2023/10/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場の裏庭」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場の裏庭」にマーシュさんが現れました。
ヴァン > 住宅地にある酒場兼宿屋『ザ・タバーン』の裏手には大きな裏庭がある。
ちょっとした公園くらいの広さで、宿屋がある区画の他の建物と共用のものだ。
洗濯物を干したり、ささやかな家庭菜園を作ったり、ガスが発生する薬物を作ったり。表庭ではできないことをやっている。
建物の裏口や間にある小道からのみアクセスできるので立ち入る者はこの区画の住人かその関係者ぐらいだ。

そんな裏庭で今日はバーベキューが行われている。人数は20人ほど。
朝からの準備がてら酒を入れる者達がちょくちょく現れていたために、昼になった現在、会場はすっかり出来上がってる。

銀髪の男はご近所さんからは「宿屋を家にしてる男」と認識されている。
普段世話になっている宿のため、テーブルや椅子を持ってくる力仕事を担っているのだと。
荒い息をつきながら、裏庭に設置されているベンチへ身体を投げだしている。
恨めし気に料理が並ぶ一角を見遣ると、大きめの鍋やバーベキューコンロの近くで黒髪眼鏡の女が忙しそうにしていた。

「樽まで運ばせるか……」

男が運んだスタウトはだいたい240リットル。酒場で出しているものと同じだが、わざわざ保冷室から未開封品を出してきた。
仕事柄重い物を運ぶのには慣れているが、それでも身体にはこたえる。
もうしばらくすれば教会の鐘が昼を告げるだろうか。これからこの区画の人達が個々に招いたゲスト達が到着する頃合いだ。

マーシュ > 「……裏庭、と、いうと」

以前訪った場所であるのは間違いない。
あの時の記憶をたどりつつ、それから手ぶらもどうかと思ったので幾許か、今回の催しに沿いそうなものを用意した紙袋を手に。
昼間と夜とでは、路地の景色も違うものだな、と肌寒さを増した空気の中を歩む。

さほど迷わなかったのは、それなりに人数がいるのかにぎやかな声が聞こえてきたから。
すでに酒の振る舞いもされているのかな、とややのんきな考えを差し挟みつつ。

すでに炊煙が緩くたなびいて、いい香りも漂っている中訪れるのは己一人というわけでもないのか。
おそらくは周辺の店舗の寄り合いの人々や常連客、その他人が人を呼んだ形になるのだろう。
収穫祭には少し早いような、でも似た雰囲気に自然と表情が緩む。

足を踏み入れた裏庭は、いつかの夜のような静けさはなくて喧騒がにじむ。
それを眺め、淡く笑みを口元に浮かべるとひとまずは忙しく立ち働く酒場の女主人のもとに向かうことになるだろう。
挨拶と、とりあえず手土産代わりの酒類と、つまみになりそうな甘くない焼き菓子などを携えがてら。

…本来己を誘ってくれた人はどこにいるのか、とそれを終えてから視線を巡らせて探すのだろう。

ヴァン > 来訪に最初に気付いたのは女店主だった。
ひらひらと手を振ると庭の一角、ベンチでぐったりしている男を指さす。
女が近づいてくると手元を動かしながら顔を向ける。

『お、差し入れ?おおきにな。お酒はあのテーブルの上に置いといたら誰か飲むやろ。
焼き菓子はそのまま持って行き。あと、あの宿六へばっとるからスタウト持ってってくれへん?』

女店主から示されたテーブル上には大きな蛇口つきのビール樽があり、それ以外にもワイン瓶や果実水が並んでいる。
大小のコップやジョッキがあるが、どれも店で使われているものかどことなく馴染みがある。

来場者には酒場で何度か見かけた顔が多い。住宅街にある酒場だけあって、特に同じ区画の住民が印象に残るのだろう。
銀髪の男は彼等とも馴染みなのか、ベンチに座りながら通りかかる人達と挨拶をしていた。
マーシュの姿に気付くと立ち上がろうとするが辛いようで、結局座ったまま。

