2025/05/06 のログ
ご案内:「平民地区・冒険者ギルド/訓練場」に影時さんが現れました。
影時 > ――夜を迎えた平民地区。

そこに位置する冒険者ギルドに隣接する屋内訓練場には、夕餉時を迎えても人入りが絶えない。
依頼を終えての反省点を反芻したい者が居れば。
何らかの職業と兼任している者が、さび落としを兼ねて模擬武器を握る。
訓練場を使う者の事情は多様ではあるが、一様と言えることもある。それはきっと、技を磨きたいということだ。

「……あー。力み過ぎだ。
 その狙いだと、思いっきり叩き付けると刃ァ毀れちまう。斬り付けたいなら、こう、な?」
 
だから、訓練場には使用者の他に監督役として、数人の中堅以上冒険者を置く時間帯がある。
今がまさにそう。その一人として依頼を宛がわれた姿が、標的相手に木剣を振るう少年冒険者に声を飛ばす。
胸の前で腕組みした異邦の装束に身を包んだ男が、ここは――こうとばかりに身振りして示す。

標的として、広い訓練場の壁際に建てられているのは、幾本も立てられた太い杭。
人間の成人男性位の高さがあるそれには、古びた兜が被せられ、ぼろぼろのプレートアーマーが括りつけられている。
防具を狙って打ち込み稽古をしたり、剣筋を確かめるように素振りをする訳である。
声をかけられた相手はストレス解消のつもりでもあった、のかもしれない。
不満げな顔をするが、指摘と補足の実演については、納得は出来た……のだろう。

先程からの打ち込みは胴狙いでも、鎧の継ぎ目、隙間を狙うように――斬るなら、刃への負担も少なくなる筈。
あれだこうだと説教臭くなるよりも、実際にこう、と示す方が手っ取り早いこともある。

影時 > この国の剣と故郷由来の刀と同じような長さではあるが、用法と性質が違う。
だが、観念的に通じるものは古今、どの土地でも同じとも思う。よく斬れるものが望まれるであろう、ということ。
剣は切れないものと宣うものも多いらしいが、思うに一概に言えない。その土地、時勢にもよる筈で。
切れ味は考えずに叩き付けるなら、縁が鋭くなった棍棒と最早大差ない。まだ棍棒の方が整備と調達の面で勝る。
それでも尚剣を求められ、需要があるのは――やはり利器としての用途が求められることに他ならないのであろう。

故に剣術を学ぶ、磨きたいという需要もまた、絶えることはない。

「……え、なンだね。
 
 二匹を触らせて? ……あいつら捕まえられたなら、良いぞう?工夫しねェと逃げるだろうがな!
 本気で模擬戦してほしい? 俺位に遣れる奴が居たらな。……どーかね?」
 
指導と監督をしていれば、幾つか声も上がる。
男が普段連れている二匹の毛玉めいた齧歯類を見知っている少女達から挙がる声に応えて。
続く言葉には、どうしたものかね、とも首を傾げつつ周囲を見遣る。

見回していれば、訓練場の壁際に積まれた木箱の上に二匹の服を着た小さな毛玉を見出すことが出来る。
悠々自適とばかりに、頬袋に溜めていた種を齧っているように見えるものに、声をかけてくる少女達はまだ気づかない。
敢えて言うまでもあるまいと、わざと大袈裟に宣いつつ、続く言葉に考える。
初心者が相手にならないとしても、実力者同士の模擬戦を見るのは、稽古としては別の意味で意義がある。

影時 > 「模擬戦をしてはやれなさそうだが、もう少し見てやるとするかねー……」

だが、今この場に詰めている中堅クラスは誰もが忙しそうだ。
人選はしているとは思うが、己の手管、遣り口を極力秘しておきたいという者も居るかもしれない。
呼びつけるのは止めておこう。
そのかわり、自分の剣筋、太刀筋をこれは、こうする、といった塩梅で示す位なら需要はあるだろうか?
後でそうしようと思いつつ、打ち込み稽古を行う者達の手並みを眺め、適宜助言を行ってみよう。

そうしている間に、夜は更けて――。

ご案内:「平民地区・冒険者ギルド/訓練場」から影時さんが去りました。