2024/04/03 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍜治場工房地帯」にスピサさんが現れました。
■スピサ >
王都マグメール 昼
天候は雨
外はしとしとと降る雨音が路地を鳴らす。
時折聞こえる馬車の車輪の音は積み荷が走る際の水を纏う音。
時間帯は昼時でも、雨の中では足音も少なくなるのは道理。
しかしそれを踏まえた上で一人の足音が歩くのなら、求める強い気持ちがこの一帯の鍛冶師には聞こえそうだ。
そんな時間帯の中で、スピサは炉の中で鉄材に火を入れ、白く燃え上がるそれを何度も色が沈んでいくまで叩く。
金床の上で槌と金床は適度水を塗され、その上で叩かれる鉄材は色が暗くなっていく度に、再び炉の火で活性化された。
聞こえる鉄の音は、目的を定めたものであり、日中行う材料にする為に打たれた鉄塊ではない。
目の前のものは不純物を掃い終えた芯から鉄のもの。
コォンッ コォンッッ コォッッ と聞こえる鉄の音はやや吸われるかのよう。
停滞するアスピダで求められる金属はいくつもあるものの、今行っているのは足元に対するものだった。
靴底に打ち込んで使うパーツ スパイクとは違い氷の上で噛ませるものではなく
斜面や山間部に適応させる為の代物。
エイコーンからの離脱や斜面での踏ん張り 脚への負担の軽減。
そこからブーツの新造と、靴底に組み合わせる為の蹄鉄にも似た部位の作成だった。
武具は、もはやスピサや通常鍛冶師ではやれることはやれている。
特にエイコーンに対しての武装は策以外では畑が違うと感じていた。
あれに対する自分自身の武具ならばいざ知らず、人間や準ずるものが使うものでは特に。
魔剣や準伝説クラスの代物を造る鍛冶師ならば別に存在している。
其処に任せればいい分だけ、スピサは悩ませる顔もない。
質実剛剣を旨とするいつもの気持ちで、革と鉄を組み合わせる足元の依頼を熟す。
「…、…ん、よし。」
Uの字型の一枚。
踏み込んだ爪先から負荷で折れないよう、ここから三つに分かれたパーツからなる補助具になる。
先んじて、作成したブーツのサイズに合わせて拵えていくパーツ。
単眼の視界視力の前では、狂いもない。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 鍜治場工房地帯」からスピサさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート ファルズフ大聖堂」にビデラさんが現れました。
■ビデラ > 「ああああああぁあああぁ…………!!」
神聖都市ヤルダバオート
ノーシス主教 聖バティスタ派の大教会、ファルズフ大聖堂と呼ばれる場所
その中の、普段は説法を行う広間で男が象徴である十字架の前で膝から崩れ折れている
更には長槍を地面に置き、大の男が涙を流している光景は異様なものだ
その男の手には聖女を象った小さな像が握られており、それに向かって嗚咽を漏らしている様子
とある出来事があり、激昂していた彼が突然泣き崩れたため、周囲に居る騎士や従士たちは困惑の色を隠せない
「なぜ、なぜ私は……!!」
どうしてこうも男が嘆いているのか、その原因は数時間前に遡る
■ビデラ > ―――数時間前
「本日も良き信仰心を示しましたね」
教えを広めるため、男は神聖都市のとある商店にやってきていた
寄付を収める代わり、純度の高い塩粒を密かに渡す契約を結んでいる相手である
本日は偶然…担当の騎士が他の重要な任務にあたるため、仕事を既に終わらせていたビデラが契約の履行を行っていた
商談の相手は年老いた男だが、未だに精力旺盛で…塩粒を使って巡礼に来た若い女を誑かし飽きれば娼館へ売り払う
いわば修道会と似た行いをしている
ただし、塩粒を道具としている以上修道会へは寄付の他にも<手数料>が支払われているため対立することはない
塩粒に魅せられた上客と言うわけだ
問題はここから起こった
商談も終わり際になった頃、そんな翁の息子が訪れて、件の像を差し出してきた
造形師であるその息子が丹念に作成した非常に精巧な聖女の像である
聖女に信仰を捧げていると名高い聖天騎士の覚えを良くし、父が往生した後も長く付き合っていくための贈り物だったのだろう
しかし――
「……………これは、まさか、……我らが、我らが聖女ですか?