「いらっしゃい。今日は色んな料理が出るから楽しみにしてほしい。
といっても、作るのは俺じゃないけど」

調理場のコーナーで忙しく働いているのは女店主と大男だ。他にも何人か女性がいるが、年齢からして付近の奥様だろうか。

マーシュ > 女主人の示した方向で、ぐったりしてる様子には首をかしげるものの、礼を言うだろう。
相手が課された過酷な労働について知る由もないのだから致し方ないとはいえ。

「はい。───思ったより人がいて少しびっくりしましたけれど、一足早い収穫祭のようでにぎやかですね」

忙しく立ち働いている彼女を含めた数人の女性衆と、男性は、実質ホストとしての立場なのだろう。
挨拶を交わして、いわれるまま酒類の並んでいるテーブルに、己の持ち込んだボトルを二本ほど。
どちらも葡萄が元のそれだが、酒精の濃さはそれぞれ違う。
代わりに酒杯を二つ手に取ると、樽から注ぐ。
───あまり泡がないタイプなのは幸いだった。淹れ方などおぼつかないから、美味しいかどうかはよくわからない。

場を楽しんでいるのは、己も見かけたことのある顔がある。顔なじみ同士の集いといったところなのだろうな、と思いながら歩を進めて。
ベンチで言葉を交わしてる相手の話し相手が離れていったのをころ合いに歩みを寄せた形。
随分とつらそうな様子に大丈夫ですか、と声をかけながら。

「はい、いい匂いがしていましたから。
後、お招きいただいてありがとうございます」

定型めいた挨拶の言葉を告げて、それからグラスを差し出した。
もう一つは己の手に。どちらも同じものが満たされている。

「店主さんが持っていってほしい、ということで。ヴァンも、いろいろ準備されていたん…ですよね?」

おそらく、きっと。
すでに疲労困憊じみている様子を見ながら

ヴァン > 「収穫祭――あぁ。農村だとこういう日には家畜を一頭捌いたりするんだっけ」

成長しきった家畜を屠殺するのは単にお祝いというだけでなく、役目を終えたモノに長い冬を越させる必要はないという実利の面もある。
あまり馴染みがない口ぶりは男が都市で過ごしている時間が長いことを伝えていた。
ジョッキを受け取ると短く礼を言い、乾杯をしてから口に運んだ。ごくごくと喉が鳴る。

「隠している訳じゃないが、ご近所さんには俺と店の関係は言ってないんだ。知ってるのは店員くらいかな。
準備……そうだな。朝早くからテーブルを酒場からこっちに持ってきて、ビール樽を地下の保冷室から持ってきて……」

思い出しながらげんなりした顔になる。テーブルの上にある樽はかなり重そうだ。
平地では転がして運べるが、地下から運ぶには相当の労力がかかっただろう。店主に頼まれたと聞くと意外そうな顔をする。

「珍しい。自分が飲んでるから後ろめたさでもあったのかな」

言われてみると女店主は時折小さなグラスを煽っていた。先程会話した時も酔っているふうには全く見えなかったが。


当初は20人程度だった裏庭も、気付けば30人を超えていた。
住み込みではないホールスタッフが顔を出し、男に一言二言挨拶に来ては飯と酒に向かっていく。
隣に座る女にも軽く頭を下げる。経営者がこの場に招いた、という意味を理解しているのだろう。

「もうそろそろカバヤキが作られる頃か。ゼリー寄せの方がいいと思うんだがなぁ……」

男がぼやく。食材の調理方法で女店主と対立したのだろうが、その口ぶりからして結果は明らかだ。

マーシュ > 「ええ、もう少し後の季節のはずですが、収穫の時期ということでは変わりませんし」

王都周辺というわけではないが、そういった時期には祭祀も多い。女もなじみがあるわけではないが、目にした機会はそれなりに。
渡したジョッキの中身がさっそくあけられてゆく様子には、己が一口二口進める間に飲み終えてしまいそうな勢いがある。
───もう一杯運んできたほうがいいかな、とテーブルに視線をやった。

