2023/10/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」にセカンドさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」にマーシュさんが現れました。
セカンド > 昼が過ぎ、ディナータイムまでの時間は客が少ない。
サンドイッチなど火を使わない食べ物しか出さないこともあり人気がないのだ。
この時間に訪れるのは大抵が業者だ。
肉屋、魚屋、粉屋、青果物商、冒険者、徴税人、ごろつき、銀行屋……。
歓迎すべき存在からそうでないもの、積極的に排除するものまで。

そんな中、今日は珍しい客――客? が来る。
女にとって雇用主本人はともかく、その周囲の人物は好ましく思っている。
料理を作るということだったが、メニューまでは聞きそびれていた。宮廷料理を作る訳ではなし、ここで足りるだろう。
そろそろ来る頃か――と、入口を一瞥する。

マーシュ > 大き目の藤籠に、ごそりと入れられているのはとりあえず今日作るものの材料の下準備を終えたもの。
先だっての収穫の一部をせっかくだからと焼き菓子にでも仕立てるつもりだったのを、厨房を貸してもらえるということだったから素直に甘える形。
さほど多くはないが、瓶詰の液体は若干重くもある。
よろめくほどではないのは普段の作業などでそれなりに鍛えられているのだろう。

どうせ汚れるだろうからと、作業服がわりのワンピースはいつもの装い。
目当ての宿屋の人が少ない時間帯を見計らっての訪い。

「こんにち…は?」

扉を開いて───そろりと視線を巡らせて。
カウンター傍にいるだろう女主人と目が合ったのなら挨拶の言葉を向けた。

セカンド > 「いらっしゃい、マーシュちゃん」

にこりと笑い、カウンターの内と外を隔てる仕切りを支えて中に入るように促す。
藤籠はそれなりに大きいが、沢山作るという訳ではなさそうだ。

「今日は何作るんやっけ。パイ? 厨房使った方がええかな」

カウンター内にも火を使う魔導具はいくつか置いてあるが、二人が入ると少々狭くはある。
ウェイトレスの一人に何かあったら声をかけるよう伝えて厨房エリアへと向かう。
酒瓶や小樽が並ぶ壁のちょうど裏にあるスペース。カウンターの仕切りを直進した所にある。
地下への階段や、裏庭に続く扉を横目に見ながら数m歩くとすぐだ。

厨房内では無表情な大男が外見に似合わぬ丁寧さで夜の仕込みをしているところだった。
女二人をちら、と一瞥しつつ作業を続ける。素早くはないが、丁寧な仕込み。

「それ終わったら休憩やろ? しっかり休んどき。――さて?」

丁度終わったのか、男は棚に仕込んだものをしまうと、のそりと裏庭へと出て行った。
藤籠の中身が何なのか、興味深そうな視線を向ける。

マーシュ > 相変わらずのちゃん付けには多少戸惑うものの、友好的な態度は常と変わらない。
促されるままに歩みを寄せる。
籠の中身はせいぜい数人分の口を楽しませる程度のものにしかならないだろう。

「せっかくなのでタルトにしてみようかな、と思いまして。はい、火を使いますから…お願いできますか?」

初めて入るカウンターの中に珍しそうに視線を向ける。
使い方のわからない魔道具が多いのは、女主のこだわりか、あるいはオーナーのこだわりか
下手に触らないように気を付けつつ案内に従った。従うというほどの距離もないのかもしれないが──
普段見ることのできない場所を見る、というのは妙な高揚感を得たりもする。

構造の利便性なんかを裏側から見て改めて実感しつつ。
そこの主だろう大きな体躯の男性が黙々と作業を進めているのに頭を下げた。
丁寧に夜の料理の仕込みをしているのに、邪魔にならないようにしようと思いつつ。

改めてこちらの手荷物に目線が向けられるなら、作業台の空いた場所にひとつづつおいてゆく。
何のことはない製菓材料なのだけど。

「普通のものしかないですよ?
山葡萄の蜜漬けに、キャロブを干して挽いたのと──
粉に、バターに、蜂蜜と、途中で卵とミルクを」

精製された小麦や糖蜜類が手に入れやすいのは、立場上なのかもしれないが。
基本的には私事のことだから、市場で手に入れたものがほとんどだ。

ちょっと変わってるのは山葡萄の蜜漬けと、甘味料代わりのキャロブくらい。
何か気になるものありますか?と興味深そうな視線にとうた

セカンド > 「タルトやとオーブン、これを使えばええな」

厨房には見たこともない魔道具が並んでいる。
いくつかは街の魔道具屋で売っているのを見たことがあるかもしれないが、原形を留めていない。
形状から推察するに、小さな鍋を載せたりフライパンを使ったりと直火を使いそうなものが三口。
大きな寸胴鍋が一つ、おそらく下の方にある魔道具が加熱するのだろう。
他にも色々と置いてあるが、今現在稼働中のものはなさそうだ。

