2025/07/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に枢樹雨さんが現れました。
■枢樹雨 > 夏の日照りの下でも賑わいを見せる、平民地区の大通り。
昼食の頃合いを過ぎ、仕事に勤しむ者もいれば、小休止と良く冷えた飲み物で寛ぐ者の姿も見える。
場合によっては早めの酒盛りなんて、そんな幸福なひと時を過ごす者もいる中、大通りに面したテラス席で静かに腰掛ける妖怪が一匹。
テラス席と言っても、布製の簡易的な屋根の下にある日陰の一角。
魔導機械による涼やかな風が上部から注がれる場所で、鬼角隠す白絹を時折揺らし乍ら、二人掛けのテーブルに腰を落ち着けている。
まだ注文の品が届いていないのかテーブルに飲食の形跡はなく、代わりと言っては何だが一面に様々なチラシが広がっており、妖怪の視線は其処へと落ちて。
「………どれを観れば良いのだろう。」
零れたのは、淡々と抑揚のない呟き。
長い前髪の下で僅かに眉間に皺寄せては、最も手前にあるチラシを手に取る。
それは富裕地区で現在上演されているオペラのチラシ。
その他にも、同様の劇場にて今後上演予定のオペラや、別の劇場にて上演される演劇のチラシ、平民地区の小さな劇場で開催されるワークショップのようなものまで紛れているが、概ね劇場と名の付く場所での催しに関するチラシばかりである。
しばし並ぶ文字や添えられた絵に目線彷徨わせていたが、注文の品を運んできた店員より声がかかり、ハッとした様子で顔を上げる。
慌ててテーブルの上を片付ければ、置かれた硝子のグラスと涼やかな氷の音に双眸細め、店員へと小さく礼を告げて。
■枢樹雨 > まとめたチラシをひとまずテーブルの端に置き、自身の方へと軽く引き寄せたグラス。
添えられたレモンスライスと、極々僅かに琥珀の色味が混ざったグラスの中身。
ストローで軽くかき混ぜてみればカラカラと氷が涼やかな音を鳴らし、下部に溜まった蜂蜜がゆっくりと水分に溶け込んでいく。
しばらくしてグラス持ち上げれば、控えめにストロー咥える薄い唇。
吸い上げたのはよく冷えた蜂蜜入りレモネード。
舌を撫で、喉を通り抜けていく甘くも爽やかな味わいにそっと吐息零せば、早くも結露に濡れ始めたグラスをいったん置き。
「美味しい。」
まるで再確認したかの様に、頷きひとつ。
知らず乾いていた喉が潤う感覚に、長い前髪の下の双眸も僅かながら和らぐというもの。
そうして改めて見遣ったテーブル端のチラシ達。
結露に濡れた指で一番上の一枚を捲り、次いで次の一枚を捲り、下にあるものを順に見遣り。
「全部見るには、お金がたくさんいる。
……もう、霊体になって覗き見ようか。」
他者に勧められて興味を持ったものの、存外多様な演目があると知って困惑することかれこれ数刻。
レモネードのおかげで一度リセットされた思考は不穏な方向へと向かい始め、チラシ眺める視線にも真剣さが欠けていく。
劇場故の臨場感。肉体あってこそ、感じる肌があってこそのものであると、軌道修正行うものは残念ながら此処にはおらず。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にオズワルドさんが現れました。
■オズワルド > 夏の日差しが差し込む中、出歩く際には珍しい制服姿で大通りを行く。
午前から続く学業に関連した用事…具体的には教員から押し付けられた罰則による買い出しは終わり。学院からの帰り道と言ったところ。
どこかしら、適当に店に入って休んでいこうか。
そんなことを考えながら、片手で顔を仰ぎながら店の様子を見ていたところ、
一人の、夢幻のように現れて消えた人物の姿が、テラス席に見えた。
とた、とテラス席に歩み寄り、ひょいと顔を柵の上に覗かせて。
「もしかして、枢か?」
