2025/08/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区――大衆酒場」にローウェルさんが現れました。
ローウェル > 客でごった返している店内は、すり抜けてテラスに出てくるのも一苦労だった。
あっちのドワーフにぶつかり、こっちのハーフオークにぶつかり。
抜け出せた時には両手のジョッキのエールが1/4は減っていたという有り様。
だが店内に座れる場所はひとつもないのだから仕方ない。
それどころか熱気と喧騒で飲むどころではないのだから、外のほうがまだマシってものだ。

「フゥ~~……なんもしてないのに汗びっしょりじゃん。
 オレの汗じゃないかもしれないけど……」

ガラガラとまではいかないものの、テラスまで客で鮨詰めということはなさそうだ。
落ち着ける場所はあるか、と目線を巡らせて。
店内ほどではないものの賑やかなテラス席の片隅、空いてもいない酒瓶と真顔で向き合っている女性に気づく。
興味をかられ、人を掻き分けながら近づいていき。

「や、オネーさん。
 そのお酒をこれから一緒に飲む男のことを考えてマジな顔してたんじゃないなら、一緒にどう?」

テーブル代わりに使われている酒樽に、不本意ながら目減りしているジョッキを2つ置き。
瓶を間に挟んで向かい合いながら、屈託のない笑いを浮かべる。
痛い目を見ないためにまず必要なことは、直球で確認することだ。

ドリィ > 封切らぬ酒瓶を肴に飲むも、不毛といえば不毛。
女は希少酒のコレクターでは無い。生粋の酒飲み、美酒は舌先に転がしてナンボである。
なので、早まった――と悩ましい訳なのだ。
まぁ、今日のトコロは勘弁してやろう、なんて酒瓶のラベルに描かれた趣深い夢魔の意匠に
乾杯でも仕向けるかに杯を傾けていれば――…

雑然とした客らに押し出され――はたまた掻き分けるように、
冒険者風の男が此方にやってくる。掛かる声に、女の眼差しが酒瓶から逸れ。
席に揺らめく洋燈の明かりに燦めき映える夕暮色の双眸が持ちあがっては、相手を見仰いだ。
気安く弛んだ、甘めの口振りで。

「どぉーぞ?  でもー…、誰かに持ち帰るヤツじゃあないの?ソレ。」

へにゃ、と可笑しげに細まる双眸と、視線で示すは誰かの分だろう杯二つのエール。
彼こそ別の供連れがいるのじゃないかなんて、軽く小頚傾いでみせる。
その割には、両方とも微妙に嵩を減らしているけれども。

ローウェル > 邪険に追い払われるか一旦は席につけるかの一回戦は、ひとまず突破できた模様。
酒樽の上に勢いよく置いたジョッキは、目減りしているせいで泡が溢れるなんて心配もない。
身構えて一回戦に臨んだだけに、綿菓子のように甘い声が返ってくるとは想像していなかった。
驚きで少し目を見開き、既に酒が回っているのかと彼女の整った顔をまじまじ眺める。

「あっこれ? 違う違う。お店が激混みだったから何度も注文すんの大変だなと思って。
 1度に2つ頼んじゃったってこと。だからよかったらどう、オネーさん」

ずい、と彼女のほうにジョッキを押し出す。
なんとなく訝しむ目で見られている気がする。その理由はすぐに思い当たった。

「オレがちょっと口つけたんじゃないから、安心してよ。
 ここに来るまでに、色んな人にぶつかったせいでさぁ」

軽革鎧を身に着けた冒険者スタイルではあるが、そんな軽装なら筋骨隆々の男は否応なく目立つもの。
つまりマッシヴとは程遠いということである。
やはり気になるのは鎮座した酒瓶だが、目の端に映る彼女のスタイルにも目を奪われずにはいられない。

「……とりあえず、乾杯しとく? オレ、ローウェル。よろしく」

下がりそうになる視線、ぐっと頭ごと少し持ち上げ。
ジョッキを触れ合わせて乾杯の合図を持ちかける。

ドリィ > 女は素面。その白皙の頬には、酒精にあてられた仄赤さすら見られず、
眼差しは一寸のぶれもなく男の容貌を捉えていた。
慣れているのだ。酒席の運ぶ縁に。そして――気安いのだ。屈託無く、悪戯に甘い猫のように。
此方に視線をまじまじと向けてくる男に、己が手許の蒸留酒を、軽く掲げるだけの挨拶を。
くぃ、と手首返して杯を傾け、小気味好く飲み干してからに、

「…ふ、は。  あら、そぉう? そんな大事な二杯目なのに、飲んじゃってイイの?
 ――――…飲んでイイって言ーわーれーたーらぁー…… 遠慮なく貰っちゃうケド。」

付け加えられた言葉に、可笑しげに破顔する。
なるほど、道理でジョッキがべたべたなわけだ。先に飲み終えた杯を横に押し遣り、
換わって彼の携えてきた酒杯を手にしたら、
その闊達な青い目に視線を据えつつに、ジョッキの縁を、かちあわせる。

「ローウェルね、オッケー。あたしはドリィってゆぅの。
 佳き出逢いと貰っちゃったエールに――…、乾杯。」

そのままエールを唇に誘い、くびり、ぐびり、ぐびり―― ぷは、 と実に旨そうに。
杯に付着したぶつかり零れたエールの名残が、
ぽた、と。真白いマシュマロの如き胸の谷間に、一滴零れるも頓着せず。

