2024/05/24 のログ
■グエン > 「…………」
時間は刻一刻と過ぎていく。
夜は更けていく。声を掛けられれば、長い前髪の下から血のように赤い目が向けられた―――。
ご案内:「平民地区 奴隷市区」からグエンさんが去りました。
ご案内:「山窟寺院跡」に影時さんが現れました。
ご案内:「山窟寺院跡」にフィリさんが現れました。
■フィリ > 「……ぅぅ。さ、流石に――…売り物になって、しまったり……ぃ、ぃたします、なんて。
…ちょっとこぅ。我ながら何をしでかすか――…責任を持てなぃ、と。ぃぃますか……っ。
刀…は。ちょっと流行りそぅな気がぃたします――ぅちのぉ得意様の中では、なのですが。
以前、ぉ菓子の話、させてぃただきましたし。其方の方面につきましても――」
観察。というか、視姦。…勿論「そういう事」という奴は。誰にも見られないのは不可能だ――決して一人では在り得ず。二人で行うものなのだから。
…或いは二人以上の場合も有るのかもしれないが、それはさて置き。
当事者以外の不特定多数に、娯楽の為に提供される――というのは。流石に真っ平御免である。
万が一、商売道具にでもされてしまったら。我を忘れた少女が果たして、どれだけ暴走するか。
パニック等で力の制御を失った少女の周囲に。どれだけ物理法則や魔術の原則を無視した現象が起きてもおかしくない…という事は。
既に彼にも、夏場の一件で了承されている事だろう。
…流石に。彼がそんな事をする人物ではないとは解っているが。
勿論件の二匹についても。解っているが、それでも。ツッコミは入れずに居られないという奴なのだろう。
商会の客層は諸々だが。王都の店舗を訪れる中で特に多いのが、彼のような――傭兵、冒険者、等々。
勿論大口の買い物をする貴族等も居るが、其方は、足繁く通ってくるような感じではなく。定期的に商談を持つような形だろうか。
店頭で商品に目を止めるといえばやはり前者であり。彼等の興味を惹きそう――なのは。やはり得物の類なのではと。
得物。武器。凶器。一般人が持ち歩くのも、持ち込むのも、色々と難が有りそうで。其処をどうにか出来るのも…彼等、かもしれない。
それはそれとして。以前話題に挙がった、学院で茶菓子を調達出来ないかという話。其方も忘れていないぞ、と。
少女と、更に毛玉先輩達もお零れ目当てか。同調して頷くのだった。
「――冒険、探検、その物――で食べてぃけるとは。流石に思ぇません…とぃぅか。それにつぃてはもぅ、身内に任せる方が確実――と、思われまして。
とはぃぇ出来る事は多ぃ方がと言ぃますか…やはり。万が一、は。常々考ぇて、備ぇてぉくべきなので…す。
…ぇぇ、はぃ、食ぃ扶持としての本懐は、そぅやって見付けられた、何かを以て――なので。
こぅして同行させて、ぃただく事につきましては。…挑戦しつつも。それこそ、動機を再確認してぃる…訳でして。はぃ」
探索。その為の護身。少女にとってはそれ自体が目的ではなく、あくまで、手段――何かを見付けて、識って、観察する為の。
決して其処の所を忘れ、見誤るつもりはない…というか、言ってみせる通り。其方を本分とし得る、確かな実力の持ち主が。身の回りに多すぎる。
それが有る限り、少なくとも。初心を忘れ天狗になる事は無いだろう。
選ぶ為の機会も。その為の手助けも。それこそ彼と違い、多くの助けと可能性を与えて貰っている。その点も忘れていないから。尚更謙虚にもなろうという物か。
とはいえ当然。手段は大切な物だから。手を抜くというつもりもないのである。
だからこうして。初めて実戦に挑み、魔物を相手にする事になりつつも…決して。彼に任せれば安心、等と胡座を掻く事はなかった。
