2023/08/15 のログ
■サテラ >
「ふふ、それじゃあ少しだけ加減してあげようかなぁ。
あ、わたしに直接プレゼントをくれたって、減税されるわけじゃないからねえー?」
それで減税してしまったら、賄賂と同じである。
それは公正でも公平でもないのだ。
とはいえ、街の外の持ち物にまで口出しをしない理由程度には、出来なくはない。
「え、ほんと?
それなら行ってみたいかも。
んー、一週間くらい休暇取ったら大丈夫かな」
いくつか溜まっている仕事を数えつつ、自分が離れても大丈夫な期間を計算しつつ。
「――あ、これ?
大丈夫だよ、一応、人間の姿にもなれるから。
そしたらたぶん、凄く、鋭い人でもなかったらバレないと思う!」
自分の栗毛の馬体を撫でつつ、自慢げに指を二本立てて、ふふんと鼻を鳴らした。
世が世であり、時代が時代ならば、魔族ではなく幻獣として人間にも尊ばれていたかもしれない種族だ。
人間の姿になれるのも、別段不思議ではないだろう。
「んえ――」
なにをするつもりだろうと、ぼんやり見ているうちに、あっという間にテーブルと見慣れないお菓子の載った皿が現れた。
「わ、今の、空間操作魔法?
凄い、三次元元素じゃなくて、四次元法則の魔法が使えるんだ……!」
サテラからすれば、とんでもなく遠い領域の魔法法則。
それを、なんてこともないようにやってのける少年に、素直に感嘆の声があがった。
「ううんっ、この、すこーん?だってすごく嬉しいよ!
それに、とっても珍しいものも見れたしっ」
これでもサテラは四大元素に属する魔法を使いこなす、エレメンタラーだ。
人間で言えば、大魔術師と言ってもいいだろう。
そんなサテラが、自分の手の届かない領域の魔法を目にすれば、探究心にも火が着こうというもの。
瞳に宿る輝きは、たぴおか、なるものを聞いた時よりも爛々としているかもしれない。
■エルビー・カルネテル > 「むむ、それならこっちの家にはあまり高価な代物を持ち込まないようにしないとな。」
減税を狙ったわけではないが、無暗に課税されてもきつい。
やはりこちらにいる間は基本的につつましく過ごす方が良さそうだ。
「一週間か。
それなら客室の用意をしておこう。
サテラはどんな部屋が好みなのだ?
余は男の子だからな。余の趣味で部屋を用意すると大抵不評なのだ。
ほほう、人の姿にもなれるとは流石だな。
是非人の姿も見てみたいな。
もっとも、今のサテラも凄く魅力的だぞ。」
栗色の毛の馬体をみつつ、鼻息慣らす姿に笑ってしまった。
確かにおいそれとできる様な能力ではないので偉ぶるのは当然だ。
ただ、自分が日頃している行動とちょっと似ていた。
サテラはとっても可愛らしいな。
「ん? 凄いだろう。
これは余の出身地での魔法でな。
余はこの類の魔法がとっても得意なのだ。」
サテラが難しい単語を口にしては余を褒めてくれる。
余はとても嬉しくなり、ふふんと胸を張った。
こんな風に褒められたりすると気分がいい。
「ん? お菓子よりも魔法の方が気になるのか…。
困ったなあ、余の魔法はこの辺りの魔法と違うからな。
その代わり、余はここらで使われている魔法が苦手でな。
だからさっきみたいな転送事故を起こしてしまったのだ。」
サテラは魔法の素養が高いらしく、余の魔法に興味津々だ。
だが余の魔法を細かく教えると余の素性そのものを曝け出すことになりかねない。
どうしたものか。
余は目を輝かせているサテラを前に、視線を泳がせてしまった。
■サテラ >
「あは、それがオススメかなー?
でも、お金が少なかったらエルビーくんだと、魔力で払ってもらう事になるかもね」
持ち込む資産が少なすぎれば、少年が最も多く持つ物を査定して徴収する事になるわけであり。
恐らく少年からは、金銭の次であれば魔力を査定する事になるだろう。
「どんな部屋かぁ。
うーん、部屋を貸してもらえるなら、出来るだけ地味でシンプルな、ちょっと狭いくらいの部屋が嬉しいかも。
広くて豪華だったりすると落ち着かなくて……」
と、気恥ずかしそうに頭を掻いてはにかむ。
質素倹約を善しとする生活をしていると、豪華な客室は落ち着かないのだ。
「えへへ、ありがと。
わたしも、気に入ってるんだ。
ママと同じ毛色なの」
自分の馬体を撫でながら、少し懐かしむように目を伏せて、うっすらと微笑む。
すでに亡き両親との繋がりを感じられるものは、どれもサテラにとっては掛け替えのない物だった。
「――ふーん、なるほど。
四大元素に属さない、四次元以上の高次元魔法……。
もしかして、エルビーくん自身が、この世界の法則と違う法則を持ってる……とか?
