2025/01/12 のログ
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ご案内:「魔族の国・欲望の街「ナグアル」」にイェルドさんが現れました。
イェルド > 他人様の土地を見るのは面白い。
余所者として眺めるだけでも事足りる。利用するだけでも恩恵は多様。
金銭等を落とし、取引を経て使いつくしているかどうかはさておき、ふと気づくこともあるものだ。

欲望の街を名乗る城塞都市を巡り歩いていれば、幾つか大きな建物があることに気づく。
宿屋や酒場、取引のための商店を軸に歩いていれば、行こうと思わない限りは見ずに終わるものも多い。
此処もその一つだ。巨大なる闘技場。人間の王国にはあって、だが、己が領土、国にはないもの。

「――おー、やれー、そこだー、隙を逃すな―」

其処では丁度、なんたら杯、といった名目で取っ組み合い(バトルロイヤル)が繰り広げられている。
戦舞台となる擂鉢の底、地獄の底。熱狂する観客たちの中に、気のない声を挙げつつ眺め遣る姿が一人在る。
腰に剣を佩き、フード付きのマントを被ったダークエルフの青年。
種々多様な観客たる魔族達の間に席に座し、膝上に置いたバケツめいた器から揚げ焼いた骨付き肉や芋を掴み、喰らい眺める。
観客達の奥とは違い、何も賭けていないが故に気楽なものだ。
戦う者たちの輝き、勇猛振りを眺め、楽しむように金色の双眸を揺らめかせる。

イェルド > 「あいつら、引き抜けないだろうかな。
 ……――難しいか。ああでも、あっちの魔物なら俺だと御せなくもないか?ふむ……」

派手なものだ。人間たちの行う興行を見たことはあるが、見た目の派手さとエグさだけなら此方が勝ろう。
魔力異能魔技超能の応酬。参加者と称して駆り出された魔獣の凶暴さ。流血の派手さ。
此れに酔わずにいるのは男ではない、と言わんばかりの荒くれさだ。死ななければ安いと言わんばかりのラフさ。
こうした見世物ではなく、戦場に引き出した方がもっと良いのではないかと思うのは、野暮だろうか。
ついつい真面目腐って考えつつ、香辛料が染みた油がまつわり付いた指先を舐め、首を傾げる。

――ここでは余所者だ。

参加者の素性、引き出された魔物の名称等、聞いた処で答えてはくれまい。
故郷ではどうあれ、所詮己は一人の余所者でしかない。一部始終を見届けていればやがて戦いは収束する。
次の戦いは、何時開催されるか。そんな口上を聴きつつ手を動かせば。

「……おっと」

たっぷり買い込んでいた筈の食べ物が無くなっていた。其れに肩を竦め、傍に置いたカップの中身を呷る。

イェルド > 「取り敢えず俺も参加できるかどうか、聞いてみるか。……張れる奴が居るなら尚良いんだが」

手に持つカップの中身は酒だ。こんな場所で水やら果汁やらは薄い処か半端が過ぎる。濃ければ濃い位が丁度良い。
空っぽになった大きな器は、ぽいと放り上げる。
その先にぽっかりと開いた黒い穴の中に消えてゆくのを一瞥し、観戦を終えた者たちの列に並ぶ。
多少は腹が満ちたが、まだだ。まだまだ食い足りなければ、踊った血も満たしたい欲もある。

戦えるならば試したいものだが、はてさて――。

ご案内:「魔族の国・欲望の街「ナグアル」」からイェルドさんが去りました。