2024/10/11 のログ
ご案内:「ファルズフ大聖堂・回廊」にアガタさんが現れました。
■アガタ > 壮麗な大聖堂から続く回廊を静かに歩く女がいた。
視線を上げ、まっすぐに回廊内を見渡す姿は思索に沈み、瞑想しながらという様子ではない。
手に携えた白杖は、盲目のためのそれではなくれっきとした護衛のための武具。
長いカソックの裾にだけ少々気を払っている様子は女が長くそれを着用してきたわけではないことを示し。
それでもその姿形は外部のものから見れば修道女として見られるだろうし、そうなるように振舞う努力はしているつもりだった。
■アガタ > 柔らかな秋の気配を纏う陽射しが、風が抜けてゆく。
自分がかつて属していた場所に比べると平和に過ぎる情景は、少々気が抜けすぎてしまいそうなきらいはあるのだが。
それでもこの時間を衛士として預かる以上は哨戒を怠るわけもない。
勿論、今の自分の職責は本来のそれよりもより細やかな気遣いが要求されているのも日々学んでいるところ。
警戒だけではなく、迷い人の誘導や、信徒の要望などこまごまとしたもののほうがその実多い。
今もそういった人物を目的の場所、人物へと送り届けて───持ち場へと戻る途中。
ふ、と漂う薫りに視線が動く。
嗅ぎなれたそれ。儀式を意味するそれであると同時に、それが酷く退廃の色を纏うこともまた知っている。
「─────」
閉ざされた扉の奥で何が行われるかを知っていて、けれどそれが正しい手順を踏まれたものであろうことは、周囲の静けさから知れる。
ならば、と女は背を向けた。
────それもまた教団の務めなのだと教えられ、その組織に属する女はそれを止める必要性を認めない。
足取りは軽くも重くもなく、常の通りに運ばれてゆく。
ご案内:「ファルズフ大聖堂・回廊」にマカナさんが現れました。
■マカナ > その足の向く先で、小さい子供に何やら話をしている司祭階梯が一人いた。
近づいていけばその言葉の内容も知れるだろう。
どうやら、この奥……先ほど『儀式』が行われていた方向に行こうとして司祭に止められている様子。
かくれんぼで見つからないためには奥の方へと行く必要があると主張する子供と、
ここから奥に行ってはいけないのだという事を説明する司祭。
話し方、話す内容を巧みに変えて、時に聖女様に心配かけてはいけないでしょう?
時に、真面目で厳しい騎士様がたくさんいるのよ。
また時には、ずっと見つからなかったら一緒に遊んでいた子たちが心配するでしょう?
千変万化に話題を変化させて、最終的には子供を納得させつつ、こっそり裏口……孤児院の方へしか出られない裏口から外に出していた。
その後に立ち上がり、ふぅ、と一息ついたところで気配に気づき
「あぁ、ごきげんよう。シスターアグニア。見回りご苦労様です。」
穏やかな雰囲気で挨拶言葉を紡いだ。
あまり聖堂には詰めていない、シスタールチア。
月に1~2回ほど聖堂に現れて、聖女や聖騎士などと何やら話をしてからまたいなくなる。
修道会の表も裏も知っているものならば、この司祭が常には王都にいて教団の耳目となり諜報活動を行っていることを知っているかもしれない。
そして、この穏やかな姿の裏の、本性と、本名も。とはいえ、本性も実質無害でもあるのだが。教団関係者にとっては。
■アガタ > 向かってゆく先で、一人の司祭が子供たちに何か語り掛けている姿が眼に入る。
教会であればどこでも見かける姿だ。
場所が場所だけに───彼女が彼らを引き留めたのだろうことは、背後の事情を先に知っていた女には理解が易い。
恐らくは自分より年下で、けれどきっとここでは先輩にあたるのは確か。
子供たちの誘導はそれと知らせぬまま穏やかで、そして確実だった。
ややあって、子供たちが駆け出すのを見送ってから視線を戻すと立ち上がった女性司祭がこちらに気づいて声をかけてくれる。
『アグニア』と呼ばれて一瞬看過しそうになるのは──新しい名前にまだ体と意識が馴染んでないからだ。
失礼にならない程度の視線で彼女の姿形と、名簿の情報を照らし合わせる。
「これが今の私の出来ること……ですので。シスタールチア」
ぎこちない語調は、普段のままだと柔らかみが欠片もないという指導のたまもの。
現在履修中。
彼女については──
正直あまり教会では見かけない。
仕事内容が違うのだろうことは、戻ってきても聖女との会談や、聖騎士たちとのやり取りでまた姿を消すことから想像に難くない。
それを深く探るほど己は愚かではない、と思いたい所ではあるけれど。
元は世俗の騎士だった以上見えるものも多少はある。
