2024/08/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 バー」にアルマースさんが現れました。
アルマース > 宵の口。
飲み足りない者達が二軒目を探して、酒場のひしめく通りに流れてくる。
夕刻の雨は風を運び、涼やかな過ごしやすい気温になった。
昼の暑さにうんざりしている誰もが、今夜は良い夜だ――と言い合う中。
街灯を照り返すきらびやかな衣装を纏い、人の間を縫って走り、バーの裏口へ飛び込む女の姿。

「どいてどいてごめんねーっ――っふ~! 間に合ったあっ――……よね!?」

顔にかかった一筋の黒髪を撫でつけて、頭上で一本に纏めた髪留めに緩みが無いか確認。
乱れた息のまま、客席へ通じる扉の手前で、出番を控えた同業者――踊り子たちの注目を浴びる。
『ギリギリ』 『寝坊~?』 『次の曲だよー』
――気だるげな、あるいは不思議そうな反応が返ってきて、とりあえず安堵した。

「寝坊じゃないよ、前の仕事が長引いちゃってさ。はあ、走ったあ……」

鞄の中から替えの――踊り用のヒールの高い靴を取り出す。
走りやすい平たい布靴をその場で脱ぎ捨てて履き替える。
扉の隙間から聞こえるバーの喧噪を聞く限り、盛況のようだ。
開店記念・エール一杯1ゴルド!――に釣られた客が、狙い通り集まっているらしい。

アルマース > 女達の衣装は様々だ。
ショーをメインにしている店なら、衣装を揃えてくれることもあるけれど、今夜は各々自前である。
昨日見つけたばかりの掘り出し物――孔雀を思わせる青みがかったグリーンのビスチェと
タイトなスリットスカートの衣装。動くと腰回りの飾りがシャンシャンと音を立てる。
肩と中指の指輪で繋がっている薄絹が長く裾を引いている。
絡まらないように、と気を引き締めて音楽に耳を澄ました。

しかし、その矢先。
『あんたの担当、"ドワーフ殺し"ね』
一番年かさの踊り子から言い渡されて、喉からおかしな呻き声が出た。
高いボトルを注文すると、踊り子がダンスのついでに席まで届けてくれる、という仕組みなのだが
開店から連日、"ドワーフ殺し"を注文しては嫌な絡み方をしてくる客がいるのだ。

「あいつは、無理だって、昨日も……っ、……っっ! ……。
 ……次触られたら手が出そう……もしくはナイフ。もお~……」

自分が断れば誰かに押し付けることになる。それも気が進まない。

「はーあ、やったるかあ」

音楽は止まらない。ごたついている時間も無い。
音楽の切れ目の後、次の曲が始まり、扉が開き、明かりが差し込む。
――客前に出る時にはもう、非の打ちどころのない笑顔。

アルマース > 嫌いな客はいるけれど、新しい店なので上下関係のようなものが希薄なところが良い。
踊りにも指定が無いし、そして何より音楽の質が良い。
どういう伝手だか知らないが、宮廷にも呼ばれるような奏者が弾きに来るのだ。
奏者の方も自由に楽しんでいるようで、つられて浮き立ってしまう。

一列に客席へ出てゆく踊り子達。たまに女連れも見かけるが、客はほぼ男だけ。
ステージらしいものは無い代わり、中央が広く空けてある。
安酒目当てに毎夜見かける、開店早々すでに顔馴染みの客連中が華やかな登場に口笛を吹く。
左右から伸びてきた手にぺぺぺぺーっとタッチして駆け抜けて、中央で輪になった。

赤に青にピンクに黄色に――色とりどりの女達がぴたりと静止する。
始まりの予感に一瞬、しんと話し声が途絶えた。
一音を合図に片手を高く中央へ伸ばし、ルーレットのように回り出し――
気に入った踊り子の名を叫ぶ声、目くらましのような速弾き――ああ楽しい。

一から十まで定められた演目も、細い綱を渡るように正確無比なステップも、それはそれで楽しい。
でも、打ち合わせ無しの音楽と、お行儀の悪い客の囃す声とで、
酔っ払いの描いたガタガタの線上を飛び跳ね、色をぶちまけただけの抽象画みたいな踊りだって面白い。

(今日は――孔雀の気分~)

ぱ、と花火のように踊り子が八方へ散らばり、そこからは自由時間の始まりだ。