2025/07/30 のログ
影時 > 頭数を増やすのは効率、役割分担の観点として意味はある。だが、同時に悩みの種にもなる。
一番顕著なのは報酬の分配だ。現実的に十分に配慮しなければならない。
己がスタンス、考えとして可能な限り均等に分けるようにしているが、頭数が増えると取り分が減る。
それで文句を言うものとは勿論組まないものではあるが、事前に話し合い、面談する必要性があるが――。

「……、驚かせんな。こういうコトがあんまり無ぇように壁際に陣取ってんのに。
 試練は偶には良かろうが、時と場合による、って奴なんだよなァ全く……と?」
 
掛かる声には覚えがある。無いわけがない。平時なら朝晩は間違いなく必ず聞く声だ。
己が姿が見えれば、するりと喧噪の合間を抜けてきた、というところだろう。
宴会の後の名残がよく残る机の上と追加の酒、依頼書、そして健康的に野菜をもしゃもしゃする毛玉達。
その二匹がすっかり顔馴染みとして覚えた緋色に、いよっす、とばかりに前足と尻尾を立てて、アイサツしてみせる先を男は見る。

見る己の目が不意に見開いた、という感覚をよく自覚できる。
見違えたものだ、という言葉が真っ先に脳裏に浮かぶ。やればできるじゃアないかという言葉も一緒に。

「……――ンー。いいね。良い具合だ。似合ってるじゃねえかよ。そういうのでイイんだよ。
 気のせい、としたい処だが、だ。実入りが良さそうな奴に限って、あれこれ条件が増えたような気がしてなンねぇからなあ」
 
日常的になっちまってるか、と。そう思えば思わず眉間の皺を揉み解す。
直ぐに気を取り直せば、向かいの席に座す姿に愚痴などを零す前に、素直に讃嘆の言葉を投げ掛けよう。
昨今の実力者の好き勝手によるあれこれを、ギルドは若しかすると懸念しているかもしれない。
言葉にはし難いが、そんな予感を抱きつつ、依頼書を纏め、何か飲むかね?と対席の顔に尋ねてみようか。

> 然程、驚いた顔もしていなく見えるが、その微妙な間が不意打ちで得たものならば此れも良しとする。
色々と思い悩んでいるらしい事柄に予想を立てて見たところ、なかなか良い線を突けたらしい。
二匹から向けられた気軽な挨拶に軽く会釈を返し、席に腰掛け正面の暗赤を見やる。

「……失礼いたしました。次からは、声を掛けずに直接肩を叩きます。

 神の試練は予告なく来ると聞きます。
 何より、事前に備えられることは、試練ではなく試験のように感じます」

淡々と、あるいはしれっと。より驚かせられるように精進すると言外に告げ。
見開いた暗赤に傾げた首を更に深く傾けて、一度目を瞬かせた。
また何を驚くことがあるのか、よくわからない。――が、賛辞の言葉であることは理解して。

「これは……、必要に迫られた結果です。知人曰く、あの服装では目立ちすぎるそうなので。
 ……ですが、先生がお気に召したのであれば、喜ばしいと感じます。

 高ランクに評価されるのも大変ですね。
 中低で燻っている者からすれば、贅沢な悩み……だとは、思いますが。
 良い働きをして、ギルドに恩を沢山売れば、多少の融通は利くようにならないのでしょうか……」

師の目つきの悪さ、眉間の皺はこう言うところで日々培われて来たのだろうか。
愚痴る様子に帽子の中で耳をぺたりと伏せ、何か良い解決策は無いものかと机を見据え頭を悩ませつつ。
また尋ねる声に視線を上げて。

「――……はい。軽い酒を所望します」

影時 > 忍びならば、暗殺者ならば――この位は出来て当然、という言い草はしない。
それを許せる位に己が気が緩んでいた、ということもありうる。死を思わせる何かがあるならば兎も角、だ。
二匹は挨拶を終えれば食べかけの野菜達に顔を戻し、息継ぎがてら水も飲む。
チラチラ見てくるのは、何か食べ足りないか、それともほかの味も欲しい――と言ったところか。
無言で、すすっと。まだ余り手もとい口が付けられていないカボチャの種が乗った皿を押し出してやろう。

