2025/11/26 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/表通り」から李皇華さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区・冒険者ギルド」にカイルスさんが現れました。
■カイルス > 昼間の冒険者ギルド。
「まじかぁ……」
普段よりギルドの雰囲気が暗い。理由を問うと、大規模な行軍を行って惨憺たる結果になったからだと受付から聞く。
パーティーを組めずにいる冒険者のサポートをしてほしい、と言われたものの。
(あそこで座ってる兄ちゃんは確か、あんな顔してるがお貴族様なんだよな……)
いくら年上だからとはいえ、身分が上の人間に気軽に声をかけにいくのは憚られる。
確か支援に特化した青年だったと記憶している。男自身の斥候能力と相性は悪くないが……。
「メインアタッカーが必要だよなぁ」
少年戦士とその幼馴染の僧侶でもいれば、4人パーティーができそうなものだ。
その場合年長の2人は後方で腕組みをしながら見守りそうだが。
閑話休題。
しばらく人を待つことにしよう。それぞれ需要は別方向にある。恨みっこなしだ。
声をかけてくる女の子は……分が悪いかもしれない。
ご案内:「王都マグメール 平民地区・冒険者ギルド」に篝さんが現れました。
■篝 > 二日間による乗合馬車の旅を終え、王都に戻ったのは朝方のこと。
そこから急ぎ身を清め、人前に出るにはあまりにも見すぼらしい格好――それこそ、貧民街の浮浪者のような姿から、街中でも目立たぬ街娘らしい服に着替えてからギルドへ戻り。
受けていた依頼についてのアレやコレやの報告と、持ち帰った魔物の解体諸々の依頼が済んだ頃には、すっかりお昼を回ってしまっていた。
応接室から出て行くお偉い様の後に続き、長話に疲れ果てとぼとぼと、やや猫背になりつつ部屋を出てきた少女は、そのまま食事処へ直行しようと広間を通り過ぎ……
「……?」
通り過ぎようとしたところで、見知った顔がいることに気付き足を止める。
今日はどうも仕事を探しているわけでは無い様子。
十数秒ほど其方を眺めた後、視線が合えば小首を傾げた。
「……ナンパ、今日も失敗しましたか?」
無表情、無感情な淡々とした声で失礼極まりない質問が投げられる。
これではいつも彼がナンパに失敗しているようでは無いか。
否、残念ながら成功したところを一度も見たことがないので、少女にとっては“今日も”である。
■カイルス > 掲示板を見ようとする人達と、受付に向かう人達。
彼等が気付いたら、この男に声がかかることもあるだろう。
しかし、今日はいまいち人が少ない。
広間から酒場へと歩きつつある少女が視界を横切る。今の時間からなら仕事を受けることもないだろう。
今日は休みなのだろうか。
――なら、ちょっとナンパでもしてみるか。この分だと、今日は仕事になりそうもない。
じっくりと見ていなかった少女に視線を向かわせ、しっかりと眺めてみれば。
「うーん。そうだな。試す前にダメだとわかった場合を失敗というなら、そうなんだろうな。
……まぁ、信じちゃいなかったけど。死んだ、って噂を聞いた時はちょっとだけ、肝を冷やしたぜ」
一度目を閉じて、開く。久方ぶりに出会った知人に、安堵したような表情を浮かべた。
言葉を交わしたことがある者と、そうでない者。どちらも命の数は同じだが、重みは明らかに異なる。
将来の冒険者ギルド斥候役を少女に期待している男が少女に向けた反応は、おそらく本心からのものだろう。
しかし、それも一瞬のこと。何か思い出したのか、渋い顔をする。
「……仕事だからな。気は進まないが……はぁ」
封筒を懐から取り出し、少女へと渡す。奇妙なのは、渡しながらも開けるな、と伝えたことだ。
この配達人から、開ける前に伝えることがあるらしい。
「……ギルドからだ」
■篝 > 活気は無いが穏やかと呼べるギルドの風景。
その一部であった少女にピントが合うと、隻眼がゆっくりと瞬き、此方を見る。
何処か気の緩んだ表情になったのを疑問に思う少女は、傾けた頭を中々真っ直ぐに戻せずに、彼が瞬くにかけた時間と同じだけをかけて戻す。
「試す前に失敗が確定している場合は、何と言うのでしょう……不戦負?