二、ないし三匹、という成果だけであれ。それだけでちょっとした目眩を覚えそう…かもしれない。
乱れた呼吸を整えている内、残りの小鬼達は彼に一掃されて――ぶるり。身震い。
出来たけど。出来たとしても死ぬ時は死ぬのだろうし、ましてどうであれ…相手を、死なせる事になる。
例え魔物相手であろうとも、命というたった一つの物を奪ってしまう行為。
これで――目的の一つとも言える、宝箱を思わせる器。其方に気を遣る事が出来無かったなら。
果たして、平静を…理性を保っていられたかどうか。
「…願わくば。これ以上…数の意味でも、質の意味でも。出て来なければ良ぃの――です、が。
せめて、さっきの今、で。此処を調べてぃる所に直ぐ…とぃぅのは。遠慮させてぃただきたぃと。思われ――ます」
半分誤魔化すようにして身震いを追い払い。そうして、宝箱のチェックを行う事とした。
少なくとも少女の観察眼では、トラップらしいトラップが発見出来無かった所で――彼と交代。
入れ違いつつ、飛び乗ってきた二匹を受け止めて。その勢いで数歩蹈鞴を踏む等したのはご愛敬。
「 ――…少なくとも、はぃ、見て解る物…は。私には、気付けませんでした。
実際に触れなぃと解らなぃ、何かが有るとしたら――其処は。ぉ任せするしか。なさそうでして」
蓋の隙間を矯めつ眇めつする彼の背を見やりつつ。少しばかり、息を吐いた。
実際物理的なトラップ解除は。鑑定士よりも寧ろ、現場の担当。冒険者の方が手慣れていそうな感が有る。
彼がプロでなければ判らない罠を見出すか。それとも、何事も無く開くのかを。
二匹が、此処まで、と前足で表してみせるラインまでの距離を置きながら。結果を待つか。
■影時 > 「……お前さんに限らず、トゥルネソルのお嬢様のお姿は色々販路が付きそう、というのは、嗚呼。ここまでにしとくか。
問題になッちまったら最後、責任どころか俺の進退含めて色々やべぇことになる。なっちまう。
刀なら打てる知り合いがこっちに居るが、かーなーり偏屈だからなあ。
多分一番やりやすいのは菓子、甘いものじゃねェかね。いつぞやのコトも考えるなら、な?」
学院の動向、噂話の類を漁れば、王族や大貴族の子女、その取り巻きらに加え、幾つかの富豪の子女の話も耳に入る。
トゥルネソル家もその中の一つに入る。可愛いという声から、特に己が一番弟子が為すトンデモぶりまで色々と。諸々と。
“やろう”と思えば、欲情的な観点から政治的まで、そういった注目に応じた情報を流せる位置に居る。
今の自分の立ち位置をそう測り、認識している。同時にそれは一つ何かしでかしたら、どうなってしまうか、という危うさも認識できる。
以前の夏場で、少女が為した異能、現象の暴発――だけで済めばまだ良い。
それと同じかそれ以上に恐ろしいのは、雇い主による金銭的制裁、社会的抹殺の可能性も起こりうる。
他の姉妹のことも思えば、何が何処まで起こりうるかと思えば、どこまでも、という言い方だってできよう。
だから、妄想じみたこの手の話題は今のように二人だけの話題に留めておくが吉。それが大変賢い選択って奴だろう。
そう思いつつ、話を切り替えよう。刀は信頼のおける刀匠、鍛冶師が居るが、どうだろう。
腰に差した得物を面倒見てもらうついでに、商会経由で仕入れた燃料や鉄鉱などを差し入れているが、大口の依頼をするとなるととても難しい。
「ああ゛?!」と偏屈な叫びを挙げられかねない。そして、同時に注意すべきこともある。
王国式の剣と極東の刀の扱いは近しい、近似する要素はあるが、違う点も多い。それを認識していなければ、折角の利刃が意味がなくなってしまう。
売れる相手を選びかねないことを思えば、一番とっつきやすいのは甘味、スイートの観点なのだろう。
