2025/08/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にカイルスさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にさんが現れました。
カイルス > 平民地区、住宅街にある酒場兼宿屋。
カウンター席でぐったりしている男の姿が窓や入口からうかがえる。

外から見える男の横顔、左頬には紅葉か、あるいは拳の赤い痕がついている。
この店に辿り着くまでの間、すれ違う娘さん達がくすくす笑っていたので平手打ちなのだろう。
目の前の女店主はゲラゲラと、妙齢の女性がやってはいけない笑い声をあげるだけなので判別できない。

「……いや、笑うのはいいんスけどね? 注文した奴を出してからにしてくださいよ」

僅かに抗議の声をあげると、もっともだとばかりに女店主は銅のマグカップを手に取った。
いくつか氷を入れ、バー・スプーンで手早くかき混ぜる。手の甲でカップが冷えたことを確認してから贅沢にも氷を捨てた。
マグカップに再び氷を詰め、何度かに分けてジンジャエールを注ぐ。炭酸がぱちぱちと爆ぜる感覚が耳に心地よい。
オーセンティックバーもかくや、という丁寧なサーブをした後、店主はこらえきれずにまた笑いだした。
男は憮然とした表情をしつつも、キンキンに冷えたマグカップに口をつける。

> 平民地区の中にある一軒の宿屋。酒場も兼ねたその店は、今日も賑やかで活気に満ちている。
その中でもより明るい笑い声がカウンターから響き、釣られて視線を向けたり、笑っている客や店員もチラホラといた。
店主がこの調子なのだ。笑っては可哀そう、なんて情けをかけるよりも、明るく笑い飛ばして酒の肴の一つにでもしてやろうと言う者がほとんどだった。

青年が手元に届いたマグカップに口を付けた、丁度その時だった。
すぐ隣の席からその横顔を覗き込む者がいた。
学院の制服に酷似した黒いワンピース、その上にケープを羽織り。頭には黒いベレー帽を被る少女だ。
少女は白い髪を揺らし、燃えるような緋色の瞳で青年の顔をかくにんしたかと思うと、一言。

「……やっと見つけた」

抑揚のない声で小さく呟き、断りもなく左隣の席に座る。
注文を尋ねる店主には少し考えるように口を閉じ、再び青年の方へ顔を向け。

「……カイルス、は何を飲んでいるのですか?」

まずは当り障りのない、ふと浮かんだ疑問をぶつける。

カイルス > 「いや、これはいつものじゃなくて仕事で……」

冒険者の仕事で平手打ちをされる状況などそうそうない。どうせナンパにでも失敗したのだろうという周囲の目。
何を言っても酔漢には通じないし、どうせ明日には忘れている。ちびちびとジンジャエールを飲み――隣に座った少女に気付く。
美少女から見つけた、と言われる状況は悪くはない。どころか、今日の惨状を覆す僥倖だ。
しかも、少女は男の名前を知っている――ふと疑問に思う。名前を教えた女性のリストに少女の顔はない。

「これはジンジャエールだけど…………君は?
うーん、おかしいな。君くらい可愛いコなら、絶対に忘れる訳はないんだが。待って待って、思い出すから名前は言わないで。
俺の名前を知ってるってことは――それなりに親しい筈なんだけど。どこで会ったっけな……あー」

何か思いついたようにぽん、と手を叩くと笑いかける。

「前世か」

キザな台詞。ナンパをする時の口説き文句の一つ。赤い痕がついているから三枚目の振る舞いにしか見えない。
その状況に気付き、自分で言ってから笑いだしてしまった。相変わらず少女に心当たりはない。
この前砂浜に打ち上げられてた所を助けた人魚が化けて出てきた訳でもなさそうだ、と相手の自己紹介を待った。

> 相手の答えを聞き、ふむとまた少し考えて。
続く問いに答える前に、店主へ視線を向けて注文を。

「私も、同じものをください。――それと、何か摘まめるものを」

注文を受けた店主は“あいよ”と短く返事をして、上機嫌な様子で先に飲み物の準備に取り掛かる。
そして、再び緋色は青年の方へ向けられ、言う通りに暫く黙したまま記憶を探る様子を眺めていたが……。

