2024/07/26 のログ
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
フィリ > 「其処も熟々。はぃ、正直執念すら感じる――と。思われるの、です。食とぃぅ物に対し。
んー…それは、なるほど…?確かにその…卵と鶏と申しますか。どちらか切っ掛けなのか、等、考ぇるだけでも。色々と有りそぅで。
それに…やはり。美味しぃ物につぃて、と考ぇますと。それだけで、モチベーションも変わるのでしょぅし――ヒトの事。言ぇそぅになく。

――ぁー、ぁー…そんなに。そんなに、呑まれるのです――?
とぃぅか、二人で、とぃぅ事は。笠木様も相当に…とぃぅ事、なのでしょぅか…」

好き嫌いという概念が存在するだけでも特別というか。自らの意志で食性を変更出来るというのは、本能で生きる他の動物では在り得ない。
食物に手を加えるという事に加え、自分達の側も変化が可能であるというのだから。生物としての適応性、確かに恐るべしである。
執念と評したが。実際それを感じる位に、生まれ育った地特有の品々を、食品へと変える人々は多い。
見た目だけでは奇妙奇天烈、いっそ魔物と思えそうな海の生き物やら。毒を持つ故に、それこそ生食オンリーの野生動物は手を出さないやら。
そういった物さえ食べてしまうのは…手を加えさえすれば美味しいからか。手を加えた結果美味しくなったのか。

彼のお国には、ウワバミ、という妖怪――此方の国でいう魔物的な存在が伝わっているらしい。
曰く大きな蛇というから、もしかすると何処か、竜に近いのかもしれないそれは。とんでもなく大酒飲みであるという。
叔母が其処まで酒に強いというのは初耳だが。そんな所からも、文化ないし伝承に於ける共通性…じみた物を。見出せるのかどうか。
それと同時に思わず目を丸くしたのは。半分ヒトで半分竜な叔母と同時に、十割ヒトである彼も、相当に呑むらしいという話故。
…大の成人男性ならそんな物、というレベルの話ではないのだろう。好きな物は別腹というから、そういう話の部類なのだろうか。

「――…は、ぃ。少なくとも…話半分でも、愉しめるよぅな事柄では――なぃの、でしょぅ。
何が居るか居なぃか。そも何が起きてぃるのかも判らなぃ、とぃぅのが今回でしたが。…居るとすれば魔物、とぃぃますのも…この近辺だけでも多そぅで。

とはぃぇ、ぇ…ぇっと。嫌な気持ちにはなるのですが――恐ぃ、とぃぅのとは。また違ぅのかもしれなぃと。思われまして。
少なくとも、そぅ…私は何処からどぅ見ても、初心者丸出しなのです、が。笠木様とぃぅ引率様の事を、信じてぉりますし――
その分。万が一に対しても、その……油断する、とぃぅ訳ではなぃのですが。同時に、笠木様を疑ぅ話でもなぃ訳でしてー……ん…ん?
これは、言葉にするのが難しぃのかと…」

少なくとも、事前に調査発掘が終了している遺跡等であれば。予測不可能なトラップの危険などは少ない…かもしれない。
また調査自体が直近であれば、よしんば蔓延る魔物が居たとしても。それ等への対処や掃討も行われているのだろう。
が、どうやら先程の小鬼等は。一匹見たら十匹のレベルで、何時でも何処でも侵入してくるようであるし。暫し放置されていたのなら、潜り込んでいてもおかしくない。
厳格に管理された施設等でもなければ。此処なら大丈夫、という油断もまた。決して褒められた物ではないのだろう。

逆説、管理が徹底された場所なら。その上で同伴する教師の腕前が確かなら。確かに、そうした遺跡等は学びの場としてももってこいだろう。
教師役の存在と、その実力と。だったら今此処に居る彼は、正しく有数折り紙付き。
心底信じていると言って良いのだが――だからといって。手や気を抜いていると思われるのも困る。
ちゃんと真面目な生徒である事をアピールしたいのだが…なかなかに。どうしたものか。
結局、元引き籠もりに上手い塩梅の伝達能力を発揮する事は出来ないまま。話の本題は次へ移ってしまいそうである。

