2025/10/16 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に影時さんが現れました。
■影時 > ――ふらりと、足を向けてみた先に。偶に面白いものである。
王都の平民地区、建物と建物の合間。
そこが十分に広ければ偶に小さな出店、あるいは屋台が出ていたりする。
季節によって出されるものは様々で、押して運べる位のものならば夏場なら氷菓子、果汁水が目につく。
次第に寒くなってくる季節なら、小さな焼き菓子と茶の類、大きければ汁物や軽食の類だってある。
ものによっては馬車の荷台めいた大きさに、椅子など積み込んで、小さな小さな店のようになっていたりもする。
見かけたのはまさに、その類だ。冒険者ギルドから離れた先にある整地された土地、そこに。
「……あー串焼き、二本追加だ。鳥と香草を刺して焼いた奴と、あと豚な」
大型の屋台がある。軒先に3つ丸椅子を並べ、酒を呑みながら焼き立ての串焼きを食べるスタイルのもの。
仕事帰りの夜に脂の焼ける良い匂いを嗅いでしまえば、ふと魔が差してしまうもの。
そこで冷えた蒸留酒を片手に、気になるままに頼んで、摘まんで、呑む。これがいい。
最近は健康志向なるものも弁えているのか、ぱさぱさした蒸し鶏も一緒に仕込んでいるのだという。
それを備え付けの卓の上で、ちまりと座る二匹の齧歯類に与える。塩味なく冷えたものなら、彼らにとってもご馳走だ。
「おお、忝い。」
店主は頭を覆う布や装束等から、性別も年嵩も分からぬ。気にはするまい。深く考えることもない。
昨今、身の回りが物騒なご時世で考えるとすれば、不意に後ろか下から刺されるかだ。
皿に載せて出てくる注文の品を受け取り、早速一口。――熱い。ついつい気が緩んでしまいそうだ。
■影時 > 酒も色々あるが、この素朴な料理に合わせるとなると、一概に高いものが最適ではない。
この屋台も安全の面もあるのだろう。目が飛び出るような高級酒の類は置いていない。
そのかわり。よく冷えた安めの酒がひょいひょいと出てくるのは、この店主、実はかなり遣る御仁ではないだろうか。
そう思わなくもない。保冷の魔法を仕込んだ底なしの箱、というべきものでも屋台に仕込んでいそうだ。
程よい硬さの鶏肉を噛み締め、酒を呷る。
カウンターを隔てた先の炭火の上で焼かれ、零れ滴る脂が爆ぜる音が静かに響くのがいい。
――無心に呑むのが良い。通りに戻ればすぐに喧噪に包まれるのに、ここは不思議と静かだ。
「……おっ。サーヴィスかね? いや、金取るのかよ。まァ良いが」
ふと、差し出された皿の上のものを見遣る。
薄く焼いた麺麭の上に焼いて削ぎ削った肉と生野菜を乗せ、何らかのソースをかけた、というべきもの。
どうやら巻くか挟むして食うらしい。無料か?と思えば、どうやらそうではないらしい。
立てられた指の数から値段を察し、肩を竦めつつ皿を受け取る。貰わなければ恐らく店主の夕餉とかにでもなったのだろう。
そのかわり、でもないが。食休めにげっぷする毛玉用に、小さな杯に入れて出される水は無料らしい。
……有難いことだ。
そう思いつつ、白い羽織の生地に包まれた左右の肩を竦め、薄焼き麺麭をそっと巻いてみる。
この国に至るまでの旅の途中、こういう類の料理があったのを思い出す。その類であろう。