2025/04/20 のログ
スピサ >  
 鍛冶場が多くある地区は、町中にある武器屋や鍛冶場と違い夜中に打つ槌の音へ理解がある。
 急な依頼や、日を短く切り詰めて仕上げなければいけない仕事の場合、寝静まる夜間でも金属を打つ音が響く。
 周りを気にせず、自分の限界を見極めて自由に槌を振るいたい者ほど、そういう鍛冶場が集まる場所へ訪れるだろうか。

 自然と周りは冷やかしや物見よりも、目的買いという商売でいえば衝動買いとは真逆な位置にいる客や歩く者が増える
 明確な職人へ辿る者もいれば、欲しいものを目当てにいろいろな場所を巡る者まで、様々だ。


   「―――。」


 スピサも、同じだ。
 大きな一つの単眼
 火の色に照らされる夕焼け色の単眼と、相反するような薄青い肌で包まれた筋肉。
 両手はグローブで包まれ、握る長い柄の先で火熱を吸い込んだ光るような熱の色を帯びる鉄塊
 それに対し、時折傍の水桶で吸った火熱を冷ますように槌を濡らしながら振るう、もう片方の腕。

  
   ギィンッ
             ギィンッ 
     ギィンッ 
          ギィンッ


 重ね続ける槌の音
 単眼族の束ねられた人間とは違う膂力で振るう槌は、金床の上で比熱を吸う鉄塊を何度か広げ、畳むことを繰り返す。
 強度性でいえば数度で済むそれも、中の隙間を丹念に潰していく工程か
 折り返しの作業は何度も続いている。
 一つの塊のまま刃を造る際の、不自然な穴や乱れがあるよりも、よほどいいのだろう。

 その先から広げ、伸ばすことで、見える形は内反りの鉈か、はたまた鎧断ち(ファルシオン)

スピサ >  
 刀のような皮と芯で構成されたものとは違い、一つの真鉄
 形が定まれば整え、冷まし、鑢で削って無駄な外側の部位がはがれていく。
 再び火を入れるころには焼き直しの工程だろう。
 低温の火で包まれた炉の其処へと入ることで、鉄は強度性が増して水か油の槽へと入りことで焼き入れを行うだろうか。

 時間が経過した頃、汗をかきながら火であぶられて乾いていく肌。
 茎から先は先端が平たく、太く、先端の内側には鉤型の突起を持つ切断性を有する和鉈に近い刀身。
 樵や伐採ようとは違い、撓みづらい厚みは木材よりも目の前の誰かを切断するためのものだろう。

 無言で鉄と向き合い火を見つめている顔は、一言も発していない。
 後から砥石で研ぐ音と水の弾く音が続けば、後には冷たく鈍い表面
 西洋剣のように刃文や研がれた白身を帯びない鋭い鉄塊鉈が出現した。


   「―――ふぅ。」


 そこでやっと、息を吐く。
 鉈を造る顔をあげれば、大分時間も経っていた。
 個人で用がなければ誰も訪れることはない場だ。
 集中が途切れたことでやっと、現実に視界が戻る。
 汗もまるで走ることを止めたように、ジワリと表面に浮かぶだろうか。
 全体をまじまじと眺めると、柄と鞘はまた次回なのか、ゴトリと台の上に置いて眺めている。
 
 

ご案内:「王都マグメール 平民地区 工房地区」からスピサさんが去りました。