ローウェル > 透き通った色白い顔に赤みは全く見られない。
彼女が全く酩酊が顔に出ない度を超えた酒豪という線は、捨てきれないが。
これが素面なら身構えることもないんだろうと、打ち合わせるジョッキの音は軽快に。

「ん~……いい飲みっぷり。
 やっぱ、こういうとこで飲む酒は、グイッと豪快にいったほうが美味いじゃんね」

見た目から薄っすら漂う気品とは裏腹、ジョッキのエールは一気に彼女の喉へ消えていった。
それを愉快そうにはしゃいで、負けじとジョッキの底を夜空へ向けるほど豪快に流し込んでいく。

「ぷはぁ……! あっドリィ、ちょっとそのままストップ。
 動いたらせっかくの高そうな服が汚れそうだ」

ぬっと伸ばした手の指先が向かうのは、むちむちに自己主張する乳肉に落ちたエールの雫。
躊躇うことなく伸ばした指は、ふにゅり、と乳に浅く沈みつつ、肌に落ちた酒を捉えて。
指先で表面をなぞるように引っ掻いて拭い、指についたエールは舌で舐め取った。

「なんか、オレの飲んだエールより甘くて美味しい気がすんだけど。もっとない?」

少しばかり垂らすだけの酒が残っていないかと、彼女が手にしたままのジョッキに目線をやる。

ドリィ > そう。御名答。全く酩酊が顔に出ない酒豪であるからして――
まるで酒精に弛んだかの甘いハニーヴォイスも愉しそうな表情もデフォルト装備。
酒の席で身構えられては――それはそれで見目愉快な肴にもなるけれど。
状況を敏く読んだかにみるみると砕けゆく男の気安さも、清々しくて好ましい。

「そぉそ。 貰い物だからってー…ぇ、気取って飲むモノじゃあないし?
 ――… おぉ、ソッチもキモチイイ飲みっぷり。」

首肯に双眼眇めて、口元ふにゅんとさせて笑めば、――ン? と。
静止を命じることばに、女の瞳が僅か、丸くなる。文字通りストップ。動きを止めたところに
男の腕が伸び――むっちりと着衣に戒められて上部を膨れ盛り上がらせるたわわな乳餅、
その谷間ほど近くに滴る一粒を掬ってみせた。

「ン?――…あぁ。垂れちゃった?」 

指に残る感触は、まるで沈み融けて流れそうな柔さだったろう。
そして女は、男の親切という名の狼藉に頬を赤らめるでもなく悲鳴をあげるでもなく。
小頚を面白そうに傾ぎ、ジョッキの濡れ零れたを触れたせいでべたべたになった指腹を
ちゅぷんと一度エールの波立ちに埋めふれてから。
彼の口元に人差し指を持ってゆくのだ。
―…あと数㎜に、ツン、と唇触れそな“秘密”の仕草真似るジェスチャにて。
ほんのり、酒精のかおりのする指を。朱く色の艶めく――爪先を。

「もっと、って――――… こぉゆう?」

悪戯に、問うて。

ローウェル > 女性を簡単に飲み潰してしまうほど酒豪な自覚はないけども、潰される無様は避けたい。
所詮、1杯のエールではあるが。
涼しい顔をしてほとんどを飲みきった彼女の勢いを見るに、超のつく酒豪の線も捨てきれなくなった。

「ワイン以外は飲みませぇん、みたいな、キレイな顔しちゃってるくせに。
 そんな飲み方したら、一緒に飲んだ男はビックリするでしょ?」

彼女はモテる。間違いない。全身からモテ女の気配が放出されている。
今日はたまたま1人だったかもしれないが。
気の良い美女と飲む酒は格別で、2つと言わず4つぐらいジョッキを注文しなかったことが悔やまれる。
悲鳴のひとつでも上げられたら素早く戻すつもりだった指先。
咎めるでもなく、楽しそうにショーを見るような視線に甘えて。
ず ぷにぅぅ♪ なんて、音が聞こえそうなぐらいには思わず指が埋まっていた。

「やっば。
 ドリィの乳にちょっと触っただけで、腰から下がビクゥってなったんだけど。柔らかすぎて」

けらけら、喉を鳴らして笑うしかない。
沈み込むようでありながらハリのある芯を感じる、好み直球の感触だったから。
その感触を思い出すよう、指先を曲げてクイクイと動かしてたが。
エールの香りが漂う、彼女の指先が近づいてきて。

「オレ、結構上手いよ?」

冒険者ギルドを見渡せばそこかしこにいそうな個性の薄い顔が、邪な意図を覗かせて笑った。
れぉ れろぉ ぢゅ、ちゅう ちゅぽっ――
爪の先、指先の裏、そこからついでに指の半ばまで。舌を蠢かせた後に、指を半ばまで咥えて音を立ててしゃぶった。
ものの数秒、すぐに唇を離す。

「……ここでもいいけど、もっと静かなとこで酒飲みたいな。
 ドリィがずっと睨みつけてたこれ、きっといい酒なんだろ?
 こんな騒がしいとこで開けたらもったいなさそうだ」

