2025/09/09 のログ
ネーラ > ふん。婉麗な面差しを不機嫌そうに顰める。
そういえば、この魔女がまだ何者でもなく子供であった時、周りの大人は教会の神の名をよく間違えていた。今ぞ神はヤルダバオートである。

記憶の奥底に眠る微妙な何か。

「■■■■■」

まだ赤子であった頃、聞いた気がするが、彼女をしてもなお、思い出せない。

(当座の暮らしには無関係じゃが…さて。)

カウンターで頬杖をついて、夜へと暮れゆく街を眺めている。


「…後でプリプリに顔でも出してやるか。」
にわかに活気付いているかの娼館は、人の入りがあるのでトラブルも正比例している。
本来は娼館側で手を打つべきなのだが、稀に込み入ったことを企む客がいる。
キャストたちの避妊・病気抑止の術を破ろうとする挑戦者。
よその店のスカウト。
透明化の術でタダで犯そうとする痴れ者。
などなど。
ネーラが出るまでもなく用心棒からの容赦ない制裁があるのだが、セキュリティの穴は塞ぐべきである。
「誠に面倒じゃな。俗世というのは…色ごとだけに耽って生きていたいものじゃが…」
生あくびを一つ。

最近は契約している淫魔や病魔をあまり使っていない。
それよりも単身で魔獣を駆逐したり、竜を仕留めたりしている。
どうも冒険者たちの手に余るターゲットがいるようである。
もっと厄介なクリーチャーも現れていると言うし、魔術戦の準備は怠れない。

「魔力をもっと集めねばならないか……貸し出してやるか…」

ネーラは頬杖をついたまま、何の姿もない背後に声をかける。

「ラグニア。お前、たまには外に出たいと言っておったな。機会をくれてやる。
 ………しばし私の代行として、お前、魔力を集めてくるのじゃぞ。できるか?」

ネーラ > 「何?主人様が行くべき?…馬鹿者。何でも私が解決しては、皆が甘えてしまうだろうに。
だいたい、私は社長じゃぞ。かつまたお前の契約者。故に契約によりて大人しく使われておれば良い。」

首を巡らせ、後ろを見ると、生白い肌の、ネーラに少しにたサキュバスがいた。

「……人間にとって、色事は食事ではない。犯せばいいなどと言うのは肉をいきなり生で食うのと変わらん。それなりにコミュニケーションがなければ、人間の交わりとはいえぬのじゃぞ。」

相手の心に満足の一つも残してやらねば、代金分の働きとはいえない、と自らが使役する淫魔に言って聞かせる。

「一旦、紹介状は書くが、技量と態度は店のものの判断による。採用されればパートタイムとなるが、事故を防ぐためにお前に制限を課す。」

曰く、魔力は半分ネーラのもの。半分はサキュバスであるラグニアのもの。
しかもいくら魔力を集めても上級種への変態はさせない。

サキュバスはその姿を相手の欲情に合わせて変えることができる。
サイズ、身長、年齢は自由自在。
娼館にとっては、契約者のコントロールができてればかかる便利な魔物はいない。

ネーラ > あとは、いつからいつであればいいのか。
キャストたちの神経を逆撫でするタイミングは避けたい。ちょうど人が減る、休養日が集中する時がいい。あるいは極度の繁忙期にすべきか。

かつてネーラが籍を置いていたダイラスはハイブラゼールに派遣するのも良い。
が、かつての知り合いは何人生きているやら。かの街なら名代ではなくて本人なら歓迎だなどと言いかねないが、さて。


「……楽して魔力を集められるわけもないか……」

先日吸収したあのシェンという少年の精はエネルギーが特に優れていた。
あれは英雄の資質であった。
かつてネーラがハイブラゼールにいた頃は、そのような特別なパワーを集めやすかったものだが、平民区域となるとかかる偶然の縁を待たねばならない。

性交で魔力を集めるのは、比較的やりやすいが地道に続けなければならない。
魔獣を屠ってその肉を食うのは。一気に精をつけられるが、命を失う危険は避けたかった。


(冒険者ギルドに依頼を出すか…?)


