2024/06/28 のログ
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
フィリ > 「ぁーっ……はぃ。そのよぅにさせてぃただけますのが…その。此方としても、ヤブサカナク、と。思われます。
それに果実等でしたら……ぇぇと、今回も。手元に有った筈です――ので。

一先ず。…こほん、一先ず。その一点だけは把握させてぃただきまして――要注意と。考ぇぉくので…す。ぇぇ。
まぁその。そぅぃった言葉まで覚ぇてぉられるし、使ぃこなせる位。…長ぃ事居られるのかも。ですがー…」

どうせ干した物を選ぶなら。魚の餌等に有るような蟲類よりも、自分達だって食べられる果物類の方が良い。
というかビジュアル的に。脚の多過ぎる生き物も、逆に皆無の生き物も苦手である――海竜たる祖母が聞いたら泣きそうだが。
…と、いう事で。この後時間に余裕が出来、皆揃って栄養補給のタイミングでもやって来たのなら。早速デザートかおやつの中から提供してみようと。
主たる彼から水を貰う二匹の先輩達、その姿を窺いつつ。決意しておくのであった。

――もう一つ決意というか、覚悟というか。一先ず一度は会ってみたい。その事だけは確定した刀匠たる人物について。
生まれてこの方微妙な敬語っぽい少女からすると。正反対の人物という事になりかねない。…が。
世の中基本、言葉を学ぼうとすると。教本然り講習然り、丁寧でちゃんとした語り口が基本である。スラングやら悪口やらはそう出て来ない。
だからその辺りまできっちり日常で覚えていると言う程度には長く住んでいる――そう考えておく事にした。
言ってしまうと好意的解釈という奴である。少女自身がメンタルとモチベーションを維持する為の。

「はぃ。彼等がもっと…その。ちゃんとした技術をぉ持ちでしたら…色々。勿体なぃ事も無かったのですが。
とはいえ鎧等使ぃこなされてぉりましたら、もっと――大変だったとも言ぇそぅなので。一長一短…なのです。はぃ。

ともあれ現在の住人が、斯様な感じだった、としましても。…昔の方々につきましては――」

完全に放棄状態だったらメイルにコインに、容れ物の箱自体。其方も、もっと保全されていれば…と。小さな嘆息。
寧ろ気紛れに壊されでもしていないだけ。まだマシだった…とでも考えておかないと。後々修繕して売りに出す身としては。釈然としないのだった。
どんな物でも。扱うのなら、きっちりと。器物にも魂なり宿ると考える、彼の国のような思想の持ち主なら。同意してくれると思いたい。

――と、まぁそうして。先程のゴブリン達は、知能を弄くられているような素振りもなく。人の遺構で妙な収斂進化の衒いも無く。
潜り込んだ経緯は推測に留まるとしても、やはり――住人、と呼べる程。此処に馴染んでいた訳ではなさそうだ。
そんなお邪魔虫の跋扈を許してしまう辺り。少なくとも先程まで進んできた道中には…もう。先人の気配は窺えない。
参道まで出て来た辺りでこうやって。分化的な名残も散見する事が出来たのだが――この侭。
指数関数的とまで贅沢は言わないが。先へ進めば進んだだけ、より何かが残されている…事に。期待したい。

「何れにせよ。現在の信仰と合致しなかった――のは。残念とぃぃますか。
……ただ。高座でぉ祈りされるとぃぅのは、その……私としましては、性に合わなぃ――色々申し訳なくも思われます、し。
個人的には。今の方が、ぁり難く…思われるの、です。
それこそ。言葉だって通じる訳ですし、それ以外も色々、なのですから―― ……?」

