2024/10/19 のログ
ご案内:「ダイラス郊外 竜令嬢の別荘」にプリシアさんが現れました。
フェブラリア >  
ダイラスの郊外、海辺に面した大きな屋敷。貴族たるフェブルアーリアの領地の一つであり、フェブラリアが個人で所有する別荘だ。
絢爛な屋敷という訳でもなく、フェブラリア自身の嗜好を反映しているのか、どちらかといえば一見して質素な作りとなっている。
とはいえあくまでも慎ましやかというだけの話で、敷地面積やその内装はそれに相応しいだけの豪華さは十分に窺えた。

そして、その屋敷の一室。フェブラリアが寝所として使用している個室には今、二人の人影が存在していた。
一人はこの屋敷の主であり、フェブラリア…そしてもう一人は、ハイブラゼールで偶然にも出会った幼き同族であった。

「どうぞ、適当に腰かけて構いませんよ」

フェブラリアは招いた客人たる幼子にそう促す。
室内は埃一つ落ちておらず、客人用のソファーに机、ベッドに個人用の作業机らしきもの、いくらかの本棚やタンスが並んでいる。
全体的な印象としては年頃の少女の部屋や、貴族の部屋というよりも…どことなく学者の部屋や研究室のようであった。

プリシア > 今回目的だったのは遠出の旅行、其の行き先であった港湾都市ダイラスで偶然出会った少女。
尤も、彼女の種としての感覚を感じた事に興味を抱き自分から近付いた、そんな経緯があるの為らば。
偶然とは少しばかり異なる気がしないでもないのだけれども。

そんな彼女に誘われ、訪れたのは大きな屋敷。
彼女の所有する別荘との事だが、此の土地そのものが初めてである幼い少女にとっては何もかもが珍しい。
手を引かれて案内されている間も、案内された彼女の個室にやって来た後も。
キョロキョロと物珍しそうに見回す視線は忙しいもので。

「……あ、うん、わかったの」

彼女が掛ける声に、周囲に向けられていた眼が彼女へと向けられて。
コクンと小さく頷いて答えれば、客人用であろうソファーへとチョコンと腰を下ろし座るのだ。
そうして座ったら座ったで、気になるのは抑えられないのか、意識は矢張り周りへと向けられる。
研究室の様な部屋だから、ではなくて、純粋に他の人の部屋がどんな感じなのか気になっている様子が見て取れるだろう。

フェブラリア >  
やはり年頃故か、周囲が気になる様子を見て取れば、フェブラリアはくすりと口角を歪めて。
自身は来客用のお茶を用意しつつ、そんな来客の様子を微笑まし気な表情で瞳を細めていた。

「ふふ、気になるようでしたら自由に見ても構いませんからね。
 ……飲み物は紅茶でよかったですかね、お口に合うといいのですが」

本来なら貴族であれば使用人にやらせる様な事ではあるが、ここでは敢えて彼女が態々自分で用意して、客人に振舞う様にお茶を用意するのだった。それは、相手が同じ魔族の同胞だからか、或いはそういう立場だからか……それとも他に何か理由があるのか。
単に個人的な場においては、使用人の手を借りないだけかもしれないが…理由はともかくとして、其処にはフェブラリアなりの気遣いがあった事だろう。

プリシア > 家族の部屋、お友達の部屋、そして今居る彼女の部屋。
自分の部屋に在る物であっても、其れと全く同じ物という訳でもない。
自分の部屋に無い物であれば、尚更に興味惹かれるものと為るだろう。
元からの好奇心旺盛な性格も在れば、彼女の目の前で見せる様な反応は致し方の無いものであろうか。

「えっとね、えっとね…うん、そうするね、フェブラリアおねーちゃん。
あ、えっと…紅茶で良かったの、ありがとうなの」

片親が名目上は貴族ではあるも、其れは表立って知られてはいないのもあるし平民育ち。
そうした貴族に関わる情報は知らないし、礼儀作法もまだ習ってはいない。
だからなのか、自ら紅茶の準備をする彼女に何の疑問も浮かばないし、座って大人しくはしているものの。
彼女の許可があったのもあれば、其の視線はあちらこちらと忙しなく動き続けていた。
それでも彼女が紅茶の準備をしてくれる事に気付いたの為らば、嬉しそうにニコッと笑ってお礼を伝える。

フェブラリア >  
そうしてそっとテーブルの上に差し出された紅茶は、湯気を立ち昇らせると共に芳しい香りを漂わせる。
恐らくはフェブラリアのお気に入りの紅茶だろうか…少なくとも高級品であることには違いないものだろう。

「さて…ともあれ、此処では気軽になさってくださいな。
 この部屋で在れば使用人もおりませんし、周りの目もありませんからね」

紅茶をテーブルに置き、彼女の正面へと腰掛けながら。
フェブラリアはそう、客人たる少女に言葉を投げかける。

「しかし、貴女も竜ではあるようですが…両親の片方は人なのでしょうか?
 それとも両親揃って、竜なのですか?」

向かいに座った少女の様子を、フェブラリアはじぃっと観察する。
その上で、さっそくとばかりにそんな質問を投げかける。
それはフェブラリアの純粋な興味、自身以外の『人の中で生きる竜』への興味から来るものだ。