知っている顔が見えたので、声を掛けてみました。が、ナンパに励むのであれば邪魔はしません。
どうぞ、ご自由に。慰めの言葉も必要であれば――『カイルス、ドンマイ』」
何という不名誉な負け方か。
男が奮い立って戦う機会を奪うつもりは無いと首を横に振り、挑戦を応援しているように思える言葉を掛ける。
が、同時に軽く両手を上げてふりふりと宥める動作と励ましの言葉を送った。
ナンパをする相手として、己がその対象に入っているとは全く思っていない少女は不適任なのだろう。
「ん、噂。流れた? 信じてはいない、ですか……残念です。
嘘も方便? 敵を騙すも味方から? ちょっと違う……んー……難しい。
でも、此れで依頼書を見た者も忘れるかと」
噂が相手の耳にも入っていたと聞けば、抑揚は無いながらも少し楽し気に返し。
上手い言い方を考えてみたが、それも難しく。結局は素直にやりたかったこと、偽りの死体まで用意してもらった噂の真意を明かしつつ。
不意に相手の表情が一変すると緋色を瞬かせ、差し出された封筒を受け取り、ピンと来た。
聖騎士が言い残した言葉を思い出す。
「……ああ、“詫び”ですか。んと、お使い……ご苦労様です」
忠告に従いその場で開けることはせず、同職の彼には労いの言葉を掛けて軽く会釈を返そう。
さて、この中には一体何が入っているのか。陽に透かして見ても、何も見えることは無いだろうが……。
■カイルス > かけられる言葉に、うわぁという表情。
表情が比較的乏しい少女から言われる言葉は心に刺さる。慰めの意思があまり感じられないのも拍車をかける。
「いや……ん。そもそも、そんな毎日ナンパしてる訳じゃないぜ、俺は? ……たぶん。
君はそうそう死ぬようなタマじゃないだろう。
まぁ……君を知らない連中に対してなら、信じ込ませるには十分だと思う」
少女を標的とした暗殺依頼は既に期限を過ぎた。ただの腕自慢なら手を引く。
期限切れだということを知らぬ三流以下も、標的そのものがいないと知れば何もできまい。
色々あったが、少女が狙われることはない――少なくとも、男が知る限りでは。
「詫び……あーーーー…………だろうな。
その手紙を開き、破かずに燃やすことで君は『挑戦権』を手に入れる。
書かれている条件を満たせば、晴れて俺達の一員だ。とはいえ……
上から君に渡せと言われたから渡すが、俺個人としては中身を見ずに破くことを勧めるね。理由は3つある」
この男がこれまで見せた中では一番険しい表情を少女へと向ける。意思と相反する役目を押し付けられた者特有の貌。
男が過去に話していた『暗殺者ギルドへの勧誘』だというのは、容易に想像できるだろう。
ただ、その一方で不確かな点もある。少女はまだ――後ろ暗い実績を積んでいない。開けば、その疑問も解消するのだろうか。
「俺自身の思いが1つ。君と前話したことからの想像だけど、“先生”だったっけ、その人が嫌がるだろうな、というのが1つ。
あとは単純に……君には無理だ、というのが1つ。それと、最後に。面倒な奴には借りも貸しも作らないのが賢い生き方だというのが1つ」
言葉を選ぶべきなのだが、この青年は率直に伝えた。1つ多いが、男特有のジョークか、もしくは単なる数え間違いか。
あるいは途中で理由を1つ思いついたのかもしれない。とにかく、男は手紙に関していい印象を持っていなさそうだ。
■篝 > うわぁ、って顔をされた。何故?と首を傾げてもその理由は聞こえてこないだろう。
「そうですか、毎日では無い。……そこで断言しきれないと、信頼が薄れます。
――……うん。今は、そうですね。死ぬと叱られますので。
そっか、それなら良かったです」
毎日ではないが、隙あらば、と言うくらいの頻度だろうと想像がつく。小さく嘆息し視線を逸らす。
逸れた視線は封筒へ。中は何かと軽く匂いを嗅いだり、透かして見たりとしながら、掛けられた言葉に振り返り、一拍の間を置いて首肯を返す。
何を、誰をその伏せた緋色の先に思うか。死ぬことよりも、叱られることを恐れるなどと戯言を――否、本心を紡いで。
「挑戦権?
――……これがっ、ギルドに入る……条件っ!」
オウム返しに聞き返し、またコテンと頭を傾げて話を聞く。
そして、それが望んでいた招待状であると知れば、幻術で隠した尾がパタパタと揺れて空気を揺らす。もしかしたら、傍の観葉植物にぶつかり葉を揺らしてしまったかもしれない。
しかし、思わず興奮を抑えきれないのも無理はない。それだけ、暗殺者に戻ると言うことは少女にとって望んでいたことなのだ。
……だが、青年はそれを険しい表情で勧めないと言う。
理由は以前にも聞いた。同業であるなら、暗殺者では無く冒険者として、同じ斥候の一人として期待したいと。
そして、師のことも引き合いに出されてしまえば、浮足立った心が途端に地面に着いてしまうのだった。
「借り? んー……よく、わかりません。
貸し借りを失くすと言う意味であれば、詫びでこれが送られて来たなら……これは借りを返されたことになる?
……面倒な、奴……う゛ぅー……」
盗賊ギルドの仕事は情報収集一辺倒。後ろ暗いことには手を出していない。
重ねて、暗殺の仕事や、悪名を轟かせるようなことは記憶にない。――野良になってからは、だが。
それなのに挑戦権が届いている現状。
思い当たるのは……――
面倒な奴、と言うのがあの聖騎士だとすれば、少女は少し考えてしまう。
少女は彼の言葉と、以前ギルドで顔を合わせた時の経験から、得体の知れない者、脅威であると聖騎士を認識した。可能な限り関わり合いは避けるべきだと。
しかし、思う所もある。人でなしのヴァリエール伯爵の関係者らしいが、あの時、己の知る狂犬に向けていた感情には、人情と言えるものがあったと。
根っからの悪人、ではないのでは……と。血迷った考えである。