などと考えているうちに、夜になった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からネーラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にルーベルさんが現れました。
ルーベル > 貧民地区と平民地区を隔てる場所を示す様な広場。
気紛れな貴族が、高貴な者の義務と声高に主張しては行われる『救済の炊き出し』。
参加する者の思惑は様々。それこそ気高い志の者もいるし、ただの偽善と割り切りながら金を出した手前と顔だけ見せる者もいる。

実際に一食にも困る者には受けもよいのだろうけれど、貧民自体への恒久的な救いには成り得ず。
むしろ餌に釣られて少々小奇麗にして寄ってきた顔立ち整った者などはこの場で囲われたり、後々所在が分からなくなったりと良い結果ばかりではないのが実態ではあろう。
それでも貴族同士や大店商人などは評判も欲しいからか開催は定期的に行われていて。
手伝いにと雇われた教会関係者、冒険者、平民なども入り混じる、一種独特の空間。

「…結局弱者はどこまでも搾取される側かの」

この場においても、炊き出しの列に並ぶのに個人の力関係はどうしても出てくる。
幼い子や瘦せ細ったものが、大人や余力がまだある者に押しやられるところも。

目付にと兵士やら、雇われた冒険者たちやらが咎めるところもあるが、人数も多くてすべてに目を光らせるのは難しいらしい。

そんな様子を眺めながら、列から少し離れたところで護衛も付けず歩く魔導師貴族。
ほとんどの者は身なりなどから開催している側の者と悟って距離を取ったり目を付けられぬようにしているが、不埒な考えを持って男の身に着ける高価な装飾具を眺めているものもいる。

王侯貴族らとも違う、もっと根源的な欲望の坩堝を、ゆっくりとした足取りで闊歩していて。

ルーベル > 会場を歩く間に配給も終わり。
終了が宣言され、少しずつ人が離れていくその場から、箱馬車に乗り込み邸宅へと帰宅してゆく…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からルーベルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」にアシュベールさんが現れました。
アシュベール > 冒険者ギルドの一角。
今いる冒険者ギルドは王都にあるギルドの中でもかなり規模の大きなギルドであり、
単なるギルドとしての役割だけではなく、宿も兼ねており、他にも食事が出たりと至れり尽くせりである。

この時間となれば、冒険を終えた冒険者が宿に向かったり、空腹を訴える腹を撫でながら食事を摂るものも多く。
人通りも多い。そんなギルドにぽつんと居る一つの影。

「あー。お疲れ様だねー。……あぁ、これ。今日頑張った人へのご褒美ー。
 え?怪しいものじゃないよー? 単なるポーション。……期限は数日しか持たないから早く飲んじゃってねー?」

―――そう、在庫処分である。
ギルドの受付嬢からの依頼。これまで何度か卸しているポーションが、この猛暑で出かける人が減ったせいで使われず、
結果、早めに捌いて欲しいという依頼を受け、お店に入ってくる冒険者。はたまた、宿を利用する一般人に薬を配っているのだ。
勿論、ギルドのメンバーである証を見せつつ、カウンターからもちゃんと頑張っている様子を見せつつ、だ。

「お? 何のポーションかだって?
 ……こっちの緑は傷を治すポーションだねー。こっちの青いのは解毒用ー。体調悪かったら飲むんだよー?
 こっちの赤いのはスタミナ。――終わったら色々とやることやるでしょー? ……んふー。」

その効能を聴いてきた屈強な男に赤色の瓶を押し付けつつ、フードから覗く口元を緩ませる。
気を良くしながら去っていく冒険者の背を見送り――様々な色を持つポーションを手に、時間を潰しており。

アシュベール > なお、定期的に納品しているが。このポーションの材料は単なる薬草や漢方等ではない。
例えば、傷を治す緑色のポーション。これに関しては、マンドラゴラの無駄に伸びた枝や葉をカットし、整えた際に手に入った葉っぱを利用しているし、
毒を治す青色のポーション。この青色の理由は花畑で毒を撒く毒吹きアゲハ。
その鱗粉と中和剤を混合させることで出来上がったものを混ぜ込み、発生させ、毒の中和に至っている。
黄色のポーションはスタミナ。精力剤の用途があり、飲めば夜通し元気になるものだが。
――これに関しては、色々と企業秘密。効能が強ければ強いほど、材料となった魔物のグレードが高くなるのだ。