少女に同調するように頷く二匹を見れば、お前らなァ、と苦笑交じりに吐息を滲ませて。
「そこは否定できる処があンまり無いな。冒険だけでしっかりと食っていこうとすると、な。本当に難しい。
万が一仕損じてしまって寝込んだ日にゃ、その間収入が入らん。蓄えがなけりゃ、最悪寝床の中で干上がるしかない。
とはいえ、人生真面目に考えてばっかりと云うのも味気ない。
常々諸々考えて、試せるなら、今みてぇに試すに限る。時折こんな風に冒険に出るのもまた、冒険者の在り方の一つ――だそうだぞ?」
だから四六時中、何日も迷宮に潜る奴らも居る。
金銀財宝、この世に二つもない武具を求め、魔導機械を掘り出すだけではない。何か獲得できなければ収入にならないからでもある。
倒した魔物の骸から素材が取れる場合があるにしても、飲食代以上に稼ぎにできるかも、その日による。
あくせくして生きるのが美徳かもしれないが、だが、そういう生き方は勧めない。故に身内任せが確実、という認識はとても正しい。
出来ることは多く。そして、同様に楽しみも多く求めるなら、試す機会は多くあるべきだ。
自分のように、ではないが、週の大半は定職で禄を得て、余暇を日帰りの冒険に充てる生き方だってある。ありうる。
そんなライフスタイルを語った本を軽く読んだ記憶を思い返す。多分、学院の図書館で見たのだったか。
思い返しつつ周囲の警戒を終え、使用並びに回収した武具の状態を確かめる。
この程度で損耗、刃毀れをするものではないが、それでも注意を払うのは己だけではなく、同行者を守るための得物だからこそ。
「……ははは、その点の保証は出来ねぇなぁ。だから、フィリ。お前さんにヒテンとスクナを任せンのさ。護衛ついでに。
迷宮の中で特定の玄室、広間に駐屯せず、回廊を警邏するように歩き回る手合いも居る。
集中し切ってる時は特に、警戒してくれる連れが重要なんだぞ?」
いっぱしの迷宮を気取る――場所ではなくとも、先程の小鬼たちの上司のような何かが奥から見回りに来る可能性を否定できない。
少女に向かって差し向ける子分たちは護衛であると同時に、五感含めた動物のセンスでの警戒役も兼ねる。
自分たちを受け止め、踏鞴を踏む仕草に大丈夫?と前足でぺたぺた触りつつ、近づいていいのはここまで!とばかりに爪先を出して見せる。
男と少女の間の地面で、ちょうどギザギザの線状に走った亀裂のラインが、親分が想定する危険領域の境目になるだろう。
爆発系の宝箱の罠が、万が一発動した際の被害予測領域ともいえる。
魔法を組み込んだ気合の入った仕掛けだと、魔力の持ち主に何がしかの被害を及ぼす代物さえありうる……らしい。
故に男は道具を取り出し、宝箱の蓋の隙間の確認や鍵穴の向こうの仕掛けの有無まで見通すように、錐や先端が奇妙な形をした鉄具を駆使する。
待つこと暫し。やがて、がちゃり、と。小さな音が響く。穏当に仕掛けが解除された後に開く箱の中身は……。
お遊び判定:宝箱の中身(1d6⇒1・2:武器 3・4:防具 5:工芸品 6:魔導書)
■影時 > [1d6→4=4]
■影時 > (品質判定⇒1・2:粗悪品 3・4:普通 5:マジックアイテム 6:呪われた) [1d6→3=3]
■影時 > 「……あー、これは、そうきたか」
箱の中身を改める。確かめる。
数百ゴルト分に換金できそうな古銭、金の粒が宝箱の底に溜まるように置かれた中に、見つけるのは少し古ぼけた鎖帷子。
チェインメイル、という奴だ。シャツ状に編み上げられた細かい鎖の集合は思った以上に柔らかい。
商会の店先にもありそうなものにも遜色ない。