「…寧ろ一度でも経験がぉ有りでぁる、とぃぅ事が。驚きなので――す、が。
其方は其方で大変興味を引かれるものが有るのですが…こほん。どぅしても長くなると思われます、ので。
またの機会を頂きまして、体験談、ぉ聴かせ願ぇましたらと。思われます。

…当然と言ぃますか。驚かれたりはなさらなぃのです…ね、笠木様ともなりますと。
私は正直、この…どぅ称したら良いのか解らなぃ、ぉ方を目の前に。
寧ろ驚き過ぎてしまって、逆にリアクション出来なくなる……とぃった塩梅、なのですが…」

眉を上げた。
幼い子供が取り換えられてしまったり。円環に踏み込んだ人間が掠われたり。
妖精という美しさと儚さの象徴めいた存在達についてでが、何だか不気味とも思えてしまう言い伝えが。幾つも残されている。
そも…先程の小鬼達についても。魔物であるのは確かだが、文化によっては妖精と近似した物と見なす事も有るそうで。
だとしたら妖精というのも、必ずしも綺麗な見た目に中身とは限らない…のかもしれない。
そんな者達の国について。心当たりが有るらしいというのは。流石は大師匠と言うべきか。

が、奇妙奇天烈も摩訶不思議も、世の中幾らでも実在するのである。
現に今こうして。目の前に存在するのは、死から起き上がってきたかの如き存在だ。

…かの者は、生き長らえんとして竜の血肉を欲した、後天的な。
少女は、竜種の娘とヒトとの間で生まれた、先天的な。
大きな違いこそあれ何れもが。ヒトでもあり竜でもあり、そしてどちらでもない生物だ。
いや――死者に近しい前者を、生物、と呼んで良いのならか。

軽く視線を、面持ちを伏し気味で。少女はかの存在と相対している。
落ち掛かる髪が目元を。その表情を。何時にも増して窺い辛い物に変えており…
言葉通りの、感情の行き先を。見えない物とした侭で。

フィリ > 「『別口のぉ一人――私の叔母なのですが、申し訳ぁりません。其方は、此処まで来られてぉりません。
…風に親しぃぉ方です。私よりずっと――ずっと。本物の竜でもぁるのです、が。
只、ぁまりに強過ぎると、その……ぉ勧めは出来かねます。 …ぁれはきっと。ヒトの身には、適さなぃ』」

何処にでも吹き込み、何処からでも吹き去っていく。そんな小さな叔母の存在にも、この者は気付いていたらしい。
もしかすれば自分達が感知しきれなかった方陣でも有ったのかもしれない。
が――其方に手を出す事は。誰の為にもならないと首を振っておこう。
実際、屍の血肉だけで、ヒトがヒトで在られなくなってしまう程なのだ。より強大な風竜の力など取り込もうとしたらどうなるか。
また、それ以上に。彼女に手を出し害さんというのなら。それを許さない者が、直ぐ傍らに居る。

――びくり。差し伸べている少女の手指が震えて跳ねたのは。
そんな傍らの彼が明らかに、警戒かそれ以上の意思を以て前へと踏み出した事と。
刷かれた刀…竜殺しのそれが、更に確実に。己が本分を果たさせろと言わんばかりの気配を、鞘越しにすら醸し出しているからだ。

「――っ――『…もぅ一度。流石に、全ては差し上げられません。
貴方方と、かの竜と。…それとは違ぅ形で、私、望まれて。この世に産んでぃただけました。
それを裏切り全てを擲ってしまぅ事は……とても、とても。出来なぃの――です』 」

当然、と言って良いのか。執念、執着、それ等が並々ならぬのがヒトという生物だというのなら。
…安らぐ程度の血では、肉では足りない、と。言い切られてしまったか。
目の前で次から次に浮かび上がる魔法の陣。先程は探知の、今は…どうやら変化の。
だが当然その二種だけで済むとは思えない。悪意を以て記された書であるというのなら、害意や敵意を形にする術も。ごまんと載っているだろう。