「───なるほど……?
…………テーブルはともかく。……樽?」

彼が店との関係を詳らかにしていない理由はそれなりにあるのだろう。
相手の言葉をそのままに受け取るものの、どちらかというと次の言葉のほうが衝撃だった。
空の樽ならともかく中身入りですよね、と改めて向ける視線。一人で運んだわけじゃないと思うのだけれど。

「………腰とか大丈夫ですか?」

転がして運んだとしても、卓の上に持ち上げるにはそれ相応の労力も必要となるわけで
重荷を運ぶ人が痛めやすい体の部位くらいは知っているつもりだから、そんな言葉になったのはきっと他意はない。

「…ねぎらいとかじゃないんですか?」

時折杯を傾けている様子はここからでも見えたが、さすがにそういうわけじゃないのでは、と応じた。
それなりに広い中庭も、人が集まって料理と酒が回ればずいぶんと賑やかだ。
ゆったりとしたペースでジョッキを傾ける。普段口にするのとは違う味わいをゆる、と舌の上で転がして。
相手の隣に腰かけていると、彼に挨拶に来る人の多さというのにも気づくか。
己にも頭を下げてゆく律義さに、こちらも応じつつ。

「……ゼリー寄せは、冷やして固める必要があるので、こういう場所では少々向かないのではないですか」

ぼやき言葉に律義に応じた。いくつか目を通した郷土料理にそんなものがありましたね、と思い出す。
……どうやら女店主のほうに軍配が上がったらしいのか、香ばしい香りが漂ってくる。
───女店主は東方の出身らしいからそちらの料理なのかな、と思考を巡らせていたところで、あ、と思い出した。

「……どうぞ?」

お土産に焼いた、スパイスクッキーの包みを渡す。
甘味のないそれは、香草や香辛料を使ったものだから、つまみ代わりにもなるかなと思って持ってきたのだった。

ヴァン > 「樽。あの人は見かけによらず普通の人で――あぁ、初めて見るかな?彼、厨房に入ると休憩時間以外絶対に出てこないから。
身体強化魔法使って俺だけで運んだよ。強化魔法は元々の能力を強化するから、結局運べるのは俺だけだった」

あの人、と言いながら大男を指さす。ゴブリン程度なら素手で殺しそうな外見だが、見た目によらないらしい。
男の疲労はスタミナ面だけでなく、魔力面もあるのだろう。
ねぎらい、という言葉にはだといいが、と笑う。

「それこそあらかじめ作っておいて、保冷室で冷やしておけばいいと思うんだ。
一度作ればそんな簡単には解けないし……」

男の口ぶりからして、女が想像する通り地元の郷土料理なのだろう。店を開いていることといい、郷土愛はかなり強そうだ。
すん、と鼻を鳴らす。香りに気付くと唇をすぼめた。女店主が掲げた料理のうまさは理解している。
渡された包みを開けると嬉しそうな顔になった。さっそく一つ口にする。

「おぉ、ありがとう。少し食べたら酒のおかわりや料理を持ってくるかな……」

10歳くらいの黒髪青目の少女が2人の座るベンチへと近づいてきて、目の前で立ち止まった。
にこにこしながら手に持った皿を差し出した。魚の切り身を焼いて茶色いソースを塗ったらしきものが何切れか載っている。
少女の頬の端にくっついているソースは同じもののようだ。

『はい、ヴァン! セカンドがすごいいい笑顔してたよ』

少女の格好は特徴的だ。黒いシャツにカーキ色のジャケット、そして黒いカーゴパンツ。
長髪を纏めているバンダナは男が使っているものと同じだ。クッキーに気付くと、目をきらきらさせている。