レモネードを楽しむその人物の――少なくとも、自分が知っている名を呼び掛けた。
■枢樹雨 > 数多のチラシとの睨めっこは続くけれど、一向に結論には達しない。
その癖、背筋はシャンと伸びたまま、置かれたグラスに顔を寄せると言った仕草は見せず、喉がレモネード欲すれば左の手がグラスを持ち上げ、指先が固定したストローにそっと唇が寄せられる。
そうこうしてどれほど時が経ったか。
恐らく、妖怪が感じるほどは過ぎていないのだろう。
不意に己の名を呼ぶ声が耳に届けば、長い前髪の下でぱちぱちと瞬き、声の方へと視線を動かす。
其処に見つけたのは、己と同じ黒い髪に、己とは対照的なダークブラウンの肌。
そして印象的な赤目と視線交われば、冬の学院にて見つけた人の子と面影重なり。
「オズ。…こんなところでどうしたの?」
通りとテラス席とを区切る簡易な柵。
そこからこちら覗く姿に首傾いでは、貴方の名を呼ぶことで枢で間違いないと知らせようか。
頭傾ぐと共に揺れる、鬼角隠した白絹。
学生だった記憶のある貴方。この時間は勉学に励むものなのではと、さして詳しくもない学生の日常に素直な疑問抱いて。
■オズワルド > 「やっぱ、枢だ。
いや、そりゃあ俺だって人間だもの、街中を歩いたりするよ。」
素知らぬ声でそう告げた後、ふ、と黄昏る様に他所を見ながらため息をこぼし。
「まあ自由行動じゃなくて、罰則の買い出しやらされた後の帰り道だけどな。 午後授業ないし。」
よく見れば、ダークブラウンの肌色の首筋には、汗がたらりと。
あっちぃ、と呻くように声を上げながら、ぱたりと片手で顔を仰いで。
「そういう枢こそ、なんでまた喫茶店?で。
正直こういう店に出入りするような存在じゃないと思っていたぞ。」
二人の出会いは、それこそ突然の、冬の学園内でのこと。
生徒でもない貴方が入り込み、肌を重ねたという、夢幻のような一度きりの出会いであったからこそ…こんな場所にいるのが、意外に過ぎて。
「あ、できれば話聞く前にその席まで行っていい? ここ暑いし。 後店員の目が来たらやばい。」
くいくい、と貴方のついているテーブル席を指さして、そう問いかけた。
■枢樹雨 > 「そうなの?学生は毎日学び舎で勉学に励んでいるものと思ってた。」
人間であることは勿論知っている。
しかしそれ以前に学生ではなかったのかと、首を傾げるままに存在定義の順番を間違える。
その直後に罰則を白状されるのだから、「オズは学生として不真面目なんだね」と、相変わらずの淡々とした口調で納得の様子を見せて。
「なんで、って……、あぁ、どうぞ。此処は涼しいから、おいで。」
何故此処に。その質問を返されれば問われたことすら不思議そうに答えようとするも、相席を求められるなら向かいの席を掌で示そう。
そうして貴方が店員に迎えられてその席に収まるなら、伸ばした左手で貴方の右の首筋に触れようか。
グラスの結露に少し濡れた指先。元々低い体温。
夏の日差しの下を歩いていた貴方には、ひんやりと心地良い温度となって伝わるだろう。
■オズワルド > 「いや。オレはまじめに魔法を探求していただけだよ。」
きりり、と顔を引き締めて反論してから、じゃあ店内で、と告げた後、いそいそと店内に入る。
なお、その真面目に探究していた内容が、エロ魔法だったからなのは、秘匿していることだ。
店員に、あちらのお客さんと同じ席で。後同じ飲み物下さい、と言ってから、すいすいと店内を歩いてテラス席までやってきた。
「お邪魔しまーす…うお、つめた。」
腰を落ち着けたとたん、首筋に触れる貴方の手。
冬の日には気温で冷えていたのだろうと思った体温が、もしや常のモノ?と思うくらいに冷えて心地よい。
ほ、と落ち着くようにと息をこぼして――しかし、じ、と枢の顔を覗き込めば、
「くっ、やはり美人…!目にまばゆい…!」
片手を目元に当ててまぶしがる仕草。テラス席に座る姿も愛らしい…!