――ただ。納得してくれるなら、と願ったのは。本当である。
それでも落とし処。互いが歩み寄れる所はどうやら――既に存在しない。ヒトであったならいざ知らず。相手はもう――それとは別物。
寧ろ此方がそう言われたかの如く、半歩、後方に退く。代わって前へと踏み出す彼の背に目を向けて。

「――――………笠木、さま」

嗚呼。只そうやって名を呼ぶだけの声に。どれだけの感情を渦巻かせているのかも…また。少女には、上手く伝える事が出来なかった。

影時 > 「食とは、生の根幹。
 衣食足りずして人の暮らしは成らず、三大欲求なぞ数えられる時点でどうしょうもない上に、質まで求めだすと……なァ。
 ――あー、フィリ。あの弟子があって、この師がある、と云えば納得するかね。ン?」
 
好き嫌いという偏り、偏食という良し悪しはあっても、摂取できる対象が広いというのは、生存能力にそのまま直結できる。
勿論、特定の食物一種しか摂らない場合、栄養の偏りがそのまま死に直結することがある。
だが、その点を抜きにしても、人類という種はどれだけのものを糧に出来るよう、努力し、執念を傾けたものだろうか。
地方的な問題も大いに在り得るだろう。
だが、極端な例で言えば強力な毒素を持つ魚から、毒を取り除き、美食として嗜むというのは――類を見ない。
その手の書を紐解こうと思えば、きっと何冊もの書が積み上がることは疑いない。
そう思いつつ、続く言葉にそっと明後日の方向を見る。体質的に解毒能力が高いこともあるが、素直に酒が美味しいと思うから、杯が進む。
進み過ぎて、気づけば幾つかの酒甕をあかしてしまうのだ。その度合いはまさに、竜とも蟒蛇とも負けず劣らず。
 
「街の中、地下水道にも偶に魔物が湧くのに、どうして街の外で魔物に遭わないと思う?というのは、言い過ぎとして、だ。
 信頼してくれてる、だけで俺はとしては問題ないとも。どうしても制止しなけりゃならんってときに、従ってくれン方がとてもまずい。
 
 言葉にし難い心地を感じ、抱くのも含めて、実地でしか感じ難い経験そのものだ。
 最終的に無事に帰り付いて、あんなことがあったな……と。コトバにして思い返せるようにするまでが、冒険の帰結って奴になるかね。
 
 ……妖精云々についちゃぁ、そうしてくれると今は有り難い。
 俺よりもこいつらに語らせたい位だが、如何せんコトバを話せるようにするわけにもいかんしなあ。
 迷宮に潜っていると、な? 死んでいるのにピンシャンしてる奴やら、死霊やら諸々事欠かんワケだ。有無を言わさン類ならもっと気楽だったんだが……」
 
街の中でも、魔物騒ぎは意外とある。地下の下水道に錬金術の廃液を未処理のまま垂れ流し、それがスライムとなる例がどれだけ多いことか。
次第によっては、複数の廃液が混じり、それを摂取した鼠が……という事例は、経験者であればとても嫌そうな顔になる事請け合いである。
そんな事例を初級の駆け出しの冒険者が請け負う――という裏事情は別の話として、諸々の気持ちを抱くことは大変尤もなコトと云える。
気持ちなくして気づきはなく、気づきなくして、経験は成らず。それが初心者だからと云うのなら、どうしてそれを悪しと出来るものだろうか。
信頼されるベテランだからこそ、下手に慣れてしまった点も否定し難いのだから。
見守っているつもりか。己の肩上で腕組みしつつ、したり顔的にうんうん頷くような二匹の毛玉たちに、全く吐息吐きつつ言葉を紡ぐ。