プリシア > テーブルの上に差し出された紅茶、漂う芳ばしい香りに目を細めるも、直ぐに手を伸ばす事はしない。
淹れたばかりの湯気立つ紅茶なのだ、猫舌ではないものの、まだ口に含むには少しばかり早い。
其れでも味に期待をしているのか、自然と小さな翼や尻尾がユラユラと揺れ動く。

「うん、大丈夫なの…?
しようにん?は、よくわからないけど、プリシア、気にしてないの」

正面に座る彼女をジッと見詰め乍、聞き慣れない単語に小首を傾げてみせて。
後に続く周りの目も、の言葉には、微笑んだ侭に大丈夫だから、とギュッと両手を握って示してみせる。
初めてばかりの頃はちょっと気になったりもしていたけれど、今では実際に慣れたものなのだ。

「えっとね、おかーさんも、おかーさんも、ドラゴン、かな?プリシア、ドラゴンだから。
でも、ずっと人で、ドラゴンになったところ、見た事ないの」

実際には片方は人竜、もう片方は交わった際に竜種に成っていたとの特殊な環境。
どんな経緯で産まれたかを聞いた事がないので、自分が竜だから竜との予想立てしか出来ず。
其の点に於いては彼女が求める様な答えを聞き出すのは難しそうだ。
尤も、先ず其の説明で母親と母親、といっている時点でおかしい訳だが。

フェブラリア >  
「……ふむ、両親は二人とも竜、と。
 いえ、それ以前に気になる言葉が並んだ気も致しますが」

ふむりと少女の言葉にフェブラリアは反芻しながら、何とも言えない笑みを浮かべる。
曖昧な返答が返ってきたあたりから、まだその詳細は知らないのだろうとアタリは付けつつも…
そちらよりも、『おかーさん』が二つ並んだ事にやはり思考が向くものだ。

……とはいえ、決してあり得ない事ではないことはフェブラリアも知っている。
女性同士でも子を残すことが可能な手段が幾らかあることは、フェブラリア自身も実践している部分である為なのだが…閑話休題。

「ともあれ両親が人の姿をしていらっしゃるから、自然と貴女も今の姿をしているのですかね?
 どちらにせよなるほどなるほど…私が知らぬだけで、案外と竜も居るものなのですねぇ」

フェブラリアはそう言葉を続ければ軽く笑って、一人納得したように頷いた。
少なからず満足する回答ではあったようだった。

プリシア > 「……?プリシア、何かおかしい事、いった?」

両親とも母親、普通に考えれば間違いなくおかしな事をいっている筈なのだが。
彼女の至った考えの通り手段は在る、何よりプリシアという存在が居る時点で間違いなく何か行ったのだ。
そうした考えへと傾き掛けるも軌道修正して元の道へと戻す彼女。
続いての彼女の質問に、考える様な仕草をした侭に。

「そうかなって思うけど、プリシア、まだちゃんと人とかドラゴンに変わったり出来ないの。
おかーさんは、ちゃんと人になれるけど、プリシア、角と翼と尻尾、残っちゃうの。
えっとね、おかーさんが働いてるところ、ドラゴン、いっぱい居るよ?」

屹度本来であればどちらかの姿をとっているのであろう。
まだ幼く未熟である所為か、意識して変化をしようとしても如何しても半竜状態で留まってしまうのだ。
そして後の彼女の呟きには、そうはっきりと答えてみせる。
商売柄、其の現場に行けば結構な数のドラゴンが見受けられるのだから。

フェブラリア >  
「……両親は父と母、という方のほうが多いですから、少し驚いただけですよ」

くつくつと苦笑しつつもやんわりと、そう言葉を返して。
フェブラリアはゆらりと尻尾を揺らしながらも彼女の言葉に耳を傾ける。

「なるほど、まだまだその姿は未熟な証、と言ったところですかね。
 それで言えば、尻尾を隠しきれぬ私も似たようなものではありますが」

自嘲しつつもフォローするように少女に返すと、続く言葉に興味深げに瞳を細め、その眼光に金の輝きが入り混じる。

「……ほほう、竜がたくさん存在する、と?」

それは竜令嬢にとっては、当然と言えば当然の反応だ。
身近に竜の居ない身の上であった彼女にとって、同族が大勢いる事は何とも興味が惹かれる事柄で。
それは尚更、この少女との繋がりはファブラリアにとって重要なものへと定められる理由となる。

プリシア > 「あ、プリシアも、それは聞いた事あるの。
おとーさんと、おかーさん、だけど、おかーさんと、おかーさんでも、大丈夫、って聞いたの」

屹度、最初にそうした話を聞いた時は不思議に思った事だろう。
だけれども、学院に通う様になって色々と学んでゆけば、そうした最低限の知識は身に付くもの。
其れでも意図的にか一部詳細は教えられておらず、何処かズレた部分が在るのも又事実なのだ。

「うん、そうなの。
フェブラリアおねーちゃんも、頑張れば、きっと、出来るようになるの。
プリシアも、頑張ってるから、フェブラリアおねーちゃんも、頑張ろう?」

隠す事を是とするか如何か、との考え方も在るのだが、其処迄はまだ考える様な事はなく。
同じ部分に気付いたのもあってかちょっと嬉しそうにそう伝え乍、グッと小さくガッツポーズをするのだった。

