2025/08/28 のログ
■篝 > 「……ん、承諾します。騒ぎません」
変装することになったのは、相手のアドバイスを受けての部分が確かに大きい。
だが、顔を見せることになったとは言え、認識阻害の術は変わらずかかっているわけで。
よほど印象深いことが無ければ、少女が店を後にした頃、青年の記憶に靄が掛かり少女の顔は曖昧なものになるだろう。
少しのうしろめたさから、返事に少しの間が開いた。
そして、明かされる眼帯の下。青年の右目は一目で義眼と分かるものだった。
黄金の中心に浮かぶ黒点は神秘的であり、少女は声は上げないが物珍しそうにその瞳を覗き込み、何度か緋色を瞬いた。
細められた両目には何が見えているのか。紡がれる言葉を聞く内に、好奇心は警戒心に変わり始める。
「――今のは? 何を、見たのですか?」
肯定も否定もせず、ただ一言呟く。
額に汗が滲む様子から、ただの当てずっぽうな占いでは無く魔術かそれに近しい力と認識は出来たが……。
これも、彼が以前口にした千里眼並みの能力の一端なのか。
「暴論……そっか。ん、うん……。幹部の人、には聞いた……けど」
けど。その言葉の先は濁され、一度口を噤み、コップを傾ける。
「振り出しにはなってしまいましたが、名を売りたいだけの者が他に出ないようにする方法はある、と。
承知しました。今回の情報の出どころ……漏洩した経路は、盗賊ギルドに確認します」
複雑に入り乱れる人間の悪意と欲。それに巻き込まれる形となった者は、ただ流されるしかないのか。
これ以上襲撃者を出さないように出来たとして、暗殺依頼の出どころは――。
やはり、最も疑わしい者へ、直接確認するのが確実なのだろう。
「気を付けるのも、わかった。ん、と……もう一つ、聞きたいことがあって。
……カイルスは、そのギルドに入って仕事をしてる。……ですよね?
やはり、仕事は強制? 依頼を選ぶことは出来ないもの……なのでしょうか」
これは個人的な質問。暗殺者として生きたいが、それを良しとしない現実との間で揺れる少女の問い。
■カイルス > 「俺の右目は特別製でね。色々なものが“視”える。普段は透視して、両目が見える人と同じようにふるまえる。
今のは人と人との繋がりを視た。――先生が味方なら、もう片方が敵か」
警戒に近い声色に、種明かしをするように伝える。少女が感じた、男の目の良さ、その理由。
男の能力は万能ではない。今話したこともただ繋がりの太さ、そして感情を視覚情報で認識するだけだ。
「それなんだが……あと数日もしないうちに依頼の期限が切れるから、売名連中も狙わなくなる。
値段をあげて貼りだされるかどうかはわからないが……」
前回話した時、そうなることはないだろうと推測したが外れた。依頼主の思惑はわからない。
他の情報ルートがある以上、根拠のない憶測を伝えるのは避けるべきだろう。
「……まぁ、わかるよな。メンバーでなければ知らない情報を話しているんだから。さておき、俺の所は強制じゃない。
闇のほとんどは、ギルド……相互扶助団体とは名ばかりの、上意下達の犯罪組織だ。そうなってしまった。
相互扶助の体制が整っているごく一部の由緒正しい所だけが、仕事を選ぶことができる。
とはいえ、冒険者と違ってそう沢山案件がある訳じゃないからね。専門で食べていくなら、選ぶ余裕はないんじゃないかな」
紛いものが幅をきかせ、本家は隅に追いやられてしまった――そう上層部は嘆いていたと聞いたことがある。
男は冒険者がメインで、暗殺は副業的な位置づけになる。高額報酬だが出費が嵩む暗殺稼業一本で食っていくのはリスキーだ。
少女の顔を見る目が見開いて、カイルスの身体が硬直した。少女の先、入口を見ている。
入って来たのは一人の男性だった。年の頃はカイルスと同じだろうか。背丈はカイルスと篝の間くらい。
おぶっているのは黒髪の少女。年齢は十かそこらで、幸せそうに眠りこけている。親子――にしては似ていない。
凍りついた顔のカイルスを横目に、男性は通路を歩く。『よう』「……ッス」という短いやり取り。
カウンターの二人を一瞥した後、子連れはあくびをしながら奥の階段を上がっていった。しばらくして、カイルスは溜息。
■篝 > 「特別……。前に言ったアレも、透視で見てた。だから見えないものまで見えてた……なるほど。
カイルスは隻眼だけど、人よりずっと良く見える目を持ってる。強み、ですね。
ん。先生は味方です。もう一つが敵……。その敵は古い関係で、良くないもの……」
得心行ったと納得しつつ、この教えられた強みは、己の姿を晒すことと同等の対価があるのかと言う疑問が浮かんだ。
が、本人が良しとして話してくれたことなのだからと、秘密を素直に受け取っておくことにした。
敵と言う単語には複雑な様子で、細くなった繋がり、良くないと言われたそれをどう受け止めるべきか、正直に迷ってしまう。
敵はやはり、元主――ヴァリエール伯爵なのだろうか。そうなれば、最悪は――。
「――! それは、良いことを聞きました。ひとまず安全の確保が出来る。良い知らせです」
