2024/05/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」にシアンさんが現れました。
■シアン >
夕刻。お日様が落ちたばかりで空はまだ明るい頃合い。
大通りの各所では幟旗や赤提灯などが掲げられて酒や女をだしに呼び込みが始まっている。
冒険者ギルドに併設された酒場にも明かりが灯り音楽が奏でられて、
少し気の早い客たちの来訪に合わせて慌ただしく給仕がされていた。
晩飯時、早めの晩酌時の活気……が聞こえるか聞こえないかの其処はギルド併設の鍛錬場だ。
ベテランも新人も問わず意欲のある者が研鑽を積む場所。
石造りの床が広々と広がって半円の天幕に閉ざされたそこは随所に設けられた窓のほか、
近くには大きめの河川が通っているせいか見目ほど暑くはなく何なら結構涼しい、のだ、が、
「ほれほれほれほれ。くたばりてぇのはわかるが、そりゃぁ帰ってからにしろ」
今は、熱気が満ちている。今し方まで幾人もの冒険者がベテランにシゴキにシゴかれていたせいだ。
「ほい、水」
足腰立たなくなるまで走らされるわ、足腰立たなくなったら蹴っ飛ばされて走らされるわ、終わったと思ったら今度はベテラン相手に模擬戦やらされるわ。しかも、殺す気か? って勢いで向かってきた奴等をぶっ飛ばすわ。やりたい放題である。
死屍累々といった具合にへばって倒れている彼ら彼女らに、
氷をたっぷり入れた水をぶっ掛けて回るベテラン。
件のその男は……
丈はそれなり、だが、筋骨の発達が尋常ではない。
脂肪の一切合切を削ぎ落として筋肉が張り巡る肌が汗に塗れて光る様は、まるで、金属。
ボリューミーな髪が沿岸に打ち上げられたワカメよろしく垂れているのをポニーに括って、一息。
「ぁーあ゛っつぃ。俺が被りてぇわ。起きろてめーらー。解散だ解散ー。俺にシャワー浴びさせろおらー」
時たま行われるベテランによる指導依頼を請けて朝から晩までたっぷり苛め倒して、今漸く、終わったところ。
■シアン >
因みに。指導にかこつけて日頃の鬱憤を晴らしている、とかでは、まったくない。
『派手にぶっ飛ばしてるように見えるし死ぬほど苦しいけど怪我とかさせねぇように殴ってる』
『実戦よか厳しい訓練で実戦んときに“これよかマシ”だって思えるよーにしてる』
曰くそんな感じである。
「飯食う元気がある奴ぁ酒場で食ってけ、酒も頼んでいいぞ。勘定は俺でいいから」
これでもかってぐらいに鞭の雨あられを食らわせたあとに一匙の飴も与えておく。
『これで逆恨みされて刺されそうになるとかマジ勘弁』
曰くそんな感じである。
「ぁーどっこいしょ……」
新人の中でも、動ける者は居る。参加している者の中にはそれなりの歴の奴も居る。
全員追いかけ回してぶん殴って蹴っ飛ばしてを一日中は流石に疲れる。
髪はぐっしょぐしょだし身体もしとどに汗に塗れて疲労感もそこそこ。
つい、おっさんくさい掛け声を出しながら近場にどっかりと腰を落とすと、避難させてあった手荷物から煙草を取り出し一服だ。
マッチをマッチ箱のヤスリで擦れば小気味のいい音とともに火を点ててから咥えた煙草の先っぽに移して、口を窄める。
じりじりじり……と煙草葉が熱で焦げ紫煙が立ち上り、口からもふーーーっと長めの吐息で紫煙がもくりと吹き上がる。
「……」
何人かのろのろと立ち上がって帰ったり酒場に向かう者の背を見送り、手もひらひらと振ってから、ゆっくりと煙草をくゆらせ、
「ぁ゛ーつかれた……」
ぼやく。
これに限った話でもないが一日がかりの労働は大変だ。これは特に。怪我も故障もさせないように苛め倒さなければいけないので気を使う。