2025/12/13 のログ
■エレイ > そのまま男の姿は遠ざかり──
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からエレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」にカイルスさんが現れました。
■カイルス > 簡単な採集依頼を終え、男はカウンター席で暖かいお茶を飲んでいた。
ぼんやりと考える。この酒場で少女とやりとりをしたのは何か月前になるだろう。
以降の経緯を考えると、男の推測はほぼ答えに近いものだった。
足止め、時間稼ぎとしての暗殺依頼。相手に伝わらなければ意味をなさないが――その役目を男自身が果たしてしまっていた。
情報漏洩は盗賊ギルドと暗殺者ギルド双方に過失がある、といえよう。
例外扱いすべき案件を、慣習に沿って流出させたインシデント。
これがなければ“依頼主”は、あの少女――思い出そうとするとなぜか輪郭がぼやける――に、何もしなかっただろう。
そもそもを考えれば奇妙な話だ。暗殺者ギルドで暗殺対象になっている人物が、全く別の暗殺依頼を持ってくる。
命知らずと言うべきか、何と言うべきか。
対抗依頼――AがBの暗殺を依頼したから、BはAの暗殺を依頼する――これは受けない。
おそらく、他の業界でも同じだろう。マフィアどもならやるかもしれないが、一般的な信義則に反する。
ただそれ以外、たとえばBがCの暗殺を依頼するぶんには問題はない。
■カイルス > 男が所属するギルドは伝統ある組織だが、ただ長くあるだけで存続などできない。
非合法組織にはたいてい後ろ盾がある。貴族家や王族ごときではない。もっと大きい組織。
言葉にはしないものの、薄ぼんやりとその正体を感じている。男も“依頼主”も、それに無縁ではない。
日常生活に密着した、王国民なら誰もが知る――
九時課の鐘が聞こえ、男の思考は中断された。店内に弛緩した空気が流れる。
お茶を口に含み、小さく溜息をつく。ふと、別の疑問が湧き上がってきた。
先日渡した手紙――少女が望んでいるものをなぜ“依頼主”が知っている?
男ですら、その事を聞けたのは二回だけだ。雑貨店の軒先、そしてここ。
雑貨店では周囲に人はいなかった。ここは客の大半が地域住民と冒険者で、聞き耳を立てる能力も動機も――
「…………!」
カウンターごしにカツカツと音を立てて歩く黒髪眼鏡の女が視界に入った。
視線に気づいたのか、振り向いた女と目が合う。黒い瞳――冬の闇夜ですらもう少し明るい色をしている。
迂闊であり、不運だった。少女とここ以外で会っていたなら、送られたのは手紙ではなく金銭か何かだったろう。
男の思うようにいかない状況が続いている。しかし、できる事はないように思えた。
それどころか、男がよかれと動く度に事態を悪化させている――そんな気すらする。
「しばらく護衛依頼を中心に受けて、街を離れるかぁ……?」
組織の支部は他の街にもあるが、少なくともこの件に絡むことはなくなるだろう。
持ち運べない財産を持たない男にとって、護衛依頼は食事と睡眠が確保できる、悪くない依頼だ。
難点を言うならば支援をしている孤児院の子供たちや関係者にしばらく会えなくなるが――。
■カイルス > 「結局、どうなったのかな」
少女が手紙を燃やしたのか破棄したのか。あるいはまだ決めかねているのか。あまり長い間持っておきたいものではない。
男は少女に対して誠実であろうと思っているが、ギルドが男にすら隠していることはあるかもしれない。
たとえば、手紙は燃やした時から挑戦者の五感をギルドが共有すると言った。
だから、塒で燃やすのは非推奨というのは自明といえる。五感を共有した時点でギルドに位置情報が割れる。
しかし――燃やす前の手紙は位置情報を発信していない、とは断言できない。位置情報、それが途切れること、それらすべて情報だ。
男が“視た”限りそんな細工はされていなかったが、男は魔術の専門家ではない。
盗賊ギルドの方がどんな詫びを用意したか、男は知らない。
組織の一員となったようだから、金銭だけでなく良い仕事の斡旋といった便宜かもしれない。
そちらについては、男が心配することではないだろう。
「……久しぶりに見にいってみるか」
前回暗殺者ギルドを訪れてから、もう半月以上は経った。男を指名する依頼も、手頃な依頼もなかった。
今行けばまた品揃えというか、顔触れも変わっていることだろう。
「今は……えーと……」
暗殺者ギルドは拠点を定期的に変える。時期や場所は所定の道具を用い、暗号を解くようにして辿り着く。
ギルドに依頼する面々も、ただの人間ではない。
■カイルス > 少し温くなったお茶を飲み干して、陽が傾きつつある街へと男は消えていった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からカイルスさんが去りました。