材料さえ知らなければ、それはあくまでも「ギルドに所属する少年が無償提供している、普通のポーションよりも効き目の良いポーション。」
そんなものを、人の良さそうな笑顔を浮かべ、受け取った際には「ありがと~。」と、緩い笑顔を浮かべる少年が配っているとは――恐らく、誰も気づかない。

人によっては飲みすぎたり、そういった魔物起因の薬に弱い存在だったりすると、魔力酔い等を起こすこともあるが。
その時は介抱すればいい。それに、その介抱が出来る薬の納品を行った少年がいるから、ギルドも任せているのだ。
―――なお、一応この少年は中級程度のランクであり、知る人は知る魔道具売りなのだが。それはそれ。

「お? なになに~? 紫色が欲しいだなんて、お兄さん、やるねー……?
 容量、用法をまもって使うんだよー……?」

怪しげな紫色のポーションをこっそりガリヒョロした男性に渡しつつ。
数十本も配れば、首から引っ掛けているポーション入れの中身も減っていく。あと少し、というところか。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」に飛鳥さんが現れました。
飛鳥 > 「ねぇねぇキミ!疲労回復に使えそうなモノはある?」

少年を覗き込みながら声をかける女性の姿がある。
異国の戦士風衣装に身を包んだ、明るく溌剌とした笑顔を浮かべた若い女性だ。

「依頼の後に、こう……安眠出来る様な、リラックス効果のあるモノとかあったら嬉しいんだぁ。
 ……あ。異国の服を着てるけど、怪しい者じゃないよっ。ギルドには登録してないんだけど、
 ラジエル学院から生徒達の護衛依頼を受けて哨戒してる……見回り番?みたいな仕事をしてるんだっ。
 名前は飛鳥っ。姓は無い只の飛鳥だよ。良ければ見知り置いて欲しいなっ。キミの名前は?」

尋ねると、女性は並べられたポーションを度々見渡して『ほう』『ふむ』と吟味する。
時折少年へと向き直って、にっこり。笑顔を見せて手を振ったりと、人懐こい様子を見せた。

アシュベール > 「んー?」

声に気付き、振り向いた。
其処に居たのは異国の衣服を身に纏った長身の女性。
長く此処で暮らしていればある程度の知識は持ち合わせている。確かそう。――シノビといったか。

ゆったりとした口調の少年が次の句を紡ぐよりも先。
つらつらとどういった物が欲しいのか。更に自分がどういった存在なのかを事細かく紹介してくれる女性。
人懐こそうな様子とその肉感的な体躯も相まって、他の冒険者からも視線を受けている気もするが――それはそれ。これはこれ。
ふむ、ふむ。と、彼女の要望を聞きながら――色々と考えている様子を見せて。

「あー。疲れが溜まってると、それこそうまく眠れなかったりするものね~……。
 ぼくは、いつでも寝れるけど。……んー? 怪しいなんて思ってないよー。そんなこと言ったら、外見だけならぼくの方が怪しいしねー?」

彼女の言葉にどこか楽しげに、口元を緩め。
だぼついたローブから覗く掌を揺らし、いかにも!な風体を見せつけてから。

「飛鳥、お姉さんだねー。ぼくはアシュベール。みんなは、アッシュとか、ベルとか呼ぶよー。
 一応、ここのギルドに所属してる冒険者でー。貧民地区でお店を開いててー。……卸したポーションの在庫処理中ー。」

此方も自己紹介をしながら、会話の合間にポーションに視線を滑らせる女性の様子に視線を移した。
やはり体力回復。ということもあるからか、黄色辺りはおすすめだが。

「んー、単純な疲労回復なら、この黄色。なんだけどー……これ、精力剤の効果もあるから、むしろ眠れなくなっちゃう、かな~?
 深く眠りたい~。っていうのなら、こういったものもあるけど。安眠っていうより、熟睡ー?
 普段眠れない人がぐっすり眠れる~。って感じの睡眠導入薬に近い、かなー。
 他にも、こういったものもあるけど、どうー?」

