2025/09/04 のログ
■リーリア > 「私は見ての通り魔術師志望なのですが、護身術としての棒術ですとか……
え、っと……確か……練氣術……っ。異国の力を用いた戦術にも興味があって、
ぁ……っ、あと、武道に対する心構えや礼儀作法なんかも……っ」
好奇心旺盛な学徒である少女にとって、異国の講師から学べる事の多さは宝物のように貴重なものだ。
是非、是非、と男に迫る姿は先程隅で濡れ鼠になっていた姿とは打って変わったものだった。
「そ、そう……なん、ですか? でも……罰は必要な事じゃ……?
で、でも……わかりましたっ。ご教示ありがとうございます、先生っ」
少女は臆病ではあるものの、肝心な用心深さを兼ね備えていない。
過保護な両親の下で不自由無く育った生粋の令嬢としては、それもまたさもありなん――
「は、はい……細面のおばさまなのですが、まるでオーガの様に目を尖らせて、
甲高い怪鳥の様な声で生徒を叱ります……とても、とても怖いです……。
……っ!? ぇ……ぁ……い、良いん、ですか? それでは、先生にもご迷惑を……。
勿論、その方便であればきっと問題も起きませんし、私としてはこれ以上ない救い、です……けど……」
怒る寮長婦人の事を思い出すと、思わず濡れた身体がぶるると震えてしまう。
男の提案を聴けば、再び慌てた様相見せ、男を慮る言葉を返す。
少女の言葉通りそれは非常に良い提案だが、どうしても男への負担を考えてしまう。
「……じ、じゃあ、せめて先生の方便が嘘にならないよう、私に講義をして下さいっ。
内容はどんなものでも構いませんし、場所は此処でも、お宿……?でも、構いませんっ。
それなら私も先生も、胸を張って堂々と出来ると思いますから……っ」
少女は名案だとばかりに瞳を輝かせた笑顔を男に向け、如何を訪ねる様に小首を傾げて見せる。
と――運ばれてきたパン。野菜、燻製肉を挟んだ芳醇な香りを前に
ぐぅぅぅうぅぅぅうぅう――
やはり犬の、今度は唸り声めいたとてもとても隠しきれない腹の虫が鳴る。
少女は咄嗟に両手で腹を抑えながら、輝いた笑顔は何処へやら。顔を真っ赤に染めて俯き
「せ、先生……あの……後でお支払いをしますから、その……ぉ、おひとつ……」
遠慮がちに男を見上げながら、その魅力的なサンドイッチをちょこんと指差すのだった。
■影時 > 「良いねェ。悪くない目のつけようだ。
長いものがあれば棒術棍術というのも即物的だが、直ぐに手が届くものを使うのは、全く道理でもある。
……練氣の技は、存外知らず知らずのうちに使っているものも多い気がするが、まあまあ落ち着け。
この場で全部丸ごとまとめて教えるにゃぁ多過ぎる」
いかにもな剣士、騎士、あるいは戦士然とした者ではなく、異国の武技を弁えた者である。
気付くものには特異な類であろう者が知り得ることは数知れず。
興味を持つものがあれば、こうなるだろう。今まさに。
しょんぼり濡れ鼠めいていた様相から打って変る有様に、落ち着こう、と手を挙げて促し。
「ものにもよるが、罪に対する罰は納得出来なきゃぁ、釈然とするまい。
……例えば、外泊は死罪であるとか言われたら、リーリアは納得しないだろう?」
この具合だと、冒険者でやっていくには交渉役やらストッパーなら必要になるかもしれない。
身の上を聞けば納得するかもしれないが、不用心が過ぎる。
必要となればどこまでも突き詰める身としてみると、危なっかしい。ふと、呼び捨てで呼んでしまいながら。
「……――ははァ。そりゃぁ怖い怖い。鬼婆ァじゃねぇかよ。
ま、何かの縁、という奴だ。この時間からいきなり依頼をこなすにしたって難しかろう。
俺にとっては役得だがね。可愛いお嬢さまと一緒にあれこれ、ってのは」
おおこわい、と。わざとらしく湿気を少し残した羽織ごと我が身を抱き締め、身震いの真似をしてみせよう。
預かった子女への責任かそれとも嗜虐趣味か。そこまで深くは考えるまい。
あとは、どうするか。真面目か不埒か。少し前まで濡れ鼠少女の胸元をついつい見遣って、直ぐに視線を戻す。
「良いとも。何が良いかねぇ……どの道、宿は取っとかねぇと色々大変だが、……と。。