あはは、まさかねー」
腕を組んで、右手を顎に添えてぶつぶつと考えこんでしまう。
(この世界法則と違う別次元が存在すると仮定して、その別次元の法則を持ち込めるとしたら、この世界の魔法に馴染めないのも納得できるけど……本当にあり得るのかな)
魔法学ぶ過程で軽く触れた、様々な知識を思い出してみるものの。
科学――いわゆる錬金術の分野になると、流石に専門外だった。
「……ハッ!?
ごめんごめんっ、エルビーくんの魔法があんまり珍しくて、つい考えこんじゃった!」
パチン、と一人で考え込んでいた事を両手を合わせて謝ると、再び開いた両手の、人差し指を立てる。
「お詫びに、お茶はわたしが用意するね。
――風の精霊さん、お茶会をしましょう?」
サテラの指が左右に振られると、緩やかに風が流れ始める。
そして、頬を撫ぜる心地よい風と共に、果樹園の奥からティーセットが風に乗って運ばれてくる。
「さあ、水の精霊さん、火の精霊さん、みんなで美味しいお茶を注ぎましょう?」
そして、またパチンと手を合わせると、テーブルの上でティーセットが躍り、ティーカップに優しい香りのフルーツティーが注がれ、テーブルの上に降り立った。
「――はい、サテラ特製のオレンジティー。
氷を入れて、アイスティーでいただきましょ?」
そう言うと同時に、ティーカップの中に、カランと音を立てて氷が二つずつ泳いだ。
少年と自身の前に二つのカップ、そしてなぜか三つ目のカップが二人の間に置かれている。
■エルビー・カルネテル > 「余としては、支払う程度によればそれでもかまわんぞ。
その場合、誰がどのように取り立てるのだ?」
魔力での支払い…余の魔力量からすると悪くない条件である。
現金で支払うのと大差ない。
ここでの取り立て方法に興味が湧いた。
「いいのか?
折角だし、派手な部屋でも良かったのだが。
サテラが望むのなら大人しい部屋にしておこう。」
はにかむ様子がなんとも可愛らしい。
余は見惚れてしまう。
しかし、質素な部屋となるとわざわざ模様替えする必要があるな。
我が屋敷は手は足りているから簡単だが。
「余はじっくり見る機会はあまりなくてな…。
良かったら触ってみてもいいだろうか。」
ママがご存命かは今の会話では判断できないが、
表情からなんとなく故人のような気がする。
それはそうと、人馬の身体はものすごく興味がある。
余は両手をワキワキさせていた。
許可が出るまで触ることはしないが。
「…おぉぉ!?
ななななななにを言っているのだ?
そそそ、そんなこと…。」
いきなり確信を突かれ、余は目玉が飛び出そうであった。
プルプルと、小鹿の様に震えてしまう。
そんなことない、と言い切れば嘘になる。
なんとも答え辛いな。
「そうだな。 名探偵はこのくらいにしておこうじゃないか。」
どうやら、話題が変わりそうである。
余は胸をなでおろした。
「ふむ~。精霊の協力を得ているわけか。」
世間一般で言われる魔族と言うよりは土地の上位種や神様を思わせる様な魔法。
当然、余が使える魔法ではない。
なので今度は余が驚く番だ。
余はじっと魔法を使う様を眺めている。
これは凄い場面を見せて貰ったな。
「では頂こうか。
して、あのもう一つのカップは誰当てなのだ?」
余はサテラがオレンジティーを淹れてくれるのを待ってから、スコーンと一緒に頂くだろう。
既に柑橘の香りが漂い、今の季節に合った清々しい気持ちになる。
それとは別に、一つ多いカップの理由を尋ねた。
気になることはだいたい聞いてしまう性質なのだ。
■サテラ >
「あ、それでもいいの?