口にはしないだけで。
だから彼女の振る舞いに合わせる形でこちらも頭を下げる。
互いに悪い感情なんて持ちようがないだろう。
自分たちはこの教団──聖女を通して兄弟姉妹の契りを交わしてもいるのだから。
「……ですが貴女がいらしてよかった。私ではあの子たちを止められる気はしませんでしたから」
適材適所というべきか。自分は子供のあしらいは苦手だ。
むしろあしらわれてる気がする、と朴訥な言葉とともに。
■マカナ > 時折教団に戻ってきたときによく話す相手とあまり話さない相手は当然存在する。
故に、彼女の本名を知っていながら、まずは洗礼名で呼んだ。
彼女が己をどこまで把握しているかを確認するためだ。
その結果は、知っているかどうかは何とも言えない。
だが、あえてそれを表に出す様子はない、ということ。
ならば、お互いに知らぬ調子で対応した方が良い、と言うのが結論。
「自分ができることを精一杯務める。良いではないですか。とても素晴らしいことです。
それが、見回りであれ、語調であれ。
私は、今のはとても良かったと思いますよ。」
ぎこちなくてもきちんと付け加えた。それこそが大切なのだと。
最初から流暢に明瞭に話せるものなどいないのだということ。
だから、履修中であれきちんとこなそうと努めるのは大切なこと。
そして、子供達の相手をしていたのを見られていた様子にくすっと小さな笑いがこぼれれば
「これもまた、適材適所でしょうね。子供に限らず、他者と話をし、交流することが好きで得意ですので。
もし、シスターアグニアが先にあの子たちを見つけていたとしても、同じことをしようとしたでしょう?
そうなれば、程なく私がそこから出てきました。だから結果はは、同じです。
それでよいではありませんか。」
話をしていると、大聖堂に常に詰めている司祭階梯よりも考え方もフランクで、『話が分かる』タイプとしれよう。
良い意味でも悪い意味でも司祭らしくないという意味で。
■アガタ > 己はどちらかというと教団内では新参だ。
従士に属してはいるが、それ以上階梯が上がることもない。
それは己の経歴を見ることができるある程度以上の構成員ならば理解しているはず。
彼女はそれを知っている立場だろうが──此処は、『大聖堂』
必要以上の情報を持ち出すことはないとお互いの判断がきっとそうさせた。
───己の疵の形状や状態は、地下でも経過観察は行われているのだし。
「───……感謝、んん、ありがとうございます」
言葉を交わす中で、さほど気にすることがないことは伝わってきたが。
それを他の姉妹に見合られるとそれはそれで大変面倒──基愛情深い指導をいただくことになるのでそのあたりの努力は続けつつ。
「それは、まあ。────ええ、そうでしょうね」
別段それは緊急事態でも異常事態でもない。
背後の別室で行われている儀式は日常であり、普段通りのことなのだから。
やや緊張を緩めるように肩を落とす。
多少重心が傾いた立ち姿になるのは、長年剣を携えてきたからこその姿勢。
声音や、言葉から彼女はそういったことにあまりうるさくしないことは知れたので。
「ああ、でもお忙しかったのではないですか?…おそらく荷物運び位なら手伝えますが」
ただここで彼女が何もなく過ごしているわけでもないことに思い至れば、女のここでの常としての言葉を向ける。
己の業務は哨戒と、そう言ったものであるから。
■マカナ > 「ふふっ、『感謝します』でも十分丁寧ですし、柔らかいですよ。
……そんなに自分好みに染め上げたい子がいるのかしら。」
一度言葉を言い換える様子に、言おうとした言葉の予測の中で一番簡単な例を示しつつ、それでも良いと言葉にしてから、ちょっと考える仕草。
このような些細な事を逐一気にする者がいるのだろうか、と。
もしかすると、シスターアグニアが真面目に受け止めすぎてしまうタイプなのかもしれないが。
こんな会話の中で、体の力が抜けた様子を感じ取れば、笑みがやや深まって。
そして、忙しいのではないかと言葉を向けられれば、ゆるり頭が左右に振られる。
「いいえ、私は大聖堂での仕事はほとんどありませんし、単に他の司祭のお手伝いをしているだけですから。
それに、早めに辞そうかどうしようかと思っていた矢先にあの子たちを見つけたので、正直時間は余っております。……そうだ。」
ぱん、と小さく手を打って笑みを深めれば、先程の裏口と逆の方、来客用の寝所の一つの扉に手をかけて
「この時間であれば、哨戒もそこまで手をかけずとも問題ありませんし、少しお茶でもいかがです?
