2025/07/10 のログ
■篝 > 人で賑わう昼下がりの商店通り。
行き交う人の服装もすっかり夏らしくなり、小麦色の肌を見ることも増えた。
これは富豪達が住まう富裕地区では、まず見ない光景だ。
外部の者や使用人はともかく、金持ちは歩いて外へ出かける者は少なく、特に女は肌の白さを競い合うので馬車を使う。
逆に貧民地区では露出の高い者が多いので、多少肌色が増えたところで誰も気に留めない。
こう言う部分もある意味価値観の違いなのだろう。
冷えた甘味が人気の喫茶店には、多くの女子が楽し気に肩を並べて入って行く。
右から左へ。道行く女子を追う男性陣の視線には、健康的な肌の露出を好ましいとする下心が伺えた。
また一人、勇猛果敢にナンパを試みる男がこっぴどく振られる様を店の向かいにある雑貨店の軒下から眺めつつ。
「…………」
黒づくめの小柄は本日の茶葉の売れ行きを書き留める。
ここ一月、命じられたままに雑多に街の情報を集め続けてみたが、これは本当に何かの役に立つのだろうか。
人気のフレーバーティーが分かったところで、どう仕事に影響が出るやら。
さっぱりわからない。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にカイルスさんが現れました。
■カイルス > 赤髪長身痩躯の男がふらりと雑貨店に立ち寄り、店主と軽く挨拶を交わす。
先程路地でナンパをしていた有象無象の一人。そして、いつぞや冒険者ギルドで見た顔だ。
街ゆく人々とは対照的に、肌を晒しているのは顔と手ぐらいだ。
男は顎に手をあてつつ豆類の値段を見ながら、小柄な姿の方を見ずに小さく声を出した。
「……篝さん、だったっけ。 あんた一体何やらかしたんだ……?」
その声色はどこか心配するような雰囲気を滲ませている。
■篝 > こそこそと、黒装束で真昼の濃い影に紛れながら気配を消しての市場調査は、はっきり言って目立つ。
気配を消しているだけに、ふと目をやった時に気付きびくつかれると言うのが、この一時間で二度ほどあった。
もっとも、普通に変装でもした方が良いだろうと言う正論があるが。
変装しての聞き込みで誰かの印象に残るのは避けたいし。いちいち着替えを持ち歩くのも面倒だし。
と言うか、まず服を選んで買うのが面倒……。
こう言うことを口にすると、師に呆れられるか、有無を言わさずに服屋へ引きずって行かれそうなので、やはり口は閉じたままでいる方が良いと思う。
懐に覚書と筆を片付け、店を出ようとした時だった。
此方に気付き、そっと声を掛けてくる――それも、名指しで。
ストールの下に隠した獣の耳が警戒してピクリと跳ねる。
しかし、そこにあった顔に見覚えがあれば、パチリと一つ瞬きをして。
「……カイルス。……別に、何も。何故、そんな質問を?」
探ると言うよりは心配の色が濃く感じる声に緩く首を捻り、静かに尋ね返す。
■カイルス > 「闇ギルド――暗殺者ギルドの方に篝さんと同じ外見の依頼状が出ていた」
どうやらこの男、ただの斥候という訳ではないらしい。斥候は盗賊が兼ねることもあるから盗賊ギルドと縁があることはよくあることだが、暗殺をするのは珍しい。
こうやって直接伝えるということは、少なくとも男はその依頼とは無関係なのだろう。
「金額は高くないし詳細な条件も書いていない、あまり筋のいい依頼じゃなかったから誰も受けないとは思う。
多分そのうち掲示板から剥がされるだろうが……」
雑貨屋の商品に視線を向けたまま、男は顔をしかめた。
豆を一袋注文すると、店主からコップを受け取った。一言二言交わし、もう一つ受け取る。
片手でグラスを2つ手に持つとちょいちょいと手招きをした。軒先は陽光から逃れられ、涼しい。コップを一つ渡す。冷えたお茶のようだ。
「酒場で軽く話しただけの相手とはいえ、気になるわけさ。
まぁ……冒険者は時折やりすぎることがある。似たような仕事なら納得もするが」
注意喚起を兼ねた世間話。
■篝 > 相手の忠告を耳にして、瞬いた緋色が更に大きく見開かれる。
顔を隠していても、その瞳の動きだけで驚愕していることははっきりと見て取れるだろう。
「暗殺者、ギルド……」
ポツリと、薄く開いた口から一言零れ落ち。
あまりよろしくない状況の此方を思って顔を顰める義理堅い男を見据え固まっていたが、手招き呼ばれれば、いそいそと駆け寄り。
差し出されたコップ……ではなく、相手の手を両手でガシッと掴まんとして。
「――その話、詳しく。
盗賊ギルド、は……知ってる。けど、そっちは初耳。
何処にありますか? 依頼は頻繁? 教えて欲しい……!
