2023/12/10 のログ
■ジギィ > 「へー便利だね!
あ、じゃあまるちゃんたちは何かありそうなときはそこに入っていれば大丈夫そうね。
庭とか植物園につながるなら、薬草とか取り放題だねー」
エルフは彼の羽織を見透かすようにしげしげとみて、それからはたと、さっき同じようにしげしげと見つめた少年の荷物を思い出す。
改めて目を転じて、目を瞬かせながら見つめるとやはり何か籠っているようだが、なんだかごちゃごちゃと詰まっているように思える。
その横をよちよちとコガモがよぎっていく。
招かれれば素直に従うその様は、たまにふて寝(卵形態)を決め込まれる飼い主―――と言っていいのか持ち主というべきか―――よりも良好なようだ。
皿のもとにたどり着けば、『ピィ――――』と海中散歩を楽しめなかった代わりのようにはしゃぐ声が上がった。
『お二人とも、じっと見てもダメですよ。
あの方はこの世界のすべてですので、その中に入ってしまったものからは外を見ることができませんから。
―――ああ、いえいえ。
今年は私が当番でしたので、まあ、重いのは仕方ないなと思っていたのですが
下半身が露になるのも逃れられないとのことでしたので、露なまま伺おうと思っていたのですがそれが――――』
少年は受け取ったココナツを時折煽りつつ、つらつらと語り始める。
残念ながらかなり説明は下手だったので、エルフが時折合いの手のような質問を挟むことになったが、凡そこんな筋書きのようだ。
曰く
少年が住んでいるのは、今回彼とエルフが目指していた島である。
そこには二つの火山があり、年に一度、片方の山から片方の山へ奉納するものがある。
使者は男に限る。
黒髪だと尚可。
その辺りは神様の好み。
一度海に潜って身を清めてから向かわなくてはいけない。
ところが自分は泳ぐといつも下着ごとズボンを流してしまう体質である。
したがって村のシャーマンに占ってもらってあわよくばお役御免を願おうかと思っていた。
ところが、旅人が代わりに行ってくれるであろうというお告げが出た。
どっちにしろ、自分が行かなくて済むならラッキー!
『――――というわけでして』
少年は涼しい顔で続ける。
合間合間に交通整理のために質問をしていたエルフは、ぐったりとして砂浜に仰向けに身を投げ出している。
一瞬ひと際強くさあーと潮風が吹き、カニが横歩きで素早く少年とエルフと彼の間を横切っていく。
『あなたにこれを持っていってほしいのです。
いやあ、カッコつきで「イケメンに限る」という指示が無くて助かりました!
もちろん、お返しは致します!
先ほどの鳥ですが、私は捕まえ方を知っています。この小さな羽は、わきの下辺りのフサフサの一枚を持ってきたものでして』
少年は再び白い羽を目の前にかざして見せる。
よくよく見れば、そに羽の端は光を反射して虹色に輝いていた。
■影時 > 「まぁなあ。弟子たちが魔法の鞄、か?そういう奴を使ってから、頼んでみたらこうなった。
あいつらを万一の際に放り込めるように、と考えて依頼したのも大いにあンだろうが。
……流石に倉庫だから、庭やら庭園やらまではないなぁ」
鞄の先は魔法の異空間ではなく、現実に存在する倉庫に紐づけられた形式なのは、生物の収容可否の保証を考慮したのだろう。
とは言え、巨大な竜が羽を伸ばせる位の内部容積はそのすべてを使い潰すには余りある程と言える。
鞄の蓋の開閉権限含め、幾つかの制約を呑むことで得られるメリットは実に大きい。
背中が重くないと旅をしている気になれないと思い込んでいたのが、その実勘違いではないかと思う程に。
服に加え、武器防具忍具の置き場、そして毛玉たちの避難所に割り当てたところ以外は、未使用領域はまだ多い。
その片隅を使うなら、若しかしたら栽培の類もできるのではないか?