「いいえ、前世での関りは存じ上げません。
 今、わかるのは……今日も、カイルスはナンパに失敗したと言うことくらいでしょうか」

笑い上戸なのか、自分で言って笑いだした青年が最終的に出した結論に、少女は真顔で首を横に振り全否定した。
そして、その頬にくっきりと残る紅葉の痕を凝視し、掛ける言葉は慈悲もなく。
愛想笑いの一つもしない無表情の少女は、人形のように無機質に言葉を紡ぎ、そうしてカウンターを滑り現れたマグカップが目の前でピタリと止まったのに目を瞠る。
店主を見れば、もうすでに背を向けてツマミの準備に取り掛かっていた。熟練の動きに内心で感心しつつ、カップを両手で持ち上げて答え合わせをしよう。

「……私は、篝。……貴方とは、今生での記憶しかありません」

ぽつぽつと呟きをカップの中に落として、一口含めばジンジャエールの爽やかな泡が口内で弾けた。

カイルス > 黒髪の女店主は銅のマグカップに入った飲み物を少女に提供した後、カイルスの伝票にさらさらと何かを書き込む。
ナンパのようなことをしてるのだから当然か、と男は抗議の声を呑み込んだ。
ナンパに失敗した所を見られた後に話した相手――記憶に該当するのは一人しかいない。

「……確かに背丈はそれくらいだった。へぇ……どっからどう見ても学院の生徒さんだ。
無事でよかったよ。今朝もまだ依頼書は掲示板に貼られたままだったから、誰も受注してないとわかってはいたんだが」

正体を知って、男は驚いたように唸った。少女だったということと、彼女が服装をちゃんと変えたこと。
この状態ならば狙われることはあるまい。値は上がったものの、報酬はいまだ十分な額とは言えなかった。

「それで……見つけた、ってのは?
まさかデートのお誘いをするために探してた訳じゃないだろう?」

それなら嬉しいんだが、と付け加えて緩く首を傾げてみせる。
男からも現状について伝えることはあるが、まずは彼女の用事が済んでからにしよう。

二人の間に“つまめるもの”が置かれる。
高級チーズの盛り合わせ、クラッカー添え。平民の一日分の生活費が吹っ飛ぶ、この酒場にはやや不似合いなもの。
続けて伝票にさらさらと書き込まれる。男は料理と女店主を交互に見比べる。二人はどうやら知己なのだろう。
軽くため息をついてから、少女の用件について、促すように手で示した。

> よく冷えたジンジャエールは喉越しが良いのは勿論、パチパチと弾ける泡が面白い。エールよりも炭酸が強いのだろう。
飲み込んだ後も生姜の風味が僅かに口の中に残る。
初めての味を興味深く感じながら、隣から聞こえる声に耳を傾ける。

「そうですか。で、あれば喜ばしいです。
 ……無事、ではありますが。先日刺客の襲撃を受けました。大した敵では無かったので、問題はありませんが。
 其方の依頼が受注されていない……と、なると、別件だったのでしょうか……」

唸る声には少し胸を張り、この擬態もそこそこに上手く出来ているのだと自信が持てる。
しかし、暗殺依頼を受けた者がまだいないとなると、疑問が浮かんで考え込み視線はカップの底へと向く。
暗殺ギルドは複数あると聞いたし、彼が見た場所とはまた違う所で受注されたものなのだろうか……。
首を傾げて問う声に視線を上げ、間髪入れずに。

「はい。お聞きしたいことがありましたので、探していただけです。
 情報料はお支払するつもりでしたが……デートをご所望であれば、検討します。
 (しとね)の供は、遠慮しますけれど……」

はっきりと肯定して返した。しかし、金よりもデートの方が相手にとって価値があるなら、それも交渉の皿に乗せる。
形だけでも若い娘とデートをすれば、酒場で笑いものにされた青年の名誉を挽回する一助となるかもしれないし。

互いの間に置かれた皿に自然と目が行く。切り分けられた高そうなチーズと、クラッカーが並ぶそれを見てパチパチと目を瞬かせつつ、店主と青年のやり取りの意味には気付かず小首を傾げた。
そろりと手はクラッカーに伸び、口は話を続ける。

「私が聞きたいのは、その依頼書があるギルドについてです」

入会方法は前に聞いた。今回聞きたいのは、それ以外のこと。
例えば、ギルドの名前であったり、場所であったり。そう言う詳細だった。

カイルス > 襲撃を受けたという話を聞いて真顔になる。胸中の疑問に答えるように、丁寧に男は話した。

「トラブルの元になるから、同一の依頼主が複数ギルドに発注することは普通しない。同じ理由で、依頼主が別途手駒を動かすのもない。
とにかく誰でもいいから早く片付けてほしい、って場合でも、混乱を防ぐために依頼書にその旨を明記する。今回はそれもない。
…………あーー。そっちの線があったか。ごめん、忘れてた。安い依頼は時々情報がギルド外に漏れるんだ。何故か。
だいたいそういうのは盗賊ギルドで手に余ってこっちに回されてきた案件が多いんだが……」