「それはそれでぞっとしねぇなァ。まぁ良いが。

 想定外のことを想定しろ、とも言ったりするがね。
 試験のように済ませられるなら、まだ良い。備えってのはうまくキマった時が一番心地良いのさ。
 掃討、討伐もそうだが、全員無事で戻って報告出来てこそが最良だ。
 
 ……備えて為せるなら、それを惜しまん理由があるもんかね」
 
俺の背後に立つな、とでもいうべきなのだろうか。言外に示される意図におおこわい、とばかりに肩を竦めよう。
見開いた暗赤色の双眸を細めつつ、試練かあ……と声の内容を反芻し、苦笑交じりに言葉を紡ぐ。
加護を祈願し、奉るやり方の使い手としては、頷けうる点はある。
だが、未知の旅、冒険よりも、日銭を稼ぐ必要に立ち返ると堅実さを重んじざるを得ない。
四肢を失うだけではない。知己を喪うようなヘマに繋がる要素は、可能な限り避けたい。

「成る程? ふむ、その意見には否定し難い処もあるわなぁ。俺も偶に悩む処だ。
 ……このまま精進し続けてくれ。と、丁度良い。次に迷宮に潜る前にでも渡そうと思ってたが……」

忍び装束に具体的な定義はない。己が着込む其れは野良着のアレンジ、延長として仕立てている。
だが、この国の服とは思想が違うものは、常用してしまうと色々と目を引く。
故に普段はこうした羽織袴や着流しを着る。ないし、忍び装束の上に羽織を重ねる。侍、武芸者等にでも見えるように。
とはいえ、見栄えの良さという観点では、華があるのはこの弟子の方だろう。
似合うだろうか、と思いながら、羽織の下に手を突っ込み、そこに付けた雑嚢の中を念じつつ漁る。
――ずるり、とばかりに引き出すのは茶色い紙に包まれたもの。それをテーブルの端に置き、娘の方に押しやろう。

「良し悪し、痛し痒しって奴だなア。
 面倒臭がって上位になりたくない奴もいると云えば、何となく分かるだろう?
 働きに応じて、色々お目こぼしは既に貰っているところもあるから、あんまり文句を付け辛ぇのがなあ……と、あいよ。軽い奴な」
 
さて、答えつつ片手を挙げよう。
近寄ってくるウェイトレスを認め、娘に品書きを示しながら頼むのは呑み易そうな酒を一杯。
己が呑む奴は軽い処ではないとすれば、果実酒やエールあたり、と言ったところだろうか。

> 二匹の見事な喰いっぷりに、今日も沢山駆け回って来ただろうことが伺える。
草食動物は野菜しか食べられないのが何とももったいない。肉も食えたなら、鳥や蛇の捕り方を教え込むのに。
食物連鎖に打ち勝たせようと言う密かな思惑は今の所叶いそうになく、冗談めかした返しに瞬きを一つくれて、冗談ではなく本気をほのめかした。

「策が嵌った時の悦は同意します。
 全員無事に帰れることが、最良……。十分な結果を得ることよりも、ですか」

堅実さは直接の生存率に繋がる。それは冒険者でも、忍でも、暗殺者でも言えることだ。
迂闊な隙、欲を掻いて事を仕損じる。
失うものは四肢か、命か、仲間か、信頼か。
どれを失ったとしても、元のように返り咲くことは難しいだろう。
それでも、成さねばならぬことを放棄するのは問題であるとも思う。
娘の暗殺者思考――仕損じれば命を投げ捨てようとした、依頼(命令)第一主義はいまだ健在な様子だった。

「……これは?」

精進を続けろとの言葉には何とも言えず半目になったが、羽織の影から取り出された茶色い包みにはパチリと目を開き、少しテーブルに身を乗り出して尋ねる。
迷宮で使うようなものなのか。スカートの下に隠した尾が揺れそうになるのを手で押さえ、じぃ、っと包みを眺め。
押して寄こされれば、そろりと手を伸ばして開いてみようか――。

「私はランクを上げていないので、厄介な柵無く気軽に依頼が受けられて良かったと……今痛感しました。
 これからも、ランクは低めを維持したいと考えます。
 持ちつ持たれつ……? 甘い蜜の代償は辛いものなのですね……」