特に目利きでもないのに、星の数ほどある酒の銘柄を知るよしもないが。
悪魔とも魔女ともつかない官能的な画が描かれたラベルの酒に、興味は尽きなかった。

ドリィ > 「いつもワインだからぁー……
 久々にエール飲んだから酔っちゃったぁー……♡ とか、そぉゆう方が好み?」

男の言葉に倣うよに、女の声律が粘度を増して糖蜜を帯び。
疑問符と共に口調にわらいを滲ませる。唇が ゴ メ ン ネ と悪戯に詫びて。

男の指が臆面なく乳房に沈む。呑み込む柔さ、弾力、膚のしっとりとした艶。
此方の反応に許しを得たように指を沈ます男の稚気を暫し見守ってから――
返ってきた欲望直結の言葉選びに、女も思わず―… ク、ふっ。噴きだした。

「酸っぱいもの見て涎が溜まる――…的な?
 おっぱいさわってぇー…… もぉ溜まっちゃった? … あは。早。」

つい茶化して、エールを傾ける。
このあけすけに直球の物言いは嫌いじゃない。だから、ちょっと仕向けてしまう。
差し出した指先に、上手い、なんて自己アピール。
女が酷く面白そうに、ほぉん?と口元尖らせて――お手並み拝見だ。
白く細い繊指を、男が吸って、舐ってしゃぶりつく。
女の指が、俄に動く。ねっとり絡む舌肉をにゅぐにゅぐと弄り擽るよに。
――ゾクゾクとしてしまう。
目立つ華美さの無い普遍的な容貌ながら、男は女に――可愛い、と思わせた。

離された指、唾液に光るそれを拭うのは――ナプキンなんかじゃなく、
女のふにりと柔こい唇。蜜濡れをグロスにして、女はふんにゃりと唇弛め。

「飲みたい? ――――飲んじゃう?
 飲んだら今夜は帰れないけどぉー…… だぁいじょぶ?」

秘密事を告げるよに女は囁く。秘密のカタチの指は、
カタチをそのままに、上階を指す。 ――行く? と。

ローウェル > 「好き。男ってのは、そういうシンプルあざといのに弱いって知ってるでしょ?
 でも今ので分かっちゃったからなぁ、ドリィが酒にめちゃくちゃ強いってこと」

柔和な顔つきのせいだろうか、しなを作るような声色が似合いすぎていて。
店が店ならば、物陰から肩をいからせた屈強な用心棒が出てこないか怯えそうな場面。
天性のものか、身につけたものか、それを今探るのは野暮というもの。
なので。媚びる女性も好きですと正直な感想を明かし。
それだけでは済まないので些細な逆襲は、瞬く間に消えたジョッキのエールを一瞥しながら。

「酸っぱいはちょっと失礼だから……。
 肉汁だらっだらの分厚いステーキを腹ペコの時に出されたら、手づかみで齧り付いちゃう、的な?
 もう我慢するのに必死だよ。だって美味しそうなの分かってんだから、ちょっと味見したせいで」

少しばかり上目遣いに、彼女を睨めつけながら。
たかが指ではあるけど、そこには神経が集中していて、人間のカラダでも一際敏感な部位だという。
しなやかで長い細指はしゃぶりがいがあって、口を離したときにはすっかり涎に濡れていた。
お世辞にもキレイとは言えないだろう。
けれど、彼女は指を拭き取るのではなく、自分の唇に合わせるなんて誘惑をしてみせた。
すぐさま立ち上がらないわけにはいかない。

「飲んじゃおうよ。ふたりだけで。亡き友の形見みたいな、湿っぽいものじゃないならさ。
 楽しく飲んでもらったほうが酒だって喜ぶって。
 ドリィこそ、明日の昼まで予定はないと思っていい?」

ふたつ返事で頷いた。
空になったジョッキは酒樽の上に残して、彼女の隣へ。
未だ正体の定かでない酒瓶は彼女の手に委ねて、腰に腕を巻き付ける。
丸太のように逞しい腕とはいかない。が、頼りないわけでもない、引き締まった硬い筋肉の感触。
抱き寄せたならば食べ尽くすまで離すつもりはないと、抱き寄せながら客の間を掻き分けていく。

向かう先は、酒場の上階。

ドリィ > 矢っ張り正直に返された言葉に。
ですよねぇー? なんて返事をしながらに女がまた破顔する。

「なぁるほど。腹ペコにステーキはぁー… そりゃあお腹も疼いちゃうかぁ。
 でもー… もぉちょい我慢、ね? もぉ少しお酒で炙った方がオイシイから。」

男の表情は豊かだ。
とりたてて強い個性をもたない容貌は可も無く不可も無いけれど、
けれど、まず。悪戯に表情を変える機微も豊かな青い目が実にいい。
直球を向けて隠さない、あけすけな陽性の笑みも、
さっきから隣席で飲んでて気取った色目を向けてくる色男より、余程魅力的。

詰まるところ、男は女の琴線にふれたのだろう。
腹ペコにお預けを仕向けてから――ステーキの御褒美をあげちゃいたくなる程度には。

「ソレは大丈夫。そこの広場の露店で買った、
 ちょぉっとお高くてヤバめな超オイシイ秘蔵酒ってくらいだからー…
 せっかくだし、美味しく飲んじゃいましょ?
 そ の か わ り ――……“二日酔い”は自己責任、ね?」