マーシュ > あの人、と示されたのは確かに店に足を運ぶ中でも見かけたことのない人物。示される人物へと素直に視線を手向け。
それから事の顛末にしばし沈黙。
どうしようもないというか、うん。少し笑って、それなら後でこちらが治癒をかけてもいい。
そのくらいの私的濫用は許されるだろうから。

「………お酒に合うんですか?」

書物には味わいは淡泊だから調味料と合わせて食べる、なんて表現があったようにも思う。
だから好奇心に駆られるままこちらは言葉を返す。
知らない土地のこと──殊に男のことはあまり知らないことが多いからそうやって耳にするのは楽しいものだった。
独特の香ばしい香りは、東方独特の調味料が熱が入ったときに香り立つ…のは繁華街などではそうした屋台も目立っているからか。
自然とそうした情報は耳目に入れることが多い。

差し出したクッキーはそれとは違う味わいだけれど、喜んでもらえたならこちらとしてもうれしい。

「─────?」

聞こえた声音は見知らぬ、少女のそれで。
艶やかな黒髪と冴えた青い眼差しは一度見たら忘れることはなさそうな容貌だったが

手にした皿と、それから人懐こそうな声音。
それからなんだか見たことあるような格好に首を傾けて。
けれどもこちらに向けられた視線がどこに向けられているのかに気づいたなら穏やかに目を細めた。

「甘くないですが大丈夫ですか?」

小さい子がいるなら甘いものも用意すればよかったな、と思いながら軽く身をかがめて視線を合わせると言葉をかける。
それから、唇の端のソースにハンカチを取り出すと軽く拭う挙措。こちらはむずがられなければといったところ。

ヴァン > 「魔力やスタミナ回復用のポーションを飲めばいい話なんだが、あれは結構腹に貯まるんだ。
バーベキューの準備後にポーションでお腹一杯になるのは、さすがに避けたい……」

まさに本末転倒と言える。
続く言葉には顎に手をあてて少し考える素振り。

「そうだな……ゼリー寄せは酢や胡椒をかけて食べる。ハーブやスパイスは風味付けくらいだから、あまり強い酒には合わないかな?
エールくらいなら大丈夫。カバヤキもソースが結構濃い味付けだから酒に合うよ」

思い出しながら意見を述べる。王都付近は故郷と違いそこまでウナギが豊富に獲れる訳ではないので、男も普段から口にはしない。
故郷でも店で出ない訳ではないが、屋台で食べるものという印象が強い。


『うん!』

少女は間髪入れずに元気に答える。取り出されたハンカチを見ると察したのか、顔を近づけて拭ってもらうのを待つ。
その後クッキーを一つ摘まむとすぐに頬張り、嬉しそうに食べた。大人の味だー、という感想も微笑ましい。

『ありがとう。ごちそうさま、マーシュ、さん』

言葉と共にぺこりとお辞儀をする。少し口ごもったのは、普段は敬称をつけないからか。
マーシュに笑いかけた後、ローストビーフが待ってるから、と少女は風のように去っていった。
奇妙なことに男は終始やりとりを笑顔で眺め、そして見送るだけだった。
今の状況ならば男は2人をそれぞれに紹介するものだが……。

マーシュ > 「ご馳走やおいしいお酒が入らなくなってしまいますしね」

本末転倒、といえども動くのがまだ億劫そうなのにひっそりとした笑みを浮かべた。
揶揄う様な、というよりはほほえましそうなというほうが正しい種類。

女は職分上あまり普段から変わったものは口にはしない。
こうした饗宴などで多少口にする程度だから当然相手の言うそれらにも縁はなかった。

「へえ……?魚は独特の臭みがありますから、そのあたりは得意不得意が出そうですね」

興味はある。そのうち作り方を教わったなら作ってもいいかもしれないな、と会話を続け。
それから、見知らぬ少女の屈託のない返事や仕草にほほえましさを感じつつ。
頬についたソースはぬぐったし、クッキーも好きなのをどうぞと差し出す形。

