2025/08/16 のログ
> 瞳の動きだけでも表情豊かで、困惑していることが良く分かった。
言葉が少なすぎたかと、またぼんやり迷っていたが、なんだが安堵する様子も見えて。

「……ん、変な、話……ですね。申し訳ありません」

淡々と紡ぐ声は変わらず平坦で感情を伺わせない。
瞬く瞳を真っ直ぐに見つめて、まさかの提案に今度は此方の緋色がゆっくりと瞬く。

「……良いのですか?」

聞き返すより早く、青年はバケットサンドを両手に持ち。
ふわり、魔力の流れを肌で感じると、次の瞬間には風がバケットサンドを両断する。無駄のない、見事な魔法だった。
ごく自然な態度で差し出された其れと青年を一瞥し、毒の心配も少し過ったが……

「酢漬け、の魚……頂きます……」

人の良さそうな青年と甘酸っぱい匂いにつられ、そっと手を伸ばしバケットサンドを受け取った。
スパっと切られた綺麗な断面をまじまじと見つめた後、ベンチを半歩左へズレて、空いた右の席と相手を交互に見る。
相席を促しているつもりらしい。

オズワルド > 君の感情はやっぱり見ても判らないけれど。
言葉の一つから、ちょっとだけ見えて来るものもあるから。

「謝られることは別にないよ。だいじょーぶ。
 でも、君が今、メンタル変になってるのはわかるかな。
 良かったら、話聞こうか?話すことで楽になる内容なら。」

アドバイスはあんまり期待しないで?と補足を入れもするけれど。
向ける感情は、ただちょっと心配して、おせっかいをしている。そんなもの。
――なんだか、影が薄い感じの子だし。押し強くしたら消えてしまうようなはかない感じだもの…。何時もの助兵衛心はそうっとしまい込んだ。
如何にドスケベのオレであっても、メンタル弱ってる子に漬け込む真似は…まあ今日は医者からダメって言われてるし…やらない はず。

「ん、いいよいいよ。美味しく奢られておいてくれ。
 女子に飯を奢るのは男の甲斐性だし――ん?」

君が横に動いたのを見て、ぱちり、また赤い瞳が瞬いて。
交互に見やる視線に、ああ、と一つうなずいた。

「じゃあ、お隣おじゃましまーす。」

体育座りしていた腰を上げて、すいっとベンチの上、お隣さんに腰を落ち着ける。
ただ、姿勢はやや前のめり。頭の高さを、なるべく低く保つのは、威圧感をなるべく減らすために。

「で、いただきまーす。」

そうして、率先してぱくり。バケットサンドにかぶりつく。
かり、ざく、もぎゅ。
むぐむぐ…。ふわ、と口元がほころぶ。やはり、酢漬けの魚はうまい…!シャキシャキの葉野菜も御酢の強い味を和らげてくれている…うまい!

> 「……親切。話を聞く……? お節介焼き、が趣味の人?」

初対面の相手に、こうも心を砕いて気をかける人間は珍しい。
キョトンと目を丸めて首を傾ぎながら、少し硬いバケットサンドを両手で握り締めた。
ここで助平の言葉か手の一つでも出ていたなら、警戒レベルは一気に跳ね上がり、威嚇されていたに違いない。
しかし、今はそんなこともないので穏やかな時を過ごす。

「甲斐性……。そういう、もの? ん、理解しました。……感謝」

コクリと頷き席を譲れば、見下ろしていた青年が隣へと移る。
少し背を屈めるようにして座る姿を不思議そうに横目で眺めながら、美味しそうにバケットサンドを頬張るのを確認し。
此方も少し遅れて小さな口で齧りつく。もぐ、もきゅ、むきゅ……。
野菜のシャキッとした歯ごたえと、魚に沁み込んだ酢漬けの甘酸っぱい酸味と塩気。
初めて食べた露店の食事は新鮮で、店で食べる料理とはまた違う美味しさがあった。
緋色は細められ、猫はもくもくとパンに齧りつく。