庭やら庭園やらまでしつらえるなら、美酒美肴まで揃うとそれこそ壺中の天の逸話の如くではあるまいか。
その発想は無かったと思わず唸りながら、コガモが魔法の深皿の元に辿り着き、水浴びにはしゃぐ風景が目に入る。
見た目も何もかも違うが、小動物(+めいた何か)たちが遊ぶ光景はついつい目尻が下がる。
ここに至れば仕方ないと砂浜に座り、苦無を放り出す。そしてココナツを手にしながら、話を聞こう。
「……――随分剣呑なハナシだな。まるで檻のようなとも思うが。 って、それはそれでどーなんだ……」
よもや、見てはいけない類ではあるまいか? 警句めいた言の葉に瞼を瞬かせ、一先ず話を聞く構えを見せる。
説明下手に合いの手めいた質問がエルフから入れば、ひとまずはおおよその流れを把握することが出来る。
出来ることは出来る。出来るのだが、はてさて。何処から何をどー突っ込むべきなのだろうか。
「……正直その体質は眉唾だが、あぁ、証明は要らん。要らねえ。要らねェからな。
あと、念のため聞いておこう。その奉納とやらが無かったら何が一体どうなる?」
風が吹く。遠く遠く鳥が鳴き、カニがささささ、と歩いてゆく。
涼しい顔をする少年と対照的に、こめかみに手を当てて俯く男とぐったりと仰向けになったエルフという図が出来上がる。
ああ、風が心地よい。溜息の代わりにココナツを呷り、啜りながら腰裏の雑嚢にまた手を入れる。
ひょいと掴み出すのは、冷たい水入りの瓶だ。身を乗り出し、仰向けのエルフの胸元にちょんと瓶を置いてみよう。
悪戯じみたことを遣りながら、ぽつと尋ねるのはこの後予測される話の流れと、それに乗らなかった場合に何が起こるかだ。
「それ、流石に鞄に放り込んじゃァまずそうな類だよなぁ……。
鳥そのものじゃなくて、羽根を持ち帰るのが俺たちの仕事だった筈だが。相違ないよな?ジギィお嬢様よ」
カミサマの思し召し、ご意思を思うと、奉納に担ぐものはきっと楽をしてはいけないような類ではなかろうか。
そんな予感を覚えつつ、確認の句を放つ。
服は極力濡らしたくは無かったが、今であれば魔法の鞄に濡れて困るものを粗方突っ込んでおく選択だって出来るだろう。
脳裏で算段を立てつつ、再度示された羽根を見る。光の加減次第で変わるのは、成る程。好事家垂涎か。
■ジギィ > このエルフの暮らしは何ごとも手の届く範囲。
故郷の里も定期的に移動していたので、そもそも『貯め込む』よりも『捨てるものを探す』ということがエルフには沁みついている。
そこになければその場で借りるか、作る。ある意味そこら中がエルフにとっては倉庫と言えなくもない。たまに、ヒトのルールでうっかり他人の所有物を使ってしまうのは玉に瑕。
いつか定住なんて事をすることがあれば、自分も広い倉庫のような場所を欲するようになるのだろうか、とぼんやり思ったり。
コガモと毛玉ーズが深皿の中で戯れる。時折休憩とばかりにココナツをかじる様は、高級ホテルのプールを楽しむヒトそのものに姿が重なって、思わずぶはっと息が漏れた。
『檻は、閉じ込めると同時に守ってもくれます。
ちょっとした認識のズレなんです。球面に住んでいる人が、自分がまっすぐな地平を歩いていると思うような…
奉納がなかったら、ですか?
えーと、つまり奉納先が息子さんなのですが
その息子さんがグレて、お母さんに向かって噴石を発射するという事態が起こってしまう
……だったかな?確か』
エルフの合いの手がないまま進む少年の話。
どうやらファミリードラマがあるようだが、登場人物が人物でないので非常にややこしい。
ぐったりと転がっているエルフは、身体の疲れも相まって早くもうとうととしかけていた。
そんな中、急に冷たいものが胸元に置かれると奇妙な声を上げ、器用に砂の上で頭を支点にしたブリッジの態勢になった。
「ううう~~~ ッ
あと少しでもふもふのプードルのおしりを触れるところだったのにぃ…
ン~ つまり、親子神が宿った火山があって 片方が不安定なのを鎮めないと、もう片方も噴火しちゃうとか、そんなカンジ?」
ブリッジからむっくり起き上がったエルフは、後頭部の砂を落としつつ寝ぼけ眼でそう語る。
それから若草色の瞳を瞬きながら暫く間を置いた後、おもむろに少年に向かって身を乗り出し
「コイバナはないの?