っ、はは。ほっとしたらお腹も空くよなァ……嗚呼、食え食え。誘ったのは俺だからお代は気にすんな。
飲み物も勝手に頼んじまったが、問題なかったかね?」
提案としては問題ないらしいが、さて――講義か。方便ながらどうしたものか。
教訓的な講義は、情け心的に止めておきたいが、内容を選び、考慮している時にふと、響くものがある。
まっこと隠しようもない腹の虫。己が夕飯代わりでもあったが、問題ない。
いいとも、と。一切れを取れるように皿を向こうに押し出しながら、一緒に頼んだものも問おう。
■リーリア > 「ぁ……っ。は、はぃ……すみません、私つい、ぁ、あはは……っ」
落ち着けと男が促すと、はっと熱が散って恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべながら居住まいを正す。
(わ、私ったら……こんな場所でお願いしても困らせるだけなのに……っ)
心の中で大きく大きく溜息をつきながらも、男の反応を見る限り
教えを乞う事に関してはチャンスがあるのかも、と淡い期待を抱いた。
「ぅ……た、確かに……それは、納得出来ないと、思います……。
なるほど……罰は"相応の"という前提があってこそ、成立するもの……という事……。
とても腑に落ちるお考えです……っ。胸に留めておきますね……っ」
何度も何度も頷き返しながら、男の言葉を飲み込み胸中に収め。
男がふと少女を名前で呼び捨ててしまった事に関しては――
満面の笑みだ。人懐こい子犬の様相は変わらぬまま、喜ばしいと感じているのが手に取るようにわかるだろう。
「ぉ、鬼婆……ふ、ふふっ。ぅふふ……っ。
私、そこまでは……はっ。オーガと例えてしまってました。ふふふっ。
縁……とても好きな言葉ですっ。ご縁が結べた相手が先生であった私は果報者ですね。
ぇ、え……っ? か、可愛いお嬢さま、だなんて……せ、先生ぇ……」
鬼婆という言葉を聴くと、頭に角を生やした寮長の姿を思い浮かべて思わず笑ってしまう。
可愛いお嬢さま、等と、社交の場以外で伝えられた事の無い少女は
男の言葉が世辞である可能性など考慮せずに再び恥じらいの顔となってしまう。
恥じらいからか、きゅ、っと両ひざにつけていた手が、腕が狭まれば、
丁度男の視線が向いたのと同時に、小柄に似合わずたっぷりと熟れほんのり下着が透ける胸を
柔らかく左右から圧して潰す艶めかしい姿となり、男はそれを目撃してしまうだろう。
「……っ。す、すみません、お見苦しい所をお見せしてしまい……。
ぁ、ありがとうございますっ。えっと……頂きます……っ」
腹の虫を聴かれた事にいよいよ耳まで真っ赤にしながらぺこぺこと頭を下げるが、
食え食えと笑顔で進められれば、令嬢とは思えぬ手付きでサンドウィッチをパクリと頬張り――
先程男が向こうへと押しやった果実酒を手に取って、喉に下してしまうのだった。
「ぷは……っ。わぁ、とってもおいしいです……何だか、ほっとしちゃいました、えへへ」
ほぅ、と温く艶めいた吐息を吐くと、果実酒を飲んでしまった少女の顔は
恥じらいのそれとは違った理由でほかほかと紅潮し、男に向ける笑顔はもう、
わかり易い程に酒気を帯びた緩んだ笑みになってしまっていた。
「先生……えへへ。今夜はどうぞ、ご指導ご鞭撻のほど……宜しくお願いします……」
そう告げると――ひっく、と。少女は小さくしゃっくりをして見せるのだった。
■影時 > 「興味が色々ある、ってのはよーく分かった。
分かったなら次はとっつき方かね。
鶏が先か卵が先か――……というのは言い過ぎだが、棒も杖もようは頭使って振るうわけだからなぁ」
気にするな、と首を振りつつ、思考を廻す。巡らせる。
全部まとめて一緒くた、ではとっちからかり過ぎている。効率の良い教え方にはならない。
今出た範囲で棒も練氣も、一夜漬けでどうにか、というものではない。
ではどうやるか、と否定せずに考えだすのは何だかんだと言って、教師である表れだろうか。
「極端な例だが、ね? だがまぁ、割と納得し難いことというのは、変な所で起こり得るものだからなあ……。
取り敢えず、相手の話は最後まで聞く。全部まで言わせてから考える、だ」
これだけ覚え、心がけておけば――大丈夫とは言い難いが、きっと必要な処方であるだろう。