「……ん、くっ。ぅー……。美味しぃ……。

 ――ぁ、んと、話……。今悩んでる事が幾つもあります。どうすれば良いか、迷ってる……。
 聞いてもらえるのは、とても助かります。」

そう前置きをして、

「一つ。
 今、世話になてる人の、迷惑になるとわかってるのに、変えられない……変えたくない、こだわりがある。
 私は、こだわり……夢を、捨てるべきでしょうか?」

静かな口調で青年に尋ねる。
アドバイスはー、と補足されていたので、質問はYes、Noで答えられる形にする。

オズワルド > ごくん。口の中のサンドを、一度飲みこんで。

「…だって、寂しそうだったから。」

ほんのりと、赤い目を細めて。伺うように、隣の君に視線を向ける。

「そういう風に見えたら、ちょっと声かけてみようかなってなったんだ。今日はそんな日だった。」

見当違いならごめんなー、と返す声はあくまで軽い。
重さを伴わない、軽い会話という形を崩さない姿勢。

「どういたしまして。
 ――な、美味しいだろ?魚は煮ても焼いても美味いけど、一番美味いのは酢漬けだと思うんだよね。」

美味しいの言葉が聞こえれば、調理したわけでもないのに自慢げな声。
にぃーって口の端を持ち上げて笑う顔は、美味しいの言葉が嬉しかったが故のモノ。
ドスケベをしまえばこんな男である。

「なるほど。迷子じゃないけど迷子はそういうわけか。
 よしきた、この軽い男が話を聞こう。」

軽い男、わざとらしく仰々しく、頷いて見せる。この仕草からして軽い感じが隠せない。
ふんふん、なるほど、そんな言葉を交えながらに、話を聞いて。

「それは難しい問題だね。わかってても、夢を捨てるのは難しい。
 でもお世話になってる人に迷惑をかけてでも抱え込む、というのも難しい。
 なのでオレからは、今はYes、って言い方になるかな。」

これはアドバイスになるかもしれないけれど、と一つ言葉は置いて。

「今はお世話になっているかもしれないけれど、何れ独り立ちすることもあるかもしれない。
 その時には、夢を拾いなおしても良いんじゃないか。オレはそう思った。」

> 「……寂しい? ……そっか、私は……」

寂しかったのか。
懐かしささえ感じる元主の名残を目にして、寂しくなってしまったのか。
言われて初めて己の感情を理解したように、少女は手を止め齧った跡の残るバケットサンドを見下ろす。
明るく風のように軽い青年の声は優しく聞こえ、やはり親切な人間だと改めて思う。

「うん、美味しい。甘くて、酸っぱくて、野菜はみずみずしい……。
 魚の酢漬け、美味しいです。でも、一番は迷う。魚は、生も捨てがたい。
 温泉旅籠で食べた、刺身、寿司……あれも、良いもの……」

カプリと噛みしめればジュワリ滲み出るタレがパンに沁み込んで、それがまた美味い。
自慢したくなってしまう気持ちもよくわかると、嬉しそうに白い歯を見せて笑う彼の顔を見て、コクコク何度も頷きながら。
しかし、一番を付けるのも難しくて、今まで食べた美味を思い出しながら悩んでしまう。

さて、相談ごとである。
軽い調子ながら、親切心に溢れる彼が出す答えに耳を傾けて。

「離れる許可は、捨てられない限り無い……と、思う。
 けど、いつか一人になる可能性は……ある。
 夢を隠しておくこと……後で、一人になった時に拾う。その考えはなかった。
 これは一考の余地があります」

一応の納得は示し、頷いた。
アドバイスには素直に感謝して、参考の一つとして記憶に刻んでおく。

「……あの、もう一つ、相談……聞いてもらっても良い、ですか?」

良い答えを貰っただけに、更にもう一つと相談を願い出て、少し身を乗り出した。

オズワルド > 「――一緒にご飯して、ちょっと寂しさ埋めれてたら嬉しいな?」

そんな、軽い男の軽い言葉。
言った後に、気恥ずかしさをごまかしにバケットサンドにかじりついた。
さく、かり、もぐもぐ…。ごくんっ。
聞こえた言葉に、勢いよく口の中身を飲み込んだ。ちょっと喉につかえて咽つつ。