そう告げ、見せつけた桃色のポーション。
言葉通り、対象の張った精神を弛緩させ、安眠にいざなうもの。
しかし、飲みすぎると泥酔したような状態となり、いろいろな意味で言いなりになってしまうもの。
――他にも、紫色の全身の精気を回復させるものや、黄色の精力剤ポーションを揺らしつつ。
一つ飲むだけで十分なもの。だが、複数個示してみるのは、いかにもそういった薬に強そう。という印象からか。

飛鳥 > 「えぇ~本当~っ? 良いなぁ~……。
 お姉さん、なかなか寝付きが悪くてさぁ……この国のベッドがちょっと合わなくて……」

いつでも寝れると少年が告げると心底羨まし気な声色で肩を竦めて見せるが、

「わ、ほんとっ? そっかそっか、ありがとっ。
 そう……なのかな? 確かにキミみたいな若いコがギルドで
 冒険者相手に道具を捌いてるのは凄いなって感心はするけど……うぅん……」

外見だけならぼくの方が妖しい、と言われると首を傾げながら
少年の外見をじぃっと見回し、怪訝な顔。再び首を傾げると
『むしろちょっと顔が整い過ぎてる……のか……?』等と呟いて。

「アシュベールくんっ。アッシュくん……おぉ、ベルくんっ!
 わぉ……なんて良い響き……お姉さん、ベルくんって呼んでも良い?
 ぁ、あたしの事は飛鳥お姉さんって呼んでくれると鼻の下が伸びちゃうぞっ。
 商人じゃなくて冒険者なんだ……へぇ……凄いね、かなり若く見えるのに……。
 ポーションを売ってるのもギルドの依頼なの?金銭関係の依頼なんて、信頼されてるんだぁ……」

少年の自己紹介を受けると、感嘆といった様子を見せて息を吐く。
どう見ても若い……否、幼いと言ってもまだ通用する年齢にしか見えない少年は
どこか手慣れた、堂々としたとも言える様子で薬を構えている。感心もするというものだ。

「精力剤は……むしろギンッギンになっちゃいそうだよ……。
 お姉さん、大陸の薬はかなり効いちゃうみたいでさ。薬の質が良いのかもだけど……、
 ぇ、ほんとっ?あるのっ!?欲しい欲しい、熟睡したいっ!今すぐしたいっ!」

黄色の薬を前にすれば、飲んだ後目が冴えて三日三晩眠れない自分の姿を想像して苦笑い。
桃色の薬を出されつつ説明を受ければ『おお!』と歓喜の声を上げ、その場で小さく跳ねて見せながら
副作用の説明をされなかったか、はたまたされたのに全く聴いてなかったか――

「それじゃ、お姉さんそれを買っちゃうよ!おひとついくらっ?
 ……お勉強出来たり、する?しちゃう?在庫処分割引とか、してくれたり?うん?うん?」

すぐさま胸の谷間から小さな銭袋を取り出してみせて、
ずい、と少年へ詰め寄り、ウィンクして見せつつ値切り始める。
赤貧の根無し草に護るべき体裁など、それが例え年若い少年相手だとしても、有りはしなかった。

アシュベール > 「あー……もしかして、お姉さんって東の人ー?
 それなら、ベッドが合わないのは納得だけどね~……。」

何せ、自身は商人。寝具などに関しても、オーダーによっては入手することがある。
ふかふかのベッドは心地よいが、東の人は「布団」と呼ばれる特徴的な寝具を使っていた。
それを思い出せば、ちょっとした世間話――。その上で。

じろ、じろ。と視線を向けられる。
異種族故の整った顔立ちは確かに「整いすぎている。」と思われても仕方ないかも知れず。

「うへー。ぼくは魔物使いだからねー。
 そういった荒事はテイミングした魔物に任せたり、魔物を追い払ったりしてるからさー。
 そういった意味でも、冒険者をして―――手に入れた素材とかで薬を作って、商人もしてるわけー。兼業、兼業ー。
 それに、何度も何度もそういった卸しをしてたら、信頼してもらえるわけだねー。
 