…、全く、違う
この頬のラインはひと月ほど前のもの、召し物は五日も前に既に棄却されたもの
足が体のバランスから計算するに太すぎる。腕も同様だ。そしてあふれ出んばかりの威光が!微塵も!感じられない…!!
どのように聖女を歪んで見れば、これほど……!!!
…は、ぁ…、この者は異端者である。連れて行け
聖堂の地下で教えと聖女という存在をその身に理解していただくのだ」
眼を見開き、怒りを込めた声で突然激昂する男
そんな男の命令はすぐに実行され、気に入られるはずだった翁の息子は猿ぐつわを咬まされ…大聖堂の地下の闇へと消えた
これだけであれば、タイミングの悪かった翁の息子が理不尽な逆鱗に触れただけの話であったが、まだ話は続く
■ビデラ > ビデラは大聖堂に戻り…例え歪であろうと聖女を模した像を叩き割るわけにもいかず
像に視線を向けていたところ、ある事に思い至った
「………これが、彼の信仰の結晶だと、したならば?」
確かに、彼から見れば嘲っているとも取れる出来である
しかし、翁の息子もまた信仰を持ち、この像を作ったに違いない
信徒として入信してはいないものの、表現することが不可能である聖女の造形化に挑んだ姿勢は…
本来、称賛されるべきものだったのではないか?
だとすれば自分が一時の感情のまま、浅はかな判断で行ったことは――
「あ、ぁ、あああああああああああ…………!!
何という不敬!!裏切り…!
彼を異端者と断じておきながら、真の、真の異端者は、私…!お、ぉおおおおおぉ…!!」
肩を抱き、床に頭を打ち付けて声を上げる男
ただ、嘆いているだけではいけない
罪を犯してしまったなら、償わなければならない
膝をついた状態から、す、と…奇妙にも思える素早い動きで立ち上がった彼は
周りの騎士へ震えた声で話しかける
「先ほど地下へ送った青年に治癒を。そして最高の塩粒を与え続けなさい…
資金は全て私の私財から。…彼には、塩粒によって聖女の御手に深く深く抱かれる当然の権利がある…」
そして、と続けて
「…私を打ちなさい。メイスで、剣で…貴方たちの持ちうる武器で。
この身は一時の怒りで異端者へ堕ちてしまった。…さあ…早く!!私が、私が悪へと堕ちきる前に!!
ご、ぉっ、そうです、まだ、まだ…ァ!!」
そうして現在
説法の時間も迫っているというのに
涙を流す一人の長身の男を、司祭や騎士なども含めて怯えた様子の人々が殴るという異様な光景が、聖堂内に繰り広げられている――
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート ファルズフ大聖堂」にバティスタさんが現れました。
■バティスタ >
「何の騒ぎですか?」
透き通るような声が、肉を打つ音の響く聖堂へと響く。
法話を行う司祭を連れて、教祖たる聖女がその場にやってていた。
「……ああ、また貴方ですか」
小さく吐息を零し、ゆっくりとメイスで打たれる青年へと聖女は歩み寄る。
このようなことが今回ばかりではない、ということなのだろう。
「一体どうしたというのですか。
聖天騎士ともあろう貴方が……」
その身を心配するような言葉をかけ、異色の双眼を細める…。
内心、また面倒くさいことを…などと思ってはいるが表情にはまるで出さずに。
■ビデラ > 「―――――――――、あ、あ……っっっ!!!」
なんという愚かしさ
聖堂を訪れた相手に気付くことすら遅れるとは
…生きている価値すら無い…
そんな後悔を抱えつつも、信徒がある種の恐怖に泣きながら振りかぶったメイスの打擲を受けてから
血を流しつつ、聖女の前へ膝をついて頭を深く垂れる
今は嘆いている暇はない。どうした、と問われたなら嘆くより前に迅速に答えなければならない
ふと、過去のことが過る
無駄に長身となってしまった自分では…聖女の顔に畏れ多くも近づくこととなってしまう
その事に以前は咽び泣いて涙を流していたものの、優しげな声で諭されてからは理性を保てるようになった
これは、遂に聖女に見放される走馬灯か…
塩粒を広め、信徒を増やしてきたが、結局自分は凡愚
聖女を僅かでも支えるなどと夢見たのが愚かだったのだ…
「…っ、――――――……
私が一時の怒りに身を任せ、信心を抱いていた者に懲罰を与えてしまい…
そのため、我が身が悪魔となる前に同胞によって洗礼を受けておりました
…麗しき瞳に汚れた身を晒してしまい、私、は…私は…!!聖女よ…!申し訳、ございません…!!