……依頼を出される心当たりはあります。手を噛まれる前に、との判断かと。
依頼されていた方が逆に、少し……安心したくらい、です」
己が暗殺対象として張り出されていることはそっちのけで、暗殺者ギルドの詳細を教えて欲しいと懇願した。
一応、心配してもらっている身であるが、本人はそれほど危機意識はないのか。
むしろ少し安堵と僅かな喜色さえ声に滲んでいる。
■カイルス > 驚愕の雰囲気に、ゆるやかに首を振ってみせる。大丈夫、と小さく告げて。
「服装と背格好、王都にいる、ぐらいの情報だ。男か女かも書いていない。……受ける方がどうかしてる。
依頼状が出されたのは警告のつもりか、目撃証言を集めようとでもしてるのか……」
差し出したコップを掴む手を両手で握られて、困惑した顔をする。
相手の話を一通り聞いてから頷いて、もう片方の手に持った自分用の冷えたお茶をごくごくと飲み、はぁ、と安堵の息をつく。
相手と同じく長袖の男にこの気温は多少堪えるらしい。
「まずは、そうだな……盗賊や犯罪者の捕縛依頼は冒険者ギルドに出ることがある。
死なせると少し報酬が減るが、世のため人のため、ってことで罪には問われない。
盗賊ギルドには安い殺しの仕事が依頼されることもある。平民の揉め事レベルだ。
暗殺者ギルドは……もっと上の内容だ。貧民地区にいくつも入口があって、王都の地下深くにある。
だいたい、盗賊ギルドなんかで実績を積んだ冒険者にスカウトをかけてくるのが一般的な加入方法だ」
暗殺者ギルドに加入して働こうとでも考えていそうな相手に、正気かという視線を向ける。
依頼されていた方が安心という言葉にも首を傾げながら
「そっちは……その服を変えるだけでなんとかなりそうだな。
というより、今もその格好だったことに少し驚いた」
この陽光の下でも黒づくめの姿に多少おかしさを感じているようで、顔が笑っている。
ふと視線をそらし、店主の方を見遣る。注文された品を袋詰めしているようで、もう少し時間がかかるようだ。
■篝 > 不祥事の末に失業した子飼いの暗殺者は、現状は元主の目の届かぬ場所で冒険者として隠れ潜んでいる身である。
しかしながら、冒険者は所詮は仮の姿で、本業へと戻る方法を模索していた。
そこにこの話を聞けば、渡りに船と力が入るのも無理はない。
安心させるように告げる言葉に不思議そうに首を傾げながら、話を聞いてなるほどと首肯し。
「確かに、その情報だけで探し出すのは難しいですね。
……カイルスは、私がそうだと確信があったのに、何故情報を売らなかったのですか?」
金になったかもしれないのに。
そう言いながら、掴んだ手をゆっくり解き、今度はちゃんとコップを受け取る。
やはり、胡散臭い、怪しい依頼書だったからだろうか?
「……理解しました。では、まずは盗賊ギルドに入ることを目標にします。
そこで声を掛けられるまで実績を積みます」
少しずらしたストールの隙間にコップを添えて、ちびちびと少しずつ冷たいお茶で喉を潤し。
此方は至って真面目に、淡々と世間話でもするように返して。
元飼い猫としては、死んだものと主に忘れられるより、どんな形であれ覚えていてもらえることが嬉しく思う。
それが、処分の為の暗殺依頼や情報収集であったとしても。
「服……変えなくては、いけませんか? 驚く?