相槌を打ちながら、手は包みに、注文される酒には耳のみを傾ける。
果実酒かエールかとウェイトレスが聞くなら、エールの方に首肯して。

影時 > 冒険者は身体が資本だが、齧歯類もまた同様。暑くて茹だりがちだけどちゃんと食べなければ身体がもたない。
意外なことかもしれないが、二匹は雑食性な点があり、肉食程ではないが動物性たんぱく質も摂取できる。
とはいえ、普段から好んで、という程でもない。食べたげな様子があれば蒸し鶏を与える位か。
今日はそんな素振り、若しくは気分ではないらしい。寄越された種を器用に殻を外し、パクリとしてみせて。

「――だーろう? 無理そうなときは無理くりにどうにかしようと、ドツボに嵌まる。
 そういう時は素直に退く、逃げる、だ。死んで花実が咲くものかね。
 
 命を代えても果たすべきこととは、冒険者にはそうそう無い。無いな」
 
これはきっと、優先順位以前の問題だろう。
主命を受けて生命と引き換えに敵を殺す、という生き方、在り方とはその逆を行くのが冒険者だ。
人目があると思えば、暗殺者という語句は口に出さないように心掛けつつ、娘に告げてみよう。
堅実を心掛ける先の思考、在り方が違う。命を投げ出して満足を得ても、それだけだ。遺された者には残念が生じる。
故に、冒険者の在り方に、命と代えるべきことはきっとない。

「いつか言ったろう?
 お前さんにやるつもりだった奴だ。このままだと俺の羽織にでもなったろうが、その格好にも合うんじゃあないかね」
 
おしゃれの精進に当たり、持ち札(ふく)は幾らあっても困るまい。
実用主義が先立つなら、実用と装飾いずれにも応え得るものがきっと望ましい。
魔法の品が手に入るのは遺跡や迷宮、ないしその手の品を扱う店だろうが、見つけたこれはその内の迷宮で得た死蔵品である。
使う機会が無ければ、最終的には仕立て直して羽織にもなっただろう。

包みを開き、中身を拡げれば、――ばさりとハーフ丈のフート付きマントが出てくる。
ただの布ではない。魔力を帯びた金属を極細の繊維化し、メッシュ状に織り成した生地で作られている代物。
防刃、対魔を意識した防護衣であり、下手な斬撃は防ぐが、刺突は防げず衝撃は殺せない。
その代わり、という程ではないが、暑気や寒気が着用者の身体に与える悪影響を緩和する魔力が込められている。
詰まりは、夏に着ても程々に涼しく、冬に着ても程よく温かい。熱射病、底冷え知らずとなる代物。
名付けるなら「暑寒知らずの魔導衣」と言ったところだろう。
黒装束の上に着込んでも効果が高いが、今の格好でもそう違和感なくイケるのではないか。

「ははは、全くだなー……そう言われるとちと気持ちが複雑だが、俺も俺で遠慮なく行ける先もある。
 そうと思えば、持ちつ持たれつとは言い得て妙だなァ。
 学院に出張る仕事なんて、それこそ幾つか計らってもらう代わりに、欠員を補うためでもあったんだぞ?」
 
では、エールか。ウェイトレスに注文をすれば、程無くよく冷やされたエール酒がグラスに注がれて運ばれるだろう。
つまみ代わりの食べ物は、いくつか残る皿の上に揚げ物やパン、温野菜等が残っている。

> 雑食ならば希望が見えた。いつか、肉を喰らっていることに気付いたら、その後は師の目が無い隙を狙ってこっそりと一芸(狩り)を仕込む夢も叶うやもしれない。
――そんな戯言は置いておいて。

「無理はせず、素直に退く。戦略的撤退……でしたか。
 ……? 死んだら花は咲きますよ。火の花ですが。

 冒険者は……そう、なんですね」

聞きかじった言葉を思い起こし、言い訳がましい強がりの言葉と決めつけていた事柄ながら、一様にそう言えない物なのかと首を傾げた。
続く言葉には、屁理屈のような、ブラックジョークのような素直な答えを真顔で返し。
やはり、冒険者と暗殺者は価値観に大きな差があるのだと改めて実感もする。

「――ん! おぉ……。短い、マント? 羽織じゃない……。
 でも、短いから動きやすそう。手触り……も、良いです。

 先生、着てみても、よろしいですか……?」

包みから現れたのは、丈の短いフード付きのマント。
師のいつも来ている羽織とは違うことに少し尾が沈んだが、すぐに気を取り直して表面を撫でる。
手触りも良く、軽くて丈夫そうだと感想を持ち、広げて掲げながら静かに振り返り尋ねた。
尾はパタパタと世話しなく揺れて興奮しているのが手に取るようにわかる。