 ―――?
 ……やー、ぼくよりもお姉さんだろうし、飛鳥お姉さんって呼ぶのが普通だよ~?
 だから、ぼくのことはベルって呼んで?……飛鳥お姉さん。」

言葉の合間に、冒険者として中堅辺りを示す証を見せ、これが信頼の証だと言わんばかりに。
実年齢は外見通りだが、魔王の知識を持ち合わせているお陰で、随分と思考回路は手慣れ、落ち着いた様子の少年。
褒めてもらえれば、「それほどでも~。」と微笑みながら、少し照れたように。

「へぇー……じゃあ、ぼくのくすりも確り効いちゃいそうだねー?
 逆に他の薬を混ぜたら混ざって中和されるかもしれないけどー……。

 ――おー? 興味あるー? うんー、まだあんまり捌けてなかったから残ってるよ~?」

残っていたポーション。やはり売れやすいのはシンプルな緑や青。男性冒険者に黄色や紫。
結果、彼女が所望する色のポーションはまだ数本残っており。
――此処で時計に視線を向ける。既に深夜前。人の出入りも少なくなってきたところ。
此処から他の冒険者に配る。というのも中々難しいだろう。そうなれば。

「お値段は~。このぐらーい。
 だけど、もう遅い時間だしね~……? お勉強、しちゃうー? ……なんなら、相談次第では、在庫のポーション。全部渡してもいいけどー……?」

ここで少年。残った10本前後のポーションを彼女に全部渡すつもりまんまん。
しかし、規律を守るギルドの受付嬢からの視線にふと気づけば――。
背伸びをして、顔を寄せ、吐息が触れる辺りに。

「……よかったら、その辺りの相談。していくー? 宿、取ってるならそっち行くしー。ないなら、ぼくの店に来ても、いいけどー?」

――そんなお誘い、ひとつ。

飛鳥 > 「へ……っ?お、おぉ……お姉さんの格好だけでそこまでわかっちゃうのか……。
 広く知識もあるんだね……うぅぅん……やっぱり郷とは教育レベルが全然違うみたい……。
 そうなの!お姉さん、床で寝るのが日常だったからさ……ベッドって、こう、柔らか過ぎ?と言うか……」

"東の人"と少年の口から聴くと、呆気にとられた様子を見せた後、
『ふむ……』と腕を組んで胸を持ち上げながら、改めて感心の様子。
布団とベッドの違いに身体が馴染まない事を伝えながら再び肩を竦めるが、

「魔物、使い……?へぇ……魔物を使役なんて、出来るものなの……?
 ……お姉さんが無知なだけだったら恥ずかしいなっ。あはは。
 えっへへへ……そっかぁ~、普通かぁ~♥うんうん、飛鳥お姉さんだよベルくんっ。ふふふ。
 なるほどなぁ……それだけ多彩ならギルドでも重宝される訳だ……これは良い伝のご縁があったかも……」

"魔物使い"という言葉には、眉尻がピクと上がる。
退魔を生業とする飛鳥にとって、魔を所縁のある者はそれだけで警戒の対象だ。
が――軽く首を振ると再び笑顔で向き直り、少年の言葉に耳を傾ける。

「そうなのそうなの。お姉さん、薬への耐性には自信があったんだけどね?
 大陸の~となると、やっぱり全然別物だったみたいでさ。害の無い薬は効き目がすンごくて!

 ……って、えっ。ほんとっ?いいのっ?……ぜ、全部っ!?!?」

思わずギルド中に響く程の大声を上げてしまう。
自覚としては半分冗談での交渉だった。が、返答は条件付きの"全譲渡"だ。
あまりにも器の大き過ぎる対応に、赤貧冒険者の飛鳥は視線を右往左往させて狼狽えた後――

「ぇ……ほ、ほんとに……?ベルくん、お姉さん……本気にしちゃう、よ?
 全部って……つまり、全部ってことだよねっ!?大丈夫なの……?」

自らも顔を少年へと寄せ、内緒話をする様に小声で尋ねる。
こっそり自らの財布を、殆ど小銭ばかりの寂しい銭袋を少年へと見せながら――

「うん?相談?あっ、お姉さんと交渉してくれる……って事、かな?
 はぁぁぁぁ……良かったぁ……キミみたいな若い子からそんな大サービス受け取れないもん。
 うんうんっ、勿論喜んでっ!お金は限りがあるけど、色々と力になれたりもするし
 貰った分の恩はちゃあんと返すのが信条だからね!キミのお仕事が終わったらあたしの宿、に……」