「生!?
 え、魚って生で食べれるの?うっそぉ…すぐ悪くなるって聞くのに…。
 温泉旅籠で?食えるの? 高そ…。」

食べ比べられねば比較できぬと、ぐぬぬ、と少し悔しそう。まさか、酢漬けの魚に比肩する食べ方があるなんて…。

「いずれ稼いで食いに行こう。どこの旅籠?」

心の中で、一つ目標の定まった日。

「離れる許可…ふむ、ふむ?
 ――うん、参考になったならよかった!」

何やら重たげな話だな?とそう思えば、そうっと一度口をつぐむ。
今の私は軽い男。軽々には事情に足を踏み入れぬ…軽いのに。

「お。良いよ。オレで良ければ話聞こうか。」

身を乗り出す様子に、暗がりの中、帽子でやや隠れがちだったお顔が見えた。
やっぱり表情は薄いというか、無いけれど。…動作が素直だな、なんて素朴な思いが心に浮かんで。

> 「……貴方は、変わってる。良い意味で、です」

ナンパの言葉としては甘い誘い文句だが、言った本人が照れくさそうにバケットサンドをがっつく姿を晒してしまえば、心なしか微笑ましささえ感じるもので。
ナンパなんてされたことの無い少女は、変わらず不思議そうに青年を眺めていた。
が、途中で驚愕の声を上げられると驚き、帽子の中の耳をピンッと立てて。

「う? ん。生。私も、そこで初めて食べた。
 新鮮な魚、肉とも違う、さっぱりしてて、でも油も乗ってる。魚ごとに、味も違う。
 ……た、多分、高い。とても、高いです。驕りなので、値段はわからない……。

 ――ん、九頭竜の水浴び場? だと思う」

悔しそうな声を聞いて、せめて美味しさの情報だけでもと、たどたどしいながら解説をして。
値段の話になると少し声を落として言った。
これは中々頑張って貯金をした方がよさそうだ。

そして、相談はまだ続く。
はたして、軽い男に投げてよい問題なのかという内容へと、話は傾いていく。
身を乗り出し顔を寄せたまま、少女は声を潜めて言った。

「少し、厄介ことになって……ちゃんと死ななかったから、命を狙われてる。
 私は勿論、一緒にいる人もきっと危ない目に合う。
 でも、その人はスリル?を、愉しむから、危険も喜んではいる。
 ……私は心配だけど、でも私はその人の所有物だから、口出しできる立場にありません。
 私を殺したい元所有者と、私の今の所有者、どちらにも生きていて欲しい。
 私は、どうすれば良い? 黙してただ見守るしかないのでしょうか……?」

喩え話か冗談か、あまりにも突飛な話だった。
しかし、無表情ながら少女の瞳は真剣で、冗談でないことが理解できてしまうだろうか。

オズワルド > 「それって褒められてる?
 良い意味だったら、また一緒にご飯しよ。」

くすぐったそうに肩をすくめて。
重ねて告げた言葉は、それこそ下手なナンパだった。

「くっ…聞いてる分には美味そう。
 脂ののった魚は焼くと美味いからな…それが生で提供…ぐぬぬ。
 九頭竜かぁ…なるほど。教えてくれてありがとう…。
 …絶対貯蓄して食いに行こ。」

ありがとうの言葉が含まれていても、声からにじむぐぬぬな悔しさ。
美味しいものはやはり、食べ見たいものだから。すぐに味わえぬのが口惜しいのだ。
まあでもバケットサンド美味しいから良いか。
そんなわけで、すぐにぐぬぬな表情も消えてなくなり、口元に笑みが戻る。サンドうまし!

