2025/09/03 のログ
イグナス > しっかり飯を食べて、さて、腹もいっぱいになったし――次は何をしようか。
意気揚々と大男は酒場を後にして――

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からイグナスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2:冒険者ギルド」にリーリアさんが現れました。
リーリア > 「はぁぁ……び、っくりしたぁ……」

とある雨の日。学院の混浴入浴施設へと駆け込み一度は雨宿りとなったものの
他の入浴者が現れた事で、ついつい飛び出し駆け出して、再び濡れ鼠となってしまった少女。

「うぅ……ど、どうしよう……もう寮の門限、過ぎちゃってる……」

入浴施設で時間を過ごす間にすっかり寮棟の門限は過ぎてしまっていた。
このままでは、戻ったとしても寮長からの大目玉から逃れる事は出来ないだろう。
貴族出身の令嬢である少女がそんな失態をしてしまえば当然両親へと連絡が行き、
最悪、自主退学として家へと強制的に戻されてしまう事態にすらなりかねない。

「ど、どうにか一晩お外で過ごして、何もなかったって事にしなくちゃ……でも……」

とってもとっても肩身が狭い。わき目も振らずに駆け込んだのは、冒険者が集うギルド兼酒場だった。
一応冒険者として登録はしている少女なので、場違いという訳ではない。ないのだが。
その時間は多くの冒険者が依頼を終え、酒場が賑わう時間帯。喧噪に慣れない少女は隅で小さく縮こまる。

(し、知らない人ばっかり……どうしよう、受付に行ったら宿を紹介して貰えるのかな……)

隅のテーブルでちょこんと座る少女が独り。深い深い溜息をついて、暫くそこから動けずに居た。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2:冒険者ギルド」に影時さんが現れました。
影時 > ――こんな仕事をしているのだ。こんな時間になることもある。

それが学院の教師であり、冒険者でもあることの宿命である。つまりはいつものこと。
今日受け持った講義や訓練の報告を認め、或いは纏め。次の校外演習の下準備の話し合いなどして。
仕事上にまつわる諸々を終えて、やっと己の自由時間となる。
タスクが溜まっていた、溜めていたからして、それは止むを得ないことだが。

(……まァ、目ぼしい仕事はなさそうだが。だが、無いとも言い難い。やれやれ)

雨空の下、纏った白い装束を頭の上に被って走り抜ける姿が一人。
人の流れを縫い、水たまりを軽やかに抜けて酒場を隣接させた冒険者ギルドの扉を潜る姿は長身の男のそれ。
雨の日はどうにもツキが落ちるな、嫌になるだのなんだの、ぐちぐちと零しつつ雨垂れを振り落とし、袖を通し直す。
腰に差した得物を揺らしつつ、ギルドの受付に向かう足取りは如何にも慣れた素振りそのもの。
この時間でも賑わっているのは、時間帯に天候も関係していることだろう。雨が齎す面倒は、旅慣れたものなら誰しも覚えている。

「……ン? ふぅむ――……」

何か未着手、堆積している依頼類のおすすめでも聞こうか。受付に向かおうとした前に、何か奇妙な気配、違和感めいたものを覚える。
不似合い、不釣り合い、ではない。不慣れが故産まれる違和感、場慣れしていないとも言えそうな。
そう言うものを探していれば、酒場の方に見える。その隅の方に見える姿は、ははァ、なるほど。

「……――何か見た顔だなぁ。学院の生徒と見るが、如何に?」

見覚えがない、でもない。だが、名を覚えるには今少しか。
剣術刀術含む武術全般に加え、冒険者式の戦闘の訓練も男は見る。その中に混じっていたような、気がする。
ふと興味を惹かれ、足を向ける。もし、と声をかけられる側は若しかしたら知っているかもしれない。
異邦人、余所者の教師のひとり。不思議な小さな毛玉を連れているとも聞かれる男のことを。

リーリア > 「え……?ぁ……っ、か、笠木、先生……っ?」

顔を上げた少女の瞳が一瞬ぱっと輝く。
勤勉な少女は己が受けるもの以外の講習も一通り遠巻きに眺めており、男の風貌と名は記憶していた。
学院の講師という、少女にとっては何よりも安堵を得られる肩書の相手が現れた事に
心底ほっとしたのか、緊張がほぐれて一度緩んだ笑みすら浮かべてしまうが

「……はっ。ち、違うんです、違うんですっ!ちょっとドジをしちゃって、
 寮の門限に間に合わなかっただけで、決して非行に走ったりとか、そういう事は考えてなくて……っ」

相手は常勤でこそないとはいえ講師なのだ。
咎められ叱咤される事も当然あるだろうと思い直し、咄嗟に慌てた様子で弁解を始める。

「だ、だからあのっ、ど、どうか、今回の門限破りには、一度限りのご容赦を……だ、だめ、ですか……?」

とてもとても不安気な、眉尻を下げて瞳を潤ませた子犬のような表情で男を見上げた後、
反省の意を東国式で懸命に表現しようとするのか、深々と頭を下げて見せ、暫くした後再びはっと頭を上げて

「あ、あの……私、お察しの通り学院生の……リーリア・アーティノイ、と申します、です……」

すっかり忘れていた自己紹介を努めて丁寧にした後、再び深々と頭を下げた。

影時 > 「……やァ、知ってたか。俺もちゃんと仕事してた甲斐があったもんだなぁ」

自分がよく覚えていなくとも、相手にとってはそうではない、となると幾分かほっとする。
仕事の甲斐があるというのはまさにこのこと。雨天含め、荒天時に屋内の訓練場が使えない時は座学もする。
普段連れ歩く二匹の毛玉達は、おねむらしい。魔法の雑嚢(カバン)の中の隠れ家ですーやすや。
声をかけてみれば、ほっとしたらしい様相に釣られて目尻を下げてみるのも――束の間。