明日の朝、で済めばいい。女はひっそりと内心男に詫びる。
ちょっと、だいぶ、凄く――アレな酒であるけれど、美酒であるのは確か。
其処は大枚叩いた超稀少ヴィンテージに免じてお許し願いたいところ。

立ち上がれば男と連れ添って、二人だけの晩酌へ。
簡単な肴をテイクアウトしつつに、階段を上り――――…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区――大衆酒場」からドリィさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区――大衆酒場」からローウェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」にヒユルさんが現れました。
ヒユル > ざわざわと賑やかな人の声を聞きながら、手に持っていた青い石を前に立っていた冒険者に渡す。冷却のエンチャントを付与した鉱石は所持していれば全身を冷気が包んでくれるということで、ギルドのテーブル席を借りて売り始めてみるとこれが思った以上によく売れた。この暑さなのだし、涼しく過ごせるものとなれば当然か。
付与をするための鉱石は、元々大きい一塊だったものを砕いて小さくしたもの。携帯性を考えたというのと、本来であれば防具や服にもつけられるエンチャントに石の代金を少しばかり乗せて売れるからという若干こすい企みもあってのこと。それでも、当初の想定を超えて飛ぶようにはけていくのだから。売る方としては万々歳だ。

「はい、これどうぞ。冒険気をつけてね」

見送り、残り少なくなった石をもう一つ手に取る。柔らかく包むように掴み、1分ほど力を込めれば付与は完了。代金と引換に石を渡せば、ようやく人の列が途切れて椅子に座ったまま背を伸ばした。

「はー……。すごい勢いで売れてくなあ。おかげで旅費は稼げそうだけど。……稼げたところでかな」

この暑さではまず遠出をしたくない。次の旅の計画を練るのは、まだもう少し先でもいいだろう。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」にルーベルさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」にガルディさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」からガルディさんが去りました。
ルーベル > 「む…?」

まだまだ人が多く出入りするが、昼に張り出された依頼の争奪戦もひと段落して多少は人入りも落ち着く時間帯。
冒険者ギルドに訪れたのは魔導師風の格好をした初老の男。

貴族である男は、市井に仕事を回すのも貴族の務めでもあるという考えから。
また、貴族でなくとも優秀なものは多くおり、それらの者と縁を繋ごうという考えから、時折雑事をギルドに持ち込む。
その縁が、どういった形になるかは目を付けた相手次第というところではあるけれど。

その日も魔法薬の材料となる薬草類の採取依頼を持ちこみにきたところ。

普段よりも人が多く、どこかひやりと涼し気な空気が流れている。
どうやらテーブル席の一画から外へと向かうものたちから、その冷気が感じられているようで。
興を引かれてそちらのほうへと足を向ければ、鉱石に冷却の力を付与する女性を見つけ、ほう、と、感心したように零し。

「それは、魔術かの。それとも血統などに基づく技術かの? あるいは何かの魔導具の効能かなにかか?」

興味が先に立ち、やや不躾に問いを投げかけてしまう。
暗い色味の金眼は、女性が手にした石に向けられ、解析の魔術を奔らせかけ…流石に不躾が過ぎるかと、それを中断する。
口元に手を遣り、逸る気分を誤魔化すよう、ごほん、と、喉の調子を整えるふりをした。

ヒユル > 涼しさをまとい、元気よく飛び出していく背中を軽く手を振って見送る。効果自体は24時間程度だけれど、それでも仕事の間は快適さを提供してやれるだろう。ひとしきりの賑やかさも去り、少しばかり落ち着いた空気の流れる時間になれば手も空いて。あまり長々と場所をもらっているのも悪いし、一度撤収しようかと考え始める頃合いだった。
石の残量を指差しで数えていると、ふと影が差して視線を上げて。そこに立つ男を見る。

「あ、え、ええっと……」

きょとんとした顔はそのまま瞬きをして、矢継ぎ早の問いかけに対しての答えを探して一旦思考が停滞する。ややあって、男の咳払いがすればそれを契機に場繋ぎのようなつぶやきを漏らしていた唇が動いて。

「ん……一応、私が扱っているのは魔術だよ。あまり長持ちはしないけれど、これ以外にも色々つけられるの」

向けられた問いへの返答は、少し考えてからぼやかした。血統が下地にあっての魔術というのが正しいけれど、そこまで開示をするわけにはいかない。と、答えた所で座ったまま、舌から男の双眸を覗き込む形で小さく首を傾げる。

「貴方は……冒険者、って感じじゃなさそうだね」

ルーベル > しげしげと見やる女性の手元の石。魔力が籠り、冷気を放つ。
それが無軌道に冷気を垂れ流すだけなら、ここまでの興味を示さなかっただろう。
その力にはしっかりと方向性が定められており。触れるものの周囲のみに限定されている。
自分であればそれをするのにどのようにするだろうか、と考えていれば。
こともなげに、魔術。いろいろ付けられる。そのように返され、暗金の瞳が絞られる。

