2025/10/12 のログ
■グスタフ > 「勿論。まあ、持ってきたのはこれが全部で宿にあるわけではないので。案内しますよ」
少女に話しかけながら、店員にお邪魔様と手を振って二人で店を後にする。
担いだ荷物、その中の一番小さなナイフを手渡しながら。
乾いた泥がこびりついているそれは、確かに一見なまくらにしか見えない。
「見た目はあれだが、そいつも保護魔法がかかってる。
この辺じゃ珍しいかもしれんが中に印章を仕込んでるやつでーー。
まあ、業物ってやつだ。あそこの店員に断られたのは、その魔法鑑定も厄介だからだろうな」
剣やら槍やら8本も担いで、全部その保護魔法ものだという。
全部水没した屋敷から引っ張りあげたもので、なんで屋敷が水没したかは。
「……何百年に一度の水害だな」
深くため息をはく。どうしようもないと首を振って。
彼女の物言いに引っ掻かかるところがあって訊ねる。
「……失礼だが、物腰や話し言葉からは貴族の方では? 名を訊いてもよろしいか。
裕福ではない、というのは謙遜かスケールの違いのような気もしますがね」
真剣な顔から笑って返すと、本当に裕福ではないということもあるのだろうか。
なんとなく彼女の身体を上から下まで見てしまって。
■アレハンドラ・アルディオーラ > 受け取ったナイフを指先でくるりと回す。軽く柄を見て、刃を見る。
それだけでは何を思ったものか──手元でくるくる回しながら視線はナイフから離した。
もっぱら注意の対象は、まだ何とも素性のわからぬ男の方。
人目の多い通りでの商談を要求したのも、その警戒が為であろう。
少し歩いて立ち止まる。
家柄の話題に関しては、眉間の皺が濃くなることはなかった。
「貴族にもいろいろございましょう? 私のことは……アレハンドラ、と。
家に外商を呼びつけるような身分でもありませんので、目利きに自信もありませんが──」
にわかに、ナイフを持つ手が燃え上がる。
燃料も何も無しに、手首から先が炎に包まれたのだ。
それで手指が焼けるわけでもなく、ただ泥のこびりついたナイフばかりが激しく熱される。
泥に僅かに残った水分の全てを蒸発させるような火力──下手な安物の金属ならば、変色し脆くも変わるところだ。
■グスタフ > 「――確かに。ご無礼をアレハンドラ嬢。素敵なものを見せていただきました」
胸に手を当てて瞼を伏せて謝辞を述べ、礼を失せば頭は下げる。
彼女の手の中を見て、軽く目を見張りながら。勿論、ナイフには変化がない。
「魔法に関しては、あまり詳しくはないですが。問題ないようですね。
ま、丈夫なだけで切れ味が上がってるわけではないですが。貴女との相性は悪くないようだ。」
売りつけるためのお世辞にも捕らえられるかもしれないが。
本音で発した言葉だった。愛用の武器なんてものは出会うときに出会う運と巡り合わせがある。
「ほかにも見ますか? 一応全部同じ魔法がかかってると聞いてますが。
気に入ったなら、そのナイフもお譲りしますよ。値段は――」
さっきの店で売ってる品物の数十倍の値段だった。
■アレハンドラ・アルディオーラ > 完全に水分が抜け落ち、粉状になった泥が刃から落ちる。
希代の業物とは行かずとも、焼いても切れ味が落ちない刃物──なるほど貴重な品だ。
ロープの切れ端を背嚢の横ポケットから取り出し、刃で軽く切りつけてみる。
普通に切れる。刃が欠けるようなこともない。
「……へぇ、本当に本物なのね」
刃先を掴んで、ナイフの柄を男に向けて渡す。
なるほど便利な代物ではある。肉を刺したまま火に掛けられるのだから。
「と言っても今のところ、私にとってはちょっと便利な串だわ。
どちらかと言えば剣の方に興味があるのですけど……?」
寧ろ興味の矛先は、便利なツールよりはメインウェポン。
少し声を潜め、周囲の目を逃れるように──横から誰かにかっさらわれるのは惜しい、という態度が滲み始めたところで、