そんなわけで、軽い男はサンドをパクつきながらに話を伺う。
ふんふん、なるほどねえ、ははぁ…うん…そっか…へぇ…。なるほどね!
徐々に声から張りが無くなるのは、内容の重さ故。最後の一言だけ、軽い感じに元気な声に戻し――、

「いやぁー、無理でしょ。」

申し訳ないが、ばっさり切った。

「自分で自分の身を守れないで庇護下に居るなら、ちょっと口出すのは無理だよ。
 それは、高望みをし過ぎだとオレは思う。」

申し訳なさそうに、小さく眉を寄せながら。言いにくいけどきっぱり口にする。
だって、それを本当に世話になっている人の前で告げれば、傷つくのはきっとこの子だ。

「ただ、そういうのって悩むよね。望みはあるけど、人付き合いや世間体がそれを許さないってやつ。
 それで、そういうのに限って、頼りになる保護者には言えなくなる。」

でも、悩みに多少寄り添うくらいはできる。

「だから、もしわかってても悩みが消えなくて、吐き出さなくちゃしんどいなってなったら。
 オレが愚痴聞くくらいならできるよ。関係ない、軽い男だからね。
 なんて、言えるのはこの位で申し訳ないけど。」

> 「……? ん、了承します。また美味しいもの、教えてください」

露店でも、なんでも。また違う美味しいものには興味がある。
むずがゆそうな仕草をじぃっと見つめたあと、僅かに口元を綻ばせ小さく首肯した。

「うん、生は危険だけど、あれは勇気を出してでも食べた方が良い。
 それだけの価値があると断言します。
 ……応援する。ふぁいと?」

あの美味しさを伝えるには言葉だけでは足りぬ。こればかりは、本人の貯蓄次第。
応援の言葉を投げかけながら、バケットサンドを頬張る姿はやけ食いにも見えなくはないが、途中から笑顔も戻り一安心。
サンド片手に話を聞いていた彼の声が徐々に萎れていくが、下された結論は明るくばっさりと言い切られる。
無理だとわかっていたが、もしも何かいい方法があるのではと期待していただけに、少女の顔はゆっくりと俯いて行き、正面へと向き直り小さくなってしまう。

「無理……そっか。無理、ですね」

言いにくそうにしながらも、此方を思いはっきりと注げてくれる答えを聞きながら、少し考え込んで。

「……保護者。庇護下。自分の身を、自分で守れれば……口を出せるようになりますか?」

ポツリと呟き、顔を上げて再び其方へ振り返る。

「ん、保護者……を、困らせたくない。から、言えなくなる。
 勝手なことをして、相談しなかったこと……怒られるの、わかってても……。
 止められるの、わかるから……相談できないっ」

溜め込んでいた感情を吐き出すように、口から言葉が溢れて来る。
声を詰まらせて、言い切れば、深く息を吸い深呼吸を一つする。淡々とした抑揚のない声に戻そうとした。

「……ごめん、なさい。ありがとう。相談、乗ってくれて……少し、楽になった。
 えっと……なんて、呼べばいいですか?」

そう言えば、まだ名前を聞いていなかったと今頃になって気付き、首を傾げて。

オズワルド > 「露店の安い飯であれば色々教えられますとも。」

お任せあれ!
何時の間にやらサンドは食べ終えていたので、両手を腰に当てて、えへんと胸を張って見せる。
露店の安い店であれば、まあ、奢るのも問題ないしやぶさかでもなし。
そう考えるくらいには、男の子である。

「そうか…必要なのは、お金と勇気。
 オレ、頑張ってみるよ…!」

少女の応援を身に受けて、よし、と拳を握るガッツポーズ。
オレは…スシ?と、サシミ?を食べて見せる…いずれ、必ず…!
まあ、年をまたぐくらいには先の話にはなりそうだけれども。

ここまでは、意気軒高で宜しかったのだけれど。
重ねられた問い、口を出せるようになるか、それについては、ゆるり、首を横に振る。

「それじゃ足りない。
 他人の方針を覆して、荒っぽく言うと無理やり言うことを聞かせようとするのなら。
 相手よりも強くなる。それしかない。
 …君の場合は、自分を殺しに来る奴よりも、君を守ってくれる誰かよりも。 両方相手どるくらいじゃないと、
 そうじゃないと、嫌だと、邪魔だと言われた時に、どうしようもなくなる。」