変、でしょうか? ……動きやすいし、物も沢山隠せます。多少暑くはありますが……」
可笑しそうに笑う顔を横目で見て、改めて自分の恰好を見下ろすが変だとは思えないようで。
隻眼が向いた先を一緒に眺めながら、コップを傾け、また一口飲んでは涼み一つ息をついた。
■カイルス > 暗殺者ギルドを利用するのは王侯貴族か大商人ぐらいだ。
依頼主の機嫌を損ねたか何かだろうか、と男は想像する。街を出てほとぼりが冷めるのを待つのが一番だが、相手の様子を見ているとなかなか言いづらい。
「金は手に入るかもしれないが、信頼を失うことになる。
篝さんが大悪党だ、って情報でもあれば別だが。冒険者、同業者みたいなものだろう?」
冒険者ギルドでも男は似たようなことを言っていた。不安定な仕事だからこそ同業者の信頼が不可欠なのだと。
たとえ今金を得たとしても、そういうことをする人間だという事実はずっとついて回る。
「俺が言えた義理じゃないが……それで生計を立てたいなら、盗賊ギルド経由が一番だろうね。
凄腕のギルドメンバーの紹介なら下積みなしで入れるかもしれないなぁ。“竜殺し”とか“忍者”とか……」
ギルドでの上級メンバーの通り名を呟く。会ったことはないが実力者だというのは耳にしている。
もしかしたら篝の師匠がその当人かも知れないが、それは二人には知る由もない。
「単純に暑そうなのと、あとは少し異国情緒を感じる服だから目立つと思う。
篝さんの言う通り、俺もこの服はポケットが多いから重宝しているんだけど」
相手に言ったのと同じ感想を持たれるだろうと思ったか、おどけるようにポケットのあたりを手で叩く。
コップに入っていたお茶を飲み干すと、店主が袋を肩に担いで持ってくるところだった。
豆は比較的保存がきく食材だが、それでも一人で食べる量にしては多そうだ。
懐から支払い用の硬貨をじゃらじゃらと用意する。あぁ、と嫌なことを思い出したのかまた顔を顰めた。
「忠告だ。『聖騎士』に気をつけて。
とはいえ、気をつけるのは篝さん自身じゃなく、家族や親しい友人か……」
■篝 > 「信頼、なるほど。残念ながら、悪党と言われるだけの功績は…………出して、ない、はず。
――同業者……。そう、ですね」
言われて思い返すのは、貴族の屋敷を一部爆破し燃やしてしまったことで、これが二度ほど。
二回目は特に酷くやらかしたが、だからと言って大悪党ではないはず……と、自分にも言い聞かせた。
冒険者のご同業。さて、暗殺ギルドの存在を知り、貼りだされた依頼書を見ることが出来る彼は何者なのやら。
詮索して腹を探り合うには日は高く、人が多すぎる。故に今は流して。
「承知しました。情報提供、感謝致します。
竜殺し、忍者……にんじゃぁ……んー、うんー……どのギルド?」
心より感謝を込めて一度深く頭を下げ、凄腕のメンバーの中に聞き覚えのある職業を聞けば、声がどんどん間延びして力が抜けていく。
そのギルドは、冒険者か、盗賊か、暗殺か、枕詞はどれだろうか。
「目立つ……目立つのは、困ります。ん、服を選ぶ時の参考の一つにします」
其れは確かにいただけないと首を横に振り、ふむ、と頷き相手の服にも目を向けた。
そうこうしている内に荷は出来上がり、それが彼の手に渡る。家族か仲間の分もありそうな大きさの荷だ。
其れを眺めていると、また険しくなる表情が見えて。
「……パラディン? わかり、ました。ご忠告、感謝します」
聖騎士に悪いイメージはなく。疑問符を浮かべながら一応頷いて返す。
世話になっている師はいるが、家族も、友人も、仲間もいないので、それほど不安は感じていないようで。
■カイルス > 「ん……あぁ、暗殺者ギルドさ。冒険者ギルドと違って複数人で仕事を受けることがないから、
俺も他のメンバーにどんな奴がいるかよく知らないんだ。そういえば前に会った時、君を忍者みたいだって言ったっけ」
間延びした言葉に不思議そうな顔をする。以前の冒険者ギルドでの会話を思い出した。
さらりと告げた言葉は迂闊なものだった。字面を追う限り、男自身も暗殺者ギルドのメンバーであることを意味している。
「夕方にでもなればその服もだいぶ違和感なく見れるだろうけど……。
この界隈ならあんな服装がいいのかもしれないな」
指さしたのはナンパをしている男と、それに対して満更でもなさそうな若い女。
どちらも典型的な平民の服装だ。黒づくめの下がどんな姿かは知らないが、全く似合わないということはないだろう。
袋に視線が向いているのを感じると、あぁ、と笑ってみせた。
「近くの孤児院にこのお土産を渡して、かわりに一晩泊めてもらうんだ。最近宿も少しづつ値段が上がってきてるからさ。
スープで嵩増しできる豆や根菜は重宝されるんだ。できれば肉を買ってやりたいんだけど……」
代金を受け取った店主はにこにこしながら店の奥へと引っ込んでいく。男は定期的に買いに来るお得意さんなのだろう。
慣れた様子で袋を肩に担ぐ姿からは、かなり長い間同じことを繰り返している様子がみてとれた。
表情はいつになく苦いものだ。ただの嫌悪や忌避だけでない、好意や敬意が少し混じったような、なんとも言えない顔。
男自身、己の表情に気付いてはいないだろう。
「……俺が知ってる、貴族絡みで関わりたくない奴だ。狂犬……狂狼……?