そうすると、魔力を計測して数値化して、徴収分を割り出すんだけど。
そのための計測用の魔石があるの。
友達に作ってもらったんだけど、それで計算してから、一割分の魔力を水晶に貯蓄してもらうんだ」
ちなみにその貯蓄用の水晶も、透明度の高い不純物の少ない物が必須であり、実は魔力での徴税は、金銭よりも手間な代わりに、重要だったりするのだ。
不純物の少ない魔力は、様々な用途に使えるため、金銭よりも価値が高いと、サテラは考えているのである。
「いいのいいの。
部屋なんて、雨風を凌げて、柔らかいベッドがあれば十分なんだから」
質素倹約の中でも、実は寝床にだけはこだわってたりするのだが、それはソレである。
泊まりに行くときは、お気に入りの抱き枕だけは持っていこうと思った。
――さて、サテラが魔法を披露してお茶を用意したのだが。
「そう、わたしの得意なのは、四大元素魔法。
つまり、自然の力を借りる魔法なの。
エレメントマスターとか、エレメンタラーとか呼ばれるけど、そんなに大したものじゃないんだよ?
ちょっとだけ、精霊たちと仲がいいだけで」
そう言いながら、本当に大したことがなさそうに言う。
そのまま、『どうぞ』とお茶を奨める。
「あ、これはね。
手伝ってくれた精霊さんたちの分。
ほら、よく見てみて?」
そう三つ目のカップを示すと、カップ周りに緑、青、赤の半透明な妖精のような者が寄り添っているように見えるかもしれない。
こればかりは、少年に自然界と寄り添う素養があるか次第になるが。
「それにしても――なるほどねー」
サテラもまた、自分のカップに口を着けながら、先ほどの少年の様子に、ある種の確信を得ていた。
別次元、所謂別世界、確率時空、並行世界、量子の海、世界の泡、虚数確率――表す言葉は無数にあるが。
それらが本当にあるのかどうかは別として。
少年がなんらかの別の法則によって、特別な魔法を使っているのは間違いないようだ、と。
「エルビーくん、わたしもちょっと興味出て来たかもなー」
などと、流し目で見て見ながら、また楽し気に笑う。
「んっ、触ってみる?
じゃあこっちこっち、隣に来ていいよー」
毛並みに触れたいという少年に、特に触れられることに抵抗感などがあるわけではないらしい。
手招きして、自分の隣へと誘うだろう。
■エルビー・カルネテル > 「一割か~~…。
割と持っていかれる量がでかくなってしまうな。
悪いが、やはり現金で支払うことにするよ。」
どうやらその時の総量の一割の魔力を支払うとか。
余としては問題ないのだが、流石に支払う量が多すぎる気がする。
サテラの領域内で消化するならともかく、物騒な内容に転送されて、それが余の魔力となると不味いことになりそう。
余なりに考えた結果、魔力での支払いは見送ることにした。
「そうは言うが、それだと余としてはいかんな。
ちゃんとサテラに良かったと言ってもらえるような部屋を提供せんとな。」
家具の選定から考え始めている余である。
流石に普段どんなの使ってるか見せて、とは言えないので悩むしかないのだが。
「凄いな。
この世界の元素を使えるわけだな。
余の使える魔法とは性質がだいぶ異なるな。」
お茶を頂きながら、サテラの話に耳を傾ける。
もう別世界の魔法を使っていると認めた様なものだが、いいふらすような相手でもないのであまり気にしない。
「これは凄いな。
余でもなんとなくだが姿を見れる時が来るとは。
余が向き合った自然なんて、この間見かけたデカイカブトムシくらいだったが。
今日は精霊とはな。」
どうやら、余にも自然界との接点はありそうだ。
あの日、巨大な昆虫と出会えたのも余の素質なのだろうか。
などど思っては鼻を鳴らす。
サテラは口にこそ出さずとも、余の素性に少し何かを気づいたようだ。
ただ生憎と余は自らの世界について語る術がそれほどない。
あまり話せないこともそうだが、説明できるほど詳しくなかったりする。
そこまで考えたことがなかったのだ。
「えっと、それはどういう意味でだ?」
なんだか魅惑的な言葉にも聞こえるし、恐ろしい意味かもしれない。
真意が測れず。余は動揺していた。
「お、いいのか?
それじゃあ遠慮なく。」
スコーンを食べる前で良かった。
余は誘われるまま隣へと向かい、馬の身体の腰やお尻を触ろうと。
許されるのなら、そのまま尻尾も触ってしまうかもしれない。
馬はあまり触れたことがなく、余ははしゃぎ気味であった。
■サテラ >
「ふふ、それじゃあ、それなりに豪華な別荘を用意してね?
