2025/02/08 のログ
ご案内:「邸城内――午后の部屋」にアンジェレッテさんが現れました。
ご案内:「邸城内――午后の部屋」にリュシアンさんが現れました。
■アンジェレッテ > 学院での授業を本日も恙無く終え、従者を伴った帰路につき、そして今。
少女は邸城の一室にて、学生の責務を果たし終えた後の、長閑を寛いでいた。
尤も――完全なる自由の謳歌とは言い難い。
取り掛かるべき課題に向けた資料を探しつ眺めつしている最中。
休息と学業を、器用に両立させている案配だ。
柔らかな寝台に俯臥し、頬杖をついて肩から上のみを起こした格好。
真珠色のふぅありとしたスカートの裾より覗く伸びやかな細脚を揺らし遊ばせ乍ら、
ぱらりはらりと書物を捲る。その傍らには、既に検分した後の本が、数冊。
どれも全て、この部屋の本棚から抜いた蔵書であり。
そして書物を眺めながら書き留めることもあったのだろう、ノートと筆記具もが添えられて。
蜜色のツインテールも華やかな娘は、ぱら。ぱらら。頁を捲る。
読んでいる、にしてはその指の捲りは速い。つまり、――飽いている、ということで。
「――――――――…… ふ、ぁ ぁ。 」
欠伸。
本当はもう少し探さなきゃいけない記述があるのだけど。
面倒臭くなってきたし、窓から射す午后の陽射しはあったかい。
眠ってしまおうかしら、と思いながら、――…ばふっ。シーツに顔面を突っ伏した。
ただ、眠ったとしても直ぐに起こされてしまうかも。
何故なら、少女が堂々我が物顔で散らかし、陽だまりの仔猫宜敷く伸びているこの部屋、
実は、彼女の部屋ではないのだから。
きっとそろそろ――部屋の主が戻ってきても、よい時間。
■リュシアン > 少年の部屋は、王侯貴族の部屋にしては聊か──いや、かなり地味なほうだ。
昔は色目ももう少しにぎやかだったのだが、成長するにつれて貴金属や豪奢な布地をあしらった物は好まなくなった。
その代わりに落ち着いた色や織目の生地だったり寄木や木目の美しいものを好むようになったこともあるのだが、一番の理由は書斎と見紛う程の壁の一ついっぱいに作りつけられた本棚に押し込められた本の量だろう。
新しい服も玩具も欲しない分、少年は絵本や鉛筆に始まって本や文具を強請ることが多く、結局年齢には見合わない随分と地味な部屋になってしまった。
そして、平穏に帰宅することが出来た今日に感謝しつつ、今日は決まった約束もないのだから先日古書街で購入してきた本をじっくりと読むことにしよう。
そう思っていたはず、なのだけれど。
「……ここ、ぼくの部屋なんだけど」
扉をあけて、まずため息。
きっとメイドが丁寧に直してくれた深緑のシンプルなベッドカバーに皴をつけて転がっている華やかな色彩の主は解っている。
だから、聊かむすくれたような声で寛いでいる姉に向かって控えめな主張を投げた。
「本が要るのはいいんだけど、読むなら座って読んでよ、ねぇ」
姉に不法侵入されるのは初めてではない。
それなのに、毎回部屋の主が自分であることを主張しても勝てたためしがなかった。
だから、きっと今日も勝てないのだろうとは思っている。
けれど主張せずにはいられない。
姉の不法侵入によって、頁に予定のない折り目がつけられた本が何冊ある事か。
着替えを手伝ってくれたメイドたちが下がっていくときお茶が欲しいことを伝えて見送った弟は、自分の領地回復を試みるべく寝台の上に転がっている直ぐ上の姉の鼻を摘もうとした。
■アンジェレッテ > そう、部屋の主――…弟の部屋には、本が多い。
此の部屋で最も華やかなりしは書物の背表紙の箔押しなのじゃないかしら!なぁんて少女が揶揄をするくらい。
己の部屋に置くには煩わしい書物達をこっそりと彼の本棚に同居させているくらいだ。
……まあ、きっとバレているのだろうけども。
ぽかぽかとした陽気とベッドの柔さに少ぅしばかり目蓋が落ちてきた頃だったろう。
扉が漸く開いて、可愛らしい溜息と、不平を第一声とする弟が入ってくるのは。
「部屋に入って言うべきは“ただいま帰りました”なのじゃあないの?