こほん。つい漏れた言葉をごまかすように、咳ばらいを一つ。
「…それで、枢はなんでまたこんなとこに。ベッドからきれいさっぱり消えてたから、てっきり幽霊か何かだと思い込んでたけど、実は普通に人だった…?」
はて、首を傾げながら、ちらり、とテーブルに広げられたものを眺めて。
「え、すごく文化的ぽい。オペラとか見るんだ…。」
自分の知っている枢の様子と真逆にも思える文化的な様子に、あまりのギャップに目を見開いた。
■枢樹雨 > じゃあなんで罰則を受けているの?…という問いは、柵の外から内への移動によって偶然躱された。
そうして向かいの席に収まった貴方。
滴る汗が目に留めったが故、伸ばした手。
図らずも驚かすような行為とはなったが、拒絶がなければしばしそのままに、掌を首筋にひたりと寄せ。
「暑そう。暑いよね。」
だからこうして触れている。そんな、必要な部分が削がれた説明。
貴方の体温が妖怪の体温を侵食していけば、もう意味もないだろうと離れていく白魚のような手。
そうする間に貴方が光でも遮るように手を翳すのだから、何をしているのだろうと首を傾ぐは必然。
温もり移った手をグラスの表面で冷やしては、貴方の挙動を見つめるままにストローへと唇寄せる。
おかげで少し狙いが逸れれば、舌先覗かせてストローの先端を口内へと導き。
「ん…、違うよ。人じゃない。角、見たよね?」
喉抜ける蜂蜜入りのレモネード。
改めて味わい乍らに首を横に振り、貴方の問いへと答えれば、白絹に隠れた頭上の鬼角示すように視線も上向き。
「人じゃないけど、人に似た肉体、貰ったから。人の子が作った美味しいもの、食べたり飲んだりしても良いよね?」
それは純然たる興味。こうして美味しいもの飲めるのだから飲んだって良いじゃん。
若者っぽく言えばそんなものだろうか。
そこへ運ばれてきた美味しいものその2。
貴方が注文した蜂蜜入りレモネードのグラスが置かれれば、なんとはなしに店員を見送り。
「あぁ、それはまだ。薦められただけで観ていないよ。
人の子が作り上げた芸術。とくに劇場で催されているものがお薦めと、そう言われたけれど、沢山あってどれを観れば良いのかわからない。」
次いで向けられた己への疑問のようなもの。
つられるように、テーブル端に纏めた何枚ものチラシを見遣れば、困ったとばかりに小さくため息をつき。
■オズワルド > 拒絶するどころか、むしろ小さな手に首をすりっとこすりつける図々しさ。
「たいそう暑かったから涼しくて助かりみが高いね…。」
ひんやりした手のひらと、頭上にある布の屋根が日差しを遮ってくれるお陰で、汗も少々引いてきた。
離れてゆく白い指先に、残念そうに赤い瞳がそれを見送って。
「あっ、首をかしげる様子は可憐――!あと舌チラがエッ…!」
思わずと言った様子で体の方は胸をおさえていた。
この男、相変わらず女性に弱い。
とはいえ、告げられた言葉、角云々には、首を傾げたのち、貴方の頭を見つめる。確かに盛り上がりが…。
虚空を見上げながらしばし何かを思い出す風情。
「…。そういえば、見ていたような…いやでもエロかったからそっちしか見てなかったような…。
ん?体を、貰った…? それは…まあ、うん。飲食できるようになった?なら。それを楽しむのは全然かまわないというか…うん?」
ドスケベ根性が染みついているのは、それこそ隠してない自分の本性。
そしてそれ以外の部分には大きく楽観が占めているから、疑問に首をかしげてしばし考えこんだのち、
「つまりあの時は孕めなゲフンゲフン。」
喫茶店で全部言い切らないだけの理性が存在した。ごまかすようにもう一つ。こほんっと咳ばらいを挟み込み。
「んー、んんっ。 なるほど。今は人っぽい体を貰ったから、人が楽しめることを満喫しようとしてる、と。」
ようやっと、理解が及んで小さくうなずく。
そうして、ふむ?って指先がテーブルの上のチラシをいくつか、指差して。
「てことは、人外?の枢だと、文化前提の難しい歴史系の演劇は向いて無さそうかなあ。
この辺の、歴史関係ない恋愛劇とか、歌を聞いてたら楽しめるオペラとか、その辺りが良いんじゃないか?」
風刺劇は流行判らないとわかりにくいし、とか。一部の風刺劇を良くやってる劇場のチラシは、とんとんって指先で示した後、指でばってんマークを作って見せたり。