迷いを晴らす。ではないが、良い知らせには顔を上げて、クラッカーにチーズを一枚乗せて口に運び。
サクッ、サクッ……。小さな口で少しずつ齧りながら、濃厚で深みある味わいに舌鼓を打って話を聞いた。
「そっか。選べるギルドも、ちゃんとある……。カイルスの所は、強制じゃない。それが知れただけで、十分。
専門でやるには、厳しいことは理解しました。私では、まだそこに手が届かない事も……。
――でも、大丈夫。これで、目指すところは決まったから」
旧き歴史を持つギルド。そこだけが自由に依頼を受けられるなら、そこを最終地点と定める。
冒険者と、盗賊と、暗殺者。三足の草鞋を履いての欲張りだった。
暗殺は所詮は殺人。良いも悪いもなく、ただ命令に従うだけである。
本来の少女なら、依頼を強制されたとしても素直に受け入れていただろうが、今はそれで迷惑をこうむる保護者がいる。
それでも、暗殺者として生きていくなら、仕事を選べる立場にならなくてはいけない。
そういう意味で、青年が籍を置くそこは少女にとって目指すに値するものであった。
「――? ……カイルス、今の人は?」
不意に固まった青年の顔を覗き込み、軽く真央の前で手を振ってから後方に視線を向ける。
そこに立つのは、見覚えのない男と、その背に背負われる幼子。
ぎこちない挨拶を交わして、彼らが部屋へ去るのを見送った後、何気なしに尋ねた。
親しい感じではなく、どちらかと言うと彼が一方的に相手に緊張している。苦手、としている印象を受ける。
■カイルス > 「前……あぁ、冒険者ギルドでのことか。そういうこと。
色からすると、そう表現した方がいい。ただ……その繋がりは弱くなっているように見える。
そのまま放置したら消えてしまいそうだった」
少女に繋がっていた糸は元々は太い綱だったのかもしれない。だが、男が見た感じではほつれ、千切れそうな印象を受けた。
暗殺依頼を出した者がその敵ならば不可解なことがある。関係――関心が薄れつつある相手を暗殺するだろうか。
殺さねばならない執着とか、相手への負の感情だとか、そういうものが感じられなかった。
その感想を伝えようとして、やめる。心当たりがあると言った時、少女は少し嬉しそうな雰囲気を漂わせていたから。
「俺個人としては深入りはお勧めしないけどね……。先生って人にも相談した方がいいんじゃないかな。
俺は斥候ができる人として活躍してほしいな、って思ってる」
少女の背景を知らないため、強く否定することはできない。畢竟他人の人生だ。
彼女が信頼しているであろう先生は、聞く限りではまっとうな感性を持っていそうだ。彼か彼女かに期待することにする。
続けて男は自分の希望を告げ、それが少女を助ける理由だと付け加えた。
「……前話した人」
小さく告げる。男が特定の誰かを少女に話した機会は一度しかない。あれが“聖騎士”のようだ。
「良かったことが一つある。あの人は君の件に関わってない――少なくとも、命を狙ってはいなさそうだ。
狙ってたら? ……俺も君も、こうやって話せていないよ。今頃二人とも真っ二つさ」
子供を背負った状態で、平民地区の満席に近い酒場で人間二人を藁のように斬り裂ける――にわかには信じがたい話だ。
それができる技量もなのだが、それ以上に人間性としての異常さが際立つだろう。
真面目な顔で話すカイルスも、平然と聞いている女店主も。話を盛っている訳ではなく、能力と性格を正確に把握しているようだ。
長い息をついた後、カイルスはマグカップをぐい、と傾けて喉を潤した。
「推測だが……君の暗殺の件は、何か別の狙いがあるんだと思う。
金額からしても、敵は殺害を目的としているようには思えない。何なのかはわからないが……」
■篝 > 「色でも判断するのですか。んー……、そうですか。助言として受け取ります」
青年の鷹のような瞳には、どんな風に見えているのだろう。想像は難しく、兎に角言われた事だけを素直に受け入れる。
件の依頼も期限が過ぎれば取り下げられる。それが、己と元主の縁の切れ目となるのか。
繋がりが弱まる理由を少女はそうとらえ、やはり複雑な心境はそのままだった。
「カイルスも、そこで働いているのに……? 理解に苦しみます。仲間が増えるのは良いことだと、言っていたのに。
先生に相談……ですか。私は…………――」
それ以上言葉は続かず、少女は重く口を閉ざしクラッカーを齧りながら前を向いた。
皆、暗殺者として生きることには否定的で、真っ当に生きる道をと少女を誘う。
暗殺者で有り続けたい。そうなるべき。そう在るべきと頑なな少女は、その度に立ち止り迷うのだ。
同じ穴の貉であるはずの彼までも、同じようなことを言う。それが理解できずに、また迷い、少しの不満さえ抱いた。
青年の知り合いらしいあの男が例の人物だと知り、少女は目を丸め、男が消えた先をチラリと見やる。
確か、忠告の中に出てきた聖騎士なる者。アレがそうなのかと、ぼんやり考えては、続く言葉にまた目をパチクリと瞬かせ。
「関わってない、狙ってない、なら良かった。カイルスの知人と、殺し合うのは避けられる……う?