「みんな、お仕事頑張ってるの」

彼女の問いの肯定と共に、其処に居る理由の含みを持たせた言葉。
如何に働いているのか迄は説明出来ないが、其れを聞いて彼女が如何思うかは解らない。
ただ、彼女が思うのは其処の部分撚りも、竜が多く存在する事の方に傾いているのだろうが。

フェブラリア >  
流石に両親の性別の一般論は知識にあるようで安堵する。
子供故の無垢さと常識の差は、今後も意識しておかねばならないなと、そう思案しながらも。

「くすくす…そうですね、必要性があれば何れ覚えねばなりませぬし」

少女の励ますような言葉に笑って返す。
その物言いは、言外に現状でのその必要性のなさを含んでいたが、当然目の前の少女に意図を伝えるつもりはないものだ。
悪く言えば社交辞令的な返答で在ったのは否めないが、その辺りは染みついたものもあるのだろう。

「……なるほど、いつかその地に、私も足を運びたいものですね」

ともあれ、最も興味深い彼女の言葉を敢えて追及せず、フェブラリアはそう告げる。
何時か其の地に赴いて、同胞達と会いたいと思う気持ちは確かであったし、彼女に話を聞いて十全な返答があるかは五分五分だ。
なれば直に確認してしまえばよいと、そんな打算も込みでの言葉であった。

「してそうすると、貴女の将来の目標はその仕事を手伝う事、だったりします?」

ただ、そんな打算は表には出さず、フェブラリアはそう次の質問を投げかける。

プリシア > 知らぬ所での彼女の安堵に気付かぬ侭、先を見据えた様な言葉にコクンと頷いてみせる。
勘ぐる事を全く考えず言葉を愚直に受け止める、其れも又幼さ故のものであろうが。

「うん、フェブラリアおねーちゃんが来たら、今度はプリシアが、案内するの」

何時に為るのか、其れはわからないが。
何時か来るかもしれない先の事だけれども、パッと顔を輝かせ乍に嬉しそうにそう伝え。
其の後に伝えられる言葉に、少しばかり考える様な、思い出す様な仕草をすれば。

「いつか、おかーさんのお手伝い、出来たら良いな、って思うの。
でもね、プリシアの好きにして良いんだよ、っていってくれてるの。
だからね、お手伝いもしたいけど、いろんな事、知りたいなって思うから、今は学校でお勉強しててね。
学校、お勉強も出来るし、お友達も出来るし、楽しいの」

彼女が表に出さぬ打算が在れど、其れを聞いたとて其れを理解出来るのか如何か。
其れよりも、彼女との色々と話しているのも楽しんでいる様子で。
言葉を交わす度に、翼や尻尾を…特に尻尾の方だろうか、感情の変化に合わせ色んな動きを見せる其れは、彼女を楽しませるだろうか。

フェブラリア >  
その時には是非にと、竜令嬢は軽く頷く。
彼女との縁を壊さなければ、いずれはチャンスがあるかもしれぬ事。
今は程々に、種を撒くだけで十二分だとそこでその話題は断ち切って。

「なるほどなるほど、確かにまだまだ貴女はお若いですものね。
 多くを知り、多くの選択肢を作り、将来を模索するのは幼き者の特権です」

自身にはない翼の羽ばたき、自身と同じ竜の尾の揺らめき。
そうした分かりやすいほどの反応を見て、フェブラリアは微笑ましく笑いながらも納得の頷きを返す。

「……と、私のほうから色々聞いてばかりでしたね。
 竜としての先として、プリシアさんの学びの一つになるよう、なんでもお答えいたしますよ?」

そうした様子を見ていれば、自身の度し難い欲が僅かに顔を覗かせそうになるが、それは今は伏せて仕舞う。
壊してはならぬ縁ではあるが、これほどまでに無垢なモノを前にすれば、壊したくなる己の性分は厄介極まりないのだ。
故におくびにもそれを出さずに、彼女からの問いに答えようと意識を切り替えるのだった。

プリシア > 彼女としては彼女の目的の為の縁、と受け取っているのであろうが。
此処迄の会話を通し色々と会話をすれば、プリシアとしては既にお友達の一人との認識を抱いているだろう。
住んでいる場所から、幼い少女からすれば遠い場所で出来たお友達は嬉しいもので。

「うん、でも、フェブラリアおねーちゃんも、えっと…その、おねーちゃんだけど、まだ大丈夫なの。
だからね、フェブラリアおねーちゃんも、ね?」

自分を若いという彼女だが、見た目だけを見れば大きく離れている様には見えないからか。
如何伝えたら良いのか難しそうにしているも、彼女も又、色々と学ぶ事が出来るのだと、伝えたい様子。

「ううん、大丈夫なの、プリシア、おはなしするの、好きなの」

聞いてばかりだという彼女だが、其れでも構わないとそう返し乍。
そろそろ大丈夫かなと思うのはテーブルに置かれた紅茶、まだ少しばかり湯気は立っている。
だがもう飲んでも熱くはないだろうくらいには冷めているか。
包む様にカップを両手で取れば、コク、と一口飲んでみる。