親しい人がいないんだったら――それ自体は全然よかぁないが。とにかく、気を付けて。
それじゃあ、またどこかで。次会う時、その服じゃなかったら篝さんから声をかけてくれよ?」
相変わらず性別も種族もわからない相手だが、年下かな?という印象を持った。
次会う時はどんな姿なのだろうか、楽しみにしつつも雑貨屋の軒先から貧民地区の方向へと向かっていった。
■篝 > 「んー……。暗殺者ギルドの……ん、それは納得。徒党を組むのは、考え難い。……私は、忍者とは別種」
暗殺は人の道を外れるもの。そう言っていた忍者の顔を思い出しながら、何と聞くべきか、藪は見て見ぬふりをするべきかと考え巡らせ唸りつつ。
思い出しかけられる言葉には、覚えていると返す代わりに前と同じ言葉を返した。
「……あれ、ですか。一応……アレも、参考には含みます。
孤児院に。それは良い考えです。孤児も、貴方も、どちらも満足のいく取引だと考えます。
肉がなくとも、腹を空かせずに済むことは……とても、喜ばしいです」
指の先を追い、ナンパ中の男女を見れば半目になり。また迷いながら首を傾げながら頷いて。
ふと、ナンパ待ちをしていた彼の姿を思い返せば、今日は行かなくて良いのか?とそちらを見た。
既にチャレンジ済みとは知らず、この後行くらしい孤児院を優先してのことと良い解釈をする。
しかし、やはり表情が苦いものになれば、それを不思議そうにまじまじと見て、複雑な様子にかけるべき言葉は小柄には見つけられず。
「狂犬。……は、大丈夫。意外と、話せばわかるかもしれない。ん、気をつけは、します。
服を買うかは検討中ですので、変わるかはわかりませんが。……会うことがあって、声を掛ける必要があれば。
……お達者で」
狂犬染みた知り合いを思い出しては、また呑気な返事をした。
そして、貧民地区へと向かう背中に短い別れの言葉をかけて、小柄も急いで、けれど多少時間が掛かりながら、コップの中身を飲み終えると、すぐに店を出て裏通りを通り暗がりへと消える。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からカイルスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から篝さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」に金剛さんが現れました。
■金剛 > 今日は薬草の調達に行き、手持ちで使う分を除いて冒険者ギルドに卸したところ。
これでちょうどよく今日の銭としては申し分ない金額になった。
本当にその日暮らし、我ながらとても自慢できた生き方ではないが…。
「……酒。」
つい先日酒で痛い目にはあったものだが、
欲求不満の解消になったと思っておこう。
目の前に差し出されるウイスキーのグラスを手に持ち、
ぐい、と少しずつ飲み込んでいく。
美味い。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」にガラさんが現れました。
■ガラ > そんな昼下がりに、大柄な青年が現れる。
物々しい武器を背に、長い前髪を垂らして顔を隠す様は大柄な獣のようだ。
歩幅広くに受付に向かいながら、壁の依頼書きに視線を向けて立ち止まり。
そして受付に向かうと。
「その。昨日にあった、薬草の採取の仕事は…まだ、あるかい?