ルーベルは超常の力に執着があり。常日頃からその手の噂は真偽様々なものを収集している。
その中の噂話の一つ。――王国に、とある一族の者が辿り着いている。

とあるエンチャント技術の使い手のことが過り、ふぅむ、と、また小さく声を漏らして。

「…おお、不躾であったのぅ。ルーベル・アルカヌム。伯爵位を賜っておる」

彼女の魔術技巧に思考を寄せるようなふうを装いながら、思考を戻す。
石から視線を外し、彼女自身にちらりと向ける。

美しい銀色の髪。己のものより明るい金眼。整った容貌に…豊満な肢体。
力以外にも、欲への執着も強い初老の魔導師は、その興味が技術以外にも向くのを自覚しつつ。

相手がこちらの言葉に、立場あるもの相手の態度に改めようとするかもしれないから、
自身が貴族であることは、この場で殊更に振りかざすつもりはないと、手で制すように示した。

ヒユル > どうやら興味を持たれている、というのはひしひしと視線から感じることができた。ギルド員に話を聞いてみた所でも、あまり付与師という職業は聞いたことがないらしい。エンチャントの魔術自体はそう珍しくもないのだろうけれど、それを専門にともなるとやはり聞き慣れないという声もあった。だからこそ、こうして商売につなげることができているのは助かるのだけれど。それが同時に、若干の綱渡りを必要とされることも知っていた。
珍しい。前例が少ない。ならば、その数少ない前例の中に、いやでも自分の血筋の噂は紛れ込みがちなのだ。
だから、学がありそうだったり博識そうな相手は少し苦手なのだ。とはいえ、それを表に出したのではそれこそあからさまで。相手が伯爵位を持つと聞けば、少し驚いた顔をした。

「そんな人も来るんだ、ここ。……私の使うものに、興味があります? 伯爵様」

依頼なら使いの者でも出せばいいだろうに、とは頭の隅に。固くならないでいいとされても、使う言葉だけは若干正し。居心地の悪さの欠片を抱えたままで、男の返事を待つ。

ルーベル > 付与という技術そのものは、よく使われる。
ルーベル自身が使う技術も大きく分けるなら付与魔術の範疇と見られることもあるだろう。

ただしその技術のみに特化した技術者ともなると途端にその使い手というのは限られていく。
それこそ、噂に上るとある一族などは、その技術もさながら。その技術、扱う者を守る手段として取っている行為そのものまでも、一部の者たちの間では有名になってしまっている。

「ほ、ほ。私は変わり者の部類よ。
 もともと槍働きをしていたゆえか、平民やら冒険者やらに隔意もなくてな。
 …ふむ。大いに興味があるのぅ。もし時間があれば、聞かせられる範囲で構わぬからご講義願えんかね?」

そんな人もという疑問には鷹揚に笑いながら応える。自分は変わり者だから、こうして来るのだと。
もちろんその実としては、自ら見定めた者に…それこそ、今のように。伝手を繋ごうという目論見がある。

この日目を付けた技術、その使い手に当然興味があると返しながら、手を差し出す。
彼女が応じるなら、男と共に場を移していくことになるだろうか。

ヒユル > 目立ってはいけない。というのは昔から口酸っぱく言われ続けていたことだ。とはいえ、生きていくための術としてのそれをまったく行使しないで生きていくのは難しい。
幸い、自分の一族の噂そこまで大規模に知られているものではない。とはいえ、裏を返せば知っている人は知っている、ということ。
転々を居場所を移動させてまで、存在を秘匿しているのはそういった事情もあってのことで。

「変わり者……だろうね。私もまさか、こんな所でそんな人と会うなんて思わなかったよ」

ふ、と息をついてテーブルの上にあったものを片付け始める。残った石は、また次の機会に使えばいいだろう。
その中の一つを不意に取り、握り込んで幾ばくか。差し出された手に従うように立ち上がると、大きな手のひらにそっと石を乗せて。

「これは、ご挨拶に。……あまりむずかしい話はできないけど、いいかな。伯爵様」

じんわりとした嫌な予感がある。さりとて、このままその手を断っても好転するとは思えない。こういう時にどうすればいいのか、旅を重ねてきた末に出した結論は。清濁も併せ飲むこと。
少しばかりの緊張は一息で散らし。誘われるままにその場を後にして――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」からルーベルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」からヒユルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/宿屋」にイヴさんが現れました。
イヴ > 平民地区に複数ある冒険者ギルドからそう遠くない、居住区から離れた宿場通り。
一階には食堂がついた冒険者向けの宿屋は陽が落ちる頃には、宿泊客たちが降りてきて賑わう。
浴びる程に酒が飲みたければ繁華街に行ってきな、という豪胆な宿屋の女店主の意向で酒の類はエールしかおいておらず、純粋に腹を満たす為の食事がメインとなっている。
昔は冒険者だったという彼女の厚意で下働きとして住み込みで働かせて貰っている少女は、比較的落ち着きのある食堂での給仕も慣れてきた頃合いだった。

「あ、おかえりなさい。お食事ですか?」

エプロンを身に着けて、階上から降りてきた顔なじみの冒険者に声をかけて、席へと案内する。
ここのご飯は絶品だからね、と笑う女性冒険者のグループの言う通り、昼も夜も、食事だけを目当てに食べにくる客もいる程だからつい笑みがこぼれてしまう。
彼女たちのオーダーを受けて、カウンターへと向かう。