「ん、紅茶、美味しいの。
…あ、えっとね、プリシア、知らない事、いっぱいあるから。
だからね、フェブラリアおねーちゃん、何かプリシアの知らない事、教えてくれると嬉しいの」

口の中に広がる紅茶の味に、ふにゃりと表情を緩めてしまい。
其れも直ぐに気を取り直せば、もう一口、又一口の紅茶を啜り乍、彼女の提案にそう答えた。
彼女に伝えた通り、知らない事はまだまだ沢山ある、知らない事を知る事も楽しみの一つなのだ。

そう伝えた彼女が、どんな事を教えてくれるのかは…彼女次第、ではあるのだろうが。

フェブラリア >  
竜の規模で言えば確かに竜令嬢は年若く、これからの余地はある。
されども竜令嬢は人の家を持つ当主故に。

「くす…お気遣いは嬉しいですけど、私は貴族ですからね」

将来への道は舗装されていて、定まっているのだと。
竜令嬢はプリシアの拙い気遣いに、笑いながらそう返す。

「ん、お口に合うようでしたら何よりですよ。
 しかしふむ…知らないことを教えて欲しいと来ましたか」

ともあれ、それは脇道。今は本題は彼女からの問いに答えることだ。
しかして続いた少女の言葉には、フェブラリアはふむりと思案するように手を顎に当てることとなる。

彼女からの質問があればそのまま答えるだけであったのだが、こう問われると如何答えたものか。
知らない事を教える、というだけなら選択肢はあまりにも膨大だ。
学校にも通っているというのならば勉学を教えるのも彼女の益になるだろうし、その他の社会常識もそうだろう。
しかして、それらが『同族である己だから教えられる事』かと言えば否であり……

「(……かといって、彼女相手に私の興味の範疇の物事を教えるというのも)」

それはそれで、様々な問題があるだろうとフェブラリアは結論付けていた。
少なくともこれからも良き縁を続けたい相手にやるべきものではない、と。

プリシア > 流石に幼い上に平民出で貴族の立場を持つ彼女の理解をするのは難しい。
特に彼女の様な、其れが当主であれば尚更だ。
そんな彼女の言葉から、其処迄気を遣う事はせずとも良いのだと、何と無しに理解をしたのだろう。
難しそうな表情は浮かべているものの、素直に頷いてみせるのだ。

「えっと、ちゃんと、何か聞いた方が、良かった?」

何を聞けば良いのかわからない、だから素直に伝えてはみたものの。
其れで彼女が考え込む様な仕草をすれば、逆に今度は此方が気を遣う様にそう伝える。
とはいっても、其れで今度は何か自分が聞く事を決めるとなると、屹度中々に難しいものなのだろうが。

言葉と共に何かしら身体が動いてしまうのは癖なのだろう。
そう聞き返されるのを考えてか、自分も少しばかり考える様な仕草をするも。
其処に両手で持っていたカップへの意識が無かったのか、小さく揺れた身体に中身の紅茶が僅かに零れてしまう。
然し、そうした仕草は無意識な所為なのもあってか、揺れてしまっている本人は気付いていない。

フェブラリア >  
「ああいえ、何を教えたものかと悩んでしまいましてね」

少女の気遣う言葉に苦笑しながらも、案外と素直に竜令嬢はそう答える。
隠し立てすることでもなし、其処に悪意が在る訳でもないのだから。

とはいえ……そうは言っても何から教えれば良いのか、再びと思案する様に彼女の体の動きを追って。
そうして少しばかり考え込んでいれば、ふと視線の先で少女のカップが揺らめいて、紅茶が零れたことに気が付いた。

「あ、紅茶……零れてますけど、熱くありませんか?」

白布のハンカチを懐から取り出しつつ、そこまで慌てた様子もなくそう問いかける。
しばらく会話の時間を置いていたのだ、それなりに冷えてもいるだろうから大事にはならぬとは思いつつ。

プリシア > 「あ、あのね、プリシアも、ちゃんと浮かばないかもだから。
ゆっくりと、考えてくれれば良いの、プリシアも、そうするから」

自分が聞かれる側であろうと考えれば、其の立場でも悩んでしまうのはわかるから。
どちらが考えるにしても、ゆっくりと考えるのが良いのだと、そう言葉にはしているのだけれども。
そう伝えた後に掛かる彼女の声に、彼女の視線を辿る様にして其方へと目を向ければ。
零れた紅茶が少しばかり散った様にドレスに染みを作っているのが見えてしまう。

「あ…うん、大丈夫なの、大丈夫だけど、ちょっと濡れちゃったの。
えっと…えっと…確か、こんな時は…反対のところに、布を当てて…当てて?」

頻繁にではないが、何かをし乍に考え事をしたりすると、他の事が疎かになってしまう事が多い。
だから何度か其れも経験をしているのだろう、少しだけ思い出す様な仕草をすれば、そう呟いて。
先ずは零した紅茶が熱くなかった事を伝えてから、染みを作ったスカートの裾に手を添える。
生活の知恵ではあるのだが、濡れた裏地に布を当てて、反対から濡らした布を当てて染みを移すもの。
彼女も其れは知っているかもしれないが、説明をしつつ其れを実行しようとするのだ。
知らずに其れだけを見た場合は、脱ごうとしているのかスカートを捲ろうとしているのか。