「……たっかぁ! 買えるわけないでしょーがそんなのっ!」
そのナイフの金額である。
予算オーバーなんてものではなかった。数本単位で使い潰すナイフを、さらに10セット買えてしまう。
貴族らしく穏やかな口調なんてどこかへ消えてしまうほどの衝撃であった。
■グスタフ > 「魔獣に叩きつけても折れなかった業物なんで。
丈夫なのは折り紙付き。鈍器使いの私にはあんまり好みじゃないですがね」
胸を張るのは、細かい武器の扱いが苦手でよく武器を潰してしまった男故のモノだったが。
見た目が好みで一式コレクションしていたのだが、すぐに売れそうなのはこの辺しかなかった事情がある。
「お、得手は長剣ですか。
長剣はレイピア風と、曲刀、直刀の三種類が……って、おっと」
彼女の求めに応じて荷物を卸そうとしたところ、響き渡る声に驚いて手を止める。
おや、本当に手持ちがない方だったのか、と更に驚いて。
「おやぁ、本当に手持ちがなかったのか、お嬢さん」
それじゃあ、しかたないなぁと手を差し出してナイフの返却を求めて。
しかし、彼女に渡して掃除してもらうと楽だなと思いながら。
「ま、どーしてもっていうなら。譲ってもいいですけどね、タダで。
話を聞くなら、どうぞこのまま宿までお越しください」
ニヤニヤと男の顔が下卑た笑みを帯びていく。
まさか持ち逃げしないだろうと思いながら。一応、持ち逃げ対策もあるが。
■アレハンドラ・アルディオーラ > 「はぁ……ま、そりゃ本物の魔法の武器ならそれくらいするわよね……。
わかっちゃいるけど高いものは高いっての……」
がっくり肩を落としてのため息。
いざとなれば装備一式投げ出しても逃げる、というスタイルの少女にとって、あまり高級な一品物はリスクが大きすぎるのだ。
それは無論、〝振りかざせば魔物が倒れる!〟だの〝無限に水と酒が沸く!〟だの夢物語のような代物ならさておき、
〝頑丈でなかなか壊れません〟くらいのものともなると、どうにも思い切りが着かないのが正直なところだった。
「はーぁ……ま、人には身の丈というものがあるのでしょう。私には店売りの数打ちで結構。
折れても欠けても惜しくないのが、ああいう量産品のいいところです──」
ナイフを返し、また溜息。
やはり普段使いの店で、安価な品でも買い求めるか──と思った時。
男からの申し出。
その意味を察すると、眉間の皺が色濃くなった。
「……女の口説き方としては、褒められたものではなくってよ。
私につける値段は、その小ぶりな刃物一本分ということかしら?」
■グスタフ > 「もう一本手に入れたいと思っても、手に入らない代物なんでね」
実際、遺跡から発見された代物で。
その先遣隊は全滅しているようなところから発見されたものだ。
割にはあわない犠牲ではあった。そんな事情は男も資料でしか知らないが。
彼女の落ち込み様に、目はあるなと思いつつ、こちらも安売りできない。
「折れて欠けて刃が届かなければ、命を落とす、そういう稼業だろ。
とりあえず、こっちも使うかい?」
地面に、ザグザグザグと三本。レイピア、長剣、曲刀が突き立てられた。
「いや、上等だと思ってほしいね。こいつは嘘偽りない一品ものだ。
次にほしいと思っても手に入るかどうかわからない。
これを譲ってもいいという程度には、貴女の価値を認めている」
ナイフを握ったまま腕組みして、挑むように見せつける。
「ま、お好きなように。一応……持ち逃げだけはおすすめできないな」
■アレハンドラ・アルディオーラ > なるほど貴重な品ではあろうし、提示された金額も妥当……寧ろ安価な程とは言えよう。
これから先の冒険で数十本も武器を使い潰す分を先に一括で払うと考えれば、悪い取引ではない。
悪い取引ではない、が──
「仮にも貴族の端くれの小娘が、歌舞音曲の腕を磨くのでなく剣を取って迷宮に挑むのはね。
実利だけじゃないのよ。そこに夢を見られるかどうかなの。