唯のヒトより。個体として圧倒的な存在だ。…竜、ドラゴン、という奴は。
強いから大きいから。それで信奉されるというのは。単純で当たり前の事だったのかもしれない。
…ただ。少女自身の、その血は半分以下だ。大半は人間であり、生態だって其方に近い。
どうせ通じてどうこう出来るというのなら。もっと身近に在りたい…そう考えるのは。母方周りが人界に融け込む基盤を作ってくれているからだろう。
排斥されるより。信奉されるより。今の在り方の方が自然だし、それがもっと一般的になればと――

そんな思考を中断させられる事となった。どうやら水晶と共に、此方に向いて立つ形の彼等が気付いたらしい光。
決して強い光と言えないのは――それが、もし。少女の薄い血に反応しているのだとすれば。順当な所なのかもしれず。

「少し…ぉ待ちぃただけましたら――……ぇぇ、と…これは――……?

――――…何となく、なのですが――まだ。残ってぃる物が、ぁるのではと……」

その光、どうやら。違うナニカにも繋がっているようである、と。
言われて先程のトラップの様、半目で気配を探った少女は。漠然と察する事が出来たらしい。
…繋がっている。作成した者が籠めた意思か。長い事染み着いた信仰の気配か。細かい所は解らないが――
ただ、触れた者の気質に反応して光る、それだけのギミックではない。もっと何かしらの意図が籠められて…それが。回廊の向こう。あの寺院に繋がって居る。

「…参りましょぅ笠木様。 …なんだか、不謹慎なのですが――非常に。非常に興味を抱ぃてしまぅの――です、私」

影時 > 「蜂の子とか美味いのもあるにゃあるが、ん、やっぱ果物の類が一番角が立たねぇわなあ。
 リス飼いの界隈と……やらはよぉく知らんが、一緒に喰える奴の方が一番手間がなくていい。
 
 そうそう、要注意、だ。べらんめぇな口調――ってこの辺りで通じるンかねぇ。
 兎に角口調の荒い相手と丁々発止するような小説を漁ると、若しかしたら心構えが少しは出来るかもな。
 多分、俺と同じ位は居る筈だ。何をどうやって土地を押さえたかは聞かなかったが、あの腰の落ち着きようは……」

乾物の類も色々だが、飼い主とペットの“こみゅにけぇしょん”とやらを考えると、ヒトも食べやすいものに勝るものはない。
食べられる虫類があり、調理法もあると言っても、是と出来る文化に産まれてない者には酷が過ぎる。
野生のままに生きる竜族なら若しかすると、としても、街暮らしの竜にはお勧めし難い。そうする気にはなれない。
取り敢えず、乾燥させた林檎のチップがあれば、二匹ともに揃っていい食べっぷりを見せてくれるに違いない。
食事時のアドバイスの内容を脳裏に浮かべつつ、ふと思うのは顔馴染みの刀匠がこの地に至った時期だ。

(……まさか、俺が屠龍を見つけた頃と重なったりしてねェだろうなあ……?)

当初、今腰に差している刀の作り手が知己とは思わなかった。
名だたる名工達の特徴に散見する造り込みと同じものを持っている――とは言わなくとも、匹敵しうるものが確かにある。
氣の伝導性、許容量の問題だ。此れが己が刀遣いだが、刀を選り好みする最大の理由だ。
己が満足できる程の代物が見つかるのは、それこそ名工の作か、知己が心魂注いで打ち上げた作あたりか。
そんな後者を手にした時期に知り合いが至ったとすれば、若しかしたら刀に呼ばれ、誘われたのか。まさかなぁ、と内心で吐息し。

「ははは、使いこなす知恵を持ってる小鬼の手合いが居たら、一層手間だったろうなァ。
 あれらは知恵を付ける前に対処しなけりゃならん。慈悲を見せるに値せず、とか云うのはまさにその辺りが理由だな。
 