いかような罰も、御身の心のままに…!」
ついに嗚咽を堪えられず、肩を震わせる
次の聖女の言葉が自死を求めるものであっても何らおかしくない裏切りを自分は働いてしまった
長身をできうる限り折り曲げ、せめて聖女へ最大限の慈悲を乞う姿勢だ
…聖女が、面倒くさいと思っているなど、彼は知る由もない
■バティスタ >
……狂信者、それ自体は珍しくはない。
狂う程の信仰の果て、人としての倫理を投げ捨てた者…。
しかし目の前の彼は、普通の信徒とは僅かに違う。
神…ヤルダバオートではなく、教派の象徴たる聖女に狂っている。
故に面倒くさい。
体の良い言葉だけでなく、一言加えねばならないからである。
「顔をあげなさい聖天騎士ビデラ。
大丈夫ですよ。神は悔やむ者すべてをお許しになります──」
そう…一般の信徒相手にならばこれで良い。
けれど彼は、神が許そうと自分で自分を許さないであろうことを知っている。
「私も神に倣い、貴方を許します。
罰は十分に自分自身にお与えになったでしょう?」
内心で深く深く溜息をつく。
こう言わなければ納得しないこともわかっている。
なんでも神の言葉にしてしまえれば楽なものを…。
跪くビデラにその手の平を向ける。
氏いさな手の甲に刻まれた聖痕──少女がそう称する刻印が淡く暖かく、優しい碧光を讃え──打ちのめされた聖騎士の肉体を癒やしてゆく。
打痕も、その苦痛、痛み…病巣すらも取り払う聖女の奇跡。
その光景に周囲の信徒からは畏敬の声があがる。
「(種も仕掛けもあるんだけどね)」
馬鹿ばっかり、と心の中で嘲ながら、瞬く間に治癒は完了する。
■ビデラ > 聖女の、彼に対する評価は一片の誤りも無い
例えば聖女が、今ここにいる彼女以外を殺せと言えば何の躊躇いもなく実行するだろう
それが聖女の意思であれば、同胞かどうかすら彼の眼中にはない
「あ、ァ……………!!!……-----っっ!」
まず与えられるのは神からの赦し
その言葉を真の意味で扱えるのは聖女のみ
そして、まだ残る自分の悔恨に対して与えられるのは、聖女自身からの言葉
あらゆる暗い感情はその光に照らされ、すう、と清らかな涙が男の頬を伝う
「!、聖女バティスタ!このような汚れた身に、聖痕を…!」
おやめください、とは言えない
聖女が行うのであればそれは正しい事であるからだ
ただ反射的に、心だけではなく汚れた身へも慈悲をかける聖女に感激の言葉を漏らし
自身に残った傷を癒すその奇跡の光によって…全身へ力が漲る
治癒が終われば、先の言葉と合わせて…これ以上みっともなく嘆くわけにはいかない
…聖女がそう、望んだのだから
「―――…聖痕の光と赦しの言葉を賜り、このビデラ・フォーランハルト…更なる信仰へ至りました
この体と心、その全ては聖女の御心のままに」
再度頭を下げてから、顔を上げる
その顔は非常に晴れやかで、穏やかな顔に戻っていた
もちろん視線にはこれ以上ないほどの尊敬と愛が注がれているが
「しかし、聖女バティスタ。法話であるなら司祭で十分と考えますが…
他にその御手を振るう事柄が発生したのでしょうか。
…先ほどは醜態を晒しましたが、我ら聖バティスタ騎士修道会を存分にお使いください…」
自由意志を妨げるなどあるはずもない
聖女がただ散歩のついでに寄ってみただけならそれこそ幸運に泣くことになるだろう
そして何か事件があるのなら、いかなる願いをも男は叶えることに尽力する…
その意思を見せる視線で、信徒と共に膝をついて仰ぎ見る
■バティスタ >
「……ええ。お活躍に期待しますよ」