そうよ。ここはリシィの部屋。
私の部屋には、こぉんなに本はないもの。」
そう。少女の不法侵入には前科がたんまりとある。
こうやって、彼の寝台で転がっているのだって、時折あること。
愛弟の帰宅を歓待する、微笑ましい情景だと――少女は思っているのだけど。
「この時間は、リシィのお部屋のベッドがいちばん心地好いのだもの。
陽当たりがよくてぽかぽかで素敵だわ。ソファじゃあ駄目なの。」
ああ言えばこう言う。そして、部屋の主が戻ったとて、
領域侵犯の娘は、領土を譲る気はさらさらないらしかった。寛いでいる。
くるりとキトンブルーの双眸を彼の方に向けては、着替えの間、ころりころりと横臥して、そして。
歩いてきた彼に、ふにゅ。鼻を摘ままれ、すかさず指を摘み剥がし。
「あら生意気。私の可愛い鼻を掴むなんて。」
■リュシアン > 誕生日に欲しいものを尋ねられて自分のお部屋と壁いっぱいの本棚と答えたのは何歳だったか。
その時に今まで過ごしていた子供部屋から、午後を過ぎたころから漸く陽光が差し込み始めるこの部屋へと引っ越した。
だから確かに姉の言う通り学校から帰ってきた午後から夕方の時間がこの部屋にとっては一番明るく眩しい時間。
いつの間にか本棚に増えている片隅の本たちも、いましばらくは目を瞑っているけれど、自分の蔵書を圧迫するようなら書庫に移動させるよう言わなくてはならない。
だが、それをわかりましたと受け入れるような姉だろうか。
受け入れたと見せかけて、きっとまた我が物顔でこの本棚に戻しに来る気がしてならない。
「だって玄関でもう言ったもん。
ぼくの部屋なんだから、言う必要ないでしょ」
鼻を摘んだ指先に、ちょっとだけ力を籠める。
勿論赤くなったり、あとになったりしない程度に。
摘み剥がすその細い指に逆らうことはなく、両手を上げて無抵抗の姿勢。
「だったらソファを日当たりのいいところに移せばいいじゃないか。
……しょうがないなぁ…」
すっかり深緑の寝台の上は占領下にある。
諦め交じりに腰掛けて、散らかっている本を回収しながら、ただいま、とだけ遅い小さな挨拶。
一冊回収しては何を読んでいたのかを確認し、止められなければきちんと整理してある本棚に読み終わったと思しきその本たちを納めるために立ち上がろうか。
「姉様の可愛いお鼻より、ぼくはかわいい本のほうが心配なの。
それで?本を読みに来ただけ?それとも世間話に来たの?」
本をまとめて重ねる少年の指先は、姉と比べても遜色ない細さと白さ。
少しばかり少年のほうが指が長いかもしれない。
扉が叩かれて、メイドたちが紅茶の支度を伴って現れたならテーブルに用意することを頼んだ。
たっぷり温かい茶が入ったポットに香ばしい焼き菓子、うっとりするようなケーキに甘い蜜。
少年一人では消費しきれないそれらはもちろん姉のためのものだ。
■アンジェレッテ > 弟とは歳頃が近い所為か、幼い頃は子供部屋も一緒だったし、一番の遊び相手は弟と乳母であったものだから。
一つ違いの弟に対して、此の少女は殊更に遠慮が無かった。
遠慮が無い代わり、子供部屋からの離脱を先に宣言されて、泣いて拗ねて噛みついて引っ掻いて引き籠もったのは此方の方。
流石にそんな可愛らしい頃から思春期を経て、弟離れも遠慮も気遣いも生じた、つもりではあるけれど。
それでもこうして時折身勝手に弟の部屋で転がっているのが――この、姉であり。
「リひィの… お部屋だけど、この私がいるのよ?挨拶すべきだわ。」
少しだけ鼻を抓まれたせいで発音が可笑しくなったのは御愛嬌。
離された指の痕跡を、小鼻をすんと鳴らして消し去っては、少年の挙動を目で追いながら、
今迄読んでた一冊も、ぱたむと閉じては彼に手渡す。
「これも仕舞って頂戴。
リシィが帰ってくるのが遅いせいで、眠くなってしまったの。
もうお勉強する気がまったくなくなっちゃった!」
どうやら、片付けるのは彼に任せる模様。だって、勝手に適当な位置に戻したら、
それはそれでこの弟はむくれるのだから仕方ない。
故に、また。ころんころん、ふぁん、ふあん。ベッドの上を横臥して待つ。
「本を読みにきて、ひなたぼっこして、世間話にきたのよ。
勿論、貴方の宝物の本よりもずぅっと、かわいいかわいい弟と、だわ。」
当然でしょう、とばかりに宣っては、ふっくりと御機嫌に微笑んだ。