エルビーくん、魔力沢山持ってそうだしねー」
後で、富裕層の家をいくつか調べておこうと思った。
折角の別荘と言ってくれるのだから、変なところに住まわせるわけにもいかない。
「『この世界の魔法』の中でも、特に自然に近い魔法、って言うのかな。
ちょっと自然と仲良くしやすいってだけで、大したことじゃないのよ?」
元素魔法は、この世界の魔法の一種でしかない。
敢えて言ってしまえば、それ以外の魔法を使えないサテラにとっては、それしか才能がなかった、ともいえる。
勿論それは本人の自己評価が低いだけであって。
この街で純粋に戦闘力で序列五位に立っている事を鑑みれば、並大抵ではない事はいずれ知られることだろうが。
「へえ、大きなカブトムシ?
人の国にはどんな虫がいるの?」
自身が自然界に身を置く存在のため、虫や動物にはとても興味があるのだ。
「ほえ?
言葉通りの意味だけど?」
純粋に好奇心と興味である。
それ以外の含みは全くない、そんなところも少々、魔族らしくないサテラだった。
さてさて。
少年が馬体を撫でてくれるのを、最初は心地よく微笑んでいたのだが――。
「――こらっ」
ぺしんっ、と。
その手が腰のラインより下に伸びていけば、その立派な尻尾で手を引っ叩かれるだろう。
「えるびーくぅん?
女の子のお尻を堂々と触ろうなんて、ちょーっとよくないと思うなぁ」
組んだ腕で頬杖をついて、じとっとした目で少年を眺めていた。
ご案内:「欲望の街『ナグアル』第五位統治区画」からエルビー・カルネテルさんが去りました。
ご案内:「欲望の街『ナグアル』第五位統治区画」からサテラさんが去りました。
ご案内:「欲望の街『ナグアル』第五位統治区画」にサテラさんが現れました。
ご案内:「欲望の街『ナグアル』第五位統治区画」にエルビー・カルネテルさんが現れました。
■エルビー・カルネテル > 「う~~~ん、魔力なあ…。
魔力で支払うのはいいけど、物騒なことに使わないでくれよ?
余の身体から取り出した魔力が争いの元になりでもしたらそれこそ余の立場がなくなる…。
正直、現金の方がありがたいのだが。」
こっちでは普通の家で暮らすつもりだったが、領主様はなんだか立派な家を勧めてくる。
できれば現金払いにしておきたいが、どうなることだろうか…。
余が新たな火種になるようなことだけはなんとしても避けたい。
「それだけで領主にはなれないだろう。
余はこっちに来たばかりなのでまだ理解できてないが、
多分サテラは一般的な魔族より秀でているのだろうな。」
この国で流通している魔法に疎い余だけに、凄さがいまいちピンとこないが。
魔族と言うのはだいたい強さがモノを言う。
そんな世界で領主をしているサテラが大したことない、わけはないだろう。
「お、聴くか?」
余の目が一際輝く。
「これは元々余が通う学院で昆虫で相撲を取り合う遊びが流行ったことに由来してな。
あ、相撲と言うのは円陣の中から相手を追い出したら勝ちの、割かし平和な遊びでな。
で、その昆虫相撲で勝てると言われて余はマグメールオオカブトなる虫を捕まえに行ったのだ。
見つけることは成功したのだが、数メートルはある巨大なカブトムシでな。
おまけに気性も荒い。
頑張れば捕まえることもできそうだったけど、街中で出したら余が逮捕されそうだったので捕まえるのは諦めたのだ。」
ぺらぺらぺらと…。
余はあの日の出来事を少し早口気味に語る語る。
もう、興奮しきっていたと思う。
なにせあの出来事は余の中でも上位に入る楽しい出来事だったのだ。
「…なるほど。
まあ、余はなかなか優れた存在だからな。
サテラが興味を持つのも分かるぞ。」
余は両腕を組み、胸を張る。
含みがないらしくて安心し、いつものように偉ぶっていた。
「うぉ!」
馬体を触っていると、突然手を尻尾で叩かれる。
馬の尻尾で怒られるのは初めてだ。
大変すまんのだが、怒られてるのにちょっとワクワクしてしまう。
「おぉぅ…。
それはそれは悪いことをしたな。
では腰の辺りなら大丈夫かな?」
ジト目で見られてしまい、余は顔に冷や汗が。
気まずそうに、腰か他の部位か、とにかく馬体の中で支障がないであろう箇所を触れようと。
この時の触り方は、両手を馬体におしつけての筋肉マッサージである。
馬も人と同じように筋肉が凝ったりするのでマッサージが良いと聞いたことがあるのだ。
サテラはよく動いてるようだし、馬体も相当凝っているだろう。
昔、知り合いのケンタロスに試して好評だったことを思い出した。
■サテラ >
「大丈夫大丈夫、ちゃんとそれなりの資産を持ち込んでくれたら、魔力で払ってもらう必要はないもの。
だから、ちょっと豪華な別荘、見繕ってあげるわね」
冗談よ、と笑いながらそんな事を言う。
とは言え、金銭換算できる資産の持ち込みが少なければ、魔力を徴収する事もあるかもしれないが。
まあ、よほどケチらなければ大丈夫だろう。
「――へえ、昆虫相撲。
面白そうだけど……あははっ、なにそれー?