経験談はここまでだ。
今、向き合うべきに改めて向かい合う。己が腰のものは震え。抜け――務めを果たせ、と云わんばかりに。

四分の一の竜ではなく。竜の血を吸い、死にながら生きるような骸こそが悪しきと見定めた刃は、柄を握る使い手が抜き放つことで今こそ露になる。
 
「――……退くわけにも、いくまいよ。俺には務めがあるからなぁ」

薄暗がりにもありありと、眩い位に輝く刃は紅い。血の色のようにあかい。
屠龍の名を与えられた刃が真にその用途を示す際、こうなる。使い手たる男も初めて見る顕現にほう、と感嘆の息を吐きつつ、次の刹那に表情を引き締める。
二度、三度。四度を超えて八度。さらに十六度。魔力の光が閃き、怒涛を前に出ながら弾き、払う光景が少女に見えるだろう。

NPC > 『叔、母。……ふぅ、む。げに信じられぬが、真実、なのだろう。
 否。否。適せずとも、適しなくとも、我が身には、必要なのだ。それほどまでに、何もかもが、足りぬ。』
 
侵入者が敷いた監視の陣、視覚の仕掛けを何かでかき消しても、感じられるものがある。
同じもの、近しいものが居るという共鳴じみた感覚だ。竜の血が近くにある、という感覚なのだろう。
永き時を生きられるものは、それ故に生じる子孫は少ないとされるが――何事にもその例外がある、ということを知らない。
それも人の血が半分混じりながら、純血の竜と同然か遜色ない位の逸材が在るというのは、生前ならば眉唾のようにも思えたか。
だが、今は最早遅い。死にながら生きるモノは理性的に見えて、そうではない。

『おお、おお。であろうとも、そうであろうとも、我れ、は。生きて。イキて。足掻き。足掻きが為に汝れを欲せねば。ならない。
 哀しい。哀しいことだ。生きるとは。かくも嘆きに満つることか』

結局のところ、全て繰り言だ。譫言だ。死んでいるだけのものが生きているように動いている。
このような結末を、誰が予想したか。開かれ、紐解かれた術を陣として浮かび上がらせる書をもたらしたものも、思うまい。
“変現の書”なる題を記された魔導書は、元々は魔族由来のもの。仮に回収できて、精読することが叶うならばすぐに気づくことだろう。
書とそれに記された術そのものに邪悪さはない。ただ、それをまるで布石を置くように、如何なる手管でこの地に潜ませたモノにこそ最大の悪意があるだろう。
なりたいモノに成り代わる術は不完全なままに行使されたが、その上で出来ることは、例えば。

『……恐ろしきものが、猛き風の血を求めざわつく、のか。
 おお、だが、だが、故に、我れは枯れ尽きた血を振るわせなければ、ならぬのか』
 
薄汚れ、ほつれたローブの下から枯れ枝と見紛う腕が突き出される。伸ばされ、魔文字の円環が絡む。
それが急にばきばきと恐ろしい音と共に震え、内側から溢れ出すように干乾びた肉が膨張する。
それが形作るのは、辛うじて薄緑の鱗をしたと見える竜の頭部。開かれた口腔に魔力が集い、風の刃を幾つも生む。
竜の属性を魔力と共に帯びた真空の刃だ。それを幾つも放つ。脅威に向かって、続けざまに放つ。

その応酬が激しい音を生む。風に篭った竜の威を殺す赤き刃が奏でだす。干乾びた神官の顔に、あからさまな恐れを抱く程に。

フィリ > 「…今更。はぃ、今更野生の暮らしに戻れ、生物本来の姿を取り戻せ――など言われましても。とても、叶わなぃでしょぅし。
そぅぃった意味でも、正しく、どぅしよぅもなぃ――のかと。
――……それもまた。どちらが原因、どちらから始まってぃるのか。少々判別出来かねるのです、がー…」

人間。この種は自然からすっかり離れ過ぎた。
…勿論、関係性皆無という訳ではない。水も風も陽も。それ等なくして生きてはいけない、というのは変わらないのだが。
川や海、緑や森、等々。生き易さを越えた範囲で好き勝手に手を加えてしまう、業深い所まで及んでいるのは。ヒトこそが大半だろう。
努力、執念、その他諸々。手を加える事で如何に出来るのか。それを忘れ、不便で危険な野生に戻れる程――肉体的に強くは、あるまい。
それを進化と呼ぶか退化と呼ぶか。何れにせよ、環境に適応し変わっていくのが生き物であるのなら。自ら変えた環境にこそ適してしまった、それもまた。ヒトだからこそ。