……何か言われたら、シスター・ルチアに無理やり誘われた、と言ってしまえばよろしいですから。」
いかが?と付け加えて首をかしげる。
なにかを試す意図は全く見られないだろう。
同時に、地下へ誘う時によくみられる裏のある気配も全くない。
恐らく純粋に、2人きりの部屋でもう少し話をしたいのだという事だろう。
他に何が飛び出してくるかはともかくとして、お茶を飲んで話をする、という事自体は間違いないと確信できるだろう。
■アガタ > 「─────……」
シスタールチアの優しい勘違いに、色違いの目をそっとそらす。
『感謝』『感謝する』とざっくりしすぎる言葉遣いだったのを必死で女性らしく直してもらったのが現在なのだ。
先輩姉妹たちのちょっとした努力が垣間見える。
こちらの態度に対して、相手も少し気を抜いてくれたのだろう。
笑みが深くなれば退屈させてないことには少々安堵した。
問いかけに対しての否定の仕草にはそういうものなのか、と素直に納得。
思いつきに上がる声音、来客用だと記憶している部屋の扉に視線が誘導されるまま視線を寄せた。
「…そうですね、今の時間帯だと──基本的に私が行うのはそれに付随する雑用のほうがおおいですし。
シスタールチアのご用命であれば、誰も何もおっしゃらないかと」
高い階梯に位置しているからと言って、その座に位置する彼女たちが何もしないかといえばそれはその逆。
誰よりも教団──聖女様に寄与するために働いているからその座にいることは誰しもが認めるところ。
そんな彼らの要求を無碍にする、させるものはここにはいないと首を振った。
だから無理などではなく、喜んで、と眦を細める形で笑みを作ると応じる。
これがほんとうに客分の存在だったりするのであれば裏を感じないこともないが
相手は同じ組織の人間なのだしそこまで深読みするつもりもない。
純粋なお茶の誘いは、なんというか彼女の少女らしい願いのように感じて可愛らしく思うだけだった。
■マカナ > お茶の誘いに乗ってくれば、笑み深め、扉を開き室内へと。
そのまま彼女が室内に入ってくるまで扉を開いたままに抑えておき、誰かに見られても原因は自分とわかるようにして。
もちろん、誰も来なかったのだけれど。
そして、室内に入ると、いつもの来客用個室の中の様子が違っていた。
大きな荷物が一つあり、その上に、少なくとも大聖堂にこんな服装で来る者はいないだろうという様なド派手な服。
どう見ても胸元がはっきりと露になっているだろうそれが置いてある。
そんな光景が視線に入ると、シスター・ルチアが扉を閉めて、かちゃり、と鍵をかければ、そこで『シスター・ルチア』の雰囲気が一変する。
「あー、肩凝った。元々アガタっちとは一度ゆっくり話してみたかったんよねぃ。
……あ、鍵は余計な人が入ってこないようにってだけ。別に他意はないよん。
ま、アガタっちがあーしに興味示してくれるってんなら大歓迎だけどさ♪」
口調が崩れた、と言う言葉が生易しいほどの変化。
何かを隠してそうなほど丁寧だった、そして司祭らしからぬフランクさの『シスター・ルチア』から推測するに、こちらが本来の姿なのだろう。
そして、ティーセットに近づけば、2人分の紅茶を淹れて、片方をアガタの前に、もう片方を自分の前にと置いてテーブルの椅子に腰かける。
「鍵もかけたし、この部屋は今日の夜まであーしが使ってるってみんな知ってるから、誰も入ってこない。
