2024/01/28 のログ
■神棲む山の気配 > 彼が辿り着き、ひとしきり森を伺って吐息を吐いたのとほぼ同時だったかもしれない。
目の前をねじれて或いはしな垂れて、行く先の見通しをさえぎっていたものたちがざわ、と震える。
その音は小さな、汀に打ち寄せる波音に重なるように増えて行って、やがて ざざざざざざ と細かな音の重なり合いとなって耳に届くようになる。
同時に、闇を作っていた絡まり合った木々や蔦や葉が、するするとほどけて、彼の眼の前がひらけていく。
そうして気付くだろう―――あるいは今『そう』変化したのか
いままで行く手を遮るようにあった蔦や樹や葉が、蛇や昆虫や鼠のような小動物の姿を現して、周囲の影に溶けるように移動していっている。
のこったのは、導くように或いは招き入れるように森の奥へと続く路だ。
路が出来上がった後は、何事も無かったように再び汀を波が洗う音と動物たちの鳴き交わす声だけが残る。
彼の頭上と、肩の上の2匹が、ぴりりと緊張しているのはすぐに彼にも感じられるだろう。
開けたとはいえ、蔦や太い木の根が地面を這うトンネルのような路は、どころどころ指す光が作る闇が濃い。
――――頭上の木の枝に溶け込むように潜んだ、黄色に茶の斑が散った肉食獣の姿が視力だけでは捉え切れない程に。
■影時 > 「む……?」
さて、これは如何なることであろうか。
千里を見通す――まではいかなくとも、視力にはそれなりの自信がある。その目でも枝葉の重なりの彼方は見通せない。
深い緑のヴェールのような枝ぶりや蔦などの重なり、絡まりが、さざめきと共に解けて開いてゆく、開けてゆく。
神がおわす何やらと考えるなら、このような自然の働き、動きはそう不思議ではない。
不思議ではないのだが、土地土地によっては色々と違いがあるのだろう。何せ、蔦や樹が、葉さえもが。小動物に化身して動いたのは気のせいか。
「……なンだ。びびってる――でもあるか、こりゃ。俺もちぃと驚いた」
そうして生じた路を前にしながら、深く息を吸い、長く吐きだしては気勢を整える。心を整える。
頭上と肩上の二匹が尻尾を立て、シマリスに至っては大きく振るような素振りを見せるのは、ただ事ではない。
緊張と。そして警戒と。それらを感じながら腰の雑嚢に手を伸ばし、しゅるり、と取り出す黒い襟巻を口元を隠すようにして巻く。
右手で腰帯に挟んだ苦無の柄の位置を確かめ、す、と。微かに足を踏み出しながら――怪訝そうに眉を顰める。
「……――何か潜んでいても、不思議じゃねぇな」
忍びの技を十八番とするのは、忍者だけではない。
地の利を活用し、そのために最適化した生態を持つ生き物こそ、最強と言えないだろうか。
そんなナニカの気配を感じて、この二匹は緊張しているのかもしれない。真逆な、と思う予感は――よく当たる。
そう思いながら、改めて慎重に歩を進める。足音は低く。一人と二匹の気配は密やかに。周囲を見回しながら、トンネルめいた路に足を踏み入れる。
■ジギィ > 【次回継続】
ご案内:「南方の島」からジギィさんが去りました。
ご案内:「南方の島」から影時さんが去りました。
ご案内:「貴族の屋敷」にメレクさんが現れました。
■メレク > とある奇特な大富豪たる貴族が自らの私財を投げ打って、
市井の民から没落貴族まで見所のある者のパトロンとして支援を行なっている。
傍から聞けば、何とも美談であり、何とも胡散臭い話である。
だが実際、その人物の眼に叶い、成功した者達の話は少なからず王都に存在していた。
貧民区の乞食だった者が繁華街の一等地で暖簾を構える大店の番頭となり、
装備も整えられずに万年低級だった冒険者パーティが魔族討伐の功績を挙げ、
家が傾いて家人も離散した没落貴族が身代を持ち直したという話もある。
そして、今、その貴族邸宅に招かれたのは幸運にも白羽の矢が立った者である。
立派な招待状を持参した執事と用意された豪勢な馬車に揺られて豪邸に足を踏み入れた後、
贅沢にも彼女の為のみに沸かされた風呂にて身を清め、誂えられた瀟洒なドレスに袖を通し。
案内された部屋には、屋敷の主たる貴族が二人掛けのソファに腰掛けて高級ワインを嗜んでいた。
ご案内:「貴族の屋敷」からメレクさんが去りました。