軽さでは支えきれない、どうしようもない現実の話。
望むのであればどうしても、力が必要な残酷な現実。言葉一つで変えられる奇跡なんて、一般庶民の自分は持っていない。

「…きついこと言ってごめんな。軽く言えたらよかったんだけど。
 うん…わかるよ。身内で、守ってもらえるからこそ、相談できないよな。
 オレの場合は無理やり押し通したけど…命かかってたらなー。無理だよなー。」

たとえ話じゃなくて、ガチ話として受け止めたので。そこはちゃんと、無理だよな、は口にしてしまう。
ただ、相手が深呼吸して落ち着いて、声の調子も落ち着いたのがわかれば、にって笑いかけて。

「話聞こうかって聞いたのは、オレの方じゃん? 聞かせてくれて、ありがとうな!」

最初に返すのは、そんな言葉。

「オレはオズワルド。オズって呼んでくれ。ちなみに連絡先はラジエル学院の学生寮の〇〇〇番です。
 いっしょにご飯食べたくなったらお手紙よろしく。
 君の名前は、聞いて危なかったりするなら偽名で教えてくれると助かる。 どう?」

> 「……次、何か食べる時は私が驕る。
 甲斐性も大事、だけど。野望……生の魚を食べる夢も大事です。応援すると、言った。ので」

今度、露店のご飯を食べることがあるなら、その時は此方が財布を出す所存。
男の甲斐性と、男の浪漫、天秤にかけて悩んでしまうようであれば、此方が先に理由を付け足そう。
必要なのはお金と勇気。そのお金を大事に取っておくべきだと。
それに、相談に乗ってもらったと言う恩義もあるし。
何よりも男の甲斐性は本命の女の為に取っておくものらしいので。
そして、青年よ大志を抱いて働け、である。

此方の問い掛けに、青年はゆっくりと、確かに首を横に振った。
少女は帽子の中の耳をぺたりと伏せ、また視線も下を向き、足元へと向かう。

「相手より、強く……。刺客より、先生より強く……難しい。特に、後者。
 ……はぁっ。やはり、今のままじゃ……出来ることは、ない」

結論は変わらず。黙って見守る以外出来ることは無い。
わかってはいたが、項垂れてしまった頭は上げられず、握りしめたバケットサンドには指の跡がくっきりと残った。
もしゃ、もしゃ、ちび、ちびと、止めていた食事を再開し、齧りながら青年の話に耳を傾ける。

「ん……。いえ、はっきり言ってもらえて、よかったです。
 希望を持ってしまったら、縋ってしまうと思うので……これで、良かったのだと、思います。
 ……貴方も、無理矢理押し通したこと、あるのですか?」

尋ね返しつつ、明るく笑いかける声に顔を上げ、お礼なんて言われてはパチリと瞬きをした。

「……そういう、ものですか? 理解し難いです……。でも、わかり、ました。

 ――オズワルド……。オズ。承知いたしました、オズ。
 学院の生徒、なのですね。其れも踏まえ、記憶しました。
 ……ん、また。手紙?も、承知。
 私の名前……あ、そっか。んと……偽名、偽名……じゃあ、“ネコ”?」

教えてもらった名前と学生寮の番号を覚え、代わりに名前をと思ったが、危険もあるのかと気付いて思いとどまり。
悩んで告げたのは、何処からどう聞いても偽名すぎる名詞で。

オズワルド > 「む。 であればありがたく奢られようか。応援ありがとう。その分、美味いとこの紹介はきっちりやるな。」

ぱん、と両手を合わせて拝む仕草、ののち、びしっと親指を立てるサムズアップ。
紹介は任せろ!と言わんばかりの輝かしい笑顔もセットで送る。

こうして、青年は新たな楽しみと共に、労働の意欲を増したのであった。
まあ、今日はお休みの日だったのだけども。

ただ、凹んでいる様子には、すぐには声をかけるには至らず。
それでも、バケットサンドをちゃんと食べられている様子を見れば、ままよし、とうなずいた。
飯が食えるうちは元気だ!