壁際に据え付けられた、取手がついた平べったい直方体を示された。パン窯と同じ用途らしい。
女店主は取手を掴み手前に倒すようにひくと、中に空間があるのがわかる。ここに入れればよいのだろう。

「最初は何が何やらわからんやろうけど、おいおい覚えてけばええから」

さらっと発言した後ににやりと笑う。今後使い続けるだろうとからかっているようだ。
作業台に出されたものを眺めて頷く。地下の保存庫にはパイ生地があるが、一から作ることが大切なことぐらいは理解している。

「キャロブは生地に練り込むんか?それともクリームの方に?」

キャロブのほろ苦さと甘さをどちらで使うのだろう、との疑問。
とにかくタルトを作るのだから、型が必要だ。厨房の扉を開けて、いくつか大きさが違う型を提示する。

マーシュ > ────設備のことを聞く前に示してくれるのは、ありがたい。
というよりは、魔道具が潤沢な厨房というのはなかなか壮観なのだな、と。誰でも使える薪を使う窯や調理台に親しんでる身としては思う。
使い勝手の違いに戸惑いそうではあるけれど、調整などは楽なようにみえる。

好奇心の赴くままに聞いていたけれど、窯、と呼ぶには小型のそれにゆるく瞬く。
個人的な興味を満たすのは後にして、使い方を聞くだけにとどめて。

「────あまりお邪魔するわけにはいかないので……覚えますけども」

揶揄い言葉に気づいたのか、ゆるく目を伏せると首を横に振った。
そういう揶揄いにはやはり慣れないのか、少しだけ目元を染め。

ありあわせの材料で、できるのだって素朴な味わいのものだ。それは彼女も分かってるだろう。
キャロブの使い道を問われるのなら、材料を眺めつつ

「そうですね。タルトの生地をクッキーにしようと思ってるので、そちらに。食感が変わって面白いでしょう?」

クリームはミルクと卵で。やや硬めのカスタードに蜜漬けの山葡萄で甘みと酸味を調整できるだろう。
明確なレシピがあるわけではないが、あとは気温や湿度で粉を足したり減らしたりかな、と言葉を添える。

型を用意して出してくれるのに、材料との兼ね合いを考えて大き目のものを選ぶ。
手伝ってくれる女主人や、厨房を貸してくれた料理人を含む数人の口に入る程度の大きさを考えているよう

セカンド > 「既製品もあるけど、大半はウチが一から作ったやつやからな。
初めてここに入ってもわからん筈や。薪の代わりに魔石を使うから、よそと儲けはそう変わらんで」

そう。ここには薪がないどころか煙突もない。
自炊をしない小さな家には暖炉や煙突がないことは珍しくもないが、飲食店でそれらがないのは珍しい。
この建物全体が魔石を使う魔道具で大半を占めているようだ。今、この照明も魔道灯だ。
庶民に手が出ないものではないが、それでも薪よりは値が張る。

からかった言葉にあまり反発しないのは年上相手だから遠慮しているのか、満更でもないのか。
しばらくにやにやとしたが、続く言葉になるほどなぁ、と呟いた。

「生地の舌触りも変わって、飲み物も欲しくなるってワケやな。で、紅茶を……と。意外と策士やなー」

クリームや果実で水分は得られるが、それ以上にクッキー生地は口内を乾かすだろう。
料理をレシピ通りに作るのは誰でも――と言うと言いすぎだが、多くの人にできることだ。
食べる人のことを考えてこそ。先程までの揶揄とはまた違った称賛の声を送る。
小麦粉とバターを混ぜるボウルは持ってきた量から計算して一つ取り出す。

マーシュ > 「───凄いですね。………私にはあまり馴染みがないので、教えていただかないと無理でした。」

改めて厨房を見渡す。整った空間は、排煙のための機構が極端に少ないのも特徴といえるのか。
明かりも、焔の赤いものではなく、白く明るい。

「宿の設備はセカンドさんが?」

彼女の来歴で知ってることはほとんどない。視線を巡らせた後、改めて言葉を向ける。
なぜ雇われに落ち着いてるのかも不思議だ。自分の工房を持っていてもおかしくないだろうに、なんて思いもする。

