2025/11/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地裏」にカグヤさんが現れました。
■カグヤ > 陽も落ち、明かりすらままならない路地裏を歩く。特に何か用向きがあったわけでもない。ただ、真っ直ぐに家路に就くのが嫌だっただけの話。
それに本来であれば、陽が出ていても入るべきではないのだろう路地裏に足を向けたのは、小さな猫が其処へ入り込むのを見かけたから。
つい、足を向けて見失う頃には少々入り組んだ場所。
道の先には他の建物の壁があり、先を見通す事が叶わない。
何度か突き当りの曲がり角まで戻っては見た物の、左右から迫る狭い路地と、先行きの見えない通路に方向感覚を狂わされた。
「…………。迂闊、よね……。」
しかし、こんな場所でそれこそ、きょろきょろと見まわすような仕草をしてしまえば、道迷いと知れてしまう。
弱味を見せればどうなるか、知っているからこそ、自分の行く場所はこの先という風に歩く。
声を掛けてくる客引きや、ナンパの声も、今は無視するように、早足で。
■カグヤ > 早足で抜けた先、待つのは街の明かりかそれとも……。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地裏」からカグヤさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」に影時さんが現れました。
■影時 > 夜を迎えた冒険者ギルド。そこに隣接する酒場はこの時間になるとごった返す。
一仕事終えた後の祝杯。夜の仕事に梯子で向かう前の腹ごしらえ。
味を求めたいならば他の店に行けばいい。兎に角量、ボリューム、力を入れたいならば此処が手っ取り早い。
だが、今日は不思議としんみりとした、沈痛げな風情が喧噪の最中にちらほらとある。
鎮魂の酒だ。過日、冒険者ギルドが腕利きの冒険者たちを護衛に編成し、広大な地下遺跡に調査隊を赴かせた。
それが思わぬことで大打撃を受け、命からがらに帰還するも、死傷者が出てしまったのだ。
学者や工兵、職人等、戦闘を得意としない者、足手纏いを多く入れていたのが裏目に出たのだろう。
単独、ないし数人の連携で一人よりも何倍、時には何乗もの戦闘力を見せる者たちも、大いに力を振るえない。
結果――数による圧倒と、強力なる魔物数体の到来により、大きな損害を受けてしまった。
よくある話ではある。そう、よくあること。顔見知りが死ぬのも、同道した知らぬ顔が死ぬのも――。
「…………よくあるハナシ、だよなぁ」
酒場の片隅、月光が大きく差し込む窓際の席で、幾つかの軽食と共に酒を傾ける姿がひとつ嘯く。
きょうは良い月が出ている。ガラス窓越しでもその眩さ、強さは、よくよく分かる程に明瞭で。
それをなんとなしに見上げながらグラスを傾ければ、琥珀色の液体の中に放り込まれた氷がからん、と鳴る。
卓上に置かれたもう一杯のグラスも同じ酒が注がれているが、口は付けない。今しばらくは付けない。
過日参加した戦闘に死んだ知己への酒だ。最終的に飲み干すにしても、今はまだ早い。
そんな珍しく無言に、無心に酒を舐める姿を仰ぐように、卓上を走り回る姿が二匹、ふと動きを止める。
白い法被を着たシマリスとモモンガの二匹。
何か言いたげに顔を見合わせ、尻尾をぱたん、ぺたんと振って、小さなグラスに満たされた水を呑む。
直近で何も無ければ、月見酒の名目で酒盛りに興じていただろう。そんな飼い主の沈痛げな面持ちに、ぺたりと耳を伏せて。
■影時 > 時偶に上がる怒声、泣き声、嗚咽は――冒険者ギルドに隣接するこの酒場で、決して珍しいことではない。
とはいえ、ここ数日の間はいつもよりも濃く、多くなりそうだ。そのような空気がある。
それだけの者が参加し、無事ではない者が多かった。死んだ者も少なからず出た。
未踏破の遺跡、迷宮に潜ることの浪漫と隣りあわせの危うさは認識しているにも拘らず、参加した理由は他でもない。
金である。報酬である。直近で火の車の家計となる訳ではないが、大金を叩く可能性が高い。それを見越してのつもりだった。
自分は兎も角。他の参加者も同様だったろう。
未知、未踏破、手付かずの宝があるかもしれない。それを得られると思えば、危険がなんだ、と。
そうでなくとも、参加することで手に入る報酬は大きかった。戦いで得た傷は治癒され、報酬自体は規定通りに支払われた。
ただ、その為に口述や筆記含む報告を認めさせられ、遺跡で発見した品々の提出など求められたのは面倒だったが。
「……ン? 外の風を浴びたいってか? もうちょっと我慢してくれや。まだ俺の酒、残ってんだ」
酒を欲してしまうのは、嗜好的にも色々と気疲れを得たからかもしれない。
酒気に加え、脂の匂い、濛々と上がり出すのは誰か煙草でも焚いているのだろうか。
その匂いに思わず顔を顰める。飼い主含め、一人と二匹は鼻が利く。きっと三者でそろって同じような貌をしたに相違ない。
思わず尻尾を振りたくり、臭いを振り払いたいようにわしゃわしゃと顔を洗い、毛繕いしてみせる毛玉が訴える。
気持ちは分からなくもないが、支払いをまだ終えてない。酒も残ってる、とグラスを揺らしてみせる。
不満げな二匹がむむむ、としかめっ面ぽい表情をして、飼い主の羽織の下へと潜ってゆく。
その意図を感じれば、腰裏に付けた雑嚢の蓋を開けてやる。
そこに潜ってゆく二匹を見送れば、帰り際に外に出してやろうと至高の片隅に留める。
ただ、そう。気持ちは分からなくもない。外は良い月である。淀んだ空気よりも欲したくなるものには違いない。