「学院の仕事も、ギルドからの依頼だったと。……冒険者とは、便利屋のようで。色々な仕事があるものです」

相槌を打ちつつ、エールが運ばれて来れば受け取り、まずは一口――と行く前に。
師から試着の許しが出るのを待ち、許可が出ればその場で立ち上がり、早速マントを肩に羽織って見せよう。

影時 > 狩りを教えるとなると――きっと興味が向きそうなのは、昆虫辺りの採取、捕獲だろう。
元々の故郷、住処でやっていた動物性たんぱく質の確保は、昆虫や鳥の卵、雛あたりから。
王都でその全てを許すと、不測の病気となりかねないため、せがみ出したら火を通した鶏を与えている。
タイミングはきっと、要チェックに違いない。

「格好良く言いてぇ奴はそう言うだろうし、俺はそういう時は素直に“退け”って云うなぁ。
 本当に火の花咲かせそうにしてた奴が口にすると、全く洒落になんねぇや。
 
 ――……死ぬことが誉れ、という奴も居たが、一緒に“死を想え”(めめんと・もり)のコトバも思い返すべきだな。
 為すべき事を為せるように心構えをせよ、とは俺は解したが、冒険者が最終的に為すべきとなりゃぁ、生きて喜びを嚙み締める以外にあるかね」
 
実際に自爆、火の花をキメようとしていた者が云うと、思わず困ったように笑う。
生きるために生きるという面が強い冒険者とは、娘にとっては中々まだまだ慣れない点もあるか。
この国で聞いた格言の類で、頷ける面、考える面が多かったものをひとつ、言葉に出す。
侍、武士の中には窮地に華々しく死ぬことに意味を見出すものも居るが、冒険者はそうではない。生きているからこそ得るものを貴ぶのだと。

「羽織の方が良かったなら、一度預かって仕立て直しても良いがね。
 だーろう? そもそもの状態も良くてな。売りに出さずに、雑嚢(カバン)の中にずっと放り込んでたのよ。
 
 おうとも。こいつは篝、お前さんのもんだ。遠慮なく着て確かめてくれや」
 
少し気落ちしただろうか。尻尾が見えていれば、しゅんと沈んでそうな有様を思い出しつつ、確かめる姿を見る。
憂いは今でこそ拭えたがものの、気候に合わない恰好をするかもしれないと思った時に、この死蔵品を思い出した。
此れほど無いよりある方が良い品は、きっとそうそうない。鎧を着て速度を落とす憂いも此れならば。
興奮げな様子を見出せば、構うことなく試着の許可を出そう。

「もともとは、な。色々渡りに船だったから、最終的に教師の籍も取るに至ったというわけだ。
 つくづく便利屋だよ。そのかわり、堅実に出来る奴は信用に足る奴と認められるシゴトでもある」
 
そうして試着に至れば、問題点やら何やらを聞こう。
気になることがあれば一度預かって、調整に出すのも今のタイミングならば容易だ。
肩に羽織って見せて、うんうんと目尻を下げながら似合い振りを確かめ、その後に乾杯とも洒落込んだことだろう。

ひときしり食べ、吞み、満足すれば家路につく――。

> 「……命令でもなければ……死ななくても、良いなら……私は“まだ”死にません。本懐を成してはいないので。

 死を誉れとは、正気ではありませんね。騎士にも、そう言う考えの者もいるそうですが……理解に苦しみます。
 命あっての物種……。そういう冒険者の方が、まだ理解できる。

 ――どちらも別段、なりたいとも……思いませんが」

軽いジョークとでも言うように肩を竦め、緋色を伏せる。
死生観はそれぞれとして、理解できるもの、理解はできるが真似ようとは思わないもの。
色々と考えるのはほどほどにして。

「このままで、大丈夫。先生が……こっちが良いって、思ったから、この形にした……ですよね?
 なら、このままが……良い」

フードは下ろしたまま、マントを羽織り、留め具を嵌めて。
程よい軽さと熱の籠らぬ着心地に感動して、くるりと回り、ひらりとマントとスカートが揺れる。
ピタリ、足を止めて師を見下ろし。

