2025/05/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」に影時さんが現れました。
影時 > ――夕刻を過ぎ、夜を迎えた平民地区。

日々の疲れと飢えを抱え、家路につくものがいれば、飯屋や酒場に向かうものが居る。
特に冒険者の類となれば後者だろう。
者によっては気心知れた仲間と共同で家を借り、食事を拵えるケースもあるが、その手合いはきっと多くない。
だいたいは、そう。酒場で飯をかっ食らい、大酒を呑んで、稼ぎをすっ飛ばして、明日に備える。
享楽的と云うなかれ。それが粋ということもあれば、そうでなければ抱えたストレスも吹き飛ばないということもある。
そうしたものが集うのは大体、冒険者ギルドに隣接か近場にある大きな酒場だろう。

「……はーてさて……と」

……と。声を零す者が居るものもまた、その例に漏れない。
平民地区の冒険者ギルドの一つ、そこに併設された酒場は夜になると、様々なものでごった返す。
生還を祝う祝杯に湧き上がる卓があり、死んだ仲間を悼んで黙々と杯を傾ける席がある。
そして、時には次の仕事を決めあぐねているものも居たりする。
丸いテーブル席を一つ陣取り、杯を舐めながら幾つも依頼書を拡げる姿は、この辺りでは珍しい羽織袴を纏った男だ。
酒瓶から偶に手酌で杯に酒を注ぎ、塩をかけて焼いた串焼きを口に運びつつ、依頼書に目を落として唸る。

ただ、それだけではない。

依頼書の一枚を布団代わりとし、胡桃の殻を枕代わりに寝こける小さなものも卓の片隅に居る。
書を取り上げようとすれば、イヤとばかりに離さぬとなれば、卓の主も仕方がないとばかりに吐息し、杯を呷る。

影時 > 「取り敢えず、ざっと稼げそうな依頼を纏めて寄越してくれとは言ったが……」

小さなものが布団代わりにする依頼書は、面倒なことに裏返しにしたままで返してくれない。
止むをえまい。後回しにしよう。喰い終えて残った木串をキセルよろしく咥え、依頼書の束を改めて捲る。
隣接する冒険者ギルドの受付に頼み、直近で未解決の依頼書の写しを出してもらったのは良い。
良いのだが、未解決の要因が嫌でも分かってしまうのはいただけない。

要求された要件に対し、報酬が釣り合わない。――これはどうしょうもない。
ただただひたすらに億劫である。――人間、諦めが肝心である。

「俺の位階でも、連れが要る――ってのは、どうなンだろうな。独り歩きはさせたくねぇつもりかね?」

現状のランクと実力ならば、単独でも対処できなくもないものでも、同行の条件を追記している。
納得できる稼ぎを見込めそうな依頼を数枚選び出せたのは良いが、いずれもそうなっている有様だ。
初心者の教導をせよと言うなら、きちんとそう要求やら何やらを出してくれたら良いのだが。
ちらとギルドの受付の方を見遣れば、夜勤のシフトの受付が何か明後日の方向をみたような気がしなくもない。

「……――ちぃとばっかり稼いでおきたい処だったが、ったく」

最近色々あって、大金を叩いて買い貯めた酒類を粗方飲み干してしまった。
仕方がない。酒は呑むものだ。呑む予定もない酒を死蔵しておくつもりは己が流儀ではない。
蓄えがないわけではないにしても、自身の裁量で動かせる金銭はあればあるだけ良い。世の中、何か起こるかわからないものだ。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」にさんが現れました。
> 夜も更け、賑わう酒場の入口――もとい、ギルドの受付から少し離れた右端で、何やら揉めごとが起きようとしていた。
黒づくめの小柄な冒険者と、腰にロングソードを携えた背の高い冒険者。
後者は今日の稼ぎが悪かったのか機嫌が悪いようで小柄に食って掛かり、仲間らしい魔法使い風の優男に宥められ、
絡まれているはずの小柄は何処吹く風と言った様子で、全く話を聞いていないのか、暫く二人を眺めた後、