だから、話しやすい調子で話してよ。別に昔の話聞きたいわけでもないしさ、単に、もう少しお互い気兼ねなしに話できる環境でお話したかっただけなんだよね。
あーしもこんなんだからさ」
そんな話をしながらも、表情は楽し気な陽キャっぷり。
■アガタ > 招かれるまま客室へと足を踏み入れる。
踏み入れて───……そこが恐らくは彼女が今回の帰還で使っているのだろう私室なのだと理解したのは、旅支度の鞄や諸々がおかれていたから、だが。
そこに引っ掛けられた衣装は今の司祭服に身を包んだ彼女の私物だといわれても、ちょっと信じがたい。
白基調のそれとは真逆の派手な色に、短いスカート。
布面積少なさは、世俗にいた自分でさえ躊躇う気はする。
そういった私物に目を取られていると扉が閉まり、鍵の落ちる音。
それで何かスイッチでも切り替わったように、相手の雰囲気が変わる。
姿形が変わったわけではない、語調と、雰囲気。
それだけで別人のようなそれに少々面食らう。───都市の外で出会ってもきっと気づかないだろうな、とは思う。
「私と?……見ての通り───ですが」
先ほどまでのフランクさに輪をかけて人懐っこい言葉に戸惑いはあれこそ嫌な気はしない。
そのあたりの本質はあまり変わらないのだろうと思う。
手慣れた様子で用意されるお茶は二人分。カップの置かれたテーブルの椅子に同じように腰を下ろして。
「………言葉遣いは、シスターらしく、を勉強中ってだけなので。悪気があったわけではなくてですね…」
新米なので、とそうとも思えない態度で嘯く。
だから自由に話せ、というのならそのあたりを気遣わなくていいのは楽だった。
温かなカップを取り上げて一口口にすると、落ち着く風味に目を伏せて。
楽し気にこちらを見て笑う様子に、妹とかいるとこういう気分なんだろうな、と目を細めた。
「私の経歴は知っての通り。シスタールチアの仕事は私は知らされてはませんが人となりは…そういう感じなんだな、と」
穏やかで柔らかなのも、今みたいに悪戯っぽく、かつ人懐っこいのも。言葉遣いこそ違うけれどその雰囲気はべつにぶつからないし、どちらも嫌なものじゃない。
だから逆に興味を持たれていたのが意外で、はてな、と首を傾げた。
■マカナ > 「うん、見ての通り、だよね。
どうみても、剣を扱ってたような立ち姿。手練れの雰囲気。事情があって教団に来たんだろうなとは察するし、まぁ……知ってるけど。
でもさ、よくいる教団信徒みたいじゃない人がいたら、あーしは興味が惹かれるんだよね。
どんな人なんだろう、何が好きなんだろう、本当はどういう事を考えているのかな、とか。
……まぁ、あーしもよく距離感バグってるって言われるからさ、気になるようだったらそん時は言ってね。結構ズカズカ行っちゃう方だし。」
そんな前置きをしていれば、自分の仕事はそれとなく察している様子を知れば、口元笑みが深まって。
「いいね~。そういう察しのいい人、あーし大好き。
普通さ、時たま神殿に来て、なにやら上の方と話してて、いつの間にか神殿からいなくなってるなんて、怪しいじゃん。
でもさ、自分の世界に『それ』がないと、疑わない。それで当たり前だと考えて、それ以上思考しない。
そういう生き方もありだけど、あーしはそういう人はつまらない。
だから、お話したかったんだよ。本当に他意もなく。
それに……」
そこまで口にしてから、アガタの金碧妖瞳とその顔をしばしじーっと笑顔で見つめてから
「こんな美人さんとお茶するだなんて、それだけで幸せじゃん?