 ……先人やら先達は、そうだな。この有様を見る限り一掃されたか、居つけなくなった、か」
 
武器もそうだが、防具はきちんと装備しなければ意味がない。
飾り物、置き物の用途が皆無ではないにしろ、先刻見つけたチェインメイルに美的云々を求めるとするには、余りに凡庸過ぎる。
知恵を付けたゴブリンが居ないのは、初心者には僥倖だった。そう思おう。知恵をつけたゴブリンは色々と厄介だ。
ただ、知恵を付けていたとしても間違いなく言えるだろう。先人への敬意、リスペクトを抱くわけがない、と。
遺構を寝床にしていたとすれば、昔日の信仰の名残も見る影もなかったに相違ない。

「……――その辺りはちぃと分からんでも無ぇが、それでも、だ。それでも厳しい場所で拠り所が欲しくなるのが、ヒトの性質って奴だ。
 言葉を話したかどうか、教化をするようなものだったかは分からん。
 
 けれども、何かをやって自分たちを守り、守ってくれる誰かに感謝を捧げたい。
 例えば、食事を捧げてくる小さいものを守らなければならない、とかが長く続けば……信仰の一つや二つも生じるだろうよ」
 
さて、どうだろうか?合致しなかったかどうか、教化を阻むようなコミュニティであったかどうかは、分からない。知りようがない。
ただ、壁画から見える印象は如何わしい邪教めいた風情ではない。非常に素朴な関係性のように思える。
濡れた手を羽織の裾で拭い、腕を組みつつ思う。
寄らば大樹のように竜の住処の周囲にひっそりと棲み、勢力下であることで下手な魔物から身を守り、感謝を供物として捧げだす人間たちの図だ。
長く続けばコトバのやり取りも自ずと生じ、持ちつ持たれつで信仰のような雰囲気まで出来ただろう。
そして、見た目にも分かるカミサマがここにおわすから、よく知らない宗教は必要ない……といった風景も思い浮かぶよう。
カミサマが倒され、小さなコミュニティが破れ、崩されて失せ、その後に残るものは……何か。

「――なら多分、最奥になンだろうな。撮るものは撮ったかね? 記録し終えたってなら行こうか」

肩上で腕組するような小動物たちと一緒に、気配を探るような仕草を見せる少女が思いを馳せる先を横目に見る。
回答の奥。寺院であろうと思われる遺構。記録を終えたならば、この建物を出て回廊に戻ろう。
風が強い。日が少し傾き、吹き下ろす大気の流れが建物たちにあたり、風の音が響く。
年月に打倒されたような昔日の名残も、よくよく見ると、戦いのあとと思われる損壊が散見することに気づけるだろう。
新しいものではない。いずれも古い。溶け、固まったガラス質が見えるのは、竜か魔法の力が振るわれた跡か。

フィリ > 「―― ――っぁー、っ。聴きたく…っ、聴きたくなぃので、す――っ!
折角なのですから美味しぃ物を…ぃぇ味は存じませんが…少なくとも、見た目は味に含まれると、思われまして…!

…こほん。何となく、はぃ。聞き囓った事はぁる…気がぃたします。そぅぃった語り口とぃぃますのも…物の本なら有りますかと。
後は芸の類として、そのよぅな口調の漫談…のよぅな物も。
これは、何と言いますか…ぅーん。勢ぃもですが、先ずその。…私の耳が追ぃ付けるかどうか、も。考ぇなくてはならないかもと……むむ」

両耳押さえてぶんぶんと首を振る。あまり具体的に言われてしまうと、それはそれ、頭の中で想像出来てしまうのだろう。
…実際。料理というのは味覚だけでなく。嗅覚、視覚、その辺からも楽しむ物だ。スパイスの香りだの、盛りつけの見た目だの。
なので先ず。食べ物認定出来ない代物が皿に載ってくる――そんなビジュアルイメージだけで。少女としては拒否反応が出るらしい。
首を振りつつ…ちらり。ついつい、ご先祖様な可能性もある、竜の障壁画を盗み見てしまった。
年月がすっかり意匠をぼかしてしまっている為、はっきり確認する事は出来ないが…そういう生き物は供物の中に含まれていないと思う。多分、きっと。