そこは、ちゃちゃっと余裕で捕まえて、大暴れしちゃえばよかったのにー」
なんて、そんなヤンチャをすれば、確かに困った事にはなってしまいそうだ。
勿論、サテラの統治する街でそんな事をされたって、警備隊が駆けつけて厳重注意だ。
とはいえ、楽しそうに話す少年の様子に、自然と笑顔になってしまう。
「そうだよ、女の子に触るときはね、もっとちゃんと気を付けなくちゃ――ほぇ、ぉぉ?」
なんてお説教をするつもりが、背中から腰にかけて触られていると、なんだか心地いい。
「はぁ~……エルビーくん、マッサージなんてできたの?
はぅ……力加減、じょうず~」
触られ方が変われば、サテラの口からリラックスしたような声が漏れる。
ふにゃり、と表情が緩んで、気持ちよさそうに身を任せるだろう。
■エルビー・カルネテル > 「その方がいいな。
余が行った事で物騒なことが起きたとなると目覚めが悪すぎる。
豪華な別荘…サテラが選んでくれるのなら喜んで使おうかな。」
サテラの領域がどれほどの財政状況かはわからない。
余のお財布がからっぽにならないことを祈ろう。
「馬鹿なことを言うな。
この辺りでは知らんが、人の街で出したら即行当局に逮捕されてしまうぞ。」
サテラの提案に、余は首を振って断った。
言ってはないが余は人間の街でも気を使わないといけない立場である。
逮捕でもされればたちまち大騒ぎだ。
ただ、機械があればこっちに見せに来るのもいいかなと思ってしまう。
「話しぶりからして、サテラは相当よく働いているようだからな。
余はマッサージも心得ているし、今日は余に甘えるというのはどうだ?」
サテラの反応と、筋肉の様子を確かめながら余はマッサージを続ける。
少し得意げなのは反応が思ったよりも良いから。
マッサージは相手への信頼なども必要らしい。
つまり、サテラが余に心を多少なり開いている証だろう。
余は人に好かれるのが大好きなので、力加減を考えつつ、念入りにマッサージ。
凝った馬体の腰を一通り解し終え、次は人間部分の腰や背中をマッサージしようとする。
■サテラ >
「はふぅ……そんな、わたしなんか、出来る事をやってるだけだよ。
パパもママも、もっとすごかったんだから……んふっ」
馬体へのマッサージが心地よく、声音もリラックスしてゆるんだものになっていく。
気を許している――興味と好奇心もあるけれど、どこかで自分に害を成す相手ではないという、自信なのか信頼なのか、曖昧な意識もあっただろう。
「ふふっ、え~、どうしよっかなぁ~――んひゃっ!
ひゃんっ、もうっ、急に触らないでよぉ、くすぐったいんだからぁ……」
人体部分の腰部――つまり馬体との境目付近に触れられれば、びくんと体を震わせて、上半身を捻って逃げるだろう。
どうやら人体部分の腰や背中は敏感なのか、触れられるとくすぐったいらしい。
「……もぉ。
エルビーくんってば、えっち」
と、両手で腰を隠しながら、声を上げてしまったのが恥ずかしかったのか。
ほんのり赤い顔で、少年の事をじーっと半眼でみつめた。
■エルビー・カルネテル > 「ご両親は二人でやってたわけだろ?