―――――うそでしょ……! お母さんなんて、コイバナの対局じゃない!」
とショックを受けている。
だものだから、彼からの質問に答える時、ぎぎっと音が立っているかのような首の動かし方をして彼を見るさまは、背景としたの景色になんとも不似合いなものだったろう。
「――――ウン、まあ鳥のいるところが解れば、抜け毛ならぬ『ぬけ羽』とかも見つかるだろうし…
ええええええ―――――ッ 影時さぁん、コイバナがないよー」
エルフが騒ぐ。少年はおろおろとエルフと彼とを見比べて、最後に降ろした荷物を見て
それから意を決したように彼に視線を向ける。
『…ぼくでよければ……』
真剣な、熱っぽい視線。天使の彫刻のような彼が、瞳をウルウルさせながら見る様は下半身が砂に埋まっていてもかなり絵になる。
とりあえず、少年は華奢なエルフよりは体つきの良い方が好み、なのかもしれない。
『こちらの運び方は限定されませんが、あまり魔法とかの痕跡はつけないほうがいいと思います。
せいぜい、バナナの葉っぱにくるむくらいでしょうか』
少年は一応、真面目な質問にも答えはするが
話が前後してしまう様子は、やはり話下手なのだろう。
■影時 > 旅人として余分を溜め込みすぎる生活は避けてきたつもりだが、今の生活だと是非もない。
武具、実用品含め、思い入れのあるものが増えてくると、住処たる宿部屋が多少は広くても限界がある。
その意味でも諸々を突っ込み、一時的に安置できる場所や空間が必要になるのはやむを得ない。
宿の主人には隠しているが、手製の火薬という危険物を頑丈なチェストに入れるとは、それだけで嫌がられよう。
だからこそ、預かり所やレンタル制の倉庫という商売は、意外と冒険者たちにはウケるのだろう。
毛玉コンビとコガモのトリオが水が絶えぬ深皿でじゃれ合い、ココナツをぱくつく。
泳げない動物でもこの位の水の深さであれば、遊ぶには不安がないらしい。
海辺やプールに連れてきた時以上に水への忌避が無いように思えるのは、遊び仲間も揃っているからだろうか。
「……、あー。……んー。……っ、分からん。いや、なんとなく分かる気がするが、噛み砕くに力使うなこりゃ。
息子かよ。なンか、似たような手合いの話を読んだ気がする。いや、聞いたのか……?」
話を聞いているうちに、一瞬宇宙を垣間見たような心地さえ得る程。
大事な話も多分に含まれている筈なのだが、グレるというのはどういうことなのだ。何がどうなっている。
部屋に閉じこもった我儘息子が、食事の差し入れがなかったら癇癪を起こすという悲喜劇の類ではあるまいに。
ここで留意しないといけないのは、噴石というキーワードだ。
火山の噴火の事例は知っている。噴石とは、特定の誰かに向かって飛ぶなんて器用な類ではない筈。
「おはようさん。……ははは、現実は非情だからなァ。
取り敢えずココナツの味に飽きたら、気休めに呑んどけ。飲み終わったら瓶は返してくれ。
要点を絞って理解するなら、恐らくはそーゆー類になるんだろう、な」
こんな日差しの下で寝てしまうというのは、色々と大丈夫だろうか。
不思議と冷たさを保った水で目が覚めたか? 奇声と寝言共に思いっきりブリッジめいた姿勢となるエルフに、おおっ、という声を吐き出す。
良いから飲んどけと瓶を押し付けながら、突発依頼の予感を断った場合の懸念に首肯する。
「母親相手に懸想するワケには、あー待て。禁断の何たらで懸想したのを書いてる奴いなかったか?どっかに。
まぁいい。ジギィ、諦めろ。ここに、コイバナは、ない。無いんだ。
……在るのはどーにかこーにか抜け羽根を拾って持ち帰る仕事だ」
ふと思い出すのは、学院の生徒から取り上げた耽美小説の粗筋だが、故郷にもその手のはなかったか?
いいや、考えるまい。考えるときりがない。現実的に考えてここは仕事の時間だ。
エルフが嘆き騒ぐ姿に身を乗り出し、ぽんぽん、と宥めるように肩を叩く。
本来の目的の正否の条件を再認識しつつ、向けられる熱視線に不覚ながらに身震いを覚える。
「丁重にお断る。
がー……運ぶのは、やらなきゃ、なンねぇ、かぁ。遣らずして、島が滅んだ。どうしてくれる、と言われたらどうしょうもない」
ぎぎぃ、と少年に顔を向け、首を横に振る。そうして問題のブツを見遣っては思いっきり息を吐く。
もそもぞと手甲を外し、雑嚢に放り込むのは受けざるを得ない仕事のためだ。
手甲を外せば脚絆やら懐やら、装束のそこかしこに仕込んだ手裏剣類を同じく雑嚢に放り込む。羽織も諦めて脱ぎ、雑嚢へと入れる。
砂浜に放り込んだ苦無位あれば、最低限の護身には足るだろう。この苦無は塗れてもそもそも錆びようがない材質だ。
「葉、ねぇ。運ぶものを改めてみせてくれるか?」
大きな葉に包めそうなものなら、ひと先ずはまだ背負い易いのだろうか。そう思いながら問題の品を再確認にかかる。
■ジギィ > 【次回継続】
ご案内:「南方の島」からジギィさんが去りました。
■影時 > 【次回継続にて】
ご案内:「南方の島」から影時さんが去りました。