とまぁこうやって。有る意味必死になった時か…もしくは。興味が暴走した時等でないと。基本、少女の語り口は滑らかと言い難い。
寧ろ常人よりも後れがちだし吃音混じりな事も有る。おまけに思考が逐一口を突く分、会話の内容が行ったり来たり戻ったりしてしまうのだ。
これは…かの御仁とは随分相性が悪かろうと。もう顔合わせ前から想像出来てしまう。
せめてある程度…覚悟を決めるというか、耐性を付けるというか。その必要性が有りそうだ。
身の回りの者達、その為人を考えてみるのだが――正直。同様のタイプというのが思い付かない。
明るい者、元気な者、好戦的な者、忙しない者…等は存在するものの。そもそもあの学院、元々良い所の子達が大半だ。
平民も受け容れ始めたとはいえ、それでも、一定の身柄が保証された者が大半だろう。
――曰く「べらんめぇ口調」、実際お目に掛かるのは。なかなか難しそうである。

ただ……諸々の難関を無事突破する事が出来たなら。得られる物はきっと大きい筈だ。
作品の中に、彼の持つ竜殺しの刀も含まれているのだと知ったなら。大きな確信を抱ける事だろう。
それだけ――自分達への恐ろしさだけでなく、一つの造型物としても――極めて優れた一品なのだから。

「それこそ一般的にも耳にして。数多の中でも、特に知られている――ような小鬼でも、そぅだとぃぅ事に。
熟々魔物とぃぅ存在は恐い代物なのだ、と。…実際身につまされる…と。思われます。

――…人同士の、争ぃ…のよぅな気配は。ぁまり見受けられなぃと言ぃますか。
少なくとも先程まで通ってきた辺りにも。大きな破壊のよぅな痕は御座ぃませんでしたし――出来れば」

出来れば、立ち去らなければいけない理由が有った、など。
少なくともこの地で、逃げる事も叶わず、命を散らした大勢が居た――とは。あまり思いたくないものだ。
差し当たって先程の魔物達等は最近の闖入者でしかなく。彼等が此処を滅ぼした手先等ではなかった…のは一安心。

もっとも、それこそ小鬼程度だとしても。…実際、程度、で済ませてしまうのが、どれだけ恐ろしい慢心なのかは。
少しでも自然の中での活動を生業とするのなら。たっぷり脅し半分で教わる事だ。
こうしたフィールドワークが行われる以上。少女だって授業の中であれこれ聞かされてきただろう。
一般的な魔物。広く知られているという事は――強いだの弱いだの、よりも。数が多く、接触の可能性が高いという事である。
それだけ悪い意味で人との接点が多い魔物なのだから。尚更甘く見てはいけないのだろう…
初めてだったが。どうにか相手にした、躊躇わず最後まで戦った。怖さも危うさも学んでいればこそ。

「………まぁその。ぁくまで私は、なのです…はぃ。
世代でギャップもぁるのでしょうし……やはり私、その、生まれてこの方。この姿です――ラファルちゃん様等とは。違ぃますので。
ぁ、ぁとは矢張り、その、とてもではぁりませんが…仲良く、してぃただけるなら…それだけで。万々歳と思われ、まして。

――その上で…はぃ。…ぉ付き合ぃを許してぃただけた上で。一緒に食べて、楽しめる物でも有ったのでしたら――それだけでも。
…永ぃ事生きる先達様からすると。嬉しぃ事だった――のかもしれなぃ、と。…私としては、思ぅ――のかと」