あまり子供向けの味わいじゃなかったけれど、美味しそうにしてもらえるのは素直にうれしい
うれしいけれども、不意に名前を呼ばれると驚いたように双眸を瞠る。
こちらは面識がないのは確実で。

「どういたしまし、て……?」

とりあえず見送りの言葉を紡いだが、うんん?と首を傾げたまま。
こういったとき助け舟を出してくれそうな相手が、ほほえましそうにしてるだけなのに視線を向けて。

「……お知り合いですか?」

疑問の言葉を向けることになる。

ヴァン > 「俺はそこまで気にしたことはなかったが……そうなのかな」

言われて気付いたが、香りづけをするということは魚本来の匂いを消すためかもしれない。
男は食べることについては興味が強いが、作ることにはそこまで意識が向いたことはなかった。

2人のやりとりを眺めた後、不意に質問されると動きが止まる。

「ん? あの子は俺の姪の――って、初対面だったっけか。彼女はカゲハ。姪ということにしている。
実際はいわゆる知性ある魔剣(インテリジェンス・ソード)で――打刀やダガーの形をとるが、あのように人間の姿もとれるんだ」

そう言えば紹介するのは初めてだったか……と今更ながらに思い至る。
この時、もう少し言葉を選べば良かった――男は後にそう語る。

「あの子とは……所有者と魔剣との契約、というのかな。ま、そんな感じで。距離があまりに離れてはいけないんだ。
だから普段は武器の姿をとったり、場所によっては――ほら、水遊場の時みたいに装飾品の姿をとったりでほぼ一緒にいる。
うん……マーシュと知り合う前後だったかな、契約したのは」

フォークでカバヤキを一切れ食べた後、スタウトを呷る。
ジョッキが空になったのでよっこらせ、と立ち上がり料理をとってくる、と告げるだろう――何事もなければ。

マーシュ > 「苦手な方は苦手ですね。以前の魚のムニエルもだから、香草を使って臭みけしがされていましたし──……」

こちらは女手、ということもあってさほど造詣が深いわけでもないがそれなりに料理はするから。そこからの言葉。
炊き出しの料理人などからもそういった話を耳にすることが多いから。

「……姪」

以前そう聞いたことがある存在についてはこちらも知っているから、頷いた。頷いたものの、続いた言葉に。
わずかに体が硬くなる。

彼女が人であるとかそうではないか、というのはそこまで重要事じゃなかった。
問題は知性があり、自己認識があり、自我がある。
精神性は、見た目通りというなら無邪気な幼子のようなものか。

うん…、うん…とひとつづつ頷いて。

「──────すいゆうじょう。」

かすかに肩が震えた。
直近の記憶が強烈なだけであって。その存在は文字通りずっとそばにいた、というのなら。

何事もなく料理をほおばって、酒精を楽しんでいる相手に向ける視線がちょっと恨みがましいものになる。
ふよ、と伸ばした指先で。

むに、と男の頬を伸ばすのは、行き場のない感情の発露というべきか。
若干涙目。

「………………私の分も。特大ジョッキでお願いします」

いいですね、と頬っぺた引っ張り終えた女はのたまった。
強いわけではないし、正体をなくすほども飲んだことはないのだけれど。
───今はちょっと記憶が吹き飛んでくれないかな、と切実な思いとともに。

ヴァン > 「そうそう。いきなり俺みたいなオッサンの周囲に小さな子が現れたら変だろう?
故郷は東方とも近いから、姪ってことにすれば違和感はないかな、と思ってさ」

身体が強張ったのがわかる。何かまずい事を言っただろうか。

「そう。あの時ダガーから腕輪に変わってもらったのも、距離が離れすぎるといけない、って理由だったんだ。
……いてて。どうした、マーシュ?」

頬を摘ままれるも抵抗はしない。涙目の理由にまだ思い至らず、不思議そうに首を傾げた。
ややあって何を言いたいか気付いたか、言い訳めいた言葉を口にする。

「あぁ、普段は魔力を籠めた布を巻いているから、外の様子はわからないようになっている。
感覚共有というか、俺のコンディション――怪我をしていないかとかはわかるけど、それくらいさ」