心当たりにぶちあたったのか、ため息と共に長い声を出す。そう大きな声ではないので、気にする者はいない。

「ギルド外の人間が依頼を達成しても報酬を払う必要は当然ないが、やった奴は注目される。
何回かそんな事があれば実力がありそう、ってことでスカウト対象になる。だから、その手の仕事でキャリアアップを図る手合いがそれなりにいる。
大したことがなかった、ってんならそういう奴等かもしれない」

情報の流出。あまり宜しくない事態だが、意図的な流出の可能性を男は疑っていた。
聞きたいことがある――前回、雑貨屋で話したことの続きだろうか。

「はは……お金絡みのデートは楽しくなかろう。考えようによっちゃ、今がそのデートかもしれない。
答えられることと、制約があって答えられないこと、知らないことがある。
満足のいく回答ができるかはわからないが……」

ちらり、女店主を見遣る。少女に対して変な事をしようものなら店から叩き出しかねない表情をしていた。
男にとって金は必要だが、そこまでではない。差支えないことであれば教えるつもりだった。

> 説明を聞き、一応は納得したように頷きを見せたが、何故か少女は心なしか気落ちしているのか口を閉ざした。
せっかく例の依頼人に通じる手掛かりになるかと期待しただけに、期待外れ良いところ。
しかし、あの烏合の衆の出どころが、半端者が売名の為にやったこととなれば納得は行く。
二人の嘆息が重なる。

「……はぁ、残念です。また振り出し……。先生になんと伝えればよいやら」

ついついぼやきも漏れるもの。
背を丸めて俯きながら、ちびちびとジンジャエールを飲んで、快い返事を受ければ今度は少し肩透かしを受けてジィッと隻眼を見据えた。

「お金で買うデートは楽しくない……? そう言うものですか。
 承知いたしました。では、これをデートとしてカウントします。

 ――ん、応えられる範囲で構いません。協力、感謝します。
 まず、闇……ギルドと今は呼びましょう。それが、複数あるのだと、とある盗賊ギルドの幹部からお聞きしました。
 私の依頼が出されていることも、確認しました。
 カイルスが依頼書を見たと言うギルドの場所を、教えることは出来ますか? もしくは、ギルド名……」

何を持ってデートと呼ぶのか、定かではない。少女は首を捻るが、これがデートなのかと首肯して話を続ける。
確認したい事の一つ目。場所か名前を知ることが出来れば、依頼元の詳細や、騒動の根を知ることが出来るのではないかと。

カイルス > 「……服装を変えて素顔を見せてくれたんだ、俺もちょっと秘密を明かすか。驚いても大きな声はあげないでくれよ?」

振り出しに戻ったと気落ちする少女に、気が紛れる話だとでもいう風に語りかける。
驚かないと少女が約束すれば、男は眼帯をずらして右目を晒す。白目の部分が金色で、瞳孔は真円の黒。猛禽類の目を思わせる義眼。
少女から何かを読み取るように男は両目を細める。

「強い繋がりが――二人。一つは古く……あまり好ましくない感情だが、細くなっている。もう一つは新しく、良い。“先生”かな?」

霊査。少女の発言だけからでも、彼女が孤独ではないこと、暗殺騒動に共に立ち向かう人がいることが読み取れる。
言葉を紡ぐと、眼帯を元に戻した。空調がきいた室内なのに、男の額には汗が浮かんでいる。

「複数あるのは確かだ。侯爵から騎士爵までまとめて貴族、って一緒くたにするぐらいには乱暴な話だが。
依頼を確認した……なら、その幹部に聞けばいいんじゃないかな。
さっきも言った通り、複数のギルドに依頼を出さないし、出す時は注釈がつく。だから君が知りたい所は一か所だ。
ってことは、君が知りたい情報をその幹部は知っている、ってことだ」

不思議そうに尋ね返す。何か情報を知っていて、裏取りをする聞き方のようには思えない。

「それと……ちょっと、気を付けた方がいいかもな。闇の情報は調べて簡単に見つかるものじゃない。
確かに情報はどんなころであれ、いつかは漏れる。だけどね。『闇の情報を』掴める所がそういくつもあると思うかい?
つまり……その幹部に伝わるまでの間に、別の所にも情報が流れている。幹部はそのルートを洗った方がいいな」

篝を襲った者の素性を逆算した結果、あまりよろしくない推測に辿り着く。