「先生、感謝。……家宝にします」

帽子が落ちないように左手で押さえつつ、深々と頭を下げて礼儀正しく感謝を述べた。
大げさに聞こえるかもしれないが、他者から高価な物、特別な物を貰ったことの無い少女にとって、これはとても特別なことであった。
また浅く席に腰掛けても、エールの方へは中々視線は向かず。
顔にはほとんど現れない喜色の色を僅かに口元に滲ませ、手で掬い上げた布地に、色づく頬を摺り寄せる。
師の語る教師になった経緯に耳を傾けながらも、

ごろ、ごろごろ……ごろごろごろ……。

酒場の喧騒の中でも埋もれない、ゴロゴロと鳴る喉の音が暫く続いた――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」にアリージュさんが現れました。
アリージュ > 冒険者ギルドに、ふらりと足を運んだ魔導士。
 最近冒険者ギルドに二人で登録し、冒険者として活動をしている女で名前をアリージュ・トゥルネソルという。
 トゥルネソルという苗字は、マグメールで商会をしている、トゥルネソル商会であり、その関係者という事は誰もわかるだろう。
 とことこ、と、そんな軽い音をして歩くのだけども、外見を見るとそんな風には見えない。
 ばるん、ぼるんと、そんな音が響き渡るような胸が、一歩ごとに存在感を醸し出すはずなのだが、足音は軽快だった。
 ギルドの、依頼掲示板に視線を向けて、無造作に一つの依頼を手にする。
 自分への視線を気にしている様子はないのか、朱と蒼の眼を持つ魔導士は、ゆるりと振り向いて、ギルドの中を見回す。

「うーん……、前衛、欲しいかな。
 前衛してくれる人、いるー?」

 店の中に居る冒険者に声をかける。
 冷静で、平静な表情ではあるが、声音は明るめで、声も落ち着いたメゾソプラノ。
 硬くもない声は、威圧感という物からは離れているだろう。
 とりあえず、手を挙げてくれる人、一緒に出てくれる人はいないだろうか。
 アリージュは見まわして、問いかける。

アリージュ > 名乗りを上げてくれそうな気配はない、視線を巡らせると、一様に、きゅぃんと、目をそらす冒険者たち。
 多分、きっと、メイビー。アリージュの二つ名の所為かもしれない。
 『地雷女』、アリージュは地属性を得意呪文として、地面を操ったり、雷を地面から飛ばしたり。
 それを誰かが見て、地雷と言ったのだろう、そして、その理由がねじ曲がって伝わって。

「お姉ちゃんがいればなぁ。」

 ちらり、と手にした依頼書を見やる。
 内容を確認してから、今度は冒険者ギルドの酒場の方へと足を向ける。

「だれかー、こう、可愛い女の子と冒険してくれるいい男、いい女、いませんかー?」

 自分で自分を可愛いという程度には面の皮は厚い(ドラゴンスキン)
 まあ、両親は美女に美少女だし、血の繋がった方の姉も、美人だ、可愛いと言っても良いだろう。
 年齢(外見の)さえ考えなければ。
 にこー、と緩く微笑みながら、酒場の冒険者たちに、にへーと、笑いかけながら、どう?と聞きまわる魔導士。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 冒険者ギルド」にケストレルさんが現れました。
ケストレル > 「ふぇー、暑い暑い
 ……頼まれてた雑務、終わらせた……ぜぃ?」

何とも言えない空気になっているギルド内へと入ってくる冒険者が一人
ギルド役員からの頼まれごとに従事していたケストレルである
額に浮かぶ珠の様な汗を拭いながら、冷たい果実水でも頼もうかと思っていた矢先、ギルド内の妙な雰囲気を目聡く察した

「何だ何だ、俺が外で頼まれごと(雑用色々)してる間に何かあったのか?」

馴染みの冒険者に声を掛ければ、彼らは無言で魔導士を指差した
おん?と怪訝そうに其方へと顔を向けるケストレル

アリージュ > 「おや、こんばんはー。」

 冒険者たちの視線とか、指先の先には、一人の魔導士。
 にっこーと、口角上げて笑って見せる、魔導士。
 知っている人は知っている、知らない人は何にも知らない。
 トゥルネソル商会の人竜で、冒険者。
 その中でも、最近出るようになったと言われる、双子のうち一人だった。