真っ二つ……。カイルスまで?」
気を付けるようにとされた忠告で、特に親しい者をと言われたが、その心配自体が杞憂だったと言うことか。
それとも、依頼書の件に絡んでいないと言うだけか。
よくわからないが、これまた良い知らせと頷きかけるも、物騒な話にまた首を傾げることになった。
真面目な顔の彼と、平然としている店主を一瞥して、あの男を要注意人物と再認識するのに時間はそうかからない。
「前に言っていた、別の狙い……。私を仕留めること、消すことが目的でないなら……。
私が知っている情報が欲しい、とか。もしくは、その情報を得たと……思わせたい……。
ん。不明瞭な点が多いです」
考えて見るけれど、答えはまだまだ霧の中だった。
■カイルス > 「俺は冒険者の同業者と仲良くやっていきたいんだ。
闇の方は情報交換とか連携とかがないからね。全部ギルドを通してさ」
男が矛盾したことを言っているという指摘に解説をするが、少女を納得させることはできないだろう。
「……ま。上流階級の世界は狭いみたいだからね。どこかで繋がってるのかもしれないけど。
あぁ、とりあえず殺してから考える。そういう人なんだ」
一度殺して身体を拘束しておけば、蘇生させて尋問することもできる。他の方法で証拠を固めて殺したままにもできる。
関わらないに越したことはない人物だと告げておく。
「俺の中ではこれかな、という推論があるが――聞いてみるかい?」
もう頬の赤い痕は消えてきただろうか。少女が望むなら、説明をすることになるだろう――。
■篝 > 「……屁理屈です」
それなら冒険者として生きて行けば良い。とは言えない。
相手の事情は勿論、暗殺者がそう容易く足を洗えないことは少女も理解している。
それでも、認めず不満げに言い返すのだった。
「かなり、素行に難がある人物であると認識しました。以降、警戒します」
とりあえず殺す。という考え方自体が異常である。
蘇生で解決できないこともあるかもしれないのに。
色々な意味で人でなしの部類と判断し、以前よりもはっきりと警戒の意志を強く持った。
続く言葉には、もう一枚とクラッカーに伸ばしかけた手を止めて。
「……参考までに、伺います」
答えに近づく可能性は一つでも欲しい。
一人で考えて答えが見つからないならば、他者の知恵を借りるのも解決策の一つだ。
ある種の信用を青年に抱く少女は素直に頷き、声を顰めて話を聞こう。
此処から先は、店主にも聞こえないように、内密に――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からカイルスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」から篝さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にリリエットさんが現れました。
■リリエット > 「えぇと……ですから。打撃に使える短い杖が欲しいのですけど」
平民地区のとある武具屋。
そこのカウンターで店主に今探している武器を告げる。
しかし魔法の媒体に使う杖、それの打撃に使えるものという物を求めれば店主は難色を見せ。
普通両立させないものを求められ、しかも短いとなれば難しいのだろう。
とりあえず探してみるという店主が奥へと引っ込むのを眺めては待ち時間の間に商品を眺めようとカウンターを離れ。
色々と並ぶ武器、主に短めな短剣や槍,こん棒を眺めては手にし。
重かったりなどですぐに戻したりするのだが、商品を眺めて。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からリリエットさんが去りました。