「オレはねー。ラジエル学院に通いたい、って無理押しした。
 学費出せないって言われても行きたいって言い続けたら、だったら手前で稼いでこいって言われて。
 必死こいて日雇いで頭金稼いで、最終的に学費借金して何とかしたよ。
 …親の好意だけじゃやってけねーって実感したなーあの時は。
 あ、借金はもう返済終わってるからそこは突っ込まないでよろしく。」

軽い感じの話口だが。語る内容はけっきょく、やりたいことがあるなら自分の力でやれ、これである。
自分はやり通せるレベルだったから、応えられた相談内容でもあったのだ。
だからこそ、まあ。
気持ち的には先達だから、判ってくれたことに、嬉しそうに笑顔を返す。

「おう、よろしくネコちゃん!
 可愛い偽名だけど、猫好きなん?」

命を狙われているという相手に対して、此方はただの一般冒険者。
軽い調子で受け答えする様は、それこそただの学生みたいなものだけれど。
ちょいと首をかしげて。

「今日、ちゃんと寝れそう?」

ただの学生らしく、女の子の気持ちをおもんばかった。

> 「どういたしまして? 期待してる」

大げさに拝んだ末のサムズアップ。輝く笑顔も加われば、此方も少し良いことした気になる。
いや、まだなにもしてないんだけども。

もくもく、もぐもぐ、小さい口でゆっくりと食べ進める様子を見守り頷くのを横目に見れば、不思議そうに首を傾げて。
青年の言う無理の内容を聞くと、なるほどと頷く。

「……学院に通うこと、でしたか。理解しました。
 命は掛かってない、けど……夢は、掛かってる。
 借金背負っての、苦学生生活は大変……だったと、思う。お疲れ様です」

そこまでお金の為に必死になったことが無いので、完全に気持ちを推し量ることは難しいが、
今の自分と照らし合わせて想像して、大変な道のりであったことは想像できた。
首肯し労いの言葉を掛けながら、もう少しで食べ終わるバケットサンドを口から離し、包みにくるみ直して。
これは飼われている小動物へのお土産にしようと心に決めた。

「ん。ん? うー……うん。猫、好き……です?」

一度頷くも、コテンと同じ方向へ首を傾げて言い淀み、少し迷いながら肯定した。
ここで由来を説明するのも面倒なので、相手が気付くまでそのままで良いだろう。
そして、

「……うん。オズ、感謝」

ごくありふれた普通を体現したような問いかけに、少女はゆっくりと瞬き。
素直に頷いて、言葉短く礼を返した。

オズワルド > 「お疲れ様に、ありがとう~。
 ま、学院は通ったら終わりじゃなくて、まだまだ頑張りどころはいろいろだけどね。
 まずは腕を上げて冒険者としてスキルアップだ。」

人生は長いようで短いね!なんて笑って告げる若人。
楽し気に笑って見せるのは、楽しく生きてるのサイン。
命を狙われている相手に見せるには何かもしれないけれど――

「こんな楽しく生きてる奴の話聞きたくなった時も、呼んでくれて良いからな。
 しかし猫好きか。趣味が可愛い。」

迷いながらの肯定に、深くは踏み込まない軽い男。なるほどなぁーって感心するそぶりも見せて。
サンドの一部を持ち帰る様子には、お腹いっぱいかなあ、と思って首を傾げたりもあったけれども。
短い、うん、の返事ににかっと笑って。

「ならよかった!」

そうと告げたら、ベンチから腰を上げた。

「それじゃ、大丈夫そうだしオレはそろそろ帰るよ。
 ネコちゃんも遅くまで出歩いて、変な兵隊とかに絡まれないようにな。」

数歩前に歩いてから振り返り、じゃあまたね、って手を振れば。
軽い足取りで帰路に就く。立ち去る様子も普通の人。てくてく歩いて、広場を立ち去って行った。
次にまた会えるかは――おそらくは、闇に生きてる少女次第。