取り敢えず。取り敢えず、だ。呼び捨てで呼んでも問題ないということを認識する。
懐いたかのような満面の笑みを湛えてみせるさまは、釣られて相好を崩してしまうのも無理もないか。
「おっ、この言い草も分かるか。“おーが”呼びは寮監サマにゃあ流石に失礼だろうよ。
教えてる面々に対して、訓練や講義以外でこう話す機会ってのは無かったからなあ。
……――ははは、いろんな意味で危なっかしくて心配になる位だが。だが。」
筋肉もりもりの、何とやらな寮監のおばあ様というのは、はたしてどんな怪異であるか。
想像すると実にトンデモ感が溢れ出して、首を振る。気を取り直して目線を戻せば、乙女の恥じらい顔がよく見える。
膝に付けていた手の位置が変われば、ついつい目線が動いてしまうのを堪え切れない。
体躯に見合わないものをよくよく思わせる、柔肉がどのように潰れたか、と思わせる艶姿。
ともすれば、これだけで襲ってしまいかねない。乾いた笑い声を奏で、下手に誤魔化してみせては。
「気にせず食え食え。
冒険者も学生も身体が基本だ。喰える時は喰っておく――我慢するな。
喰い過ぎは節制せにゃならんが、喰える奴が生き残る。まぁ、講義のつもりで聞いとくといい」
楚々とした令嬢としては、な手つきから空腹振りが伺える。
その勢いで呑むのは――狙ってなかったと言えば、嘘になる。知らずが故の警戒心のなさは心配になるほど。
大酒飲みには軽いものでも、そうでないものなら、こうもなる。出来上がってしまう。
「…………っ、はは。確かに承ったよ。
ちと幾つか真面目な話をやってから、オトナの授業でもしゃれこむかね?」
だが、ちゃんと聞いていけるだろうか。
重ねて言うが、心配になる。己が手元の麦酒を思い出したようにぐびりとやりつつ、己が分のサンドイッチを摘まもう。
■リーリア > 「なる、ほど……確かに、魔術にも式が存在しますし、
武術にも、昇るべき階段というものがあるんですね……」
男から受ける短い講義。少女は興味深げにその説法を聴き、
鞄から雨で少しくしゃりとひしゃげたノートを取り出すと
勤勉にその言葉を綴りつつ胸中へと納めて行く。
「はい、わかりました……っ。
全部、最後まで言わせて……と言う所が、課題になりそう、です……。
なんだか、交渉のお勉強と似ていますね? 日常会話も交渉ごとの内、と覚えるのが良いでしょうか……」
取敢えず、と男が伝えた事も少女は素直に吸収する。
まるで渇いたスポンジが水を吸うかの様な純粋さで。
少女は至って真摯だが、肝心な心根が未だ抜けたまま。
熟達である男が危惧するのも当然だが、きっとここから学んで行けるだろう。
「……はっ。私、またお見苦しい所を……だ、だめですね、もっと我慢も覚えないと……。
雨に降られて沢山走ったからか……ひっく。思った以上に、お腹が空いてしまってたみたいで……えへへ」
男が胸へと視線を注いでいた事は――当然のように少女は気付いていない様子だ。
むしろ、渇いた笑い声とぎこちない顔にこそ首を傾げて見せたが――すぐに照れ笑いへと戻る。
二口めからは上品に、けれどもやはり空腹だったのか、すぐにも平らげてしまって
落ち着いた様子となれば、再び男の言葉に耳を傾ける。
「そう、なんでしょうね……依頼を受けて、危険と対峙するようになったら、
いつこうして食事が出来るかわからない状況にも、きっといつか……。
……っ、少し不安はありますが……教えを活かし、立派な冒険者になってみせますっ」
『喰える奴が生き残る』と伝えた男の言葉は、少女の胸に重く響いた。
不自由ない暮らしから一転して、今の学院生活だけで少女にとっては波乱と言える。
それが更に、命の危険と隣り合わせの冒険者稼業へと進むのなら――その考えはきっといつか
自分の生死を分ける事になるのだろうと、そう思えた。
「はぁぁぁ……。……ぁっ、ごめんなさい。また急に、ほっとしちゃったみたいで……っ。
ぉ、大人の授業、ですか……? わぁ……わ、私、大人に一歩近づけるのかな……。
とっても、とっても楽しみです、先生っ。ぁ……そろそろ、街のお宿が受付けを終えてしまう時間……っ」
