2024/09/15 のログ
■エウヘニア > 女が通されたのは、異国情緒あふれる内装の一室だった。
王都にある『九頭竜の水浴び場』にも似た様式といえばいいのだろうか。
好奇心に視線を取られながら、説明を受ける。
特殊な香なのだというその成分にちょっと心ひかれたから、なんてそもそもここを訪れた理由を思い返しつつ。
心地よい入眠を誘う為の薄暗い照明。ゆったりとした寝椅子は、緩やかな傾きと、入眠後の体を支えるためにすっぽりとはまり込むようなそれだった。
説明に頷いて、寝間着めいた簡易の装束に着替える。要所を紐で留めただけのそれは印象通りの寝間着でいいのかもしれない。
寝椅子に仰向けに身を横たえて──請われるまま目を閉じる。
仄かに薫る花、あるいは樹木、さまざまな香りの混じったその匂いに、馴染んだころ、ゆっくりと夢の中に落ちてゆく。
「─────」
寝入ったのを見届けて、案内してくれた人が部屋から出てゆく小さな音を、どこか遠くで聞きながら。
(どんな夢になるのかな──)
どんな夢が見たいですか、という問いかけに。なら故郷の森が見たいかな、と応じたことを思い出していた。
■エウヘニア > 「───……おー……」
最初に感じたのは、木洩れ日。眩しさに目を細めて、それから自分が森の中に佇んでいることに気が付いた。
実際の体は、多分すやすや眠って夢の中なのかもしれない。
その乖離に少しおかしそうに口許を緩めて。
手足の感触も、その辺の草木に触れた感触もまるで変わらない。
明晰夢ともなんだか違うその様子に、一つ深呼吸。
香のそれじゃなくて、森の香りが染み入ってくるのに満足そう。
それでも夢だと思うのは、時間や天候は曖昧。眩しいと感じても時折暗くも感じる。
それと───
「……季節が、ないかんじ、かな」
自身の故郷、というのは魔の国だ。その森の植生をすべて覚えてるわけじゃないが、あちこちで咲いている花、実をつけている果樹。それらは季節がばらばらで、本来の植生ではこんなふうにならないことは己の知識を手繰ればすぐにわかることだったから。
「さすが夢って感じ、なのかなあ…?」
あまり深く考えずに楽しもうかな、と暢気な一歩。
普段とは違う、でもどこか見覚えのあるその場所を散策するように足を踏み出して──。
■エウヘニア > 頬を撫でる空気の流れも、足首に触れる感触も実際触れたそれとおなじだ。
あるいはそれはそうして歩いた経験を呼び起こされているのかもしれないけれど。
危険のない夢の中だから、自分が丸腰でもさして気にはならない。とは言え森の中をこんな風に歩くことなんてないから落ち着かなさはあるけれど、歩いているうちにそれも気にならなくなってしまった。
「………ああ、でも、これ」
夢の中は、おそらくは自分の記憶で構成されているのだろう。
女が覚えてるか、忘れてしまってるかにかかわらずそれは女の知識を逸脱することはない。
それでも自然に見えているのが、それも暗示、あるいは安全な夢の中で戯れる、ということなのか。
だからと言って懐かしさを感じないわけじゃない。それは、今住んでいる王都周辺では見ることのできない植物がほとんどだ。
暗がりで仄かに光を放つ花、花芽のふくらみに宿る露が蜜のように甘い低木。
針のような葉を持つツタ類。
女が認識している危険なものも、有益なものも綯交ぜに。
■エウヘニア > 「ホームシックとかはないけど………」
(今度帰ってみるのもいいかも…?)
女の記憶が確かなことを再確認するのもなくはない。
ゆったりとした散歩をつづけながら、気持ち良さに目を閉じる。
純粋な魔族ってわけじゃないけれど、半分はそうだからというのもあってか落ち着くのは落ち着く。
そうして時間が来て揺さぶり起こされるまで女は夢幻の階層で穏やかな夢を紡ぎ。
香の成分についてはあまり思い至るものが無く。
そちらについては若干の敗北感を得て帰路に就いたのだとか。
ご案内:「夢幻窟」からエウヘニアさんが去りました。