■枢樹雨 > 掌にすり寄る様はどこか大型犬を思わせる。
冬のあの日を思い出せば、尻尾をぶんぶんと振り乱した黒いわんこに記憶すり替わるも止む無いか。
人の子とは得てして愉快なものだけれど、貴方は見ていて不思議と飽きぬと、そんな感想を抱く。
今もまた、大仰な仕草で語尾詰まらせては、何やら一人声上げている。
妖怪はのんびりと眺めるまま、置いたグラスの縁を指先で撫でて。
「オズは相変わらず元気だね。」
この日差しの下、貴方がどれだけの距離を歩いたかはわからないが、妖怪であれば10mも歩けばげんなりとする。
汗はかけどそこまで疲弊した様子のない貴方に関心しては、己の言葉を懸命に紐解く様子に此方はのんびりとレモネード味わい。
「それは君が言ってほしいと言うから。実際どうかは知らないよ。」
咳払いに誤魔化された言葉拾い上げれば、それをそのまま口にはしない妖怪。配慮ではなく偶然。
あれから二つ季節が移り替わったわけだが、妖怪の腹はいたってぺたんこ。
帯のおかげでそれなりに太さはあるが、解いてしまえば相変わらず華奢なものである。
そうこうして貴方によって導き出された結論は大正解。
こくこくと二度頷いて見せれば、「あの日も同じ」と、貴方との出会いのきっかけをこのレモネードと同じと指先で示し。
「……歴史系。…恋愛劇は、恋愛小説のようなもの?あれは私には少し難しかった。
…となると、オペラか、あとは歴史や恋愛を主軸としないような演劇?」
…と、思わぬところから思わぬ助言が降ってきた。
長い前髪の隙間から覗く、仄暗い蒼の双眸。ぱちぱちと驚いた様子で瞬かせては、積み重ねたチラシをテーブル上に広げていく。
そうして貴方の言う歴史系や恋愛劇とやらを省いて行けば、随分と選択肢が狭められ。
■オズワルド > ふぅ。一息つけば、色々なものにケリをつけた。喫茶店で発情するのはちょっと、店員さんに許されない。
「オレが元気をなくすとしたら、財布を落とした時くらいじゃないか。
特に最近、財布が膨らんでいるからね。」
なんて、そんなことを話していれば、店員さんが持ってきてくれた同じレモネード。
どうもー、と言いながらありがたく受け取って、一口。
「え、うっま。…財布太ってるときに着てよかった。」
思わず真顔でそう零す。普段の店とは段違いの味わいである。…金があっても普段は安い店にしか行かないのだ。
「それはそう。」
続けた言葉にもまた、真顔のまま。言わせたのは自分です。
ちらり、視線が貴方のお腹を見て、お胸を見て、またお腹を見た。うん…。
やってのけたかった…!ぺちっ、テーブルを一度叩き。
「ううん、このレモネードと同じきっかけとなると喜んでいいようなそうでもないような。
そうそう、恋愛劇は恋愛小説みたいなもの。それが難しいかあ。」
ふぅむ。首を傾げながら、チラシを整理していく様子を見やる。
だいぶん分類が絞られていった様子に、んー、と目を細めて。
「戦乱モノは知識あった方が面白いし…ああ、こういう冒険活劇が良いかも。」
とん、と一つ叩いたチラシ。
腕利きの冒険者たちによる、無名遺跡の一つを踏破し、秘宝を手に入れて帰還する――そんな実在の冒険話を演劇に変えたものの一つ。
「昔の冒険者たちの冒険の話が演劇になった奴。アクションとか、演出の仕掛けが多いし、楽しめるかも。
――オレも最近舞台は見てないなあ。どう?せっかくだし一緒に行かない?奢るよ。」
するっと一言差し込み、距離を近づけようとする一手。 …まあ、何時でも元気な相手が、観劇の相手に向いているかというと、首をかしげるものではあるのだが。
■枢樹雨 > 「そうなの?…でも、学生は何をしてお金を稼ぐの?生家が商売でもしている?」
思えば学生を相手にしてゆっくりと話をする機会もなかった。
己の生まれた国ではそもそも学ぶことが贅沢であった様だが、この国もその様子が伺える。
であれば貴方はそれなりに裕福な家の出なのだろうかと、少し首傾げば前髪がこめかみへと流れ、蒼の双眸が覗く。
己と同じ飲み物味わう様を見れば、「美味しいよね」と、同様の感想にうんうんと満足気に頷き。
「肉体があるのなら、美味しいものは味わいたいし、気持ち良いことだって堪能したい。
どちらも、肉体あればこそだよね?私は長い年月、眺めることしか出来なかったから。」
貴方だって美味しいものも気持ち良いことも好きだよね?