東の方で見つかったダンジョンが——。
メグメールで出た魔物の討伐には——。
ダイラスに豪遊に行きたいね——。
九頭龍山脈でまた山賊が——。
それなら海賊もまた活発に——。

行き交う情報の数々は、数週間前から記憶のない少女にとってどれもこれも新鮮で、意味もわからないことばかりだが、こうした雑多に響く賑やかさは嫌いではなかった。
出来上がった熱々の食事を運び、食事を終えたテーブルから代金を集め片付けをして、また新しい客を案内して、と小柄な体が慌ただしく席の合間を歩き回りっていて。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2/宿屋」にオズワルドさんが現れました。
オズワルド > 「うおおお…先輩、もう少しダイエットしてくれませんかねえ!」

  『いやあ、これ以上筋肉をしぼるのはちょっとなあ。』

そんな会話をしながら、千鳥足の筋肉モリモリマッチョメンの冒険者一人に肩を貸し、店内に入る。
肩を貸している相手…マッチョメンの冒険者はこの宿に泊まる客の一人であり、肩を貸している方の青年は今回冒険を共にした後輩冒険者であった。

「言ったじゃないですか、飲みすぎだって! すいませーん、お店の人水持ってきてくれませんかー?」

  『いやあ、あれだけ報酬が入ったらたらふく呑むもんだろ?オズっち~。』

「オズっちはやめてくれません!?」

そんなにぎやかしい二人組。
店内の客からはマッチョメンに対し、お前また飲み過ぎかよ! とか ここで飲めばいいじゃねえか! だとか 今日のシチューは美味かったぞ残念だったな! とか。
たいそうにぎやかしい様子であった。

イヴ > 扉を開けて更に賑やかな男性の声が二つ、一つは聞き覚えのあるもの。
千鳥足で若い青年に担がれながら店先に入ってきた人物は、宿泊客の筋肉質な男性冒険者で、また繁華街で潰れるほど飲んできたのだと周囲も理解したのか、賑やかしの声をかけている様子で。
出てきた女店主も呆れながら「イヴ、水持ってきな」と言い、それに従って一度厨房へと入り水瓶から木樽コップ一杯に水を汲み。
トレーに乗せて、酔っ払いを介抱している青年へと小走りに近づいていく。
あまり筋力もないような少女なので重そうな水が入ったトレーは危なっかしいものの、なんとか零すことはなく辿り着き。

「お、お待たせしました、お水です」

オズっち、とそう呼ばれていた彼の方へと差し出して、心配そうに真っ赤な顔で気分よく酔いつぶれてる男性冒険者を見やり。

「あの……大丈夫ですか? お部屋、えっと……三階なのですが、」

ここで酔いつぶれたら部屋に戻れなくなるのでは、とはらはらした様子で、二人に問いかけて。

オズワルド > 「お、かわいこちゃんだ。ありがとー!」

明るい声はここまで。
ありがたそうに木樽コップの水を片手で受け取り。
肩を貸してる方の手で先輩の体を揺らしつつ。

「ほらっ、先輩水来たから飲んで酔い覚ましてくださいよっ。」

そう、声をかけたのだけど――

  『ぐぅ。』

なんと先輩、宿について安心したのか、睡眠――!

「………。」

しばしの沈黙、のち。
やけ酒のように、コップの中の水を自分が飲んだ。
ごくっ、ごっごっごっ…ぷはぁ!

「…運ぶから、3階の部屋まで案内してもらっていいかい、かわいこちゃん。」

その顔は、透き通るような笑顔であり。
ただし周囲に漂うのは高い酒の香りであった。

イヴ > 気さくで明るい声でお礼を言われて、眦を下げて軽い会釈を返す。
が、次の瞬間に聞こえてきたのは寝息──というには少し大きい鼾。

「…………」

思わずこちらも沈黙。
周囲は寝やがったとゲラゲラと笑う声が響き、代わりに水を一気に呷った彼と眠ってしまった男性を交互に見やって、この店の長たる女性を見る。
呆れた様子で眠った男の部屋の鍵を取り、放り投げられたそれを危なげにキャッチする。
つまり案内してこい、ということらしい。

『オズワルド! その酒バカがゲロって部屋を汚したら宿泊料三倍取るって言っときな!』

と、彼に向けられる女店主のお言葉。
酔いつぶれた男性と同じくお酒の匂いをさせている彼の酔いを醒まさせるような鋭い殺気付きの声である。
ずれそうになる眼鏡を押し上げて、奥の階段を手で示し。

「ええと……それじゃあ、ご案内しますね」

かわいこちゃん、という彼の形容詞には困ったような反応を見せながらも、先導するために先に歩き、階段を上っていって。
通りすがる度に、周囲からも彼に向けて「がんばれ~」とか「吐くように50ゴルド!」などと賭け事めいた声までかけられて。

オズワルド > 「伝えようとしても寝てたら無理っすよ女将さん!流石にゲロ吐くまで呑ませるほどオレも油断してねーっすけどぉ!」

酒バカ先輩が酒バカなのは知っての通り。だから、完全に酔いつぶれる前に帰るように促しもしたのだが。
本日ばかりは、加減をミスして爆睡の有様。はぁーっと長々とため息を吐いて。