勿論。人間達が件の竜に対し。どのよぅな思いを抱いてたにしろ。どうやら悪感情では無かったようだから、それを否定はすまい。
…その上でつい考えてしまうのが、人竜たる少女なりの思いなのだろう。
こうして、種族の垣根が超越出来るのだという事を、身を以て証明する存在だからこそ…特別視より。教化より、共存が良いと。
だから、もしかしたら、と。此処に描かれた竜にとっても…捧げ物をされて、拝まれて、ではなく。
そんな供物を一緒に食し、言葉が通じる小さな者達と語り合う――事に意義を見出してこそ。信仰される事を受け容れたのかもしれないと。
立派な教会、豪奢な神殿、等でなく。本当に目の前へ、台を組んで料理を差し出しているような、素朴な信仰の絵面から…思い浮かべた。
……春先。彼に誘われ花の下、茶と菓子を振る舞われた時間。あぁいった穏やかな時が、此処にも存在していたなら良いと。

さりとて。それもきっと昔の話。今や此処は無人の遺構。
記録を終えて歩き出せば――嫌な物も見えて来る。
戦らしい戦が有ったと、先程迄は考えずに済んでいたのだが。頑丈な石窟ではなく建物の跡等を見ていけば、人為的な破壊の痕が出て来るのだ。
おまけに単純な、刀や槍が振るわれた痕、とは言い難く。明らかに――それこそ鉱物がガラス化する程の高熱等。強力な力の痕すらも。
魔法なのか、それとも――と。
考えたくない事柄が頭の中で沸き上がり。折角思い浮かべた過日の光景が、どんどん追い遣られていくようで。

「―― ――………… 」

途中から。普段彼との間では、なるたけ会話を頑張っている少女が。一人きりの際のように、次第口数を減らし…いよいよ。
回廊の向こう、寺院への入口を潜ろうとする時には。すっかり無言になっていた。

影時 > 「……ふーむ。じゃぁそのうち、俺が学院で持ってる講義の課外授業版でもやるかねぇ。
 ゲテ物喰いをさせるつもりじゃぁないが、ね。こういうものも実は食べられると知るのも悪いことばかりじゃあるまい。
 
 成る程成る程。まぁ、お嬢様の立場だとそもそも聞きようが無ェよなあ普通は。 
 歌劇やら“おぺら”やらの中でやるどうかも、怪しい……そう考えると、現場で見聞きする方が一番早いか」
 
美味い物もない――わけではない、と云えるのは経験者だからだろう。
だが、だからといって、調理すれば正体が分からなくなる爬虫類の類でもなく、昆虫の類をそのまま食べたいとは思うまい。
蜜に浸かって育つ蜂の子ならまだ、蜂蜜の味を知っていれば味も多少は想像がつくにしても、恐らくふつうはこうだ。
両耳をしっかり押さえ、いかにも女の子らしい仕草に苦笑を滲ませ、肩を大きく上下させる。
肩上で揺れる二匹が耳と尻尾をぱたつかせ、不思議そうに首を傾げるのは、味覚の違い、価値観の違いの証左か。

――信仰を集めていた御仁の食事はさて、どうだったろうか。

いかにもな大皿というよりは、大盆に乗せられた山羊や羊――のようなものが掠れがちに見え、山野の恵みらしい果実も垣間見える。
小さな虫の類では大きな竜の身体を支えるには、きっと足りない。そんな勘案も出来る。
巨大な蟲に心当たりがなくもないが、そんなものはこんなに環境が整った場所には現れまい。
さて、そう思いつつ、べらんめぇな口調への耐性、慣れをつける手立てを考える。
知り得る限りの手っ取り早さで思うなら、文字の世界に思いを馳せることになるだろう。少女たちの同年代ではそうそう見当たるまい。
あとは、そう。社会見学――か。ドワーフの工房含め、実際の現場の会話を知る。見聞きする。
恐らくは此れが一番手っ取り早い。カリキュラム云々が挟まる学院経由ではなく、商会の伝手で親に付き添って観るのならば。

「駆け出しにはお似合いと甘く見て、その実痛い目を見がちなのが小鬼の類と云う。
 ……そりゃそうだ。見方を考えれば、人間を模倣する程に頭の回る生き物だぞ?侮っていられるもんかね。
 