ただ、流石に小鬼が着るにはだぶつくどころか、そもそも着る時点で喧嘩になったのだろう。こんな風にお蔵入りしているのだから。
■フィリ > 「――まぁぇぇ。…その手の事を、気に留めなぃぉ姉様も、居なぃ…と言ぇば嘘になるのは、兎も角。
当人もですし、風評被害とぃぅのは矢張り…非常ー…に。馬鹿に出来無ぃ物でぁる、と。思われましてー…
む、む。その手の方ですと尚更。…武器としてだけでなく、工芸として、等とぃぅのは。ぉ気に障られるタチ――なのでしょぅか。
少なくとも、はぃ、危険性の無ぃ飲食物、特に甘ぃもの。我々としては、学生とぃぅ、身近に多数のターゲットが居りますし」
そう。噂話は怖いのである。…母達のように、性的なアレコレ、王国らしいソレコレ、当たり前の身分や立場を得ているなら兎も角。
まだまだ未熟な娘達のあられもない姿というのは、商売仇からすれば大きな隙と取られそうだし…ましてそれが。
合意の欠片もない、惨々たる陵辱の光景などであったなら。あらゆる意味で家に、商会に、何なら国内に住まう竜種全体に。影響も出かねない。
…まぁ、そういった事が現実に起こるなら。販路から当事者から何もかもが、文字通り灰燼に帰すだろうし、寧ろその方が大惨事だ。
彼ならやらない、のは当然だが。もし合意の上の物であれ。意図的ではなく偶然の漏洩であれ。
そうなったら、少なくとも彼の懐事情は焦土作戦の餌食となるに違いない…勿論。この少女だけでなく、直弟子やその他姉妹達に対してでも。
少女自身が巻き起こす予測不能の事象より。予想出来て尚どうしようもない、というのが。余計始末に悪いかもしれず。
職人。何処の業界でも、その気質は素人に計り知れない代物だ。
例えば少女の識る中には、商会と契約したドワーフの職人等居るが。えてして気難しく感じてしまい…なかなか。会話も出来無いのだった。
彼の思い浮かべる刀匠というのも、きっとそうした人格の持ち主なのだろう。そう考え首を竦めてしまう。
同じ職人でも、菓子職人――ではないが、そう勘違いしてもおかしくない位。彼の製菓の腕前は素晴らしかった。
何よりこうした危険な場所とは全く無縁。彼と少女にとってもう一つの日常、学院を巻き込めるのが有難い。
「…烏滸がましぃ言ぃ草ですが、私などは。…ぉ金をぃただく為に、振ぇる力――等には欠ける…のです。ので。
どぅせなら、冒険して下さる、皆様に。ぉ代を支払ぅ立場に……母のよぅに、なれればと。
――内容如何と関係なく、はぃ、同行させてぃただく段階で既に。私にとっては大きな試しで、冒険で――
し、失敗は、その。 …考ぇたくぁりませんが、私にとってのそれ――は…ぇぇと例えば。
今その箱が、空っぽでしかなぃ事、等になるのでしょうか――」
流石に四六時中山野に、迷宮に、挑み続けられるような。メンタルもバイタリティも無いのである。
今回だって、修行という意気込みと好奇心の突き上げが無かったら、少女はとっくにへばっているだろう。
…常々挑み続ける、冒険者達にとっての日常、等ではない。滅多にない特別な。敢えて、と称すべき。特別な経験。少女にとっての冒険とはそういう物になるだろう。
――さて。冒険の為の冒険でも、生活の為の冒険でもない。実益の為の冒険として、見出す楽しみが有るとすれば。少女のそれは勿論、財宝だ。
そろそろ箱が開くのかもしれない。そう思えば気が気でない、という感ではあるのだが――
「…ぅ゛。ぜ、善処ぃたし――ます。余程こっそり近付ぃてくる何かや――…実体の無ぃ、等でなければ。多分私でも、何とか。
それに勿論、はぃ、先輩方は私の非ではなぃと思われます――し」
背後から彼の手元を覗こうとして。近付きすぎるな、と二匹の先輩に制された。