…さて。酒精で酔う事を知る生き物は殆ど居ない。それこそ大凡人間ないし亜人に限られ、その他は殆ど極少数。
本当に酒を好み、隙を晒して退治される程の龍や蛇が居たのか…少々怪しい所もある、が。
件の毒持つ魚を、危うい娯楽に用いる海豚の例も有るのだし。必ずしも無いとは言い切れない――自分達は、まぁ、元々ヒトの血が入っているので。例外だが。
そんな人竜たる叔母と、その師である彼との二人だけで。何処までの酒を干すのやら。
序でにあの弟子この師と言われると、どっちがどっちと言うべきか。どっちもどっちの方が当て嵌まるのか。
何れその辺検分した方が良いのかもしれないと。いつものジト目を細め思案したり…なぞしつつ。

「それこそ、適宜警戒と駆除の実施されている場所だから。そぅでなければ、逆に街中でぁろうと可能性は有る――と。思われます。
兵士様、冒険者様方、の。日頃の頑張りには頭が下がるのです―― …と、はぃ。
少なくとも私。…背中を任せてぉけば安心、等と勇み足はぃたしません、とぃぅか――ぉ互ぃ背を預けられる、などと烏滸がましく考ぇは、しませんので。

今――…はぇぇと。…ぇぇ、と、その―― ……はぃ。 ……また改めて。考ぇた事、感じた事、自分の中で整理しなければ――どぅにも。
その意味でも、取り敢えず今。…今をどぅにかしてぃただかなければ―― ぃぇ」

一先ず。彼が「ここまで」というのなら。後回しにしよう。
街中の魔物。妖精の物語。…それに、二匹の先輩が関わっているらしい事実。どれもこれも気になるが。
そういった話を聞くのも――感じた事を逆に、此方が話すのも。この場を乗りきってからでなければどうしようもない。

然るべき保全と管理がされるにしても先の事。前準備としての調査にて、こうして…小鬼どころでは済まない相手と、ぶつかる事になってしまった。
差し伸べた手は取られるでもなく。もしかしたらその侭喰い千切られていたかもしれない。
未だ理性を模した何かを見せている相手だから、そうはならなかった、というだけで。血肉に対する餓え具合は間違い無く――されかねなかった程の強い物。
捕食者を前にした獲物というのが、どういった心境になるのか。少女がたった一人なら、もうこの段階で。意識を呑まれへたり込んでいたかもしれない。
いや、例え少女でなくとも。それこそ初心者レベルの冒険者でしかなかったら、大いに気圧されていたのだろうし…
多少経験を積んでいても。寧ろ多少だからこその傲慢さと無鉄砲さで、取り返しの付かない無謀な突撃でもしているのかもしれず。

――恐いと言えば恐い。怖れも畏れもひしひしと感じている。
それでも少女が冷静さを、表面上だけでも努めて維持しようとしているのは。信頼すべき人物が、其処に居るからに他ならない。
此方に背を向け前に立った彼が、刃を抜いた。先天後天関係無く。寧ろ悪意の有無で判断したかの如く――抜かれた瞬間、その刃が力を増した、と。自身の血が訴える。
赤々と煌めく刀身が描く軌跡。その前に次々砕ける、異なる光。
何かを唱える迄もなく、前準備らしい物の一つもなく。瞬時に放たれたそれ等が、眼前のモノによる攻撃であると。
少女の知覚が遅れて理解した頃には、更に――

フィリ > 「 『世は変わりました。…ぃぇ、未だ――変わりつつぁる、でしょぅか。
私達のよぅに。貴方方とは異なる形で、ヒトと、そぅでなき者が、共に在る――可能性も、折々に。
……ですが、残念ながら。……はぃ、とてもとても残念なのですが―― …死を超過する事は。今以て適わなぃの、です』 」