フェブラリア >  
まずは『危うい行動だ』とそう思った。
しかして同時に、その年頃であれば当然の振る舞いだろう、とも。

前の前でスカートを捲り上げようと…実際には染みが付かぬようにするための対処だが…する彼女の仕草はあまりにも無防備で。
その幼さ故に、其処迄の思考が回らないのだろう。だからこそそれは当たり前の振る舞いだ。
しかしてそれは、そう思えば思う程に、フェブラリアの中で何かが疼く様な感覚を覚えるのだった。

……とはいえ、流石にそのままにさせる訳にもいくまい。

「あぁ…大丈夫ならそれでいいのですけれど。
 でもほら、それはあまりお行儀がよくありませんから、そのままで」

一旦はそう告げてから席を立ち、少女の傍まで歩み寄る。

「シミは私が魔法で奇麗にしますから、軽く服だけで十二分ですよ」

一歩近寄ってから、そう言葉を続けながら。
そうして彼女のスカートに軽く手を添えては、其の儘で良いのだと優しく諭す様に告げる。

プリシア > 其れは自分にとっては自然な行為。
彼女が出来る様な魔法を使い何とかする、其れが出来ないから誰でも出来る様な手法を取る。
実際に取った行動は捲り上げる迄はゆかずに、少しばかり浮かせる程度に留まった。
僅かに見える白い素肌も彼女が手を止める事で其処迄に。
そんな彼女の言葉に、又も不思議そうに彼女を見詰める。

「……?うん、わかったの」

云われた通りに其処で手を止め、彼女の指示に大人しく其の侭に。
魔法で綺麗にするのだと聞けば、見詰める眼がパチクリと瞬いた。

「フェブラリアおねーちゃん、綺麗にする魔法、使えるの?
…あ、えっと…そのまま、なの」

魔法の素質はあるのだけれども、まだ其の使い方迄は学んでいない。
魔法自体は片方の親が使える為、だけど興味自体は強く抱いているのだ。
だからつい反応をしてしまい、ちょっとだけ身を乗り出す様に…結果もう少しだけ浮いてしまうも。
云われた事を直ぐに思い出して其処で留まる。
大人しくしていれば彼女が魔法で綺麗にしてくれるのだと、彼女がスカートに触れ易い様にと思っているか。
触れるスカートも其の侭に、後は彼女の次の言葉を待つだけで。

フェブラリア >  
「これでも魔法はそれなりに知見がありますから」

もっとも、自身が扱う『奇麗にする魔法』は竜令嬢自身の本質から零れ落ちた断片のようなもの。
そっくりそのまま他者が扱えるものではないが、それは今は余談だろう。

踏み留まってくれた彼女の仕草にほっと息を吐きつつも、少し浮かせた彼女のスカートに手を伸ばす。
指の腹には淡く瞬くような光が灯り、そんな竜令嬢の細指が、シミとなりつつある布地の表面を軽くなぞる。
それだけで布地は奇麗に、シミは最初からなかったかのように消え去った。

「……はい、これで大丈夫ですね」

ふぅと軽く息を吐きながら、其の儘で良いと言ったものの、そうしてスカートを浮かせたままでは何かと都合がよろしくない。
だから直ぐに手を離すと、スカートが元の位置に落ちるように軽く手で払って。
其れで終わりと、言葉にするよりも指の動きや彼女の仕草から見て取れる様に示すのであった。

プリシア > 「フェブラリアおねーちゃん、すごいの。
……えっと、魔法の…ちけん?があるの…ちけん、って何なの?」

流石に其の魔法が彼女独特のものであるかの判別は出来ない。
本当に高度な魔法では使えないのだろうが、染みを綺麗にするのなら、何とか覚えられるのかもしれないと。
そんな期待もあったのだけれども、其れよりも先ずは、言葉の意味を知る事が必要だろうか。
首を傾げて見上げ乍に問いつつも、其の答えを聞こうと耳を傾けている、其の間に染みが消えてしまう。

「わあ…本当に、綺麗になったの。
フェブラリアおねーちゃん、ありがとう、なの」

少しだけマジマジと染みの消えたスカートを見詰めているも、終わりだと示されればスカートを戻す。
彼女へと向けられる視線に僅かな敬意が含まれ始めたのも伺えるだろうか。
そんな視線と共に、ペコリと頭を下げながらお礼を伝えて。

フェブラリア >  
「…知識がある、ということですよ」

ついつい畏まった言葉を使ってしまったことに苦笑を返す。
やんわりとした口調で、そう教える様に噛み砕いた言葉に変換する。

「どういたしまして。
 流石に服を汚して返すわけにもいきませんしね」

一礼に軽く竜令嬢は会釈を見せて、軛を返す。
元の席へと戻ろうと歩みを進めるが、ふと何かを思いついたかの様に足を止める。
そうして少女に向き直ると。

「あぁそうだ、魔法…興味がおありです?」

と、そんな言葉を彼女へと投げかける。
彼女が興味深げな反応をしているのを見て、そう思い至ったらしい。

プリシア > 「フェブラリアおねーちゃん、物知りさんなの。
プリシア、あんまり知ってる事ないから、頑張らないとなの。
今のプリシア、転んだりぶつかったりしても、痛くないくらいだから。
他の事が出来るようになるまでは、色んな事を、知りたいの」