> 「学生は、いつも大変そう……。冒険者もする、なら……二足の草鞋?」

大変だけど楽しそうな笑顔を浮かべている限りは大丈夫そうだ。
それほど心配はせずに、同業者としても青年に心の内で応援を送った。
命短し何とやら。生き急ぐくらいでちょうど良いと少女は思う。

「……うん、ご飯食べたくなった時、話を聞いてほしい時、楽しい話を聞きたくなった時。覚えた。
 ね、猫も、犬も……好きな人間は多い。普通のこと」

教えられたことを指折り数えて繰り返し確認。
可愛いなどと揶揄われれば、話を逸らして流し。
此方も元気が湧いてくるような明るい笑顔を向けられて、青年が立ち上がればそれが別れの時。

「ん、わかった。オズも気を付けて」

去り際まで少女に気を配る姿に、やはり親切な人だと改めて感じた。
数歩進んで手を振る姿に小さく手を振って返し、広場を去る背中が見えなくなるまでその場で見送る。
そうして、広場には一人ぼっち取り残された少女が一人。

「……私も、帰ろう」

一つ呟きフードを深く被って顔を覆い隠せば、少女の存在はより希薄になり。
術を使って陽炎まで纏えばぼやけて消える。
時計台の広場には、秒針の時を刻む音だけがいつまでも響いていた――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からオズワルドさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にイヴさんが現れました。
イヴ > とある冒険者向けの宿屋。
宿場通りの明かりがぼちぼちと消えていく頃合いの時間帯。
いつもならもう自室としている一部屋に戻って就寝している頃だが、折角月の出ている夜、まだまだ眠気は訪れず、部屋を出て階下へと降りていく。
住み込みで働いているその宿の一階は食堂で、冒険者上がりの気風のいい女店主が切り盛りしている宿。
もう竈の火も落とし、宿の扉も閉じた時間帯。降りて来るとすれば泊まり込みの冒険者たちだろうか。
蝋燭を一本立てた燭台を手に、暗がりの中恐る恐ると階段を下りていけば、静まり返った薄暗がりの食堂が見える。
水を飲みに降りて来る者も少なくはない。自室にも水差しはあるが、目的はただの水ではなく、酸味のある果実を少しだけ絞ってレモン水にすることだ。
それを夜風に当たり、月を眺めながら飲もうと思い立った次第。

「……あ」

小さく声を零したのは、すでにレモンが絞りやすい形で切られて、保冷庫に入れてあったからで。
女店主にはお見通しだったらしいと少し気恥ずかしい気持ちで、コップに水を注ぐ。レモンの果汁を力いっぱい(※少女比)搾り、少しはしたないけど指でくるくると混ぜ合わせてから、足元に気を付けて月明かりが差し込む窓辺の方に移動する。
少しだけ窓を開ければ、夏の心地よい夜風が吹き込んで、少女の短い金髪を揺らした。
外からは酔っぱらった冒険者の声も遠く聞こえてくるが、比較的静かで。
燭台はテーブルに置き、コップを手に静かに息を吐いた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にアキアスさんが現れました。
アキアス > 宿屋の二階から、首裏を揉むようにしながら、巨躯の男が降りてくる。
王都に自宅がある男が宿に泊まっているのはとある女冒険者にお誘いを受けたからなのだが。

なにやら火急の用事がとパーティーメンバーに引っ張られてゆき。部屋は使っていいと言われ、肩透かしを食らっているところ。
酒を飲んで寝てしまおうとしたものの、不完全燃焼具合に目が冴えて。
追加で何か酒精でももらえないかと降りていくが、どうやらもう酒場ももう仕舞いになってしまったようで。

「参ったねぇ、こいつは……っと。お嬢ちゃん、悪いが酒を貰えないか?」

視界に入るのは一人の少女。
たしか宿の従業員の一人だったはずと、おそらくは仕事を終えての休憩かというふうなところに声をかける。
暗い食堂内、碧眼を細めて彼女が置いている燭台からの明り頼りにそちらへと近づいていって。