「…………」

なんと、無言で彼らをおいて酒場のへと足を向けたのだった。
当然、剣士は更に腹を立て、仲間が止めるのも聞かずに小柄を追いかける。
次の瞬間。殴りかからんと拳を掲げて一歩飛び込んだ。

――だが、背を向けていた小柄は、飛び込んでくる剣士を半歩ずれるだけでスルリと躱してしまう。
例え、剣士の飛び込む先を知っていたとしても、その行動は変わらなかっただろう。

剣士は「おぉぉぉぉっ?!」と言う、間抜けな雄たけびを上げ、目の前の机……。
つまり、影時が今現在くつろいでいる席へと、頭から突っ込んでいくのだった。

「……ぁ」

とは、小柄がその様を見送りながら、小さく漏らした諦観の声だった。

影時 > こういう時に思う迷宮探索も、毎回かならず一山当てられるとは限らない。
目が飛び出るようなお宝と遭うなぞ滅多にあることではない。そうしたものを見込める階層は大体が真正の危険地帯だ。
稼ぎたいと思うなら、納得出来る金銭を得ておきたいなら、真面目に依頼をこなす方が危なげない。
ただ、ここで依頼を仲介する側――つまりはギルドの意向が挟まってきた。
実績のある冒険者に初心者の補佐をさせ、生還率を高め、将来有望な若手を少しでも増やしたい、といった具合の。
決まった何人かで徒党を組むような者達なら、抵抗はそうあるまい。
問題はそうでないもの。例えば、単独ないしもう一人を加えてひょいひょいと危険地帯に踏み込みたがる者だ。

「迷宮に潜って稼ぐ……のも、あンまり賢いやり方とは限らんしなあ……――なンだね。諦めろってか?」

頭上でもぞつく気配が、不意にすたっと卓上に降りてくる。
男の羽織る上着と同じ雰囲気と意匠の小さな法被を着た、茶黒の毛並みのモモンガだ。
酒と煙草の匂いと共に、人の気配が溢れている中でも怖じず、まいぺぇすに欠伸する小さな生き物が、てしてしと男の手を叩く。
餌をせびるようでもあり、諦めが肝心、とでも言いたげ素振りに、肩を竦めて片手を動かそう。

酒のつまみは肉だけではない。別の皿に乗った野菜スティックだ。
それをモモンガに出せば、二本の前足でひょいと掴んで支えて……しゃくしゃくしゃく。
人参スティックを無心で齧り出し、たばこの煙を吐きそうな素振りで、ぷはぁ、と息をついてみせる。

「都合よく、だーれか居ないかねー……と、お?」

誰か真似したか。覚えたか。呆れ顔になりつつ咥えた串を皿に置き、酒杯を呷る。
蒸留酒の酒精が喉を灼く感覚を覚えつつ、横目に周囲を見遣ってみたところにふと、気づくものがある。
このの騒がしさは、酒場らしい喧噪だけではない――喧嘩。諍いのような。人参を食うモモンガが耳を震わせ、寝ているのがもぞつく。
何故か。きっと感じたに違いない。次の瞬間。何が起こって、どうなるか。何か突っ込んでくるものに気づいた、瞬間。

「…………――っ、ちゃぁ。やってくれンなァおい?ン?」

どがっしゃあ、とばかりの。派手な音な卓がひっくり返り、依頼書と皿が、食べかけの諸々が舞い上がる。
咄嗟に立ち上がり、酒瓶を掴んだまではいい。飛び起きたものと、モモンガが引っ付いた処まではいい。
それ以外の諸々がひっくり返り、飛び散って突っ込んできた剣士風の何某に引っ掛かりする訳である。

――どちらに責があるやら?

腰に差した刀を揺らしつつ、先程までいた場所にダイブしてきた側と向こうに見える小柄なのを見比べよう。