あ…そう、そっか。わかった。
…盗賊狩り…?は、うん、また…少し考えるよ」
素っ気ない対応をされながら、どこか落胆げに肩を落とし……。
ブーツの底を軽く鳴らしつつに、ひとつ酒でもと向けた足の先。
「…どうも」
うすらでかい体を、少し折り曲げる。
先客の少年…少女?に、挨拶をしてみた。これで良いのかは、わからない。
■金剛 > 昼下がりと言うこともあって程よく腹も減っている。
干し肉でもつまみに頂こうかとメニューを眺めていた中、
若干、なんというか、他人のような気がしない青年がやってきた。
「……どうも。」
どこか落胆気に肩を落としている青年をなんと無しに眺めていた末、
でっかい身体を折り曲げる様子を見れば、こちらもぺこんと小さく頭を下げる。
だが、挨拶までは済ませたがどうしたものか。
まさか自分が請け負った仕事のせいで仕事が無いと言われたら困っちゃうわけで…。
いや、そこまで理不尽なことを言う人間には見えなかったけれど。
「…。」
干し肉の塩漬けをそっと差し出されれば、もぐ、とそれを噛み締める。
……さてどうしようである。お誘いするほど裕福でもないし…。
■ガラ > 前髪の奥で、眉が持ち上がる。
マグメールらしい顔立ちというよりは近隣国シェンヤンの風を感じる姿だ。
どうやら言葉が通じそうなのは良かった。
向かいの席…ではない。 隣のテーブル、対角線上についた。
「うん」
そして舌が回る側でもなければ挨拶の応酬で会話が終わってしまうのもやむない。
親切に振る舞おうにもこの国のことがよくわからない身だ。
どうせ他人だ。話しかけられても迷惑だろう、と考えてメニューを手に取り…。
手に取り……。
「…なあ」
メニューから顔をあげて、斜め向かいに問いかける。
低い声。もしかすれば恨み言でも飛んできそうな…だが。
「楽しんでいる……楽しんでいる?…ところ、すまない。
きみ、この文字は読めるのかい?
船乗りから喋りは教わったんだけど、文字がまだで…。
…お礼に代価は僕が持つから、少し手伝って欲しい、んだけど…」
どうだろうか…?
情けないことで、実際に恥ずかしげなものだが、
すこしだけは、懐に余裕があるらしく、
見ず知らずの異国のものに、小さな依頼を持ちかける程度に困っていた。
■金剛 > お互いに長い前髪の下から、じっとお互いの姿を見詰めるのだ。
相手の姿もマグメールの人間とは少し違う様に思えた。
女は隣のテーブルに座る男を見て、再び酒を煽った。
「………なんだ?」
なんか相手の姿が危なっかしく見えたのかもしれない。
メニューを見てもいまいちピンと来ているようないないような。
そんな印象を受けてしまった女は酒に堕としていた目をそっと持ち上げる。
「……わかった、簡単な言葉ばかりだが教えようか。
でも対価はいらない、……今日はこれ以上稼ぐ気が無いんだ。
それがどうしても嫌なら他を当たってもらおうか。」
つまり、黙って教えられれば金は要らない。
逆に金を払うことに固執するなら教えないということ。
男とも女ともつかない奴の言葉に男が不信感を覚えなければ…の話だが。
■ガラ >
「…………」
息を呑む。
謝礼への断り文句に、言い様もない凄味を感じた。
どれほどの仕事をこなし、大金を懐に入れたのか。
何か底しれないものと敬意を感じて、しかしどうにか緊張をやわらげようと、
前髪の下に覗く口元が笑みを作る。大きいイヌのような有り様。
「嫌というわけではないのだけど、いいのかな…、とは思う。
きみの楽しみと、そして静寂を奪ってしまうんじゃないかと。
この国では、それにも代価を支払うのが一般的だと、きいたよ。
他に…きみに、渡せるものが思いつかないんだけど…」
のそ、とその体を立ち上がらせ。
隣に来る。隣のテーブルなので、相変わらず席ひとつ分以上の距離はある。
「お言葉に甘えさせてくれるかい?