イヴ > 僅かに爽やかな酸味のあるレモン水を呷りながら静かな時間を過ごして暫くした頃、ぎし、と木製の階段の音が静寂を破ればそちらへと顔ごと振り向いた。
誰かが降りてきた。一階の奥が店主の個室である為、二階から降りて来るのは宿泊客だけだが、降りてきたのは大柄な男性。
暗がりの中から近づいてくるその大きさに思わず身を強張らせて、窓からの月明かりと燭台の明かりで見えてきた輪郭は、宿泊客としては見覚えがない屈強な男性で。

「あなたは……」

そう言えば、緊急の用件だと慌ただしく宿を出て行った女性冒険者が連れ込んだ相手だったと記憶している。
うちはそういう宿じゃないんだけどねえと女店主がぼやいていたが、貰うものを貰えるなら目を瞑るのだろう。
眼鏡の奥の青い眼を瞬かせて、コップをテーブルへと置いてから近づいてきた相手を見上げる。きっと立ってもそう変わらないだろうけれど、おおきい、と思わずつぶやいてしまう程で。

「……あ、えっと、すみません。食堂はもう閉じていて、お酒は店主さんの許可がないと出せなくて……」

下働きでしかない自分にはお酒を勝手に出すことができないのだと、申し訳なさそうに伝えて。

アキアス > 階段を降りきり、明りの落とされた酒場内を見回して小さく息を吐く。
軽く摘まめるものと酒があれば、それでそのまま寝入ることもできるだろうかと思っていて。
けれども立ち上がった少女は酒は出せない、と。
それを聞けば露骨に嘆息し…改めて、目の前の少女のことを足元から頭まで見やる。
そしてゆっくりと、眼鏡越しに彼女の澄んだ蒼い瞳を覗き込む。

「……ンじゃ、しゃぁないか。姐さんに逆らっちゃ怖えからなぁ」

姐さん、というのは女店主のことなのだろう。それなりに常連なのか睨まれるのはご免だとばかりに頭を掻いて。
じぃ、と、見つめる彼女の瞳。
確か、誰ぞが連れ帰った、身寄りのない記憶もあいまいな娘だったはず。

小柄ながらに、しっかりと女らしい体つき。それこそ、女店主に叱られそうだから、これまで変な絡み方をしたこともないが。

「ちぃっと、寝付けなくてな。良かったら部屋で、話し相手にでもなってくれないか?」

にへら、と、緩んだ笑みを見せる。
彼女を見据える視線に、彼女の意識をアキアスに好意的になり男の都合よいように誘う術を仕掛けて。
首尾よく行けば、彼女を連れ立って二階に戻っていくことになるだろうか。

イヴ > 伝えてから、すんなりと諦めてくれたことにほっと安堵の息を吐く。
そんなのはいいから出せ、と言われてしまったらどうしようかと思っていたが、ため息一つで切り替えた彼を見上げてから、せめて果実水でもと椅子から立ち上がる。
けれど、見上げている視線を合わせるように上から覗き込む碧眼が、強く見つめて来ることに困惑の表情を浮かべたのも一瞬。
この宿のことを知る冒険者、または少女を救助した冒険者一行を知る冒険者の間では、酒の席のネタくらいには少女の話題も軽く上がりもしただろうか。
自分のことすら何も覚えていない少女は、こんな風にじっと見つめられるとわからぬ自己を見透かされているようで、不安に瞳が揺らぐ。

「……それは、……えっと、」

浮かべられた笑顔に、断りの言葉を伝えようと思ったはずなのに。
何故かわからないが、不安は拭われ、彼が浮かべる笑顔に安心感と、好印象を抱く。
術を仕掛けられていることなど理解していない少女は、好印象どころか彼に好意的な高揚感も抱き始め、白い頬が薄っすらと色づいていく。

「はい、わたしでよければ……」

気付けば断るどころか、あっさりと了承の意を返していた。
燭台を手に、彼と共に部屋へと向かうことになる間も、自身の軽率な行動を止める警戒心は掻き消され手招かれるままに個室へ、二人きりの密室へと足を踏み入れることになり──。

アキアス > 【移動いたします】
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からアキアスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からイヴさんが去りました。