言われてみれば、先日王城で会った際も打刀の鞘には金の刺繡をされた黒い布が巻き付けられていた。
武器を装飾する者はいるが、布を使うのは珍しい。
しかし今の言葉で男は墓穴を掘った。水遊場では腕輪に布など巻いてはいない。

「――わかった」

体調を慮ってノーといえる雰囲気ではない。
まだ手元の一杯も空いてないように見えるが、ひとまず言われたものを持ってくることにしよう。
料理を皿に盛りつけ、ジョッキを抱えて戻ってくるまでに数分。

時間が経ち、参加者の中には酔いが回って自宅で寛ぐ者も現れ始めた。
場合によっては己もそうした方がいいかな、と考えつつ。

マーシュ > 「それは、……まあ。……そうですね」

下手したら事案と思われるかも。この国では……珍しくなさそうではあるが。
彼らの関係性についてのそのあたりの対処に何か問題があるわけじゃなくて。

─────うん、とわかってなさそうな表情で頬を伸ばされる男を見やる。
頬を伸ばしているのは己だけれど。

「─────そこについてを咎めているわけでは。ええ。
…………なんでもなくはないですが何でもないです。」

己の所業についてを問われるならば、そう告げる。理不尽だっていうのは自覚しているけれど
過ぎたことに対しても、そして己の記憶についても、やり場がいろいろとない。

言い訳めく、というかこちらの負担を軽くしようとした言葉だったんだろう。
おそらく。
結果は全くの無駄というかさらに墓穴が深くなった感がするが。

「────────────……」

ふう、とため息。
何はともあれ楽しい場だ、うん、そのはずで。
料理のテーブルで楽しそうにふるまっている子がいるのも含めてそう。
こちらの圧に負けてお酒を取りに行ってくれている間に、手元の一杯の残りを、ぐ、と呷る。

甘いような、けれど苦みも深い。
鼻に抜ける香りは華やかなそれを、コク、と喉を鳴らして干したなら吐息した。

内腑がじわりと焼けるような熱をうけつつ。冷静に、冷静に───酔っぱらってしまえばこのやり場のない羞恥もまぎれるかな、と思考する。
彼が戻ってきたならニコリと笑みを浮かべて酒杯をねだることだろう。
若干据わった目つきで。

ヴァン > どことなく拗ねているような様子の彼女を眺め、どうしたものかと頭を悩ませる。
結論としてはどうしようもない。
これ以上動くと傷口が広がるだけ、というのが感覚でわかる。

戻った時にはいつになく酔った姿を目の当たりにすることになった。
その後は食事や飲み物を丁寧にサーブする男の姿があったとか――。

マーシュ > 己の、ある種珍しい挙動に戸惑っているのか。
なんだか神妙にジョッキを渡された。それを受け取って、喉をそらすように呷る。
酒精の濃さで言えばたぶん、己が持ち込んだ蒸留酒やそのたぐいのほうが濃いのだろうけれど。
普段清貧で過ごしている女にはそんなに強い酒類は必要なかった。

一息にあおって、はふ、と呼気を揺らす。
きっとお酒臭いんだろうけれど、今はそんなことにも気をやれなかった。

代わりに料理をほおばって幸せそうな子をちょっと呼び寄せて、来てもらったら。
多分きっと、感情のままに脈絡なく柔く抱きしめたんだろう。
酔っぱらいのたわごととして受け止めてもらってもいいけれど。

「…………、いつも、守ってくださって、ありがとうございま、す」

あとは多分きっと言葉にならないような声音めいたもの。
ゆらゆら、ふわふわ、ふにゃ、と吐息してから。
糸が切れたように意識がなくなった気がする。

いつも以上に熱を持った体のほうは
神妙に誰かが運んで行ったのかもしれない

ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場の裏庭」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場の裏庭」からマーシュさんが去りました。