彼女の揶揄いは今に始まったことではないし。反発するほどの悪意も感じなかったから。
にやにや笑いには少しだけ気恥ずかしそうに居住まいはただしたが。

作業のための設備の利用の仕方を確認しながら、籠の中から作業用のエプロンを掛けつつ

「策士って………、もう、楽しくお茶を楽しむためですよ?
あと……セカンドさん達にも食べていただきたいので、悪戯はなしですから」

己を何だと思ってるのだと若干のジト目。
それから以前彼女が協力して焼いたという焼き菓子に仕込まれていた悪戯を思い出して、こちらは苦笑交じりに注進を添えた。

材料がかさばるから、調理道具を貸してもらうのは素直にありがたい。
とはいえ、下準備のほとんどが住んでいるから、作業としては粉をふるって、混ぜて、二つの生地を一つの型でまとめるだけの単純な作業だ。
だから自然と会話に比重が傾いてゆくのは必然といえた。

用意されたボウルにひとまず粉をふるって落とし始めると、いかにもお菓子作りな雰囲気は出るのかも。

セカンド > 「このコンロは市販品やったかな。火力出ぇへんから出力弄っとるけど」

さらっと危険な発言をする。雇われ店長だが、それ以前に錬金術師なのだ。
魔道具だけではなく料理もするし、薬も作る。――正直になる薬もここで作ったのだろうか。

「建物建てたんは大工さんや石工さんやけど、設計はウチがやっとるで。あ、金出したんはあいつな。
思った以上にご近所さんがここ使ってくれてるのは嬉しい誤算やな。ここまで忙しくなるとは思ってへんかった。
――あいつがやることを見届けるには同じとこにおるんが一番やからな」

疑問を持っていることを悟ったのか、理由の一端を明かす。自身も男の行動に加担しているのだ、と。
そういったことを伝えずに深い仲になるような人間ではない、だからこう言えば伝わるだろう。

「んー? ウチはいつも正直やからな、なーんにも困らんねんで?」

ジト目にはけらけらと笑って返す。先程の言葉で重くなりかねない場をひっかき回し、霧散させる。
そう。正直でいることは楽だ。無用な衝突も時々生むが、精神衛生上余計なことを考えないでよい。
生地とクリーム、同時並行でやれば楽ではあるがどこまで手伝ったものかは悩ましいところだ。
手の動きで手伝いが必要かジェスチャーで聞く。道具や魔道具の準備でも十分かもしれない。
まだ早いかとは思いつつ、作業が終わればする記事を入れられるようにオーブンを起動させる。

マーシュ > 「……事故には気を付けてくださいね?」

何でもないことのように宣う言葉に、一抹の不安を感じて言葉を向ける。
大概のことは対処できそうでもあるし、単なる心配でしかないのだけれど。

ぱふ、と粉をふるって。生地用と、クリームと、打ち粉に使う分に分けて取り置きながら。
バターの塊を粉類の中で細かく切り分けてゆくような混ぜ込みで徐々に形にしてゆく形。
その中で紡がれるここでの立場を告げる言葉には、黙したまま目を細めるのみにとどめる。

彼の行動すべてを迎合しているわけではないのだけれど。
彼女もまたそうなのかな、なんて流す目線。
でも、楽しそうでもある言葉にはそれだけでもない熱を感じ取ったから、口許で笑みを象った。

「────……それならいいですけど、ほどほどにしてくださいね…?」

こちらも誓願の関係上さほど困ることはない───無いはずだ。
だから、場を和ますためにか茶化すような混ぜ返しに対してこちらもそれに応じる程度の軽さで応じはした。

手伝いの手をこまねいているのに気づいたら、じゃあ、とクリーム部分のボウルを渡す。
卵とミルクと蜜を滑らかになるまで混ぜて、それから葡萄の蜜漬けを混ぜ込めば大丈夫ですよ、と簡単な説明。
実際作業としては簡単だから。
でも手伝ってくれる気遣いには素直に乗るのは作業を分担したほうが早いし楽だから。

こちらの手元では、ほどほどの固さの生地が丸められつつあった。

セカンド > 「地下は石造りやから、何かあっても地上には影響与えへんから安心し。……食糧保存庫はわからんけど」

厨房から出入り口に視線を向けると、地下へと向かう階段が見える。
話の流れからすればコンロの話になるが、地上にある物は安全性を確保できたと考えているのだろう。
作業工程を眺めながら、次に何をすればよいか考える。

「実際、あんなうまく引っかかるとは思ってへんかったんやけどなぁ」

ほどほどに、という言葉にはわかっているとでも言いたげに返答する。顔には「結果オーライでよかったやんか」と書いてある。
クリーム分のボウルを受け取れば説明を受けながら作業を始める。どんな料理にするか、同じイメージが出来上がっているのだろう。
手つきは素早いが、それでも時間はかかる。
丸まった生地の次は延ばして型に入れる行程だ。予め次の次まで伝えておくとしよう。
オーブンはまだ予熱中。型ができる頃には十分だろう。