同じ部屋で同じ空気吸って、同じお茶飲んでお話してるだけでもさっ。
……あ、そうだ。たっぷりお話の時間取りたいから、あーし、着替えしながらお話してもいいかな?
お話終わったら王都に帰らんと行けないし。なんか失礼な感じでごめんだけど。」
そんなことを言えば、司祭服の頭巾部分を取り去って、櫛と髪の染料を取り出せば、髪のセットを始めていく。
■アガタ > 「ええ、……それに私が従士なのは姉妹の方々も知ってらっしゃいますし。何なら『裏』で打ち込みしてる時間のほうが多いですから。
は───、……答えると、あまりいい顔はされませんけど。隠居のため、ですね
大丈夫、なんか、こう妹みたいで可愛い感じで」
『裏』というのは別に地下でも何でもなくて文字通り大聖堂の裏にある練兵場。騎士たちや従士たちが鍛錬を行う場所。そこで過ごす時間のほうが長いのは、教団に常駐してる人物なら知っているが、普段此処にいない彼女が知らないのは無理もない。
だから止まらない問いかけに小さく笑い声を零すと、自分の経歴を知ってる彼女にならざっくり語ってしまっても問題ないだろうと応じ。
相手のほうが教団内では恐らく先輩で、階梯も上なのだけれど、そのあたりの素直な感想は告げ。
互いの立ち位置を明確にして言葉を交わすのはこちらとしても楽なのでつい、言葉が滑る。
「私は、そういう世界から一足先に上がっただけで。ここの人たちの純朴さには驚いたかな。
もちろん、こういう刺激は私も嫌じゃない。話し相手に選んでもらったのは僥倖だ。
…………?」
じ、と大きな瞳がこちらを見つめるのに、見返す眼差し。
互いにしばし無言になった後の屈託のない誉め言葉に、驚いたように目を瞠る。
顔、というのならお互い様だと思う。
これはきっと『外』では所謂小悪魔なんだろうなと思いながら、ず、と思わず音を立ててお茶を啜ってしまった。
「私もお茶が美味しいので嬉しい」
自炊能力が無いというわけじゃないが、そう言ったことに心血を注ぐ性質じゃないので。
家事能力高めの人が手づから淹れてくれたそれらには感謝するほかない。
相手の言葉に、だから鍵を閉めたのか、と納得。
不埒ものがもし現れたとしても自分がまず昏倒させる自信はあるが。忙しい彼女のその支度を珍しそうに眺めてる。
貴族社会で着飾ることがなかった、とは言わないがそうやって自分で器用に身支度できるわけじゃない。
というよりは──。
「変身してるみたいで面白いですね──
……まるで孔雀みたいな」
櫛を通すたびに変わってゆく髪型、髪色が変われば印象もぐんと変わる。
そこにはシスタールチアの姿はなく、見知らぬ年齢相応の少女がいた。
どちらも彼女である、というのは変身を見ているから理解できるが、でもやはり信じがたい。
■マカナ > 「『裏』?……ああ、本当に、裏!
隠居、いいじゃん。せかせか生きてるのも楽しいけどさ、まったり隠居するってのもいいと思うよ。
あはは、嬉しいなぁ。こんな素敵おねーさんがいるならしょっちゅう大聖堂に返ってきちゃうんだけどねぃ。
……って、やっぱ無理か。あーしにゃ、姫たまのために粉骨砕身するオシゴトがあるしねぃ。」
最初、裏に何かの意味があるのかと反応したが、その後で打ち込みを、と言う言葉が付いたことで、本当に聖堂の裏なんだ、と理解する。
そして、いい顔はされないと言った隠居にすら、それいいじゃん、と全肯定で返していく。
妹扱いも嬉しそうにするけれど、仕事は仕事だと割り切って。
「でしょ?本当に、信徒のみんなは純朴なんだ。
だけど、いざとなったら多分、教団のために命も捨てる。『そうある』んだよ、みんな、さ。」
いざとなったらのあたりで少しだけ表情が消える。
でも、直ぐに口元いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべて
「でも、そんなドンパチは得意だったり好きだったりする人がやればいいじゃん?