噛み砕いた言葉に知識を有している事の理解は出来て。
そんな彼女を見ていれば、もっと頑張らないとと意気込んでみせる。
本来の竜としての能力も半端で、唯一突出しているのは身体の頑丈さ、後は体力。
そうした能力も運動神経の鈍さで発揮出来ずにいる為、何か出来る事の模索中。
其の理由も含む言葉を彼女へと伝え。

実際には時間が経てば自然と汚れ等は消えてしまうのだが、其れは知らぬが仏だろうか。
ふと足を止め、伝えられる言葉にピクンと小さな尻尾が大きく揺れる。
其れは答えを聞く迄も無く強い興味を抱いている事の現れではあるも。

「うん、プリシア、魔法も、興味あるの」

親の遺伝か、元々の強い好奇心か、彼女の言葉に尻尾が揺れた後にそう答え、大きく頷いてみせ。
流石に同じ事の繰り返しはしない様にしているのだろう、カップをテーブルに置いてから身を乗り出す。
パタパタと翼と尻尾を揺らし、キラキラと輝く眼で真っ直ぐ彼女を見詰め続けるのだった。

フェブラリア >  
頑丈さは人一倍、竜としてのその特性を耳にして、また僅か何か疼く。
それを一旦は抑え込みつつ、興味があるとの返事を聞けば、フェブラリアは一つ頷く。

「では、少しだけ"お試し"をしてみましょうか。
 本来なら知識がなければ魔法は使えませんが…竜なら例外もありますしね」

とはいえ、本格的に魔法の知識を教える、という訳ではない。
それをするにはそれなりに時間が掛かるもの。
正直なところ、学ぶだけなら本を読んだほうが適切で早いのだ。
ならば、自身が教えるべきは魔力操作のほうだろうと。

「そうですね…プリシアさんは、自身の魔力は感じ取れますか?」

魔力操作は、竜であれば其れこそ息をする様に出来る事。
特にフェブラリアはそれを主軸に研究しているのもあり、一家言あるものだ。
他者のそれを探る術も持ち合わせているが…まずはそれを認識できているかを尋ねるのだ。

プリシア > 出来る出来ない撚りも、経験を積む事が大事である事はよく云われていて。
そんな機会を彼女が与えてくれるのなら、彼女の話に乗り気になるのは当然の事か。
頷き、少しだけでも試しをさせてくれるのだと伝える彼女。
そうであるならば善は急げか、離れている撚りも近い方が確りと聞き取れると考えて。
ソファーから一度立ち上がると、チョコチョコと彼女の横にやって来る。

「んっと……うん、ちょっとだけだけど、わかるの」

感知能力も高い訳ではないものの、自らの魔力程度為らば少しばかりは感じ取れる。
彼女も此方の魔力を感じ取れるのであれば、常人な魔術師並の魔力を感じ取る事は出来るだろう。
幼い事を踏まえれば、其れなりの資質、そう感じ取れるのだろうが。
若し高度な探りを入れられるの為らば、非常に繊細で強固な力が何かしら抑える様な役割で掛けられている。
そうした事迄も、詳細迄は解らずとも知り得る事が出来るだろう。

フェブラリア >  
隣までやって来た少女を少しだけ見下ろす様に視線を向けて、こちらもまた魔力を探る。
とはいえ今行っているのは簡易的な探知、隠匿されたそこまでは感知は出来ず。
されども、竜にしては人並みの魔力でしかない事には多少の疑念をフェブラリアは秘かに抱く。

「よかった、感じ取れるなら話は早いですね。
 では…その魔力をまず一か所に集めるようなイメージをしてみてください。
 そうですね…初めてですから片手に集めるような感じで」

探りたいところではあるが、それを成すには接触が必要だ。
故に魔力の操作を指導する最中にフェブラリアは探ることにした。

プリシアの背後に回り、少しだけしゃがみ込んで身体を重ねるように手を添える。
一見すればそれは、此方に手に魔力を集めるのだと指導するように。
その実、身を重ねることで彼女の魔力の循環を探ることを目的として。

プリシア > 見下ろす彼女の視線に、此方は上目遣いに見上げる様な視線で返す。
最低限の感知は出来るのだと、其れを伝えれば次に進める様な答えを得られ。
其の感じ取れる魔力の操作を試みるのだ。

「えっと…魔力を、集める…片手に…」

コクンと小さく頷けば、感じ取れる魔力を云われた通りに片手へと流れる様なイメージを浮かべる。
其の際に彼女の身体が背後から触れられれば、身を預ける様に小さな身体を寄せる様にして。
先ず感じられたのは、身体中に巡る様に流れる魔力の動き、自分にわかるのは其の程度のもの。
然し、此方の試みを背後から身体を重ね、探りを入れている彼女が感じるのは本当に僅かな違和感。
確かに魔力は流れているのだが、動かせているのは更に其の一部の魔力だけという不思議な現象。
結果だけで伝えれば、云われた通りに片手に魔力を集める事は出来た。
但し、流れている間に抑制された様に流れは小さく、最終的には年齢相応の魔力として発現する。
受け取り方は探っている彼女の感じ方次第とも云えるのだが、魔力を敢えて低く扱わさせる様にするもの。
知識が追い付いていない内に無理をさせない様な、そんなものであるのが解るかもしれない。