他種族と争い続け。奴隷として組み込み。或いは逆に侵入を許し。…決して良いとは言えない形も多々有れど。
嘗て神官達が存在した時代よりも、この王国は、他種多様な存在を秘めている。
それが結果として如何なる未来をもたらすのかは――それこそヒトにも竜にも、それ以上の例えばカミサマにだって分からないだろうが。
少なくとも逆に、過去は分かる。……分かってしまう。もう変わり様が無いのだと。
竜は眠った。人々は去った。ならば此処に在るのは――最早。そのどちらでもなきモノだ。
その事を理解せざるを得なくなった段階で首を振り。差し出していた手を退いて。――次の瞬間には、光と光の渡り合いが始まっていた。
目映い閃光が幾度も、幾度も弾け。その眩しさに目を伏せて更にもう半歩、後退。

更に数瞬を置いて閃光の応酬が収まった、かと思えば。上げた視界に映るのは竜の顎。
――勿論。それは最早骨しか残らぬ竜その物ではない。もしかすれば、形ばかりはそれを模しているのかもしれないが…
逆を言えば形だけ。何せそれは、首から先だけ。神官の腕から先が変形し、其処に生じている代物なのだ。
足りない肉も血も何処から出て来たのやら、無理矢理変形させられたかの如き頭部が力を集わせ。声無き声で咆哮し――

「 ――――…… っひゃ …っ……!! 」

次の瞬間放たれた旋風。剛風。正確には真空の刃が放たれたかと思えば、竜殺の刃がそれを砕いた余波が。堂内所狭しと吹き荒れる。
勢いだけで流されかけ、その場で大きく蹌踉めき――大慌てで鞄から鎚を引っ張り出した。
どすん、と明らかに重い音をさせるそれが。本来の重量で以て少女をその場に留めてくれる。

――鎚。それを見て、ふと。
解き放たれた真空も。それを放った顎も。竜の性質を持っているのは間違い無いが。
…あくまでも、書に記された術によるものだ。魔導書に、其処から浮かび上がった術式に、御されているものだ。
詠唱等こそ存在せずとも、それも書によって代替されているからであり、何処までも――魔術の産物であり、魔力の伴うものなのだ。

それは、つまり。

「   かさ、 ぎ、様っ…!! 私――使ぃます、ので――!」

荒れ狂う風に負けない様。少女は、初めてかもしれない程、声を上げた。
ふらつく両脚でどうにか踏ん張り。伸ばした鎚を両手が振り上げる。大きく、構える。
…やる事は先程と同じだ。但しより大規模に、この場に存在する魔力という魔力を奪うのだ。そうすれば――少しの間だけ、でも。

タイミングを見計らう様。彼の方へ目を向ける。

影時 > 「なぁ、フィリ。野性の暮らしなんて、最早誰かから教えて貰わねェと誰も分からン処にきちゃいねぇかねえ……。
 と、ははは。どっちもどっちじゃねェかな! どっちもイケるクチだったってのは否定もしようもないしな!」
 
言葉だけで言うのは簡単だが、実際に野生の暮らしと云われて想像し、為せるのか?と云われると難しい。とても難しい。
見習う事例、こうであろうと思われる例は幾つか覚えはあるが、それを踏襲できるのか。
鉄器の利便性、鋭利さ、強靭さを手放し、石器や骨器のみで狩猟ができるのか。
自分と弟子ならば出来なくはない、と言っても、それだけで暮らしたいという気にはならない。逆に言えば、人間は容易く戻れない域までに居る。
戻れないと言えば、酒精を嗜む楽しみを手放しづらいのもそうだろう。酒造の文化から離れるのも、大変痛い。
例えば、木のうろに集められた果実が腐り、偶然酒精が醸されたとしても、それで満ち足りる気には到底ならない。
大酒呑みのひとりとして、ジト目が思案気に細められると、一瞬。ふっと視線を逸らす。

「……――だーれも駆除に動かなければ、強制的に招集されるコトもあンだよな、あれ、と。
 師としては、自分の背後を預けられる位に成長してくれると大変嬉しいが、一足も二足も飛び越えろ、とは云わねェとも。
 何よりも、フィリ自身が望むままに成長できるように手助けすンのが俺の仕事の一つだ。
 