そんな問いかけを言外に含めるようにして、少し上肢を貴方の方へと倒し、赤い双眸を覗き込む。
その覗き込む赤が、赤の持ち主が、芸術に関して己へと助言をくれる。
評論家のように語るわけではないが、今の妖怪からすれば随分と助力となるもの。
意外そうな色を瞳に乗せるが、最終的に貴方が示したチラシに視線は攫われ。
「冒険、活劇。…それは面白そう。冒険者なら、私も何人か知り合いがいる。想像もしやすそうだね。」
貴方に示される前に何度か目を通したはずのチラシ。
しかしいくつかの助言を添えて見遣る其れは、違ったものに見えてくる。
改めて書かれた文字を、添えられた絵を眺めれば、仄暗い蒼がどこか煌めいていく。
そこへ思わぬお誘いまで降ってくれば、パッと顔を上げ。
「良いの?オズが良いのなら一緒に行く。」
■オズワルド > 「オレは兼業で冒険者やってるよ。主に採取系、地図作り、偵察なんかだけど。
冒険者になるための実習授業もあるし、そういうので細々稼いでた…のは去年の冬までの話。なんか最近、運が良くてね。レアなアイテムを見つけたりが多くって。」
お陰で財布がまるまると、なんておどけた調子で言いながら、ポケットを叩いた。まあ、衣服の上から判る程のふくらみは無いのだけど――
「あっ、青い瞳が麗しい…!」
それはそれとして、ちょっとした仕草からきれいなものを見つけて勝手にダメージを受けている。カワイイ――!
「…ふぅ。 あー、そうだな。確かに。なんとなくはわかる。
触れないものに触れる様になったら、思う存分堪能したいよな。こんな感じに。」
鼻先を漂うレモンの香り。覗き込む青を見つめ返して。
レモネードのグラスに触れて冷たくなっていた人差し指が、すい、と動いて。
近づいた貴方の頬に触れて、すり、と一度撫で、つぅ、と首筋の方までなでおろした。
「――あ、意外そうな顔をしている。
オレもある程度は、観劇とかはするよ。安い舞台小屋でだけど。」
きりりっ、表情を引き締めて言うが。 行く舞台小屋の大半が、女性の肌も露わな衣装で客を引くような本気でやっすい場所ばかりなのは、語らぬのが華というもの。
しかして、チラシを見下ろす青い瞳が、何処か煌めいて見え始めたのには、眼をぱちくりとさせた。
なんなら、かつて聞いたのとは違う、年頃の少女のようにも聞こえる快諾の声に。
「わお。」
思わず、とばかりに最初に声に出たのはそんな驚きの声。
どきどき、しました――!