寝台をころころしながらなので、全く格好もつかないけれど。
侍女が、お茶の準備を始めるのに、娘の眼差しが、くるりと燦めいて向く。
茶器の鳴る音色、紅茶の立てる湯気。バターたっぷりの甘い焼き菓子の芳ばしさ。
其処に到って、漸く――――少女は、ぴょん、と上体を起こし。
「あとは、――そう!お茶をしにきたの。」
弾む鈴声を、かろりと付け加えるのである。
■リュシアン > 子供部屋に居たころは確かに姉の後ろをついて回っていたし、眠る寝台も一緒だった。
ひとつ違いの姉弟なんて、お互いにとって双子に似たようなものだったのだろう。
他のきょうだいが割って入って止めるほどになったはじめての姉弟喧嘩も、弟が姉に手を上げることはなかったけれど、そのかわりに頑として自分から謝ることはしなかった。
「それなら、ぼくだって姉さまにお帰りって言われてないもん」
少年と少女の合間にいるような弟は、珍しくぷすぷすと頬をふくらませて反論する。
内向的な子供でもはあるけれど、家族やよく見知った相手の前なら年相応らしい反応もする。
それが、一番近い年頃の、一番近くで育った姉ならなおさら。
これも、と、音高く閉じられた本を受け取ればいたわるように裏表紙を撫でて寝台から立ち上がる。
背表紙に並ぶ文字を確認し、ある本は薬学の2段目に、次の本は錬金学の1番下に、分類を大まかに分け、その著者ごと、そしてそのタイトル順にと細かく整頓して管理するのが少年のスタイル。
だから、書庫を見ずに別の作業をしていても、必要な本を尋ねられたら大体の一は答えられる。
流石に、邸城の中にある大書庫の中の事を尋ねられたらそうも行かないのだけれど。
「遅くないよ、今日は早いほう。
それに、姉さまの勉強する気がないのはいつもじゃないか」
抜き取られていた本を定位置に戻してまた寝台のほうを見やれば今度はベッドカバーが虐げられている。
ここに関しては自分よりも、専門の侍女のほうが上手だからもう触ることはしない。
何なら、転がって揺れる姉のツインテールとドレスの裾を見てあきれたようにため息をつく程度。
結局はこれなのだろうと、テーブルの上にセッティングされるそれらに弾ませた姉の姿をみて苦笑する。
自分もまた本はもう片付いたのだからティータイムと洒落こむべくテーブルに近づいて。
どうせ姉の事だから自分でティーウェアに触れることなどしないだろう。
二つ用意されたミルクピッチャーにそれぞれ触れて、温かいものが一つあることを確認してから
「早くしないと、冷めてしまうよ」
声を掛けながら姉の気に入りのティーカップの中にまずは百花蜜を二匙垂らす。
そこに温められたミルクをさらに二匙、適当なスプーンで混ぜて蜜を温めると同時に温かいミルクで伸ばす。
程よく混ざったなら、そこにたっぷりと入った温かい紅茶を少しずつ足しては混ぜ、カップの半分になったらあとは紅茶を少しだけ勢いよく注いで自然に混ざる様に。
「ケーキは?どれにするの?」
日向よりのあたたかい椅子の前にカップを置いて、少年の手は既にポットではなくてケーキサーバーを携えていた。
■アンジェレッテ > 「だって、お帰りって言おうとしたら、鼻を抓まれたものだから、
つい、そのままごくんって、“お帰り”を飲み込んでしまったのだもの。」
澄まし顔で、喉元に手を添えてのそんな言葉。
膨らんだ頬をつついて萎ませる遊びができない距離なのがとても残念だと、
書物を書架に仕舞う弟の姿を眺めて、そう思う。
頬をぷくりとさせた少年は、幼い頃そのままでとても愛らしい。
「遅いわ。欠伸だって3回はしたし、目蓋だって2回はひっついたもの。
だって、勉強なんて、――するべき場所でするものでしょう?」
これまたつんと澄まして、少女が言う。ベッドに寝転がってしていた癖に、それはそれだ。
そして、お茶の準備が整った頃。弟に呼ばれて少女は漸く寝台から降りた。
陽だまりから、陽光の粒をきらきらと長い睫毛に髪に、飾り乍ら。
たっぷりと贅沢に布地を使用した真珠色のスカートを、軽く掌で撫で整えたなら
皺になった、くしゃくしゃのベッドシーツは見向きもせずに、
上機嫌でふぅあり、とスカートを弾ませ乍ら、軽やかな足取りを躍らせて。
一人掛けのチェアもあるけれど、勿論座るは長椅子の方。此方なら、きっと弟が隣に来るから。
「野苺とヴァニラのヴィクトリアケーキがいいわ!