 その手の痕跡は今居る辺りまでは、そうは見かけなかったが。嗚呼、崩れた辺りに紛れてるか、奥の方になンのかね……」

この地に棲んでいたと思われる竜。竜の力は多種多様だが、彼または彼女はどのような権能を持ち得ていたのか。
考えを巡らせるヒントは、壁の向こうの屋外に直ぐにある。風の強さだ。
己が弟子のように、大気を司る様なチカラを持っていたのではないか?気候が安定して、下手な魔物が寄り付かない場所にこそ、人が集う。
小規模なコミュニティでも、現在の主教が存在を許さなかったかどうか――分からない。
機密文書が残存していて、そこに何らかの記述があるのかどうかも、知り得る余地がない。ただただ、昔日の名残だけが、ここにある。
そんな昔日に思いを寄せることとは、まるっきり真逆の位置にあるのが、小鬼のような魔物たちである。
若し何か力ある器物が武器として残っていたら、駆け出しの戦いは一層厄介であったことだろう。
オーガやトロールの類とも違う面倒臭さが、ここにある。面倒臭い癖にゴブリンが関わる仕事はどれこれも安値にされがちというのに。
お陰で油断せずに一掃することを旨とするようになった男が、嘆息と共に壁の向こうの一角――奥の院の方を見遣る。

「……雇い主殿と弟子含め、三人姉妹がある意味特殊――変わってンのかねぇ。おっと、悪い意味で言ってるワケじゃないからな?
 とはいえ、フィリと同じように変にかしずかれたりした日にゃ、全員イヤな顔しそうだが。
 
 ――まるでおとぎ話の如く、と誰かが言いそうな情景だな。穏やかな蜜月の日々の如くに、と」
 
そう。竜の目線で考えるなら、悪い感情を抱いているようには、思えない。感じ得ない。
竜が人間側を害することもなかっただろうし、その逆も同様。
いかにもな仰々しい神殿などは要らない。信仰という形はあれ、お互いを尊重して共存する在り方が、きっとここにはあったのだ。
あったの、だろう。今自分たちが見るのは全て過去形。昔日を留めた残骸を見届けるだけである。
記録が済んだのだろうと見計らえば、改めて警戒を計りつつ外に出る。口元まで襟巻を引き上げ直し、二匹と少女の様子を確かめて移動する。
戦いの痕跡が次第に目立ち始めるのは、回廊の最奥に近づいてきたあたりからだ。
この地に至るまでは峻嶮だが、いざここを戦いの場とするには恐らくは向かない。見通しが良過ぎる。
故に、自ずと戦いがあるとするなら、石造の建物を遮蔽物のようにしながら行われた――のではないか。そう見立てる。

「……――息吹が通りを満たさないようにしたかったのかねェ、きっと」

視界をふと上げる。右手側に背の高い建物――のような名残が見える。石造二階建てか櫓があったような建物の、上半分が消し飛んでいる。
消し飛び残ったものが融解し、内側に滴り落ちて、固まっている。
ドラゴンの猛威の最たる炎の吐息を威嚇か、空から来た何かを迎え撃つようにした、のだろうか。
そう思いながら、回廊の一番奥まで至る。そこには堅固に石のブロックを積み重ね、補強した洞窟の入口のような構造が見えてくる。
所々荒く、竜の爪のような痕がそこかしこに残るが、巨大な竜が出入りできそうな入り口が風の流れを今も通す。

入ればその奥は、広い。集落全員が並んで入れそうな石畳のホールとその奥に、少女が手にした像を巨大化させたようなものがある。
竜の胸像、というべきか。その前には三つの円状の石板が三角形を成すように床に嵌め込まれている。ここで祈れ、といわんばかりに。

フィリ > 【継続いたします】
ご案内:「山窟寺院跡」からフィリさんが去りました。
ご案内:「山窟寺院跡」から影時さんが去りました。