「依頼を受けようと思うんだけどねー?か弱い女の子が一人で戦闘系の依頼に出ようとするのに。
 だーれも、名乗り出てくれないんだよ、前衛ー。
 酷いと思わなーい?」

 よよよー。なんて、鳴きまねをして見せる22歳。
 すすすす、と見事な足さばきで、するりと近づくドラゴン娘。

「ゾス村周辺のオークの退治(巣)とか、どーお?」

 と、手にした依頼書を、彼の目の前に、ほらー、と見せてみる。

ケストレル > 「お、どーもどーも、こんばんはーっす」

のどかに交わされる挨拶と共に、ケストレルは何となく事情を察した
妙齢の女性が依頼の同行者を募っているというのに、名乗り出る者が居ないとは
生憎とケストレルは商会の名前くらいしか知らないし、そこに属する人物たちの事も明るくは無いが、
ギルドの冒険者については、それなりに精通している自負がある
好色な者の少なくない冒険者たちが一様に手を挙げないということは、さては訳アリだな?と、にこやかに笑いながら思った

「ははぁ、オーク退治ねえ……
 今居る奴らじゃ手に負えない様な依頼じゃなさそうだし、報酬も悪い訳じゃないな」

見せられた依頼書に目を通し、ふむ、と考える仕草
周囲の反応からして、依頼の難度が問題じゃなさそうな気もするが、
しかし、誰も請けたがらない依頼があると知ってしまえば信条的に引くことも出来ない

「……あー、前衛を求めてるんだっけ?
 一応、出来なくも無いけど、条件がいくつかあるけど平気かな?」

アリージュ > トゥルネソルで冒険者に登録しているのは複数人いる。
 ラファルという、ストライダーの人竜。
 長女のクロナは、母親のゼナと長期間の依頼で別の国へ。
 二女のシロナは、この国にいるが、学生をしてるし、メインは戦士ギルドでの戦士活動。

 どれもこれも、一癖二癖あるものばかりだ。
 多分痛い目を見た冒険者も一人や二人では無いのだろう。

 ただ、アビールとアリージュの二人は、最近登録したばかり、ではある。
 ネームバリューの所為という所も、無きにしも非ず、なのだ。

「でしょー?
 なのに、だーれも手を挙げてくれないんだー。」

 豊満な、爆乳と言って良いぐらいの胸の前で、腕を組む。
 朱と蒼の眼が、酒を飲んで視線を合わせない冒険者たちを睨む。
 ゴゴゴゴゴ、と背後に擬音ができるような圧が出るのは仕方ないやも。

「っと。勇敢な君にありがとーってね。
 えっと、条件ってのは?」

 はて、と、アリージュは首を傾ぐ。
 いくつかというのは、穏やかじゃないねぇ、と、目を瞬いて。

ケストレル > 冒険者として活動するうえで、ケストレルは他者の背景事情には詮索しないようにしている
自分自身も騎士と冒険者の掛け持ちで、詮索されるのは好きじゃないからだ
なので相手が冒険者であれば、自身も一介の冒険者として相対する事にしていた
その辺りも、商会について詳しくない一因だろう

一応、飲みの席などで他の冒険者からの話を聞く、くらいはあるが、
商会に対する知識は、本当にそれだけである

「まあまあ、このクソ暑い時期にオークなんて相手にしたくないってだけじゃねえかなあ?
 でなきゃ貴女みたいな美人が困ってるのにスルーなんてしないだろうし」

そうだろみんな、と流石に助け舟を出した
『お、おう!』『そうだそうだ!』『全部夏が悪い!』とこれ幸いと助け船に乗り込む冒険者たち
……その様子に後であいつらに酒奢って貰おう、と思いつつ

「ああ、いや、大した事じゃあないんだけども
 前衛は出来なくもないんだが、敵を引き付けるくらいが精々でさ
 トドメは貴女の手で刺して貰いたいところなんだけど……どうかな?」

アリージュ > 一般的な商会の認識としては。
 何でもあるお店、安いが、品物は一級品(ドンキーホーテ)という所だ。
 食料から、マジックアイテム、冒険者用の武器防具さえも、置いてある、平民地区と富裕地区の中間にあるお店。
 安さと品ぞろえの理由としては、ドラゴンを使った輸送、ドラゴン急便が特色。