「うん、よろしくかわいこちゃん。
 …こんなので魔力つかいたくねーんだけどなあ。」

開いてる方の片手を上げて、かわいこちゃんに宜しくの挨拶をした後。
指先が印を結んで、そこに魔力を通せば発動する風の魔法。
くるりと先輩の周りを緩やかに渦巻く風が、その重量を和らげてくれる。
これでまあ、階段を上るくらいはできる。後は部屋まで運ぶだけ――

「そういや、かわいこちゃんは初見だけど。女将さんの親戚か何か?」

なんて話題をふったりする道中。

イヴ > 「はい、こちらです」

店主とのやりとりをする様子から冒険者の繋がりのようなものを感じて、まじまじと年若い青年を見る。
その彼が指先を動かして印を刻めば、ぶわりと室内にもかかわらず控えめな風が少女の金髪と青年の黒髪を揺らして。
数度瞬きをしてから、先ほどよりは幾分楽な様子で運ぶのに合わせて階段を上がっていき。
食堂の賑わいが少しずつ遠ざかっていけば、男性のいびきだとか、階段が軋む音、魔力で編んだ風の音がかすかに聞こえてくる。
光源が減り、壁掛けランプで少しばかり薄暗がりな状態で階段を上がり、二階から三階へ差し掛かる時に振り向いて、問いかけへの返事を。

「少し前からお世話になっています、イヴと言います。……親戚とかではなく、その……事情がありまして、」

肴のネタくらいの情報でしかないだろうが、数週間前にどこかの冒険者パーティが人命救助をした。一般市民を救助する、あるいは同業者をレスキューした、そんな内容はいくらでもあるかもしれない。
そんな話題の一つであるのが彼の前にいる少女。記憶をなくしている少女が冒険者向けの宿屋で引き取られて働いてる、というのは、ここに泊まっている男性冒険者からももしかしたら酒の席で話題に上がったかもしれない。
かわいこちゃん、と言われると眉を下げて、あまり自信のなさそうな曖昧な笑みを浮かべて、話題を変えるようにこちらからも問いかけて。

「オズワルドさんは、冒険者……なんですよね? その魔法、すごく便利そうです」

オズワルド > まじまじとこちらを見る様子に、ぱちり、と瞬いた後、ああ、と一人合点したようにうなずき。

パチン!
きりっと顔を引き締めてからウインクして見せるイケメンゴッコ仕草をした一幕もありつつ。
合わせてもらったゆっくりの足取りで、足腰に苦労させながら登っていく階段。
これで担いでるのがせめてムキムキマッチョメンでなければな…。

「イヴちゃんね。可愛い名前だ。オレはオズワルドだ、よろしくー。」

名乗ってもらえば、脳裏に浮かんだ噂話の一つ。とある冒険者パーティが冒険先からレスキューして連れ帰った娘がいるとかなんとか…。
そのまま、イケメン冒険者の彼女になるのかね、とか笑った記憶がかすかに…。

「ん?そうだよ、冒険者。 お、判ってくれる?戦闘畑の連中は魔力の浪費だーなんて評価しないんだけど。
 重量軽減の風魔法は簡単だけど、荷運びにも旅の途中でも便利なんだよね。歩く速さも距離も段違いになるし…。
 何より覚えるのが手軽なのが良い。1㎏減らすくらいなら、魔力の扱い心得てればすぐ覚えられるしな。」

かわいこちゃんに褒められるとすぐ調子に乗る一般冒険者O。口は軽いが荷物は重い。
明かりが減ってきたから、足取りをやや慎重にしつつも、一歩一歩昇っていく。

イヴ > 「…………」

きりっと表情を引き締めてからの、ウインク。褐色の肌に赤い瞳が印象的な彼の外見は、その上背の高さや鍛えられた体も相俟って精悍で整っている。
明るい雰囲気も相俟って思わず見入った後に、そっと視線を外した。
こういう時にどういう反応をしたらいいのかわからないと言った様子ながら、白い頬がじんわりと赤らんで熱を持っているのも、薄暗がりの中では見えるかどうか。
ぐが、と男性冒険者のいびきが聞こえて慌てて「急ぎましょうか」と声をかけて。
一段一段階段を上りながら、彼との自己紹介も終われば、今度は魔法講座。
嬉々として語る様子に、重量軽減の魔法と聞けば、重たいものが持てない自分でも役に立てることが増えそうだと安直な考えが過る。

「そうなんですね、荷運びが楽になるのは、すごくいいと思います。
 今は酔っぱらっているだけですけど……これが負傷者なら、一秒でも早く運びたいですし」

三階へ到着し、男性が泊まっている部屋の扉を開錠する。
シンプルなベッドが一つ、テーブルとイス、あとは男性の私物が散乱しており、部屋の明かりをつければベッドまで道を開けて。
彼が男性をベッドに寝かせたなら、恐る恐ると見上げて視線を向けて。

「あの……その魔法、わたしでも覚えられますか?」

オズワルド > 「?」

ウインクに目立つ反応がなければ、あれっ、と舞台の上で滑ったようなひきつり顔になったのは、そちらの視線がそれたおかげで見られることはなかったと思いたい。
急ぎましょうか、なんて言われてしまえば、スルーされた!?って内心思いつつも――

「そうだね、重いし。」

現実問題、魔法を使っても重いのは重い。急ぐに越したことはなし。

「お、イヴちゃんは発想が献身的。でも、そうだね。女の子でも、男の人を呼ばずに運べるのはかなり便利。
 屋根の下にでも運んでおけば、後は医者かヒーラーを呼ぶだけで済むしね。」

そんな風を会話するうちにたどり着いた先輩の部屋。
入り口を通り抜ける時だけはかなり狭苦しそうになるのは、だいたい先輩がムキムキマッチョメンなのが悪い。
ふぬおおお…とか声を上げながら、ようやくと言った様子でベッドに先輩を叩きこんだ。どさっ!