「じゃ、一緒に行こっか。何時にする?ちょっとした後なら今日でも大丈夫だけど。」
何時くらいからやってるかな。指先が、逆向きのチラシの上を探る様に動く。
何時から開演で、一日に何回演るかくらいは、書いてあるはずだ。
「後日にするなら、連絡先教えてもらえれば。 オレの方は学院に手紙なりなんなりで届くけど。」
そちらはどう?と。予定も、連絡先も。どうかな?と首を傾げながらの問いかけ。
■枢樹雨 > 「冒険者と、兼業。そうか、そういった形もあるのか。
良い品を見つけられるということは、それが君の実力と言うことではないの?」
働きながら、学ぶ。じつに人の子らしい、欲に対して努力惜しまぬ姿勢。
だからこそ、財布膨らむ理由も運ではなく実力なのではと不思議そうに問い重ねる妖怪。
…と、そこへ伸ばされる貴方の指。
無意識に視線で追えば、それが頬に触れて肌を伝う。
冷えた指先は妖怪の体温にほど近く、急激な温度変化に肉体が驚くことはない。
けれど夏の気候には心地良い温度。
覗く双眸細めれば自然とその指に頬を摺り寄せ、首筋まで落ちていくならほんの少し、肩が震える。
それは冷たさではなく、くすぐったさ故に。
「…だって、あまり芸術に興味があるように思えなかった。
…でも、うん。間違いだったね。教えてもらえて助かったよ。」
肉体を得て1年と数ヶ月。まだまだ知識足りぬ妖怪は、貴方が語る舞台観劇の裏側には気が付きもしない。
ただただ素直に、意外と感じた事実も、その認識を改めたことも語っては、感謝を示すように小さく頭を下げて。
「今日は…、難しい。連絡も決まった方法はないから、私が学院へ手紙を届けるよ。それでも良い?」
今日すぐに。そのなんとも喜ばしい誘いに応えられぬ事実に、しゅんと肩が落ちる妖怪。
存分に高められた好奇心の行く末が後日へと持ち越されることに、淡々とした口調ながら心なしかトーンが沈んでいる。
定住先もなく、霊体姿で揺蕩うことも多い妖怪。
伺うように貴方に問いかければ、せっかくの観劇のチャンスを逃してしまうかもしれない可能性に、前髪の下で眉尻落とし。
■オズワルド > 「薬草を探していたら、特殊なポーションの触媒になるレアな茸を見つける。
遺跡の地図を作成して居たら、偶然未発見の宝箱を見つける。
偵察の途中で倒したゴブリンが何故か宝飾品を持っていてポケットに入る…
そんな幸運も実力のうちというなら、オレは相当な腕利きだな。 流石に無理がある。」
棚からボタ餅、道に金塊が落ちていた、そんな幸運ばかりで儲けている状況は、運を実力のうちと言えればその通りだろうが。
この幸運の偏りを前には、流石に無理がある。 ゆる、と首を横に振り。
「冒険活劇みたいなことがあれば、それこそ自慢話の一つも出来たけどな。
…ねこみたい。なのに、ひんやりしてるのな。」
頬をが摺り寄せられる様子に、零れた言葉。
くすぐられた子のような反応に、にぃ、と満足げに笑いながら指先をすい、と引いて。
ただ、続いた言葉にまた、首をゆるりと横に振り。
「枢も知っての通りのドスケベのオレは、ドスケベな芸術にも詳しいのさ。
本とかもよく読むぞ? まあ、枢が読みたがる本とは限らないけれど。」
当然、エロ本です――!
とはいえ、小さく下がる頭には、良いってことよ、と。ひらり、片手を緩く振って見せてから。
一寸照れくさそうに、レモネードに口をつける。ちゅぅー、と吸い上げる音がしばし響いて。
「わかった。じゃあ連絡は学院に手紙で。 今のところ…ええーっと。」
またチラシの方に視線を向けて、開演時刻を確認する。この時間帯なら…うん。
「25日以外なら、開演時間に時間が取れると思うよ。
…そんなにしゅんとしないでも、大丈夫大丈夫。今日じゃないから行かないってことじゃないし…ええと、こういう時は、うん。」
少しばかり、腕を組んで考えることしばし。うん、の言葉と一緒にうなずいて。
「オレは、枢と一緒に見に行くのが楽しみだから、連絡待ってる。 で、どうだ?」
だから行く機会が消えるわけではないと。笑って保証して見せる。
■枢樹雨 > 並べられるいくつもの幸運。
本来の目的とは別の部分で降って湧いた事柄ばかり故に、確かに実力とするのは憚られるだろう。
なるほどと納得すると同時に、神に愛される行いでもしたのだろうかと、まじまじと貴方を見つめてしまう。
言動に陰り見えぬ様子は確かに美徳であり、それを好む神もいそうではある。