 竜の強さ速さで、正確に大量の品物を運べるから安い、食べ物も新鮮。
 武器防具なども、ドワーフの国の職人から直接買い付けて持ってきてるので、店売りでも他と一段二段違う。
 名人(PC)の、力作にはかなわずとも、一般的に使うなら十二分の性能だ。

 冒険者の方々の、尻ごみの理由に関してはまあ、知らなくても良いこと、になるのだろう。

「ふーん、へー、ほー。」

 後ろでなんやかんや言っている彼らを、半眼で見据える。
 その助け舟を、泥に変えて沈めてやろうかとか、一寸ばかり不穏な気配。
 しないけど。

「幾つかっていうから身構えちゃったけど、思いっきり一つだね?
 ま、その程度ならいいよ。寧ろ、集めてくれるなら、一網打尽にできるし、ね。

 と。
 私、アリージュ・I・トゥルネソル。
 魔導師だよ、好きな属性は地属性。
 よろしくね、おにーさん。」

 にへーと、笑いながら、彼に右手を差し出す。
 あくしゅー、と。

ケストレル > 今は知らなくとも、いずれ商会の屋号を耳にしたとき、この時の邂逅を思い出すかもしれない
そこから興味を持って利用するのか、しないのかはこれから次第となるだろうか

そして助け船を沈められそうな冒険者たちをフォローするまではしない
これはもうお互い様だな、と判断したからである
我が身に危険が降りかかる恐れがあれば、しれっと安全地帯を確保する強かさも冒険者の必須スキルだ、とケストレルは後に語る

「ああ、つい幾つかって言っちゃうんだよな
 毎回『ひとつじゃねーか』ってツッコまれるんだけど……、ま口癖みたいなもんさ

 アリージュさん、ね……俺はケストレル
 ケストでもトリーでも、呼びやすい様に呼んでくれて良い
 まあ、もっぱらトリーって呼ばれてるけどな」

魔導士からの握手に応じて、しっかりと手を握る
そして改めて、(デッカ……)と思うのだった

アリージュ > 助け舟に乗っている冒険者たちがどうなるのかは、それはまた別の時に語られるといいなと思う程度。
 そんな彼らを覚えておくほど、神々は暇では無いのである。

「そっかぁ、でも、一つで良かったよ。
 ほら、良く要るじゃん?手伝うから、そのちちしりふともも揉ませろ、とかー。
 ぐへへへ、良いではないかぁーなんていう人。

 後から追加は許さないよぅ?」

 あくしゅあくしゅ、アリージュの手は、それなりに柔らかかった。
 冒険者で、魔導士をしている特有の掌と言える。

 手を放してから、20センチの身長差、身長高い彼に向かい、釘をさす。
 いいね?と、人差し指で、ずびし、と鼻先に釘をさすように触れて見せる。
 白い柔らかな人差し指が、彼の鼻をくすぐるのだ。

「ケストレル、ケスト・トリー。
 消すと、鳥ー。
 うーむむむ。」

 うお、でっか、と、言う視線を受け止めながら。
 彼の呼び方を悩むアリージュ、腕を組むなら、ばくにぅは、ぼいんと腕の上に乗っかって強調される。
 母親の悪魔的な爆乳にはかなわないが、でかいだろうおっぱい。
 すぐ目の前でたぷーんとしている。

「そういえば、ケスト。
 戻ってきたばかりっぽいけど、準備は大丈夫?
 行くとしたら何時行ける?」

 ことんと、首をかしげて問いかける。
 さらりとしたプラチナブロンドの髪が揺れる。
 パチパチと瞬く目は、人外を思わせる、竜眼だった。

ケストレル > もし彼らが非道い目に遭うのだとしたら、後日少しくらい酒を奢るのも已む無し
そう思いつつ自分はちゃっかり身の安全は確保しておくのである

「え? あ、いやぁ……あはは
 流石に初めて会う人にそんな事は言えないかな
 今、その手もあったか!って思う位には魅力的だとは思うけどね」

彼女の手の柔らかさから、見た目通りの魔導士なんだと判断する
前衛を募っていたくらいだから当然そうなのだろうとは思ったが、見た目と得意とする職が違う事なんてざらにある
ケストレル自身、近接の装備を整えておきながら、魔法の方が得意なのだから