同じタイミングで、彼からも襲撃の可能性を示唆されたので。また首を竦めるようにして、恐る恐る周囲を見回してみるだろうか。
…幸い。それらしい気配や物音は無い。少なくとも先程の小鬼達に類する物は感じない。
より強かで賢しい存在が、穏行と共に近付いていれば分からないが…其処は。少女よりも、先輩こと二匹の方が。ずっと役に立つのだろうと。
直に、彼による外からの検分も済んだのか。鍵穴を捏ねくり回すピックが音を立て――かちり。
幸いにして何事も無く、箱の蓋が開かれた。彼が良いと言えば改めて其方へ近付き、上から覗き込むようにして…
■フィリ > 「――鎧、ですか。 …けれど思った程の古さではなぃと言ぃますか――…後から持ち込まれた、の、でしょぅか」
多分それは、箱の中身として…メイン、ではないのだろう。多少古びているものの、同梱された古銭等に比べると新しい、チェインメイル。
言ってみれば本来の中身であった硬貨等に、用法を見出す事のなかった小鬼達が。更にその上へと雑多に放り込んだ、そんな仕舞われ方だった。
防具の一種という事を鑑みたなら、小鬼達にも意味は有りそうなのだが…少し後方。未だ倒れ伏した彼等の死体と見比べれば、納得。
小鬼の体躯には、序でに少女にとっても。とてもサイズが合いそうにない。
無理矢理着ても取り合いになったかもしれないし、だからといって、分解し再利用するような技術も無かっただろう。
文字通り。お蔵入り、であったらしいそれが。元々何処の誰から、小鬼によって奪い取られたのか。今となっては想像出来ないが――
「…古ぃと言っても、せいぜい十年か其処等――きちんと手入れすれば。相応の品になると思われ、ます。
とはいえ――ぉ値段としては。此方の方が上になってしまぃそぅなのですが…」
勉強中の身であるが。分かるポイントについては鑑定しよう。
少なくとも小鬼の戦利品という事は、誰かしら元の持ち主が犠牲者になっていそうで。其処の所も査定に響く。
呪われた品物ではないものの、呪われていそう、等と。それこそ風評被害が出てしまうのだ。
序でにしっかりと作られた頑丈な代物だが。実戦向き過ぎて、飾っておくような客は付かなさそうだし…そも。この寺院とは無関係だろう。
寧ろ当時と縁の有りそうなのは、古銭の方だ、と。其方を一枚手に取り、刻まれた文字の一つでも探ろうか。
■影時 > 「ラファルは気に留めねェかもしれないが、そもそも撮られるかどうか、でもあるからなぁ。……俺の弟子だしな。
然り然り。だから、だ。
学院の講師やら教師は生徒に手ぇ出すもんだ、というハナシもあるようだが、俺のような立場はしっかり弁えなきゃならん。
あいつは――そうだな。一振り一振りに魂を込めてるようなもんだ。
内容にもよるが、例えば数を作りまくってくれ、ってのには多分向かねぇ。まだ束刀を捌くほうがマシだろうよ。
……やっぱ、あれだ。甘い奴の方が一番良さそうだよなぁ。食べたくなってきただろう?ン?」
気に留めない、と云われれば一番すぐに思い浮かぶのは、一番弟子である野生児だろう。
野生に生きる理由が外聞その他を気にするものかと体現しかねないライフスタイルであり、同時に並び云えることもある。
そもそも撮りようがない、ということだってありうる。何せ、己の弟子であるから、という誇りと共に。
か弱い蝶の羽撃きが、やがて嵐を生むという考え方のように、悪ふざけ一つが非常に大きな騒動になりかねない。
だから、こういう秘め事は言葉通りに秘めて、密やかになるのが良い。お互いに。
さて、商売的なことも続けて思う。沢山刀を打ってくれと知り合いに依頼して、通るかどうか。
難しいように思う。燃料、材料、労力、そして報酬。仕事のための前提と代価は当然として、大量生産による質の低下という問題だ。