天性のものかなと、そんな風に結論付けては、頬に残る結露の痕に己の指先で触れ。
「舞台になるような、そんな面白い幸運が巡って来たなら話して聞かせてほしいよ。
…冷たいのは、たぶん死人とも近しいから、」
自慢でなくとも、己の知らぬ話は何かと興味深い。
また聞かせてほしいと素直に強請っては、己の指先で己の体温を感じてみる。
無論その冷たさなんて感じられはしないが、他者が己の体温を冷たいと感じる理由は予想できるようにはなってきた。
それを語れば、妖怪もグラスを持ち上げてストローを咥え、残り僅かなレモネードを飲み干してしまい。
「助平な、芸術。……春画のようなもの?知らない知識が記された書物ならなんでも読んでみたいよ。」
だから機会があれば貴方の読む本も見せてほしいと、明確に貴方の示すところを理解できてい故のお願い。
ただ、現状最も好奇が向くのは貴方との観劇。
指先が示す上演日時を目線で追っては、覚えるようにこくこくと頷き。
「ん…、私も楽しみだよ。きっと手紙を届けるから、待っていて。」
チャンスは失われない。その事実を貴方が言葉で表現してくれるなら、覗く蒼の双眸は真っ直ぐに貴方の赤を見つめる。
そうして伸ばした左手が組まれた貴方の腕をそっと撫で、待っていてと告げて離れていく。
離れた先で持ち上げた冒険活劇のチラシは丁寧に折りたたまれると、妖怪の懐へと収まり。
「じゃあ、そろそろ私は行くね。」
■オズワルド > 「オレの冒険先で、そんなことが起きたらその時は。見事に語って釘付けにして見せようじゃないか。
心臓がドキドキしちゃうような冒険譚があれば、多分、死人に近くても体温上がっちゃうかもな。」
いずれ、そんなときがきたら。そんな戯れめいた言葉ではあるけれど。
明るく語る声音に宿るのは、虚飾ではなく、未来へと向けた楽しみの熱。
そしてその熱を保証するのは、暑い日差しに負けぬダークブラウンの肌をした少年の、楽し気な笑み一つである。
――もっとも、この幸運も、いつまで続くか分かったものではないのだけれど。
「春画もある。だが文学もある…。でもあれって知識か…? ま、まあそのうち、機会があればな!」
はて…?と首をかしげる。エロ小説で描かれるエロスの言葉って知識なんだろうか…?
とはいえ、喫茶店で仔細に語る事でもないし。此度の約束は観劇のものだから。今はただ、機会があればの言葉で流して置き。
「きちんと学園の配達箱を確認しておくよ。」
最近ようやく、金が溜まって学生寮に入れた身。郵便物はそちらに届くから。忘れぬようにと、一つうなずいて見せてから。
じぃ。
仄暗い蒼を見つめ返す、赤い瞳。ぱちぱち、と不思議そうに瞬いたのは、自分の胸中に理解しがたいなにかが湧いて出て来たからだけど。
すぐに、にまっ、て目元が笑った。
「ん。 わかった。 じゃ、手紙待ってる。」
ひら、て小さく、右手を振って見せれば、こちらはまだレモネードが残っているので、見送りの構え。
冒険活劇のチラシはきちんと懐に収めたのを見れば、テーブルの上に残る他のチラシは、パパッとまとめて、とんとんと整える。
持ち帰るならそれでよし、そうでないなら、こっちで処分するつもり。
■枢樹雨 > 「そうだね。体温が上がらぬわけではないから、きっと。」
常はひやりとしていても、体温上昇する理由があれば変化することを妖怪は知っている。
感情に紐づいて上がるかは未知だけれど、人の子たる貴方が言うのであればそんなこともあるのだろう。
そんな、楽観的でありながらも言葉の力に押されて"きっと"と紡ぐなら、グラス底に残った蜂蜜の甘さをコクリと飲み込み。
「またね、オズ。罰則で観劇に行けないなんて事態だけは、許さないよ。」
整えられたチラシ。分類されたそれはそれで興味があるらしく、貴方に礼を言って受け取ろう。
そうして空いた手を小さく振って応えれば、揶揄い交じりの言葉を添えて席を後にする。
その後、会計の場にて二杯分のレモネードの料金を支払ったこと、貴方が知るのは帰る時。
劇場への入場料と比べれば随分と安いものだが、今日は助かったからと。
後日理由を尋ねられれば伝えることだろう――…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から枢樹雨さんが去りました。
■オズワルド > 「アッハイ、しばらく真面目にやります。
――またな。」
思わずスンっと肩が落ちる絵面があった。
纏めたチラシを渡してしまえば、それでやるべきことはおしまい。