大の男が涙を流し、心からの信仰を口にする。
治癒の光が緩やかに収まりを見せ、その手をゆっくりと下げる。
彼を見つめる双眸はどこまでも穏やかな聖女のものであったが──。
コイツの信仰を奪ったり裏切らせても、結果が見えてるからつまんないのよね──
内心ではそんなことを考えている聖女。
信徒が信仰に裏切られ取り乱す様は面白いものなのだが、彼ほどの狂信となれば話は変わる。
信仰を続けられぬ自分自身を許せず自害するか、あるいは受け容れず盲目になり続けるか。
どちらも気持ち悪いことこの上ない。
このまま自分に心酔させたまま、良いように使うのが最良なのである。
「…ええ、法話は司祭マルティムにお任せします。
私は、新たな騎士の聖別と…神の塩粒の確認に」
問いかけにはそう答える聖女。
新たな騎士と神の塩粒の確認──。
聖女の視線は、地下への階段の在る聖堂の西側へ。
「ダイラスの信徒の方々が多くの塩粒を求めていらっしゃるので、少し多めに工面して差し上げようかと…」
──"神の塩粒"、それは聖バティスタ派が流通を管理する高精製の麻薬である。
高い依存性と高揚感を与え、信徒をあらゆる意味で束縛する禁断の薬物──。
当然その禁断症状は凄まじく、バティスタ派がその教派を拡大させた最大の要因となった代物である。
■ビデラ > 神への狂信ではないからこそ、聖女が嘘だと言えば今までの教義すらあっさりと忘れることだろう
利用されていると理解しても、それが聖女のためならば絶望などするはずもない
「それでは司祭の護衛にこの騎士たちを
最近はこの街にも異教徒が入り込み、法話の場を奪っていると聞きますので
聖女へはぜひ私がお供します。
特に聖別に関しては…生まれ変わる自分に耐え切れず暴れる者も多い」
先ほどまで自分を打擲していた騎士たちを司祭の護衛に付ける命を出す男
「信仰の芽生えですね。実に喜ばしいことです
………非常に、羨ましい。このような異質な体でなければ私も御手に触れられたものを…
…っ、ただ、先ほど…私が誤って叱責を行った信心の芽生えがあった者へ、補填として多く塩粒を与えてしまいました
不足する場合は、他の支部より調達した後に私の私財で補充を行います」
そのまま聖女を先導するように地下への階段へ向かいながら会話を続けよう
特異な体質故、麻薬の効能をも抑えてしまう男は悲しげな声で呟く
一般的には黒い薬である塩粒
修道会の資金源であるそれを、先ほど一人に与える量を大きく超えた塩粒を与えてしまった
しかしそれで新たな信心を潰してはならない
その失態に対する案も出しつつ、階段を先に降りていく
万が一にも聖女が躓きでもした際に我が身を持って支えるために
■バティスタ >
「……では、そのように」
聖女はやわりと微笑む。
偽りとは思えぬ柔和な表情を浮かべ、ビデラの采配を見送る。
内心、退屈で欠伸が出そうであるが。
「良いのですよ。ビデラ。
貯蔵は十分に在った筈ですから。
貴方は少々自らに厳しすぎるきらいがあります」
地下へと先導する騎士に続くように、長い階段を降りてゆく。
先導する彼が思っていることも流石に理解っている。
勿論、そんあ不格好な真似は晒さないけれど。
階段が続く先は──騎士修道会のより深き闇。
法を冒し、人を冒し、神を冒す。
そんな光景が繰り広げられる場所…されど、聖女と盲目的な信徒…あるいは利己的な偽りの信者はそれを是とする。
──この国と人のさもありなん。
迷いなく闇へ足を踏み入れる者たちは、確実にその領域の人間達に他ならなかった──