「あーあーあー。成る程成る程悪い子だ。お仕置きだな――ってのは冗談だ冗談」

……ははァ、と。慌てに慌てたような弁解に目をぱちくりしてみながら、凡その事情を察しよう。
ニンゲン、こんなこともある。こんな場所にも居るのだ。請けた依頼が思ったより長引いて、等ともあるだろう。

「俺は寮監じゃァないからなあ。だがまぁ、事情は大体わかった。ならちと幾つか考えなきゃならんか」

問題は己は寮の管理者ではない。だが、己が領分的にどうにかできる、といったことも幾つかはあるか。
反省の意を自分の故郷のそれを真似たような、なぞったような頭の下げぶりに、まあまあと手をやって。

「リーリア君、ね。あぁ、名簿にもあったな……思い出してきたぞ。
 ご察しの通り、いかにも。俺が笠木影時だ。改めてお見知りおきを?
 
 一度なりとも事情は汲んでやれるところは汲んでやりてェとこだが、……あれかねえ。
 取り敢えずの宿と、理由と建前、って言ったトコか」
 
失礼、と。取り敢えず対面の席に座そう。続けて通りがかるウェイトレスを捕まえれば、軽くつまめる軽食と酒を頼む。
麦酒と口当たりの良さそうな甘い果実酒なら、丁度良いだろう。

リーリア > 「は、はいっ。異国からいらした講師という事で、
 私の周囲では恐らく、殆どの生徒が先生のお顔とお名前は覚えていると思います……っ。
 ぁ……え、えっと……はい。どうぞ、お見知り置き下さいませ、です……」

男の返答に、血色を失われていた少女の顔は明るさを取り戻し
『お見知り置きを』と伝えられると、こちらも返して再び深くお辞儀を見せた。

「ぉ、お仕置きは、その……っ、ぁ、甘んじて、お受け致します……っ!
 故意ではないとはいえ、規則を破ってしまった事は確かなこ、と……で……、じ、冗談……?あ、あぅぅぅ……」

お仕置きという言葉には瞼を見開き視線を泳がせた後、意を決したという面持ちで立ち上がり向き直るが、
冗談、と付け加えられれば今度は狐に抓まれたような顔をした後、再びふらふらと椅子に腰掛けてしまった。

「ぁ……は、はいっ。お隣、どうぞ……っ。わ、ぁ……」

男が対面に腰掛ければ、見慣れぬ異国姿の大人の男性の姿がすぐ目前に。
更には小柄な少女からすれば大きく大きく見える逞しい体躯だ。思わず感嘆の声が漏れてしまった。

「ぅ……は、はい……先生の仰る通り、です……。
 寮長先生は厳しい方で、門限破りを許してはくれないでしょう……。
 雨に降られて咄嗟にギルドに駆け込んだものの、この喧騒の中受付に向かう脚も震えてしまって、
 野営の心得も度胸もなくて、ど、どうしようかな、って……う、うぅぅ……っ」

改めて、己のドジと軽率さを顧みて涙が溢れそうになってしまう。
講師である大人と会えた安堵による涙でもあるが、少女の心情は鬱々としていた。

「せ、先生ぇ……私……どうしたら……」

困り果てた捨て犬の様相で男を見上げると、少女は男から教示を得んとお伺いを立てるのだった。

影時 > 「成ぁる程? ……うむ。うん、まぁ良いか。覚えてもらってねェよりは、遥かにマシだなァ。
 今のでよーく覚えたとも。何分、そういう生徒の声ってのは中々聴く機会がないもんでね」
 
学院の教師、特別講師に対する生徒の評価で、異邦人(よそもの)に対する評判は色々あることだろう。
この反応を見るなら、いい意味で覚えてもらっていることであろう。そう願いたい。
少なくとも真面目に仕事をしている甲斐がある。あった、と、内心でほっとする。問題は……。

「……そらな? 
 もう少し深く聞いて良いのか悪いのかは、まだ思案所だが、ひょいひょい容易く受けるとか云っちゃあいけねぇぞ」
 
冗談である、という反応まで全部見届けてから、苦笑交じりに大袈裟に肩を竦めてみせよう。
この分だと論法次第によっては、悪い何かに取っ捕まってしまいかねない気さえする。
どう進めるか。どう運ぶものか。それを思案しながらのっそりと腰掛ける。元の背丈の差もあれば、大きく見えてしまうのもさもありなん。
座る合間、腰に差した得物は鞘ごと引き抜き、卓に立てかけて。

「さぞかし厳しぃンだろうなぁ、その言い草だと。
 街中で野営ってのも変な具合だが、……――帳尻合わせるか。
 ふむ、こういうのはどうだ? 
 冒険者ギルド内でたまたま学外の講義を希望している生徒に俺が逢った。……諸々教えていると、夜になったので外泊した、とか」
 
途方に暮れたと言わんばかりの面持ち、様相にはてさて、と考えを巡らせていれば、運ばれてくるものがある。
軽く摘まめる薄いパンに生野菜と燻製肉を挟んだもの。麦酒と果実酒。
皿で運ばれた軽食を卓の真ん中に置き、麦酒は自分の手元に。果実酒の方は向こうの方に押しやりつつ、言葉を紡ぐ。
建前としては迂遠だが、実際そうとも言えなくもない。悪いオトナの講義とも言えなくもないが。