとどまらせる。
仮に、ここで逃げたとしても潜伏先――宿の位置もバレている可能性がある。
そうなれば、師にも迷惑、負担を掛けることになる……。それは、駄目だ。
「――不要。不審な相手を前に食事はとらない」
示されたテーブルにつかねば、話をする気は無いのだろうか。
渋々と、重い足取りで席へ着く。無論、戸を背後に取れる席にだ。
■ヴァン > 小柄の発言に右の眉をあげてみせる。
とりつく島もないが、用件は伝えよう。この様子だとにべもなく断られてしまいそうだが。
「そうかい? じゃあ……」
注文もせずにギルドの酒場で打ち合わせをするのは無作法と言えるだろう。席に座る人数分は欲しい。
男はまだ陽が落ちてもいないというのに、スタウトを二杯注文する。多少酒が入っても問題ないような話、らしい。
黒ビールが届くと、男はジョッキを二つとも受け取った。
「まずは……お近づきの印に、ってことで。
半月ほど前かな? 君を見つけたから話しかけようとしたんだが、酔っ払いに絡まれだしたからね。
何か君を困らせていたようだが、そいつはもう何も話さないから安心してくれていい。
金貨は本来の持ち主に返してもらうことはできるかな?」
小さな巾着袋を取り出すとその口を開き、何回か振ると巾着袋の口から二つこぼれ出た。
一つは金貨だ。古代遺跡で見つかる、マグメール建国以前の代物。もう一つは装身具。ピアスのようだ。
少女の記憶が蘇ったならば、酔漢が鼻につけていたものと似ていると気付くだろうか。
何も話さない――碌でもない男をそうしておく手段は限られる。
「お願い、というのはだ。今、君の友人――君がどう思ってるかはともかく、彼女はそう思ってる――、若い女騎士と懇意にしていてね。
君が行方知れずになって……夜も眠れない、とまではいかないが、結構心配しているようなんだ。
お別れの手紙を書いてほしいんだ。彼女から、君も読み書きはできると聞いている。とはいえ――嫌ならそれでいい」
男がさる伯爵家に関係していること、そこに勤める女騎士と知り合いであることは理解できるだろう。
それにしては、最後の言葉は不可解に思えるかもしれない。会ってからずっと強引な男だが、そこだけ物分かりがいいのは奇妙だ。