フェブラリア >  
「(……枷、抑制術式…あたりですかね、これは)」

魔力の流動の中にある些細な違和。流れ行く魔力がほんの一部だけというそれ。
その不可解な現象に探りを入れて、組み立てられた推測はそうしたもの。
恐らくこれを施したものがいるとすれば、彼女の魔法が使えるというほうの母親だろうか。

…とはいえ、より深く探るには今の接触では足りぬらしい。
興味深くはあるが、一旦は推察だけをその胸に秘めておく。

「うん、集まりましたね。
 では次に、更にこの魔力を手に纏わせるようにイメージしてみてくださいな。
 成功すれば、今よりちょっとだけ手が頑丈になる筈ですよ」

今はそのまま、重ねた手に魔力を溜める様に。
次のステップに移るよう、彼女はそう少女に囁く。

とはいえ初めてやるには相応に難しい事。
補助するように密やかに竜令嬢の魔力を流し、魔力の流れる”型”を外から構築する。
彼女が魔力を流動させれば、そこに流れていくようにしていくのだ。

プリシア > 「……?」

魔力の流れは何とか感じ取れる、其れが流れて片手に集まっているのも解る。
只、其れが抑制されたものであるのだと、其処迄感じ取れる程に魔法の腕も知識も足りていない。
純粋に此れが自分の出来る事なんだと思うぐらいしか出来ないだろう。
其れでも、云われた通りの事が出来たとの喜びはあるもので。

「あのね、フェブラリアおねーちゃん、出来たの。
それで、これを…えっと……手に、まとわせる、の?
う、うん、やってみるの」

背に触れる彼女の身体、重ねられた手の感触、魔力撚りも確りと感じ取れるのは其方の方で。
触れ合う事でのちょっとした安心感を得られている中、再び云われた事を実行しようとするのだけれども。
流石に流れを手繰り寄せる迄は出来るとも、其れを手に纏わせる、頑丈にさせるイメージが確りと出来ず。
其れでも集中させた魔力が霧散する事は無く、其れが功を奏したか彼女の補助もあってであろうか。
集まった魔力が集中した手に纏わされてゆく…が、効果は思った程には出ていないみたいだ。
尤も、そうしたイメージ力不足で成功には及ばぬも、其れが出来る様に為れば、との期待は抱けるだろう。

フェブラリア >  
「…うん、どうしてもイメージが薄いようですけど、ちゃんとうまく感じ取れてるなら大丈夫ですよ」

やはりというべきか、纏わせようとした魔力はそのまま霧散してしまいそうになる。
しかしてそれらが補助によって指定した経路に流れていくのを感じ取れば、フェブラリアはそう優しく笑って少女を褒める。
本来の竜が持つべき魔力があれば、それこそこれでも成功を収めたのだろうが…
今は少なからず、魔力が如何に流れていくか体感させることができただけでも上々だろう。

「今の感じを忘れずに…何度も繰り返していけば上手くいくようになるでしょう。
 魔法は今の魔力操作が基礎の基礎ですからね、これができるようになれば後は知識だけですよ」

あとは知識を得て、練習あるのみだと彼女に伝える。
魔法の初実践としてはひとまず上手くいったことを確認すれば、そっと重ねた手を離していく。

プリシア > 「フェブラリアおねーちゃん、これ、出来たの?」

自分で解るのは、云われた通りに魔力が片手に集まって、纏う事が出来た程度のもの。
其れが思った通りの効果を出しているか否か、ちゃんと其処迄は理解していないのだ。
彼女の言葉から、出来た様な出来なかった様な…そうした印象を受ければ。
見上げた侭に、気になった事を聞いてみる。

「えっと、うん、わかったの。
魔力を集める練習、すれば良いんだよね?
プリシア、頑張るの」

出来たか如何かの判断も、繰り返し練習していけば感覚で掴める様に為ってくるだろう。
繰り返しをする事、其処に後は知識を加える事、其れを改めて聞いてから。
グッと胸元で両手を握り締め小さくガッツポーズを取ってみせる。

「フェブラリアおねーちゃん、ありがとうなの。
えっとね、それで、後はどうするのかなって…もっと色々とお話するの?
他にも何か教えて欲しいけど、プリシアも、何かあれば、色々とするよ?お礼なの」

まだちょっとしたお話と、魔法の練習をした程度だからか時間は十二分に残っている。
次は何があるのか、そんな期待を持った眼を向けた侭、ジッと彼女を見詰めているのだった。

フェブラリア >  
「ちゃんと魔力は流れていましたから、出来てますよ」

効果を発揮していたかは二の次、三の次。
思ったように魔力を流せていたかどうかのほうが重要で、その動作を経験するということがさらに重要だったのだと。
その事を詳細には語らずとも、掻い摘んで彼女に告げて。