「麺棒と台は右から二つ目の棚やったかな、何段目かは忘れた。
そこにかかってる付近はきれいな奴やから使って大丈夫。一回り小さい型と耐熱皿を重しに使うとええんちゃうかな」

マーシュ > 「セカンドさんが怪我しないでくださいねってことなんですが」

施設の安全を優先した言葉に少々おかしそうに、さらに言葉を重ねた。
バターと粉と馴染んで徐々に一つの生地として丸められ。艶りとした卵色に代わってゆく。

「─────信頼があったんじゃないでしょうか」

二人の関係性はいまいちわからないけれど。つまらないことで互いの足を引っ張ることはないんでしょう?と作業の合間の会話。
あるいは会話の合間の作業。
彼女の表情が言いたいことはよくわかってるのでちょっと視線を外したが。

クッキー生地を敷きこんだ中に、少し硬めのクリーム生地を流し込んで一緒に焼き上げてしまうタルト。
味わいは素朴で懐かしいものになる予定。

己の欲しい情報を伝えてもらうと頷いて、素直に棚に手を伸ばす。
ちょっと背伸びして麺棒を取り出して、生地を伸ばして。

バターを塗って、打ち粉をした型に生地を敷きこむ。多少足りなかったり伸ばしすぎたり、なんて言うのは常人の作るそれの範疇だから。
あふれた部分をちぎって足して。
それでも余ったのはいっしょにクッキーとして焼いてしまえばいい。

型の容に合わせてクッキーの生地が器としての形を得たら、そこに相手の作ったクリーム生地を流し込んで。
あとは窯───、己には使い慣れてない形状のオーブンに任せるのだけど。その操作はいっしょにお願いするのは確実。

セカンド > 「錬金術師が実験で怪我するんは、騎士が戦場で怪我するようなもんや。名誉の負傷ってやつ」

そう軽口を叩くが、己が負傷するとは万一にも考えてない様子が口調から察せられる。
絶対の自信をもっているのか、ただの慢心なのかまではわからない。

「信頼、なぁ」

細かい所で相違はあっても共通の目的がある。そこが台無しになるほどの違いは今の所ない。それを信頼と言うべきかは迷う。
この厨房を使うのに利用料を請求した時も素直に払っていたのも信頼、なのだろうか。ただ抜けてるだけだと思うが。
生地と一緒にクリーム部も焼き上げると聞いて、少し遅かった手をまた早める。
置いてはあるものの、普段型を使うことは少ない。ここで作るパイ生地は大抵ミートパイだ。
肉屋が持ってくる牛や豚、冒険者が密猟の自覚なく持ってくる兎などが主で、お菓子を扱うことはあまりない。

「時間は――ちょっと待ってな」

ぱたぱたと厨房から出て行って扉を開けると高い声で火力と時間を尋ねる声。返答はなく、店主はそのまま戻ってきた。
てきぱきとつまみをいくつか回す。寡黙な大男が手振りか、こちらには聞こえない程度の声で答えたのだろう。
加熱前のタルトをオーブンの中に入れると、さて、と大きな声をわざとらしく発した。

「焼きあがるまで、最近どないなっとんのか教えてもらおうかなぁ」

黒髪眼鏡の女は、上司や先輩修道女と同じような目と口許をしていた。

マーシュ > 「もう、………そういうことは、ですね。心配を口にしている人の前ではおっしゃらないのが定石なんですよ?」

現状であれば己とか。
ごく当たり前のこととして、けれど己への技術の自負かあるいは別の理由があるからか。
あっさりと言葉にしつつもそうなることは見越していない言葉に困った方ですね、と眉尻を下げる。

そういう意味では雇用主、被雇用主共にどこか似たところがあるなあとは思うものの、その楽観性を否定したいわけでもなく。

己の口にした言葉に対して思うところがあるのか、何か思い返している様子だが───。
今回のことでまたどんなやり取りがされたのか、細かいところは実は知らない。
お互いが納得できてればいいのだろう、たぶん。

こちらはクリームを仕立ててもらってる間に使った道具を片付ける。
特に遅いとも早いとも思わない。仕事であれば別かもしれないけれどそうではない。
出来上がったらお茶の時間が待っているだけ。作るのも含めて贅沢な時間だと思うから。

オーブンの操作を任せてる間にタルト生地の上にクリームの生地を流し込んで。
未加熱の生地がオーブンの内側に収められたら、あとは待つだけ。
それは、薪窯でも、この魔石使用の魔道具でも変わらないらしい。つまみの操作を興味深く見守った、そのあとで。

「──────……ええ、っと」

なぜだかよく知った表情と声音が聞こえてくるのに。
勝手の違う厨房だと逃げ場がないことに気づいた女は、穏やかな笑みのまま、自分が窮地に陥っていることを知るのだった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からセカンドさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からマーシュさんが去りました。