空腹が満たされての安堵から、深く深く酒気を帯びた吐息を吐くと
いけない、と再び居住まいを正して男へ正対し、再び一度大きく頭を下げる。
勿論、男の言う"オトナの授業"がどういったものなのか等知らぬまま、
ただその語感に、響きに引かれて瞳を輝かせ、前のめりに笑顔を向けた。
ふと店内の時計をみやれば思いの他時間が経過している事に気付く。
会話とは時間泥棒なのだ、と内心で改めて感じながら、少女は男を促した。
男が支度を終え酒場を後に今夜の宿へと向かうなら、
少女はその隣を、体格の良い長身の歩幅に小走りで付いて行く事だろう。
■影時 > 「剣術も結局は棒振り――とか、訳知り顔で説法する手合いとか、本で読んでいたら分かりやすいか。
いや、すまん。此れは無しだ。分かり辛い喩えだ。
詰まる所、適宜手順を踏まねぇと身にならん。
勿体ぶる訳じゃないぞ? 講釈を理解するには、身体で試してみるほうが分かりやすいだろう」
真面目だねえ、と。雨に濡れてくしゃっとなっていながらもノートに書き込む姿に、目を細めて頷く。
剣士の端くれとして言うなら、剣も刀も平たくして尖らせた棒である、とも言える。
しかし、それを剣術のケも知らぬものが云わんとするところを解せるかと考えると、難しい。
この男の講義、訓練は実践、体験による理解を何よりも優先する。
棒や杖での防御による捌き方、力の入れ方、練氣の流れは――やってみてこそ、だ。
「おっ、よく分かったな。
んー……そこまで考えると、友達の会話が心配になるなぁ。
兎に角話が長くなりそうな気配がしたら、でいい。人間、伝えたいことが色々あると話が入り組むもんだ」
その目の付け所は、悪くない。貴族でもあるだろう。交渉、取引の其れにもよく似る。
危なっかしさは依然として拭えないけれども、話を最後まで聞くのは、意外と馬鹿にならない。
冒険者ギルドで請ける依頼を、依頼人の口から改めて聞く、といった場合がある。
ギルドの受付を介せずに聞いた話が、言いたい事が多過ぎてとっちらかることも、往々にしてあること。
「――普段はこうじゃない、のだろう?
思わぬことがあれば、こうもなる。落ち着いたら腹が減るってなら、あれか。晩飯もまだだったか?まさか。
ともあれ、危ない時でも動けなかったら、死ぬ。
死にたくないなら食べるしかない。食べなければチカラも出ない。だから、食べる。
こういうと食い意地張ってそうだが、それ位ないとやっていけねぇのは確かだ。着実に、色々踏まえていくと良いさ」
寮の規則は、人それぞれだが基本は守るためにある――筈である。破るためではない。
一先ずやーらしい視線には気づいていない、らしい。
おくびに出さないように気をつけながら、言葉を継ぐ。ここに至るまでの経緯は思いもよらない出来事であったろうと察する。
それは腹も減る。でなければ食べるしかない。食べる子は可愛い。麦酒のジョッキを片手に、頬杖付きながら見守ろう。
死地に臨んで喰う気も沸かないのは勝手だが、魔物魔獣の類はそんな個人の事情には斟酌しない。
「気にすんな。……全く。俺に逢えたのは運が良かったな。
まぁ、大人に近づけるってのは――間違いないか。
ぁぁ、急がなくていい。一先ず全部食べちまってくれていい。……この具合だと、安部屋だと危ういしなァ」
此れが悪いオトナだったら、果たしてどうなったやら。考えるだにぞっとしない。
気にしなさんな、と半ば干した酒杯を掲げ、会釈をしてみながら見遣る笑顔に、ちょっとだけ悪い貌もよぎる。
なんにせよ悪いようにはしない。それは間違いない筈だ。
そう思いながら、促しには慌てず酒を飲み干す。のっそりと食べ終え、勘定を置きながら立ち上がる。
少女と伴って奥の宿に向かえば、頼むのは雑魚寝前提の安部屋ではない。十分な安全と快適を確保できる個室。
目論見通り取れれば、二人で奥の階段へと消えるだろう――――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2:冒険者ギルド」からリーリアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2:冒険者ギルド」から影時さんが去りました。