「っふー…これで一仕事終わりっと…ん?」

額の汗を片手でぐいっと拭ったタイミングで、告げられた言葉。
ぱちぱちっと数度瞬いた後。

「魔力あるなら覚えられると思うよ。なかったら流石に無理だけど。
 お触り付きでぎゅってさせてくれるなら、教えてあげよう。」

言うや否や、両腕を君の背に回して、ぎゅぅっと抱き寄せようとする。
忘れてはいけない、この男もまた、酒飲んできた酔っ払いなのだ。

「とりあえずー…魔力の有無の確認からかなー。ちょっと魔力回してみるけど、熱が伝わってきたりとか判るー?」

問いかけながら、ふわり。属性抜きの魔力を君の首筋に当たりに当ててみる。魔力があるなら、反応して軽く熱が発生するはずだ。少なくとも、自分はそうして教わってきたので…。

イヴ > 「えっと、お疲れ様です」

軽快なトーンで返してくれる彼との会話を重ねながら辿り着いた部屋、筋肉が盛り上がって目立つ男性がベッドの上に降ろされれば、ここまで運んできた彼に労いの言葉をかける。
魔法でいくらか軽くしていたとはいえ、重量級とも呼べる男性を運んできたのだから彼自身にも相当な腕力があるのだろうと感心していたところ。

「えっ……へ、あ、えっ!? ま、まってくださ……ひぁっ!?」

あまりにも普通に会話していた為、酔っている雰囲気など感じなかった彼が言い出した言葉に双眸を見開いてきょとんとした表情を浮かべ。
次の瞬間には、自分よりも30㎝も背の高い彼の腕にぎゅっと抱きしめられていた。
力強く逞しい腕の感触、アルコールの匂い、硬い胸板。何が起きているのかわからないままに、首筋がじんわりと熱くなっていく。

「っ……ぁ、…あつ、っ…」

白く細い首筋に汗がにじむ。
彼の魔力に反応して、少女の内側に秘められた魔力が反応を見せ、それが火照りを生んで首筋から、耳の辺りまで赤くなっていく。
彼の胸に手を当てて、弱々しい力で押し返そう、という僅かな抵抗は見せているようで。
魔力に関しては、一般人にしては多いとも言える量。そこまで測れるかは分からないが、少なくとも魔法に対する適正はある。

オズワルド > 「労りありがとー。
 はー…筋肉男運んで来た分、女の子の体をぎゅーってして癒されるなー。」

待ってと言われても、待たない。
逃げられないよう左腕をしっかりと腰に回して抱き留めれば、右手が背を、脇腹を、そしてスカートに覆われたお尻を、すりすりと撫でまわし始める。
押しやろうとする淡い抵抗をする手に対し、硬い胸板を自分からぐい、と押し付ければ、君の胸をむにりと押しつぶして――

「…ん。魔力はちゃんとあるね。そこそこ多め…魔法使うのに支障はなさそう。
 それじゃ、教えて行こうか。最初は、魔力の風を感じるところから――ただの風じゃなくて、魔力を帯びた風で覆うから、眼を閉じて、それを感じて。」

耳元に唇を寄せて、息を吹き込みながらに告げる。
同時、するりと空気に溶けださせる自分の魔力。それを持って、ただゆるりと吹く風を生み出す。
イヴを中心にうずまく、魔力を帯びた風。それが髪や耳、首筋、手指や腕、下半身にも、存在を伝えるようにゆったりと吹きかかり。

「――触られてるってわかってきたら、それに自分からも触ろうとして見て。うまーく魔力が流せたら、触れるから。」

イヴ > 「っ!?」

腰をがっしりとホールドされてしまって、さらにスカート越しにお尻を撫でられるという露骨な接触に体が強張り。柔らかな胸を押し付ける態勢、大きな掌の感触を感じて困惑と羞恥に顔を熱くして。
それでも抱きしめながら彼が紡ぐ言葉はいたって真面目な講義めいていて、この状況で続けるのかと驚愕しながらも、この機会を逃せず恥じらいを押し込めて声に集中する。

「……風を、感じる……」

言われるままに瞼を伏せて目を閉じると、体を撫でるように涼しげな風がすり抜けていくのを感じる。
魔力の風。普通の風とは異なる不思議な感覚を覚える。これが魔法の風、というのは、目の前にいる彼が教え、誘導してくれているからなんとなくわかるような気がする。
正式に魔法を学んだ記憶はなく、魔法を使う術も無知ではあるが、促されるままに抱き締められた状態のままで手を伸ばして。

「……、…………魔力を、流す」

癒しの術を使う時のように、掌に熱を集めていく。魔力をそのまま風に乗せようとして、実態のないはずのそれに、触れてみようと試みて。