だから、全部を巻き込まないように、あーしがいる。
あーしだけじゃないけどさ、未然に防げるものは防ぐし、政治力が必要なら報告する。
全面になる前にぶん殴れば解決するなら、聖天さんたちに声かける。
アガタっちは隠居の身なんだからさ、いざって時にでもならなければ、いつも通りでいてくれればいいかなって」
どうしても組織が大きくなれば、敵もライバルも増えていく。
その敵に隙を作らないようにいろいろしている。どうせ『そういうもの』だって分かってるだろうから、隠さない。
「あはは、ありがとっ。一応アッチじゃ1人暮らしだからさ、ちょっとくらいは料理したりなんだりもしてるから、ちょっとは自信あるかなって感じ。
だから、美味しいって言ってもらえるのは嬉しいよん。
ほら、アッチじゃ自分でしか食べ飲みしないから、言ってもらえるなんてあんまないしさ。」
三色マーブルのツインテール。髪の毛が出来上がれば、こともなげに全裸になって、
先程の荷物の上に乗っていた服……本当にこれを着るのか?と疑うだろう服を手にして身につけていく。
程なく出来上がったのは、一人のギャル。
両腕と胸元に刻まれたトライバル柄のタトゥー。司祭服では上手に隠れるように着こなしていたのが知れて。
「あは、孔雀、いいねぃ。あの羽綺麗だしさ。
変身は言いえて妙だね。本当に変身してるんだよあーしは。
……さっきの方が、だけどね。今は変身解いてる感じ。」
楽し気にそうことばにすれば、最後に派手派手なブーツを履いて、椅子に戻ってきて座る。
「変身を解いたあーしは、マカナ。
こうして二人きりでお話している時は、そう呼んでくれると嬉しいな。
シスター・ルチアって言われると、どこかよそよそしく感じちゃってさ。」
■アガタ > 「そう、裏。むさくるしいから───、美人が来ると皆気合が入る」
自身がそのうちに入らないのは延々打ち込み続ける姿にドン引きされているから。
近頃は、そういうときは手袋をつけてはいるものの、手の皮の厚さはそう誤魔化せるものじゃない。
「……外に聖女様が赴くことも多いし、仕事が少ないとは言えないが──
そうした一つ一つがきっと彼女の為でもあるなら気は抜けないね」
己は心酔というほど彼女に縋っているのかどうかはまだわからない。
でも─────深く感謝はしているのだ。行き場のない自身に新たな居場所と意味をくれたこと。
そして痛みを和らげてくれたこと。
すり、と自身の腰のあたりを撫でて、そんな自分の言葉を肯定してくれる相手にいい子だな、と柔らかい笑みで応じ。
「そのために、色々を努力している、のは誰もが認めてる。
騎士様方も、司祭様方も。……私がいっていい言葉じゃないかもしれないけれど、帰りたければ帰ってきたらいいのだと思う」
信徒にとっての家は『此処』。
それは彼女にとってもほかならず、大切に思っていることはその言葉から十分知れる。
若い彼女がすべてを、と息巻く姿は、頼もしくもあるし、同時にわずか痛ましさを感じるのは
戦場で見てきた若い兵卒と似たものを感じるからだろうか。
自分もかつてはそうであって───何とか生き延びて。
彼女が立っているのはそういったのとはまた違う場所なのだろうけど。
下手な同情よりも、だから本当は賛美したい。
「……ま、それも適材適所、なので。──料理は、苦手だな…。
腹にはいればいいだろうって全部刻んで煮込んだら厨房は出禁になった」
己の失敗談を語りつつ、髪を整え肌を晒す相手の、その腕の鮮やかな刺青に目を奪われる。
孔雀、と表現したのは何となくだが──花よりは鳥のように、艶やかでそして強く人の目を惹く。
「綺麗な刺青──?でいいのかな。自分で?」
司祭服の下に隠れていたそれは、布面積の少ない私服だと露なまま。
でも誇らしげなそれは彼女の姿に馴染んでいる。
そうして全身を整え終わった相手が改めてテーブルに戻ってきて、見知らぬ派手な少女の名前を告げられると──頷いた。