……つまり私、家柄の割にとーっても気位が高いの。
頑丈な剣くらいの値段付けじゃ、まだまだ喜ぶには足りないわ──」
スカートの端を摘まんで軽く持ち上げ、一礼。
「──あら、ご慧眼。ここが洞窟の中なら、抱えて逃げたくなるくらいには良い剣だわ。
……でも残念ながら周りに人目がありすぎる。盗人の噂はごめんですもの。
だから今回はお互いに、紳士と淑女でおわかれしましょう」
一礼の後、きびすを──返さない。寧ろ数歩、距離を詰めた。
近づいた分だけ声を潜めれば、周囲の誰にも聞こえない。
「……でもね。
持ち逃げでもしそうな、さもしい女に見えたなら、口説かない方が身のためよ?」
そうして少女は、男とすれ違うようにして去っていく。
■グスタフ > 「そいつは見誤ったな。お嬢ちゃんの名前は覚えておくよ」
腕組みを解いて、武器をひとまとめに担ぎなおして。
優雅な仕草で去っていく後ろ姿を見送っていく。
「野蛮なお嬢さんたちと関わりすぎてる俺が悪いな。
侮辱したつもりではないんだ。口下手なもんで」
頭をぼりぼりかいて、疲れたように笑う。
結局、売れなけりゃこいつを持って帰らないといけないんだよなと徒労感に苛まれて。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からグスタフさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からアレハンドラ・アルディオーラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にリエルさんが現れました。
■リエル > 「これとこれ、あとはこれもお願いします」
昼下がりといった時間帯の冒険者ギルド。
朝から受けた採取依頼での採取物を提出した後、ついでと採取したキノコや香辛料といった物も買い取りをお願いする。
今回は普段の少量ではなく、運よく多く見付ける事が出来たのでお願いする量も多く。
受付嬢も、多いですね、とあきれの混じる顔で対応をされるが仕方ないと思い。
「運がよかったんです。できればお願いします」
もしどこかの店に持ち込めと言われれ羽買い叩かれるのを知っているのでギルドで買い取ってほしい。
そんな願いを込めて頼めば、今回だけ、と言ってくれたことに安堵し。
査定してくるので待ってほしい、そう言って渡したものを持っていくのを見送り。
それなりな金額になればいい、そう願っては待っている間の時間を持て余してギルドの中を見回すようにして。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からリエルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にグスタフさんが現れました。
■グスタフ > 夜の教会。
集会場の壇上に一人、神父姿の男がいる。
月明りが差して、ところどころ蝋燭の炎が揺らめいている。
そして、濃い香りが充満している。
蜂蜜を思わせるような花の匂い、雌を呼び寄せる媚薬の香りだ。
教会の扉は薄く開かれて、わずかに香りが教会の外へ流れていっていた。
「さて、迷える子羊に救いを今宵も」
■グスタフ > 男は薄明かりの中、灯台の蝋燭に揺れる文字を読んでいる。
聖書、に表紙を偽装した私小説を読んでいる。不倫した男女の話だ。
複雑な家庭事情やらなんやら載っているが、生々しい情事の描写が巷で評判だ。
「……」
待つにも飽いて、街に繰り出したくもなるが。
一応、こんな待機辞令でも給金が出ていることを思うと、動けない。
誰か来れば暇つぶしをすることもないのだが。それが女性であれば、というのは男の願いだ。
女向けの媚薬を垂れ流していれば、そうそう男は近づかないのだが。
たまに、女性精神の男がひっかかることもあるのだが。