「ですからええ、後は頑張り次第です。
 学校に通っているなら、魔法の入門書なんかも探して読んでみるといいですよ」

後は彼女の自主性に任せることとする。
その先にまた竜令嬢を頼ってきたり、魔法の指南を希望されたらまたその時はその時だと。

ともあれこれで魔法の実践は終わり、後はいくらか会話をして今日のところは…
と、そう考えていた最中に告げられた言葉に、ふむりと竜令嬢は小さく唸って。

「お礼ですか…ならちょっとだけ、調べものに付き合ってくれますか?」

ならばついでにとばかりに、そう提案。

目的は無論、先ほど気にかかった彼女の魔力の謎について…というのが一つ。そしてもう一つは、純粋に同胞たる彼女の『魔力の味』を知りたいという純粋な興味である。本来は先送りにするつもりであったのだが、お礼という形で在れば問題なかろうと、そう判断したらしい。

プリシア > 出来ているかいないか、次の彼女の言葉は安心させてくれるものだった。
其の言葉を聞けば、ほんの僅かだけれども不安気だった表情がパッと明るくなって。

「魔法の入門書?うん、今度、図書館に行ったら、探してみるの」

新たな目標が、又一つ出来上がった。
魔法はまだ先かなと思っていただけに、喜ばしい出来事であるには間違いなくて。
其の喜びは相変わらずといえるものか、パタパタと元気に揺れる小さな翼と尻尾が示してくれる。

そして何かする事はないか、何か出来ない事はないか。
其の言葉に返される彼女の提案に、ニコッと笑顔を浮かべてみせて。

「もちろんなの、お礼なの、プリシア、フェブラリアおねーちゃんの調べもの、付き合うの」

色々と知っている彼女だから、お礼とは云っても中々出来る様な事もないのかもしれない。
そう思っていた矢先のものだっただけに、其の嬉しさも一入のものだったらしいか。
ギュッと意気込んでいる姿を見せるのだ。

フェブラリア >  
「…ふふ、そんなに意気込まなくても、簡単な事ですから」

くつくつと竜令嬢はほんの僅かに怪しげな笑みを含ませて笑う。
そうして「こちらへどうぞ」と軽く手を拱くのだ。

竜令嬢が先導するようにして招いた先にあるのは大きなベッド。
恐らくはフェブラリアが『何らかの用途』で利用している寝床である。
フェブラリアはそこへと腰かけて……

「ここに腰かけて、楽にしてくださいな」

少女にそう促せば、とんとんと自らの隣を軽く叩くのだった。

ご案内:「ダイラス郊外 竜令嬢の別荘」からフェブラリアさんが去りました。
ご案内:「ダイラス郊外 竜令嬢の別荘」からプリシアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」にカイルスさんが現れました。
カイルス > 「さーて、今日はどうしたもんかな」

冒険者ギルドの朝は早い。依頼が張り出されるや、我先にと貼り紙をもぎりに行く冒険者達。
男は掲示板からやや離れた所でお茶を飲みながらその様子を眺めていた。

男は単独で依頼を受けることもあるが、大抵はどこかのパーティーの助っ人――道案内として加わる。
討伐一つとっても、塒がどこにあるかを依頼人が把握しているとは限らない。獲物を追跡する術が必要だ。
採集依頼でもアイテムの密集地やレア素材の場所など、土地勘は大きな武器になる。

専門技術を提供しつつ、誰とも深くはつるまずに生きていく。広く浅くだ。
女の子と懇ろになるのは大歓迎だが、深入りしては動きづらくなる。暴行など、顰蹙を買うようなやり方は論外だ。
後々自分の首を絞めることのないように、セフレ程度の適度な距離感が望ましい。
――もっとも、同業だからこその話。後腐れがなければ無理矢理という選択肢も考える程度には王国男児だ。

男の支援に代価を払ってくれそうな冒険者がいれば声をかけてみよう。
場合によっては駆け出し冒険者のお守のようなことにもなるが、若手に恩を売っておいて損にはなるまい。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」からカイルスさんが去りました。
ご案内:「貴族の屋敷」にメレクさんが現れました。
メレク > とある奇特な大富豪たる貴族が自らの私財を投げ打って、
市井の民から没落貴族まで見所のある者のパトロンとして支援を行なっている。
傍から聞けば、何とも美談であり、何とも胡散臭い話である。

だが実際、その人物の眼に叶い、成功した者達の話は少なからず王都に存在していた。
貧民区の乞食だった者が繁華街の一等地で暖簾を構える大店の番頭となり、
装備も整えられずに万年低級だった冒険者パーティが魔族討伐の功績を挙げ、
家が傾いて家人も離散した没落貴族が身代を持ち直したという話もある。

そして、今、その貴族邸宅に招かれたのは幸運にも白羽の矢が立った者である。
立派な招待状を持参した執事と用意された豪勢な馬車に揺られて豪邸に足を踏み入れた後、
贅沢にも彼女の為のみに沸かされた風呂にて身を清め、誂えられた瀟洒なドレスに袖を通し。
案内された部屋には、屋敷の主たる貴族が二人掛けのソファに腰掛けて高級ワインを嗜んでいた。

ご案内:「貴族の屋敷」からメレクさんが去りました。