2023/10/29 のログ
ご案内:「夢」にアルマースさんが現れました。
■アルマース > 砂漠に夜の帳が落ちる。
点々と灯る松明の火と真っ白なテント。
その下に褐色肌にターバンの男たちが集い宴席が開かれている。
女たちは別のテントで酒や肴の用意をしていた。
――そのテントから、十を数える年頃の少女が、盆の上に食べ物をのせて出てきた。
宴席が始まる前、母親に黒髪を三つ編みにしてもらい、『今日は特別』と生花を一緒に編み込んでもらった少女は喜んでいた。
いつもは触ると『無くすから触らないの』とこっぴどく叱られる母親の装飾品も貸してもらって、着飾った自分にそれはうっとりしていた。
叔父や従兄弟や、よく知らない親戚の男たちのテントへ食事を運ぶと、褒めそやされてまた上機嫌になる。
だから少女は給仕の手伝いが嫌いではなかった。
■アルマース > 給仕の手伝いが終わったら、髪をほどいて着替える前にこの格好を見せにいこう。
毎日遊んでいる近所のあの子も、同じように褒めてくれて、あたしの虜になるに違いない――
そんな胸の内はしかし、小さな用事で叔父たちに何かと呼びつけられて叶わなかった。
隣に座らされて顔をもみくちゃにされたり、膝に座らされたり。
そこまで子どもじゃあないんだけど、とだんだんうんざりし始めた頃。
『アルマは誰が貰うんだったか』と誰かが言った。
『初めては俺が』『来年あたり俺の五番目にする』
『生まれる前の取り決めはどうなっていた?』――
まるで自分がそこにいないかのように。
頭上で交わされる言葉の全てがその場で理解できたわけではなかった。
自分が今されているのが子ども扱いではなく、女扱いであること、
商品のようにやり取りされていることだけはわかって、急に狭い檻の中に閉じ込められたみたいに息苦しくなった。
何と言ってその場を抜け出したのか。
――耳の中で大きく鳴り響く自分の心臓の音。
気づけば、テントから離れたオアシスの茂みに隠れて。
ほんの一刻前まで綺麗に着飾って笑っていた少女は、泣いている惨めな子どもになっていた。
■アルマース > もともとよく知りもしない、好きでもない親戚が最低なことはどうだって良い。
母親や父親や祖母がこのことを知っているのか、
知っていて自分をあの獣の群れの中に行かせたのだとしたら、
――だとしたら、あたしの味方は、どこにも、……
月の下、砂丘の光と影と、空だけがすべての望洋と美しいこの砂漠に似合いの孤独だと思えば、心が凪いだ。
ここを出て、誰も手の届かないくらい遠くまで行こう。
絶対に誰にもつかまったりしない。
オアシスの冷たい水に少女は爪先を沈め、腰まで浸かり、頭まで沈んでいく。
髪に挿していた花がぷかりと浮かんだ。弔花のように。
ご案内:「夢」からアルマースさんが去りました。