 ……その為にもまずは、だな。これをどうにかせにゃならンか。お前らはしっかりしがみついてろ。良いな?」
 
汚い臭い暗い上に、稼ぎがいまいち。下水道の掃除、魔物の掃討の担い手が駆け出し含め、初心者に回る理由が此れだ。
その担い手が運悪く居なければ、ギルドが強権を以て動ける冒険者を掻き集め、対処に回されることがある。
それと同じ苦労を体験せよ、というつもりはない。だが、知りたいつもりならその手助けをする。それが師、監督役の務めだ。
最終的に己と同じ位に強くなってくれれば言うことはないが、欲目が過ぎるというもの。
今は先ず。小鬼よりもある意味強く、それ以上に哀しくも放置し難いものを、どうにかしなければならない。
肩上の二匹が展開される情景にぶわわと毛並みを逆立たせ、尻尾を振り回す様を横目にして告げれば、二匹がいそいそと襟巻の中に潜る。
その様子を確かめ、改めて氣を引き締める。竜の頭部を生成する敵が放つ何かを、肌が感じるままに掃う。切り払う。

――風だ。死の匂いを大きくふくんだ、竜が紡ぐ風だ。

竜のチカラが紡ぐ風はとても縁が深い働きだが、馴染みのある風とは大きく違うからこそ、余計に対処がし易い。
己が癖を大きく踏まえ、紡がれる風は時に、対処が危うい。その逆であれば肌感覚と屠龍の刃が導くままに前に出て、脅威を掃う。

NPC > 『死の期が巡り、生の期を待つ間に、かくも、世が動く、とは。
 否。否、否否。死を超えることは、適う。適うのだ。適わねば、ならぬ。生を写し取り、死を塗りつぶせば、適う、のだ!』
 
瀕死の肉体に屍竜を写し、屍に宿る竜の生命力で長らえる神官の成れの果ては、どうやら休眠期と呼べる死の時期があるらしい。
竜の生命力は、人間のそれよりも大きく勝る。竜の鼓動が止まっても、肉体に残る生気は人間如きを生き延びさせるには足る。
だが、それも限界がある。だから、改めて生きている竜の子に成り代われるならば――とでも思うのだろう。考えるのだろう。
生者に戻りたいという欲求自体は否定し難いとしても、所詮繰り言の域を超えない妄言だ。
竜を信仰対象にした自然宗教の神官として、竜に化身し、竜になぞらえた術技はお手の物、ではあったのだろう。
しかし、それも最早書に魔術として書き足した範囲でしか扱えないらしい。故に――、

「……――! ちか、らが、失せる! あの、槌、か!?」

術として行使せざるを得ないなら、少女が振るう槌こそが屠龍の刃と同じかそれ以上に脅威と成る。
どうせ、喰らうなら。どうせ、血肉を啜り、新たになり変わらんと欲するなら、殺しても大差がない――か?
生きていなければ意味がないという、変現の前提を忘れかける。だが、直ぐに思い返したのだろう。

「させぬ、認めぬ、だが、喰らうなら、かの槌も喰らえば、一層適う、か!」

魔導書が中空に放り出され、ばさばさとページを高速で捲り、手繰り出す。術式を大きく呼び起こそうとする。
喰らうならばヒトの口では足りぬ。竜の口、牙でこそ、だ。差し伸べた手が変化した竜の口を先頭に、身が伸びる。膨れる。
枯れた肉身がローブを引きちぎり、放置された骨格をほうふつとさせた、死体の竜に成ろうとする。
だが、その術の源泉が魔法にあるならば、槌の威力を使ってこそ歯止めをかけられる。大きく遅滞を許せる。

影時 > 故に。

「――応!」

忍びは短く叫び、二匹の毛玉が襟巻の中からひっしとしがみ付いたのを確かめ、身構える。
右手に提げた刀を逆手に持ち替え、左手で何かを漁りつつ深々と腰を落とす姿は引き絞られた矢のよう。
少女が槌の力を振るった瞬間、放たれること疑いのない、必殺の構え。

フィリ > 【継続いたします】