あと、タルトタタンは――…リシィ、半分こしましょう?
スコーンには、クリームと薔薇のジャムをちゃんとたっぷり添えてね。」
弟が丁寧に淹れる紅茶を、満足そうに双眸細めて眺めながら。
指先がくぅるりと魔法の杖めいてテーブル上を指して流れ、
滑らかに回る舌が呪文のように甘菓子を唱える。
「リシィはきっとリンツァートルテを食べるでしょう? 一口頂戴ね。」
■リュシアン > 「…ぜっったい、嘘だ…」
忘れていたくせに、と言わんばかりに色違いの瞳で見やるも、直ぐにそれは別の方向へ。
何せ、自分では絶対にティーウェアに触らない癖に好みがいちいち煩い姉の要望を叶える準備は忙しいのだ。
メイドたちは心得たように必要な準備をして下がっていった。
だから、姉の気に入りのティーウェアをテーブルに並べるのも、姉好みのハニーミルクティーを用意するのも、彼女にケーキをサーブするのだって全部弟の仕事だ。
そして、それが解るようにケーキプレートもカトラリーも姉弟それぞれの好みのものが準備されている。
「ぼくはね、姉さまみたいに授業だけで全部わかるほど賢くないの。
解らないことは聞きに行くし、ベル兄様にだって教わりに行くし、それに、……それに、その」
言葉尻が濁る。
今日はもう何もなく終わったのだから思い出したくはない気持ちが理由だ。
漸く深緑の上を好き勝手に荒らして気が済んだのか、寝台から降りてくるその足音によって現実に引き戻されつつ
「野苺とバニラ…タルトタタン。
スコーンは、普通のでいいの?」
ケーキサーバーでまずは指をさされた甘酸っぱいジャムと豊潤な香りのするケーキを乗せ、タルトは先に半分にして美味しいほうを姉のケーキプレートに乗せる。
その端にバラのジャムとクリームをたっぷり乗せたら姉のリクエストするスコーンを焼き菓子の暖かい籠からケーキプレートに移そう。
「…まあ、食べるけど。それ以外だって、食べるし」
図星。食べたいものはバレている。
自分のプレートの上に乗せたトルテを見下ろしながら、焼き菓子の籠からスパイスのたっぷり入ったクッキーを何枚かと、それからスコーンを一つのせて、脂肪分の高いクリームと杏のジャムを更に乗せる。
少年は、先にジャムを乗せてからクリームを乗せる主義。
だってそのほうが煮込まれた果物の香りがたってとってもおいしいのだ。
自分のカップにも紅茶を注いだら、姉が開けてくれたソファーのスペースにようやく腰を下ろして。
■アンジェレッテ > 「あら、リシィだってとても賢くて御利口よ。
だって、私のお気に入りのカップも茶葉も、蜂蜜の種類も量だって、
なんでも覚えてるし全部わかるのだもの。ベル兄様よりも完璧だわ?」
少年が、言葉を濁した機微を、少女は敏く気付くけれど。
口調をわざとらしく尊大にさせて、大仰に褒め讃えるに留める。少なくとも――今は。
ふわん、とスカート弾ませてソファに腰掛けたなら、
弟らしい趣味の、落ち着いた色彩のソファの飴色に磨かれた木の肘掛けに腕を置いて。
少女は優雅かつ至極当然のように、彼のセッティングが完了するのを待つことだけをする。
自分だって出来ないことは無いけど、こういうのは弟の方が丁寧に事を遂げるのは昔から。
そして、自分の好みを誰よりも正確に記憶してくれているのだって昔から。
そして、その几帳面で丁寧な手許を眺めて待つ時間が、
此方の好みをどう組み合わせるかを真剣に思案するかに視線を中空に悩ませるその横貌が、
少女はとてもお気に入りだったから、今日も御満悦に唇に弧を描く。
「プレーンの、小さめのスコーンがいいわ。
あまり食べ過ぎて、夜のご飯が入らなかったら、またリラにお小言を貰ってしまうもの。」
食べ残しに煩い侍女の名前を口に出しては、自分の前に置かれたプレートの配膳を見遣る。
こういう、菓子やクリームをバランス良く形崩れなく美しく飾るのだとか、そういうのが。
圧倒的に己は苦手で、それに比べて彼の飾り方はパーフェクトだ。
だから。傍らに漸く辿り付いた弟に、少女は無邪気に言葉を弾ませる。
「リシィが載せてくれるデザートはいつもとても綺麗だし、
リシィの淹れた紅茶も、いつもとても美味しくて、私、とても大好きよ。」
繊細な桜貝の爪に彩られた細い指先で、ティーカップを掬いあげて。