…良い酒と、乳を使った肴…チーズとかが欲しい。
きみがつまんでいる、それ…」
メニューが指をたどる。どの文がなにを示すのか。
それがわかれば、今後の読解にも助かるだろう。
干し肉に目を向けた。
「…も、故郷で漬けていたものを感じて、少し気になるんだけどね。
僕はガラ。北国から海を渡ってきたばかりで、まだ文字が少し」
■金剛 > 「…。」
じっと男の顔を見上げる。
言うても、そんなに稼いでいるわけじゃない。
本当に一日、毎日、ある程度の鐘さえ稼げればそれでいい。
ただそれだけなのだ。
「別に私自身、静寂だけが好みってわけじゃないさ。
誰かと飲むのも楽しいとも思うし、軽く話す相手が居るのもまた…な。
代価を支払う姿勢は悪くないと思うが、貴方のそのやり方だとぼったくられてもおかしくないと思えてしまう。」
どうぞ。と、隣の席を指し示す。
サラリと赤い髪を揺らしながら、メニューを広げて、
す、と細い指先でメニューの文字をなぞっていくのだ。
「良い酒、と言えば単純に高価なものにするかだが、私が好きなのはこれだな。
シェンヤンの方の酒だから、多少なりとも値は張るが。
チーズはこっちだ、アオカビ、白カビ、ナチュラルなもの。」
一つ一つ丁寧に、青年の手を取り、指先で文字の流れをなぞって見せよう。
そして干し肉にも目をやるならば…。
「なら半分こにでもするかい?」
くつり、とこちらも長い前髪の下の口元を持ち上げて見せた。
■ガラ > 青年は少しばかり鈍かった。
人間の善意や悪意や物差しが鈍かった。
だから、眼の前の少女、あるいは少年が、名うての凄腕なのだろうと。
すっかり信じ込んでしまっている。信用がそこに生まれてしまっていた。
山奥暮らしということは、社会経験が浅いのだ。
「そうなっても、僕がうっかりしていたのが悪いんじゃないかな。
それに、きみは代価はいらないと言ってくれたから、信用しても構わないんだろ?」
まっすぐに言う。騙されたことがないか、騙されたことにすら気づいていないかだった。
危なっかしいのは間違いないようだった。
「………」
有り難く隣席させてもらったところで、視線はその髪に向かった。
さらさらと流れる様は絹糸のようだ。そこから覗いた顔にも、思わず視線を奪われる。
綺麗だな、と視線を奪われ…慌てて顔をメニューに向かわせた。
同性かもしれない相手に何を考えているのだと、少し頬を赤くする。
視線の気配に聡ければ、長い前髪越しにだってどこを見てたのかわかってしまうかもしれないが。
「ということは、これが…シェン、ヤン。
確かにこれだけ少し、他とちがった文字の置き方になってるね。
きみの飲んでいるそれ、コーンを蒸留したものだろう?
それは見慣れているんだ。あとは、芋で作ったりもしていたよ。
…シェンヤンまで向かうのは骨だし、これにしようかな…」
チーズにカビを?そう首を傾ぎながらも、ではシェンヤン酒をと注文する。
瓶でだ。偉く思い切りがいい。値が張る酒を、一杯単位でなく注文した。
懐から取り出したのは、どす、と重たく貨幣が詰まった袋だ。
稼いでいた。
「分け合うのは、とても素晴らしいことだ。
きみの楽しみになれるかは、努力するけどね。
…名前は、教えてもらえないかな?」
異国の酒と、アオカビのチーズを待つ間に。
少しだけ気後れしたように、問いかける。
■金剛 > どうにもとても鈍い面があるようだ。
こちらが万が一、悪意を持った人間だったらどうする気なんだろうかと。
社会経験が浅いことは…なんとなくわかった。
「……はぁ~~~。
貴方、人が良すぎるって言われないかい?
