2025/01/17 のログ
ご案内:「イフレーア・カルネテル邸・中庭」にアイシャさんが現れました。
■アイシャ > その日、少女は珍しく忙しそうにしていた。
いつも大量に本を抱えて廊下を歩いているのは使用人たちにとってはいつもの事だった。
…が、この日抱えていたのは本ではなく、山のような見本帳たち。
「アスティ……はきっとまだ研究中よね。
プッシィはまだ帰っていない?」
抱える量を見かねたメイドにまず妹たちのことを尋ねる。
夕食にはまだ早いが、昼食の時間はとうに過ぎた。
学生でもある下の妹の所在を確認する。
「…まあ、そうよね。
じゃあ…母さまは?」
妹たちは頼りにできないのなら次は、とばかりに上げる。
こちらも今は頼れないらしいことを告げられる。
見本帳の重みのせいか、それとも中々うまく運ばないことのせいか。
白い頬は丸く、風船のように膨らんで
「もうっ…あっ、そうよ、姉さま!
姉さまは?今日もお出かけなの?!」
御戻りではないですね。
響いたのは無常なるかな使用人の一言。
チン、と鳴ったのは呼び出しの鐘か、中庭へと続く扉の留め金か。
心当たりがすべて空振りに終わったことに意気消沈して見本帳を投げ出さなくなったあたり、昔より随分と大人になったと言えるだろう。
すっかり肩を落としながら少女の足は見本帳を抱えたまま中庭へ。
重みのある見本帳を、瀟洒な見た目の割に重量感のある外机の上へ置いて
「しばらくここにいるから、誰か帰ってきたら教えて頂戴。
…それから、温かいミルクティーと、何かつまめるものが欲しいわ」
運んでくれた使用人がかけてくれたショールの柔らかな温かさに感謝しながら椅子に腰かけると、少女は山のように積まれた見本帳の一番上を手に取る。
少し重い作りの表紙を開いて捲りながら、間に挟み込まれていた布地のサンプルたちと睨み合いを始めた。
■アイシャ > 少女が急に中庭に出てきたことで、邸内外の警護のローテーションや配置が換わったことを申し訳なく思いつつも、敢えてこの場所で読むことには少女なりの意味があった。
ぺら、と、捲る頁はいつもよりも新しい。
それもそうだろう、今ここで捲っている見本帳たちは邸内の書庫で奥ゆかしく眠っている本たちではない。
そして、見本帳の全てに生地見本が挟まっている。
これらはすべて仕立て屋たちから取り寄せたものだ。
それも、今シーズン、最新のものばかり。
少し前までは昔からの気にいりを直しに出しては大事に着るということを繰り返していた少女にしては、かなり珍しい行動と言えるだろう。
ずっと大事に着てきた服たちに愛着がないわけではない。
けれど、今ここで服を仕立てることは少女にとって急ぎの、いや、急ぎどころではなく可及的な問題を解決せねばならないからだ。
(…胸がまた納まらなくなってきたなんて、言えるはずないじゃない…!)
そう。
ぺら、と、音をたてて捲る少女に滲む必死さの理由は、自分の成長のが理由だ。
暫くは縫い目を解き、縫い代の幅を変えて貰ってどうにかごまかしていたが、それも誤魔化し続けるには限界がある。
よって、仕方なく少女は久方ぶりに新しい服を仕立てる羽目になっているというわけだ。
■アイシャ > そして、その仕立てに関して誰かに相談したい、だから珍しく引きこもり王女は自分の部屋も書庫も出て、わざわざ人通りが多い、というよりもアドバイスをしてくれそうな誰かを求めているわけだ。
自分の人となりを知っている家族である方が望ましくはあるが、今はそうも言ってられない。
溺れる者は、何とやら。
自分の着たいものを選べばいいのかもしれないが、引きこもりを極めて両手を半分往復しかけている少女にとってそれはなかなか難しいこと。
何故なら、外に出ないがゆえに最新の流行を理解していないのだ。
自分に似合うものは多少心得があるものの、それが最新の流行と異なることもまた少女は知っている。
「……っと、ありがとう。
あら、今日のお菓子はこれなのね…嬉しい」
一冊目が終わったあたりで供された茶菓子はふんわりとした焼菓子の間に香ばしいクリームが挟まったもの。
少女の好みの焼き菓子を用意してくれたのは、使用人たちが気を使ってくれたからなのだろう。
併せる茶の葉も少し香ばしい香りが強いもの。
好みの焼き菓子よりも強めの香ばしさがたつけれど、間に挟まったクリームのまろやかさを引き立ててくれる。
一冊目を閉じて、すこし休憩。
ふわりと香るミルクティ独特のまろやかな香りが鼻腔を擽って、すこしひんやりとした空気に心地よい。
■アイシャ > そして、その仕立てに関して誰かに相談したい、だから珍しく引きこもり王女は自分の部屋も書庫も出て、わざわざ人通りが多い、というよりもアドバイスをしてくれそうな誰かを求めているわけだ。
自分の人となりを知っている家族である方が望ましくはあるが、今はそうも言ってられない。
溺れる者は、何とやら。
自分の着たいものを選べばいいのかもしれないが、引きこもりを極めて両手を半分往復しかけている少女にとってそれはなかなか難しいこと。
何故なら、外に出ないがゆえに最新の流行を理解していないのだ。
自分に似合うものは多少心得があるものの、それが最新の流行と異なることもまた少女は知っている。
「……っと、ありがとう。
あら、今日のお菓子はこれなのね…嬉しい」
一冊目が終わったあたりで供された茶菓子はふんわりとした焼菓子の間に香ばしいクリームが挟まったもの。
少女の好みの焼き菓子を用意してくれたのは、使用人たちが気を使ってくれたからなのだろう。
併せる茶の葉も少し香ばしい香りが強いもの。
好みの焼き菓子よりも強めの香ばしさがたつけれど、間に挟まったクリームのまろやかさを引き立ててくれる。
一冊目を閉じて、すこし休憩。
ふわりと香るミルクティ独特のまろやかな香りが鼻腔を擽って、すこしひんやりとした空気に心地よい。
喉元を過ぎる温かさ、香ばしさ、まろやかさ。
菓子を一口齧れば、ふわり、さくりと伝わる触感の心地よいこと。
■アイシャ > 疲労を癒すような甘味とまろやかさは気持ちを少しだけ穏やかにしてくれる。
菓子をつまんだ指先はちゃんと拭いて、それからまた新しい見本帳を手に取る。
ぺら、ぺらりとまた新しい頁をめくっては添えられた布見本と見比べる。
当然、独りでは全てを今確認することなどできない量。
夕食の時間が近くなってきたなら今日のところはと諦めて菫のしおりを挟みこんで、残りはまた後程──。
ご案内:「イフレーア・カルネテル邸・中庭」からアイシャさんが去りました。