質の低下を許すか否かを思えば、否であると言いかねない。まだ舶来品の束刀を買い取り、吟味したうえで売る方が目がある。
扱いの習熟、徹底をフォローするなら、その手の道場の有無が王都にどれだけあるか、まで考えるべきか。
諸々考えるなら、まだ菓子を作り、商う方が目がありそう。そう思いながら、ちょっとばかり意地悪げにも問うてみよう。
手製の菓子は何人にも試したわけではないが、少ない範囲とはいえ試したところ受けが良かった。冒険の後に食べるなら、一層旨いに違いない。
「今の時点では、とも言いうる事柄だろうがね。
……まぁ、とは言え、だ。“ぱとろん”も腕っぷしが強くなけりゃならんという道理もない。
それにもともとを考えれば、俺と同じ位に強くなれ、強くするという事柄でもない。
何は兎も角、あの槌を十全に振るえて、護身が出来りゃそれだけでも万々歳だろうさ。
失敗は喩え方が難しいなぁ。そも、失敗とも言い難いかもしれん。
仮にこの箱に詰まってたのがガラクタでも使い道がある、同じ姿形のものと良し悪しが比べられるなら、十分に意味がある。
この意味で完全に失敗とするなら、一つ。箱に何も詰め込められなかった場合だろうよ」
パトロン、雇い主たる商会の女主人がまさにそうだ。武力、武人として立つものではない。商人である。
武人を差配するものが武勇に優れているべきである、とは限らない。故に将来のビジョンとしても異論はない。
最低でも、件の魔槌がちゃんと扱えるようになっていれば、己の任務は達成できたと言ってもいい位だろう。
女主人、パトロン、スポンサー等々。行きつく先の名前、名称は多様だが、そう成るまで経験してはいけないという事項もあるまい。
身体を動かすことも。冒険することも。恋の痛みも何もかも。しっかりまとめて心の箱に入るなら、きっと意味がある。
「俺以上に忍べる手合いは……文句のつけようがないなぁ。が、忘れちゃアいねぇかなフィリお嬢様。
お前さんの手にある奴は、実体のない奴でもぶん殴られる得物だ。
俺の子分たちはお嬢様も守ってやれるだろうが、誰かを激しく害せる様な術はない。
守りの手助けは出来るが、最終的に身を護るために戦うのは――その身一つとなることを忘れンな?」
己と同格かそれ以上の使い手がこの世にどれだけいることか。本気で忍んだ親分たる己を、二匹は野性的な勘以外で感知できるまい。
そんなモノが仮にここにいたとしたら、大事にならざるをえないが。
二匹の子分が出来るのは、少女がいざという時に反撃に転じるまでの補助、ガード位だろう。使える魔法はその為に限ったもの、と言ってもいい。
見守りはするが、甘くはない。多少は教師らしい言を述べつつ、箱を開く。出てくる中身を一瞥して。
「……かもな。何処其処から持ち込んだのか、それとも運よく誰かから奇麗に引きはがせたのか。
とはいえ、古銭ともども買い取りを願うか悩むな。鎖帷子まで着こむと、流石に身が重くなっちまう」
ううむ、と唸る。こんな階層、浅い処でいきなり大層なものが出てくるというのは逆にこの先が恐ろしい。
鎖帷子はサイズの手直しでもすれば、少女でも着こなせるかもしれない。そういったサービスを商会は商っているだろう。
貰ってもいいとも?と声を投げつつ、道具を仕舞う。腰の帯に革のポーチをひっかけるようにしながら、残る古銭を確かめる。
まだこちらが、価値があるかもしれない――と言うことに否定はできない。
年代と言えば、十数年処ではない。もっと古い。
毛玉な子分たちが身構える気配も、己にも嫌な気配が感じられないなら、古銭自体も不可解な呪いの類は宿っていない。手に取っても問題はないだろう。