2025/02/02 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート・ファルズフ大聖堂」にメレクさんが現れました。
メレク > 大聖堂の一室、醜悪を絵に描いたような貴族の男が教団の神官と談笑に及んでいる。
上等な仕立ての華美な装束を、肥えた腹で台無しに目一杯に広げながら、
蝦蟇の如き口を綻ばせて嗤う男は、会話を切り上げると背後に控えるお付きの侍女に視線を投げ掛ける。
主の意を汲んだ、彼とは異なり絶世の美女と呼んでも差支えのない美貌の侍女は金貨の詰まった袋を神官へと差し出して。

「こちらはいつもの寄進です。
 聖女猊下の恩寵賜りし神の塩粒を年末年始の謝恩祭で振る舞いましたが、社交界で非常に好調でしてな。
 是非とも、御修道会に寄進をしたいという王侯貴族が増えておりますぞ」

聖バティスタ派騎士修道会とヤルダバオートの娼館街、そして、奴隷商である彼は、
『神の塩粒』なる聖薬の流通に於いて、一枚噛んで稼ぎを分け合っている間柄である。
薬物を蔓延させる為の娼館に娼婦を卸し、中毒者となった信徒を奴隷として売買する。
時には王侯貴族や有力者にも薬物をバラ撒き、その背信行為への後ろ盾を得る事もある。
そんな人身売買も含めた商いでの儲けの一部は寄進という形で修道会に還元される。
持ちつ持たれつの関係性は彼らの懐を肥やして、人々を奈落の底に追い立てる事だろう。

メレク > 差し出された金貨袋を恭しく受け取りながら神と聖女の名の下に感謝を告げる売僧に、
貴族の男は口端を緩めながら、愉悦混じりの笑みを浮かべて首を縦に頷いて見せる。
末端の信者には聖女の奇跡を心から信仰している者もいるが、実情を知る上層部は腐りきっている。
尤も、目の前の彼を含めたこの修道会が特殊なのではなく、王国の権力者で清廉潔白な者を探す方が難しい。

「しかし、残念ながら私めの本業でありますバフートでの商いは苦戦しておる次第です。
 折角、信仰心篤き信徒の方々をご紹介頂いているにも拘らず、不信心者に教えを広めれず申し訳ない次第ですぞ」

麻薬の流布は本来は彼の役割ではなく物のついでであり、本来は中毒者の人身売買の方が主の役割となる。
奴隷市場都市バフートで行なわれるオークションには、選りすぐった信徒を彼自ら出品する事もある程だ。
最初の頃は物珍しがられて好評だったものの、いつの間にか需要に供給過多になっている事に苦心が続き、
眉尻を下げて頭を左右に振るうと、肩を竦めて溜め息を洩らして見せて。

「商売あがったり、という奴ですな。……そこで、どうでしょう?
 神の教えを広める為、ご紹介頂ける方の範囲を拡げて頂くというのは。
 修道女殿や助祭様のお言葉ならば、より神を信じぬ者達も聞く耳を持ちましょう」

何も知らぬ無垢な修道女や、教会に都合の悪い部分に薄々感付き始めた女助祭。
そのような者達を有効活用する、と申し出ると共に懐から宝石を入れた布袋を賄賂として相手に差し出して。

メレク > 「よいお返事を頂ける事をお待ち申し上げておりますぞ。
 それでは、聖女猊下によろしくお伝えくださいませ」

困惑を躊躇を浮かべながらも、差し出された賄賂の額に息を呑む神官に微笑み。
ソファから腰を浮かせると美貌の侍女を伴なって大聖堂を後にする。
少なくとも、上層部での会議の話題に挙がるであろう話に対して、
修道会が如何なる返答を返してくるのは、それこそ、神のみぞ知るところ。

或いは、バフートのオークション会場に聖職者が陳列される日もそう遠くないかも知れず――――。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート・ファルズフ大聖堂」からメレクさんが去りました。