そして釘を刺されて文字通り鼻白んだ
彼女の言葉から、それなりに苦労して来たんだろう事は想像に難くない
が、曲がりなりにも自分は騎士の肩書も持つ者、初対面の女性にセクハラまがいの要求をするなんて出来ない
……まあ、彼女の態度からある程度の冗談は投げるけれど

「そんなに悩まなくとも……」

唸り声を上げながら思案する彼女の様子に苦笑しつつも、視線はついつい強調される胸へと向いてしまう
魔導士然としたローブの上からでも分かるほどなのだから、さぞやご立派で柔らかい事だろうと夢想せざるを得ない
が、騎士なのでそんな考えをチラリとも顔に出さない
……もう少し気心知れれば、変わるかもしれないが

「え?ああ、準備?
 戻って来たって言っても、ギルドの外で雑用してただけだし……
 けど、今戦闘用の装備は調整に出してるとこだから……
 そうだなあ、1日……2日後ってとこかな」

唐突な問い掛けに我に返り、ふむ、と思案してから答える
依頼で向かうのはオークの巣だ
今すぐに、という訳にもいかない相手だというのは相手も承知しているだろう
準備に最短で二日を要することを告げ、ついでにお互いの役割についても確り確認しておきたい、とギルドの片隅、作戦会議用のテーブルを指す

アリージュ > 「え、そう言う人は言うし、考える人は考えるよ。
 ケスト君は、そんなことを考えてない、実直な青年だからだと思うな。

 もし、その手を使ったら……きっと、君は、大変な事に、成るよ?」

 にっこり。ごごごごごごごごと、背中に竜のオーラを背負うアリージュ。
 自分に対して、と言うわけではなく、他の人にも使わないでいて、そのままの君で居て、という警告。
 ニコニコしてるのが、むしろ不気味なレベルの、威圧感。
 君と言うのは、何となくアリーシャの方がお姉さんな気がしたから。

 ぷしゅるーと、言うような音がして、すぐに背中のドラゴンさんはお帰りになりました。
 言うほど本気、と言う訳でもなかった。
 脅し、と言う程度。

 彼がそういう人物では無いと、少し話しただけだが、判ったのも、ある。

「そうだねー。
 それなら、3日、急ぎ過ぎても仕方ないし、ね。
 じゃあ、奥で作戦会議、と行こうか。」

 彼の返答に、1日プラスをする。
 装備の調整というのは、状況によってずれる可能性もあるし、それを加味して置く。
 依頼が来ているが、依頼の期限は先だし、未だ持ちこたえられるだろう。
 それに、お互いの役割の再確認なども、必要と感じたから。
 ケストレルの提案に乗って、奥へと移動する。

「およ?」

 そして、移動しようとしたところ、酒場のいたがばきり、と音を立てて踏み抜かれる。
 足場が消えた性で、そのままケストレルの方へと倒れ込む。

ケストレル > 「あはは、そりゃ買い被りってもんさ
 俺だって男だもの、考えるくらいはするよ
 
 ……まあ、初対面の相手にはしないと誓えるけどね」

時と場と相手(TPO)を弁えるというだけで、その手の冗談は口にする
騎士ではあるが清廉ではなく、冒険者ではあるが粗野ではない
それだけなのだから、と自分に向けられる威圧感に臆する事も無く、笑いながら告げる

自分への評価が良過ぎても据わりが悪いや、と内心苦笑を漏らし
自己評価は低めなのである

「3日……うん、それだけあれば万全も万全、確り準備出来ると思う
 待って貰う形で申し訳ないけど、ありがとう
 お詫びとお近づきのしるしにと言っては何だけど、冷たい果実水を奢らせて貰えないかな?」

自分が提示した準備期間に1日プラスして貰ったことに謝罪と礼を述べて
それなら人の募集も急ぐ事は無かったのでは、と思わないでも無かったが、そこはまた別問題なのだろうと納得し
どうせなら冷たいものでも飲みながらの作戦会議といこう、と奥へと向かおうとしたが、

「! 危なっ……い!」

突然アリージュの身体が傾いた
同時に響いた床の割れる音に、瞬時に状況を把握して、倒れ込んでくる彼女の身体を支えようと動く
しかし、なにぶん突然の事なので腕を伸ばすのが間に合わず、大きな胸に手が埋まるか、身体でしっかりと受け止めるかどちらに転ぶか判別がつかずといったところ