私が本気でただの悪人だったらどうする気だ。」
うーむ、と小首を傾げつつも、まぁ見ている分には楽しいからいいけどとばかりに肩を揺らす。
「…どうした?」
一緒にメニューを覗き込むようになった結果、自然と顔の位置が近くなる。
何やらこちらを見ていたような気がして首を傾げてしまう。
自分の顔に自信が持てるわけでもなく、むしろ醜女よりの認識を持っているのだろう。
此方が目を上げて見せると、慌てたようにメニューを見る青年を見て、
また頭の上にはてなが浮かぶ。
少し青年の顔が赤らんでいるようにも見えて、余計に不思議そうな顔をして。
「ああ。シェンヤン産の酒はここと、これと…。
芋や穀物で作ったりすることもあったからな。
私が飲んでいる物はポピュラーな酒だが…。
ん、親父、私にも同じものを頼む。」
チーズと一言で言っても様々なものがあることを簡単に説明しつつ、
瓶で酒を頼む様子を見れば、思い切りがいいな、とくつくつと笑った。
教えている間に酒を一杯飲み終われば、自分もシェンヤン産の酒を一杯注文した。
「気を張りすぎるべきではないさ。
中々、今の時点で楽しませてもらっているしな。
……ああ、私は金剛と言う、よろしく。」
近くで見れば尚更大きい相手だなと、
知らずのうちに上目遣いになりながら答える。
■ガラ > 「きみは、悪い人なのかい?」
少しきょとんとした風に問い返してしまう。
「…少なくとも、親切にはしてくれたし。
何があっても多分、僕は納得できると思うよ。
きみは良い人だ。少なくとも、僕にとっては」
騙されたら自分のせいだ。そう思うらしい。
少なくともそうは思えないし、もし金をせしめられてもいいと言った。
それは金銭への執着のなさのあらわれかもしれなかった。
「ひとつ大きな狩りをしたんだけど、後に続かなくてね。
強い人もたくさんいる国だ。やっていけるのか少し不安になってた」
緊張が解れて、そう笑った。
金貨袋は偶然ありつけた大きな仕事を片付けただけ。
仕事は取り合い。新参者には分不相応な大仕事。
…対人の仕事なら溢れているが、それは嫌であるらしく…。
「……」
少し聞き慣れぬ名を言われて、面食らうものの。
「アダマゼイン。山で採れる、宝石なんだ。
船で、それをシェンヤンでは金剛の石、と呼ぶと聞いた。
透き通った、美しい色の名前だ。きみらしい」
本名かもわからぬものの、そう笑う。
蓋になっている小杯ではなく…脇に伏せられていたグラスを手に取り、満たした。
少しずつ楽しむものを一気にグラスに満たし…乾きを潤すように煽った。
たくましい喉が、ごく、と上下し。
「…うん。悪くないな。
ほら、きみも」
杯を交わすべきだ。青年は蟒蛇だった。
悪気も全くなく…彼女が同じものを頼んだのだ。分け合うなら問題なかろうと。
瓶の中身を、同じく深いグラスになみなみと注いでいく。
■金剛 > 「…そんなつもりは無いけれど、
人によってはそれでも悪人になる可能性があるからな。」
きょとんとした男の様子に、本当に人が良すぎるんじゃないかと思って見たり。
「そうか…、ならいいか。
何があっても納得できるって言われちまったら、
おいおいと思う気持ちもあるけど、」
自分が言うのもなんだけど、青年はとても良い子だと思った。
…いや、相手の方が年上の可能性もあるわけだけど。
お互いにあまり金銭に執着するタイプじゃないらしい。
「なぁるほどな…、でもま、なんとかなるんじゃないか?
私が言っても説得力無いかもしれないが、でもまあ、やる気があればなんとかなるだろ。」
とりあえず金貨袋はそっとしまっておくように促しておく。
昼時を過ぎて多少なりとも静かとは言え、ギルド内にはガラの悪い人たちもいる。
そんな奴らの目線を浴びながら、くっく、と小さく笑うのだった。
対人のお仕事、とても嫌な気持ちはこちらとて同じだ。
そうしている間に自己紹介を終え、
青年に名前を褒められてしまえば、少しだけ頬を赤く染めて。
「…そこまで褒めるな、その、あまり褒められ慣れていないからな。」
そう言いながらみゅ、と眉を八の字に曲げる。
やがてグラスを二つとつまみを乗せた盆を持った給仕が近づいてくる。
そしてお待たせしましたと置いていくのを見て、グラスを手に取る。
「…ああ、そういうことなら…んん、ま、乾杯しようか。」
総意ってカチン、とグラス同士を軽く触れさせ合う。
こちらはそこそこ酒に強いと言えど蟒蛇とは言えないほど。
あんまり飲みすぎないようにとは思っていたのだが…。
話が楽しければついつい飲みすぎてしまうものであった。
■ガラ > 「それがすごく嫌なのかもしれない。
その…獣や悪霊、このあたりだとモンスターというんだっけ。
そいつらを狩るなら気楽だけど、同じ人間と諍うのは、すごく嫌な感じがする」
許さなかったり、認めたがらなかったりすると、
暴力を振るわなければいけなくなる可能性があるかもしれぬ。
だったら多少の不都合くらい飲める。
それは不安や恐怖からの忌避であって、必ずしも善性とは言えぬかもしれない。
「もしきみが、僕にとって悪人になった時のことを思うと。
あまり美味しく感じないかな。…駄目だろうか?」
この国で生きるなら駄目に決まっていた。
「…………どうも」
視線に対しては、相変わらず軽く体を曲げる。会釈のつもりらしい。
そして促されるまま金貨を仕舞った。
昼間からギルドに入り浸る。その意味をまだ知らなかった。
「そうなのかい?