少年が提案した"相談"には、何度も頷きすぐに快諾。安堵の溜息なんてつきながら笑顔で了承し、
場所に関して告げられると、自分の宿へ少年を招こうと提案しかけるが――

「……キミ、お店まで持ってるの?正直、かなぁぁぁぁり……興味あるっ!
 お邪魔でなければ、一度お店を見せて貰いたいなっ。大丈夫、そんなに時間はとらせないからっ」

少年が構える店と聴けば、興味津々の様子で前のめりに顔を寄せて
キラキラ瞳を輝かせた満面の笑顔で応える。まるで尻尾を振る大型犬めいた姿だ――

アシュベール > 「似たようなー……とは言わないけどー。
 装束とか、その胸元とか腕回りの網部分とかー。時折、見かけるからね~?
 ……なーるほどね~。それなら「畳」とかでごろごろしたいっていうのもあるでしょー。」

此処でまた、博識なところを見せる。
そもそも、少年も椅子に座りっぱなしよりも、そういった床でごろごろしたいタイプであり。
結果、実は少年の店のリビング――否、居間は畳張りだという事実があるのだが、それはまた別の話。

「んー? 出来る出来るー。勿論、凶悪な、理性を失ったような魔物は無理だけどねー?
 対話さえできれば、それこそ意思疎通して、人間を襲わないように場所を移動してもらったりもできるわけー。
 ……うへへ~。うん、よろしくねー? 飛鳥お姉さん。……人によっては、討伐した時後の後片付けとかも好まない人もいるから、そういう意味でも、ね~?」

――実のところ、ローブで隠れているが。彼こそ退魔を生業とする彼女の警戒対象。
魔族であり、その中でも上位存在の魔王なのだが。外見と魔力を遮断する魔具のお陰で、彼女にはきっと気づかれない。

それにその後の驚きによって、彼女はきっと察知するだけの警戒心はどこかに飛んでいった。

ギルド中に響き渡るような彼女の素っ頓狂な声に、何人もの利用者が思わず振り向いた。
思いっきり視線を浴びることになると思う。結果、右往左往した視線に映り込む、他者からの視線。
それを阻むように此方に顔を寄せ、ひそひそ話を続ける女性。そういった反応が面白い。

「やー……本当、本当。ただ、長持ちはしない在庫処分だよ~? 数日の内に使い切る必要はある、けどね~?
 ……それでもよければ、お勉強価格で提供する予定ー。」

一応、此処で安く配られていたのは、本来のポーションよりも少し前に作られていたからという理由。
商人として、全部提供する理由もきっちりと付け加えれば、彼女からしても「なぜ」に納得が行くだろうか。

「あはー……流石に商人だからねぇ~? ただ!なんてことは言えないしー。
 対価を支払うことは大事だからー。それが少なくとも、ね~?
 だから、どのぐらい出せるか。どんなことができるかも、ちゃんと確認した上で、お勉強価格―――

 って、うわ。びっくりしたぁ。」

一応、商人としての矜持がある。そういった意味でも、交渉は商人として基本。
快諾した女性のころころと表情が変わる様子を楽しそうに見守り。
――提案に文字通り身を乗り出し、豊満な乳房をゆらさんばかりに顔を寄せた相手に、驚き顔。

「もー、飛鳥お姉さんってばー。さっき言ったじゃんー?
 ぼくは冒険者であり、商人もしてるー。……それなら。」

そのまま、待ってて。と一言告げれば、ギルドのカウンターへ。
ちょっとしたやり取りの後、ポーション入れを預け、その代わりに残っていたポーションと、報酬の夕食代わりのサンドイッチを持って、戻ってきて――。

「はい、おしまーい。それじゃあ、案内するねー? ぼくの店、シャイターンに。」

満面の笑顔を浮かべる女性に、そっと手を伸ばし。
――彼女からの了承を貰えれば、貧民地区にある自分の店に彼女を招待することになる。
その結果、こんな少年がこんな場所に!?なんて心配されたりするかもしれないが――。