「じゃあ、よろしくマカナ。私のことはどちらでもいいが、この場だと、アガタのほうがいいだろう。そとだとアグニアでいい、じゃないと未だに覚えないからね」
一度そう呼ばれてスルーしかけたことを白状しつつ。相手に合わせて名を返す。
■マカナ > 「お、じゃぁ、アガタっちが行くと気合いが入るんじゃない?」
美人が来ると気合いが入ると言われれば、きっとそうだと確信のもとに。
無論、実際のことを知らないから口にしてしまう事なのだけれど。
「そうだね。姫たまったら、面白そうだと思ったらふらっといろんなとこに行っちゃうしなぁ。
……供回りは絶対に連れてくから滅多なことになんてなんないんだけどね。」
この辺りも楽しそうに告げる。聖女が周りを振り回したとしても楽しんでいるその様相に、少なくとも傾倒、恐らくは心酔に至っているのだろうと察することは出来るかもしれない。
「うん、そうだね。帰ってきたくなったら帰ってくるか。
……王都も王都で楽しいからさ、今の所はこれでいいと思ってるけど。
それでも、何かあって帰りたくなったら、ね。」
その時は帰ってくると口にする。
帰る所だと言ってくれる人がいてくれるのは嬉しいことだから。
「あはは、それは確かにやっちゃいけないやつだぁ。
腹に入れば一緒は間違ってないんだけどさ、味がひどいと体の前に心が死んでっちゃうからさ。」
厨房出禁の失敗談も楽しく笑い飛ばす。
適材適所で考えればいいし、失敗はそこが適所でなかっただけの話。
そんな価値観が、あらゆる失敗すらをも、分かってよかったじゃんと肯定するべき笑い話。
タトゥーについて問われれば、笑顔で頷いて
「うん。あーしの王都での身分は、彫師で学生。
あーしの体に入っているのは一個を除いてあーしのお手製。
魔法タトゥー含めて色々入れられるけど……」
そこまで口にしてからちょっと考えて、でも肩をすくめてから
「アガタっちも良ければ彫ってみる?って言いかけたけど、大聖堂常駐に近いんじゃ、見つかったら何言われるか分かったもんじゃないね。」
そっちで問題だと苦笑めいた表情に。
何よりも大切な事。今の己の本当の名を告げて、それを受け入れられればうれしそうに。
そして帰ってきた言葉も頷いて。
「うん。二人っきりの時は、アガタ。外であったら、シスター・アグニア。
……わかる~ぅ、なかなか慣れないよねぃ。」
白状したこともそうなるよね!と肯定して。全肯定なのだ、マカナは。
一生懸命生きている人には。
「さて、と……あーしはそろそろ行かなくちゃな時間になっちった。
それで、本当にアガタッ地には申し訳ないんだけど、一つだけ頼まれて欲しいんだよねぃ。」
刻限を確認して、そろそろ行かなきゃと口にしてから、一つだけお願い、と両手を合わせてから
「あーしがいなくなったら、ここのティーセットだけ片付けといて欲しいんだ。
流石にこの格好で、普通に外に出ていくわけ行かないじゃん?」
そう口にしてから今一度立ち上がり、暖炉の傍を何やら操作すれば、暖炉の隣の壁が開いて、隠し通路が顔を出す。
そこで意味深な、でも楽しそうな笑顔を見せて、このティーセットをどうしたものかの言葉の意味が知れるだろうか。
■アガタ > 「……自分より怪力で、自分より腕っぷしが強くて、自分を幾度となく吹っ飛ばしたのを女と認識できれば、ね」
当然、参入当初は自身の立場を訝しむものは多くいた。
従士とは本来騎士に上がる立場の者たちが昇るので比較的若い集団が多いのも事実だったし。
だからありていに言えばなめられたので。一人一人吹っ飛ばして今ここにいる。
それを端的に表現したら多分納得できるかと思う。
それよりは、めったに教団にいない、高位の存在はまごうことなき高嶺の花だと嘯いて。
「それもまた聖女様らしいのだったら、そのらしさを失うことなく過ごしてもらうのはとても大事、だものね」
彼女のことを姫、と憧憬と思慕を含んで呼ぶ彼女が、聖女の行動を咎めることなどないのはその言葉から十分伝わってくる。