この暑い夏の空の下に出ていく、貴方の事を見送って――
その後、レモネードがまだ冷えている間はしばし喫茶店の空気を楽しんでいたけれど。
それも呑み終えてしまえば、ささっと帰るつもりで店員さんに会計を願えば、もうすでに支払われているとの事。
「………パンフレットがあればそっちもオレの奢りだな。」
なんてそんなことを独り言ち。
ひとまず次に会う時は、レモネードごちそう様、を伝えようと心の中のメモ帳に書き示したら。
「罰則受けないように、授業内容の予習復習しておくか。」
なんて、学生らしいことを言いながら、帰路につくことになる。
暑い日差しの中だけれど、足取りは幾分か軽やかだった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からオズワルドさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にアキアスさんが現れました。
■アキアス > 娼館も立ち並ぶ歓楽街にある酒場。
柄の悪い連中が酒を呷り、冒険者のギルド支所も併設されているのか受付のようなものも見える。
とはいえゴロツキどもが仕事も終えてその日の稼ぎを消費する時間帯。
夜にもなっては何か緊急の依頼なり、納品などの用事がなければ受付も稼働していないようでもあって。
「ぁあ? いいぞ、今日は奢っといてやる!」
受付からは少し離れた飲食用のスペースで、
焔の如く赤い髪の男が威勢よく取り巻きらしい男たちに啖呵を切る。
どうやら今日は稼ぎが良かったらしい。
やんややんやと周囲も囃し立てては酒を頼んでいる。
娼婦たちも今宵の客を引っ掛けるために出入りしているのか、ウェイトレスのように給仕をしていて。
なにもかもが綯い交ぜになったような貧民街らしい様相を見せる場所で、
羽振りのよい赤髪の男も近くを通る給仕の尻に手を伸ばしたりとお盛んな様子。
相手も慣れたものでいなされ、互いに軽口交え。
気分も良いのだろう、大きな図体でその日酷使したのか関節をごりごりと鳴らしながら、
なにか面白い手合いでも居ないか、来ないか、と、酒精を煽りながら過ごしていた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にネーラさんが現れました。
■ネーラ > はち切れんばかりの胸元の、豹柄トップスに、ホットパンツという砕けた服装の女。
彼女についてきた、交流がある娼館の娼婦たち。シフト明けの飲みである。
依頼主としての魔法使いの服装ではないが、店主としてはこんな服装なので、アキアスと男たちは街で見たこともあったかもしれない。
情人アキアスの前にしっとりと座ると、隣で飲み出した捌けた娼婦たちを傍に、冒険者一同に気のあるようなないような、笑み見せた。
ネーラの隣で水を飲んでいる、少女みたいな牛獣人の声が甘ったるい。
「羽振が良いことじゃな。人待ち顔でどうしたのじゃ。」
スツールの上で向きを変え、足を組んでアキアスの方を向いて。
「よほど依頼がうまく行ったようじゃの。」
アキアス以外の男はまず彼女の胸を見たのだろう。
■アキアス > がやがやとにわかに騒がしさが増す。
どうやら日中勤務の娼婦らが店に来たらしい。
ちらりと視線を向ければ、その先頭を大きな胸元揺らしながらに歩く女と目が合う。
幾度か『仲良く』させてもらっている魔女。そういえば娼館もやっているのだったか。
もしかしたらその店を利用したこともあるかもしれないし、そうすると娼婦から余計は話も聞かれているかもしれない。
が、些末なことだろう。
目の前に座る相手に格段知られて困るようなことをした覚えもないのだから。
「ああ、ちょいと珍しい品の採取の依頼だったんだがな。
運よくちょっとした群生に出くわしてボーナスがっぽりよ」
指で丸を作って懐具合が豊かなことを示す。
一緒に飲んでいた冒険者たちの隣やらにネーラが連れてきた娼婦たちが座り、めいめいに鼻の下を伸ばして。
そんな男たちも、本業娼婦を差し置いて魔女の胸元に視線を誘導されるのだから流石というところだろう。
アキアスもしっかりたわわを拝んでから見る隣の獣人娼婦の胸元も相当で、眼福、眼福と口端引き上げ。
それから彼女の眼鏡越しの瞳に視線を合わせる。
娼婦がアキアスの左右で『すごーい』だのと持て囃してお零れに預かろうとしているから、店員に声かけて彼女らやネーラにも飲み物をと注文して。