サテラ一人だと大変なのは当然だろう。」
表情も緩み、喋り方もなんだかとっても蕩けている。
気持ち良さそうなのでマッサージ続行。
初対面とは思えない位に打ち解けているような気がし、余はだいぶ気分が良い。
「お、すまん。
こっちも凝ってると思ったのだが、くすぐったいか。」
馬体の時とは反応が異なり、嫌がられてしまった。
余は大人しく手を引っ込める。
無理に触るつもりはもとよりなかった。
というか、急に体が動いたので少し驚いてしまう。
「そんなつもりはなかったのだが…。
サテラのことが魅力的だと思っているのは本当だぞ。」
余も気まずくなり、視線を逸らす。
ここで誤魔化しても仕方がないので、逸らしながらも本音を打ち明けた。
■サテラ >
「うぅん、それはそうだけど……」
その二人の後を継いだのだから、二人がやっていた事くらいは熟せて当たり前――そんなふうに考えている。
そんなだから、過労やストレスでおかしくなったりする時があるのだ。
「あはは、なんて、冗談だよ。
下心がある触り方だったら、すぐにわかるもん。
もし、最初からやらしーつもりで触ってきてたら~……こう、だもん」
なんて言いながら、後ろ脚でトントンと地面をたたく。
ペガサスとユニコーンという幻獣の血を引く少女は、他者の下心には非常に敏感なのである。
うっかりセクハラしようものなら、後ろ足で遥か地平の彼方まで蹴り飛ばされてしまうだろう。
「でもぉ~……魅力的っていわれるのは嬉しいなあ。
――ねえ、わたしのどんなところがいいと思ったの?」
なんて言いながら、ちょっとだけにまにまとした、試すような表情で、少年を見るだろうか。
■エルビー・カルネテル > 「普通に考えてそれは無理があるだろう。
余なんぞ屋敷内でも外でも使用人や従者がしっかり余をサポートしてくれるぞ。
たまに元気すぎて余のコントロールから外れている者もいるが。
リーダーと言うのはそういう面も必要だと思うぞ。」
…ううん、なんだか余計なことを言っている気がする。
年下であろう余がごちゃごちゃ言うこともそうだが、今の会話で余がどこぞのえらいさんだと自白してる
ようなものである。
とはいえ、目の前で悩んでいる相手を黙って見てるのも余のやり方ではない。
「うむ、随分と強そうな後ろ足だな。
ちょっと触ってみたい気もするが、蹴り飛ばされるのも嫌なので止めておこう。」
ごくり、と生唾を飲み込む。
サテラの後ろ脚は適度に引き締まっており、力強さに満ちている。
余はサテラがどこまで内面を見抜けるかわからないが、その恐ろしさは間違いないだろう。
「そうだなあ。
見た目が正直な所、余の好みであったし。
性格も優しくて良いな。
余のようないきなり現れた年下に快く接してくれるしな。
それに自分の領地を一生懸命守っている所も可愛らしいぞ。」
なんだか試されているようだ。
余はサテラの馬体を撫でながら、思った事を素直に伝える。
今のような表情も可愛らしい。
■サテラ >
「うぅ、今でも十分、助けてもらってるつもりなんだけどなぁ。
友達にもたまに怒られちゃうし……。
他人を使う勉強もしなくちゃだめ、なのかなぁ」
そういう意味では、やっぱり、少年のところに一週間ホームステイしてみるのは、学びになるかもしれない。
ふるまいから言葉遣い、今の発言からしても、それなりの立場にいるのは想像がついた。
――さてさて。
自分から聞いたものの、少年から率直な誉め言葉が出てくると、サテラはどうなるのか。
「……え、っと」
顔を赤くして、両手で頬をおさえてしまう。
どうも顔が熱くなってしまった。
「……あ、ありがと」
間違いなく照れている。
自己評価が低く、直球で褒められ慣れていないサテラには、効果てきめんだったようだ。
なんと答えていいかわからず、赤い顔のまま小さくお礼を言ってしまって、目を泳がすように逸らして黙り込んでしまう。
■エルビー・カルネテル > 「良い組織はトップが多少不在でも機能するらしいぞ。
今のサテラの所はどうだ?
不在でも機能できそうか?」
余はふふん、と鼻をならす。
人様の運営に余が口を挟むなど言語道断なのだが。
まあ、今はなんとなく許されそうな気がした。
…余は聞かれたので正直に思いを伝えた。
だいぶ恥ずかしい感じもしたが、ここは変に恥ずかしがらない方がいいと誰かに聞いていた。
なので余は堂々と胸を張っている。
「なんだなんだ。
余に褒められて照れておるのか?