自分とはまた違う特別を彼女は抱いている。それを否定することもなく。
「ええ、そうやって楽しむことはマカナに必要なことだろうし」
二重の生活を苦にしていないのはその姿からわかる。
仕事は忙しないのだとしても、その心はそう、自分の食事を口にしたものみたいに死んでないならそれで十分だ。
なんでも肯定する彼女に、逐一失敗を口にして、全部肯定してもらったらきっと人生が楽しくなりそうだと笑って応じながら。
「うーん、私は別に構わないが、まあそのうちそういう話が上がることもあるかな…?」
己の体にある一番大きな傷が、みようによってはそう見えなくもない。
術を刻むという意味ではそれを試すことがあるかもしれないが───まだ今じゃないだろう。
彼女の懸念とは別の可能性とともに。
楽しいお茶の時間の終りを告げる言葉。
それから与えられた仕事と───秘密を打ち明ける様に開いた秘密の通路の入り口に委細承知と頷いた。
「もちろん、その程度なら厨房も受け入れてくれるだろう。モノを運ぶのは得意だよ」
なるほど、その派手な姿は、視界の端にでも移ればきっと鮮烈に印象を残すだろうから
見かけたことのない理由にも次いで納得。
大切な秘密を共有する代価には、ちょっと安すぎるかもしれないから───
「道中にでもどうぞ。……作ったのは料理上手なシスターだから」
時折、子供たちに配る素朴な焼き菓子の包みを差し出しておく。
きっと彼女にとっては食べなれた味で、何なら作ったこともあるのかもしれないだろうけど。
「それじゃあ私は先にカップを片付けよう。
それじゃあマカナ、行ってらっしゃい───」
これから出発する彼女へと挨拶を告げたなら、自分は使い終わったティーセットのワゴンをひいて、通常の扉を抜けて出てゆくのだろう。
■マカナ > 「あー……それでも行く、って豪のモノがいて欲しい気もするけど。」
アガタの言葉に、状況を理解した。
理解したうえで、それでもそういう人がいてもいいじゃないかと口にはするが、従者レベルじゃ無理かぁという意図も口調には籠っていて。
「そそ。姫たまには姫たまらしくいてもらえれば、あーしもそれが嬉しいしねぃ。
ふふっ、ありがと。あーしも十分楽しんでくるさぁ♪」
言葉が弾む。アガタもまた、自分に対して色々と肯定してくれるから。
だから自分も奮い立つ。また明日も頑張れると。
「それじゃ、そういう話が来たらにしとこうか。それなら何の問題もないしね。」
自分の懸念も依頼が来てからなら何の問題もない。
だが、今の時点で来ていないという事は、聖女の意図は別にあるのだろうとも思う。
ならば、それは自分の出る幕ではないという事でもあるのだ。口にはしないけれど。
そして、隠し扉を開いても、承知と頷くだけの反応を見せるアガタに一度駆けよればぎゅっと抱きついて。
「あーん、ホント、アガタっち大好き。
こういうタイプ、あーしは本当に好きなんだ。
お手間かけてありがとね。次は、王都でもっと面白い話仕入れてくるから、
またお茶しよーね。」
直ぐ近くでそう言葉にすれば、少しだけ名残惜しそうに身を離し、それからかかとが翻ろうとする時に、差し出される包み。
目を瞬かせて受け取れば、その香りに笑みが深まって。
「あは、これは素敵な贈り物だぁ。うん、美味しくいただくね!
うん、アガタ、行ってきます!」
勝手に作った相性で勝手に呼ぶマカナが、名前を普通に呼ぶときは、大切に思うことにした相手にしばしの別れを告げるとき。
身をひるがえし、隠し扉の入り口で今一度振り返って、バイバイ、と手を振ってから隠し扉の中へと。
その後、隠し扉が向こう側から閉じられて……間諜の少女は王都へと消えた。
そして、ティーセットを携えた従士もまた部屋を辞し、客間は静寂に包まれたのだった。
ご案内:「ファルズフ大聖堂・回廊」からアガタさんが去りました。
ご案内:「ファルズフ大聖堂・回廊」からマカナさんが去りました。