それじゃあ、きみが慣れる手伝いをするために、いっぱい褒めるとするよ。
……良かった。面差しを褒められるのが、嫌だと…思われると。
僕がそうだからね。失礼にならなかったなら、よかったよ」
はにかむように笑い、グラスを合わせる。
上機嫌に二杯目を傾けながら…。
青年は悪意にも善意にも鈍感だ。しかし、視線や気配には敏感なようだった。
これ見よがしの金貨袋のせい。迂闊のせいだが。落ち着かない。
どうにも金蔓を見たものたちが蠢き出し。
「…彼らも混ざりたいのかな。
でも、宴会には少し…懐が侘しいし…込み入った話も…。
金剛。きみが良ければ、部屋で飲み直さないか?
いろいろと話したいこともある。文字も…教えてもらいたいしね」
同性であれば、受け容れてもらえるのではないか。
それは善意に染まった考えだったが、大前提として思い切り勘違いがある。
二杯目をあっさりと干しながら、提案してみる。
なんとなく、透き通るような面差しに惹かれていたから…かは、わからない。
■金剛 > 「……甘いな、甘い。
…でも不思議とだが、その甘さは嫌いではないかな。
私自身も甘いと言われる立場だからかもしれないがな。」
彼の言葉も分からなくもない。
暗殺を得意としている自分とて、
出来ればやりたくないと思ってしまう気持ちもあるのだ。
「……ダメってわけじゃないが、
それでもまぁ…甘さは感じるな。
…まぁ、人生酸いも甘いもというだけある。
酸いだけでも生きていけんものだろうさ。」
昼間からギルドに入り浸っている男たちがゆらり、とこちらに近づいてくる。
それを見止めれば、女はグラスに口をつけながらくく、と小さく笑う。
「…貴方、意外といい性格してるな。」
二杯目をくい、と飲み干していきつつ、
金貨を見た者たちの動きを見てから、青年の顔を見上げて頷く。
「多分、貴方の思っている意味での混ざりたいとは違うものだと思うがな…。
そうだな、親父、二階の部屋を借りるぞ……。」
相手に性別を勘違いされていると気づいていないのか、
それでも平気で男と寝泊まりできる精神の持ち主の女には些細なことだったらしく。
給仕に頼んでテーブルの上のものを二階の空き部屋…、
ちょっと探せばいけない玩具の類が息を潜めている部屋に運んでもらう。
そして女は青年と共にその部屋に移動していくことだろう。
■金剛 > 【部屋移動】
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」から金剛さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」からガラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 古書店」にラリーさんが現れました。
■ラリー > 平民地区内のその小さな古書店は、わりと地区の中心の近くにありながらほとんど目立たず、立ち寄る者もそう多くない。
また古書店という性質上、商品の劣化を避けるために出入り口の向きなど日差しが殆ど入らない設計になっていて、店内は薄暗い。
そんな店の奥、接客カウンターの向こうで椅子に座って文庫本を読んでいる店番らしき少年の姿があった。
この店は少年の実家が経営しているもので、書類上は別の人間を立てているが実質的な店長は少年が務めている。
それ故、この店は少年にとって学院の図書館以上に自由のきくテリトリーである。
獲物となる対象が訪れれば、ほぼ確実に術中に囚われる羽目になるだろう。
もっとも、客足の少なさから獲物の出現は図書館以上に運任せではあるが…その時はその時、が少年のスタイル。
ただ静かに、読書に没頭しながら客の訪れを待ち続ける。
なお主な客層は通常の書店では見つからないような商品を求めるマニアックな本好きか、
遠方の客との本のやり取りの依頼を受けた冒険者あたりとなる。
少年の修理の腕はそれなりに定評があるため、そうした依頼もぼちぼちやってくる。
「…ん」
そうしていれば来客を告げるドアベルの音が響いて、少年はゆっくり本から顔を上げ
珍しく現れた客の姿を視界に入れた。
さてその客は少年の獲物になりうるような者なのか、それともなんでもない一般客か…。