サテラは余から見てもよくやっておるぞ。
僭越ながら、余が褒めてやろう。」
余は赤面するサテラの隣に立ち、手を伸ばすと頭を撫でてやろうと。
サテラが拒まなければ、そのままヨシヨシと撫でるだろう。
日頃頑張っているサテラにはこんな風に癒しが必要な気がした。
余がそれに見合うかはわからないが。
■サテラ >
「わたしが居なくても、かあ」
当然、不測の事態や、他の地区に滞在したり、街の外に出なくちゃいけない用事があれば、サテラはこの統治区画を離れなければならない。
もちろん、それで機能不全になるような統治機能を作った覚えはない。
それに、少し怠惰だが頼もしい友人に頼めば、管理者の代行も頼めるだろう。
「でも……」
やはり不安になってしまう。
アレは大丈夫だろうか、あの案件はどうなるだろうか、他の地区で不測の事態は起きないだろうか――。
そんな事ばかり考えてしまうのは、サテラが他人に正しく頼れていない証拠だろう。
「ん――っ」
頭を撫でられると、優しいくすぐったさに声が漏れた。
けれど、気づけばもっとしてほしいというように、少年の手が届きやすいよう、身を屈めている。
それに気づいて、また少し、恥ずかしくなってしまった。
「……あはは、エルビーくんは、優しいね。
わたし、お姉さんなのに、励まされちゃった」
恥ずかしそうに、けれど、どこか嬉しそうにはにかんで。
自分の頭を撫でていない方の手を、両手で包むように握ろう。
「あの……その、ね。
人の街に行くって話、本気にしても、いい?
その、一週間くらいなら、ちゃんと時間作れると思うから、その。
エルビーくんに協力してもらえたら、嬉しい、な」
そう、赤くなった顔のまま、おずおずと、上目遣いに、不器用なお願いをする。
それは明らかに、頼み事に慣れていない様子で、だからこそ、真剣なお願いだと一目でわかるだろう。
■エルビー・カルネテル > 「そうだぞ?
優秀なサテラありきだと、何かあればすぐに総倒れとなってしまう。」
サテラも余の言っていることは分かっているし、自分でも考えたことはありそうだ。
それでも不安になるのだろう。
優秀なトップはだいたい自分でなんでもやってしまうらしい。
余はどちらかと言うとそうではないので、余の部下達が張り切ってくれている。
「よしよし。」
余の方に頭が近づいている。
撫でられてまんざらでもなさそうだ。
余はサテラが納得するまで頭を撫でている。
途中、サテラから女の子特有の甘い匂いがしてきて、意識させられてしまう。
いかんいかん。 今日はそういう時ではないぞ、エルビー。
「そうだろう、そうだろう。
でもそれはサテラが良い奴だからでもあるぞ?
余を最初に優しく迎え入れてくれたから、余もサテラを励ましてやれるわけだ。」
おお、サテラの両手が余の手を包み込むぞ。
女の子の手は余の手よりもちょっと柔らかい。
余は思わず目を瞬かせていた。
「任せろ。
余が責任もって一週間面倒を見てやろうではないか。
さ、今はもう少し余に癒されておくとよい。」
おお! なんだかとっても可愛い顔でお願いしてくるではないか。
余は一瞬たじろぐも、得意げな表情を見せた。
こんな風に人に慕われることが余は大好きなのだ。
なのでもう少し、サテラの頭を撫で続け。
二人で穏やかな時間を過ごしたのだった。
■サテラ >
「……ふふっ」
少年の純粋な好意に、ちょっとだけ男の子らしい気持ちが混ざったのに気づいて、くすぐったい笑みが漏れてしまう。
頼られるのが好きなのか、自信たっぷりな少年の様子に、サテラも安心して頼れるのだ。
「……ありがと、エルビーくん。
その、よろしくね?」
そんな、年下の男の子の頼もしさにちょっとだけ甘えながら。
甘え下手のお姉さんが、しばらくの間身を任せる、優しい時間が過ぎていったのだった。
ご案内:「欲望の街『ナグアル』第五位統治区画」からエルビー・カルネテルさんが去りました。
ご案内:「欲望の街『ナグアル』第五位統治区画」からサテラさんが去りました。