2024/01/22 のログ
ご案内:「魔族の国」にイェルドさんが現れました。
■イェルド > 同族争いとは、知性がある者同士特有の性質――ばかりではない。
知性の大小、程度の違いは個体が違えば幾らでも生じることであり、寧ろ本能なのだろう。
そこに魔族だろうと人だろうとも関係は無い。より良く、より多く、より強くあろうとする限り、幾らでも起こりうる。
その衝動を埋めようとするたびに起こる争いに、商機を見出す。
他者同士の争いに便乗することで後々の勢力拡大のための糸口、切っ掛けを垣間見る。
思い通りに行くことはそうそう少ないけれども――
「わざわざオレに声をかけるのは良いが、何と言うか……つっ、まんねえ戦いしてるなあ」
魔族の国の一角に横たわる広大な荒野。
思い思いに君主やら王やらを名乗る者たちが時折ぶつかり、己が版図を拡げるために奪い合いを続ける領域の一つだ。
ここを盗れば、この先に続く他所の街や城へ駒を進めることが出来る。
そのために手段を択ばないものは、何処にでもいる。その為の代価を用意できるものであれば、だ。
支払われる代価を良し、としたものが傭兵として集い、或いはそれぞれの思惑の元に独自に出張る者たちもいる。
侵攻する側の陣に混じり、荒野を見下ろせる高台に陣取る姿は後者である。
頭部まで隙間なく包む鎧は黒銀色。顔も包む兜の色も然り。だが、漏れ出る声はまるで少年のように若い。
「こんなシケた戦い方してると、横合いから噛みつかれるぞ?」
まるで、相互に兵の消耗を押さえるような戦いぶりが詰らないのか、それとも単調と見たのか。
鎧姿の考えに同調する様に、唸りが響く。嘶きが漏れる。
この一帯に詰める群れは、魔族ばかりではない。獰猛な四足獣、怪鳥、或いは複数の部位を繋ぎ合わせたような合成獣。ヒトガタよりも獣の方がずっと多い。
■イェルド > 黒銀色の鎧が従属させ、差配するのは獣である。弱きから強きまで関係なく従え統べる。
魔獣含め、群れるものたちは数あるが、それはあくまで同種同族によるもの。
だが、曇天が立ち込める昼空の下、ここに集う獣たちは違う。
個体も違う。種も違う。性質さえも違う獰猛さが大人しく首を垂れるのだ。ただ一人の姿に。
「代価は貰い、前哨で見合う働きもしただろう。
……こんなだったら、これ以上付き合ってやってる理由もないな。あとは痛い目でも見る時間だな?」
言葉を放つ鎧の姿が一歩、二歩と踏みだし、両手を掲げる。
兜の中で微かな音が紡がれ、声が零れて、力を生む。生じる力は凍えるように冷たい。
力に触れる大気が震え、幾つも軋むような音を奏でながら広がってゆく。白い靄を伴わせながら。
「――凍れ。凍え、拡がり、我が版図の証と成せ」
言葉のように眼前の地面が凍ってゆく。踏み締められた土も、ぬかるんだ泥土も関係なく固まってゆく。
拡がってゆく凍土はその上にある生き物を苛む。
平然としていられるのは耐性があるのか、それとも物ともしない魔力の加護を纏っているのか。
鎧の姿が従える獣たちは後者だ。主が支配し、魔力を伝わせることで護りと力を与えられているが故に、寒さを苦としない。
ば、と振り上げられる手を合図として駆けだす獣の群れたちが、高台の下の友軍――であったものに襲い掛かる。食らいついてゆく。
「オレの雇っていたあっちは……女だったか?男だったか?
忘れたな。女だったら、丁度いい。欠けない程度に齧って連れてこい」
交渉を持ちかけてきたものは男だったが、実際の雇い主は――どうだったか。
どちらでもいい。男だったら殺す。女だったら犯し、侍らせる。よくあることだろう。
■イェルド > 空気が凍り、ダイヤモンドダストを散らせ始める寒さとは下手に吸うと肺をも凍らせかねない。
魔法が作る寒さとなれば、単なる自然現象を通り越して、さながら呪いのよう。
凍土の拡大を知覚した魔族が自前の翼で飛び上がる、或いは防御魔法を発動させて守りに入る。だが。
「遅ぇ。横合いから喰い付かれることも考えてない時点で、もう既に遅ぇ」
嘲笑うように響かせる声の通り、遅い。凍気の拡大に乗じて疾走する獣が先んじる。
羽根が凍え、強張りだすのに焦った翼持ちに狼たちが跳び上がって殺到し、叩き落す。
亀の如く魔法の守りを固めた集団を見たキュマイラたちが、二方向から火炎放射を浴びせて、守りごと焼き潰す。
戦い慣れた、あるいは魔族たちの抗争の流儀を心得た者たちが少しずつ反撃に転じるさまを眺め、鎧姿が剣を抜く。
「……良い。良いな、その反応。生き残ってたらオレの手勢に引き込んでやることも考えてやろう!」
若々しくも獰猛な声を張り上げ、引き抜いた金色の剣を掲げれば後方より轟きが生じ、近づく。
凍土を激しく踏み砕き、ものともせず走り来るのは黒々とした巨躯の馬だ。
蒸気と見紛う程の息を吐き出し、馳せ参じる巨馬に鎧姿は飛び乗り、剣を前に突き出して見せる。
それが合図だ。後に続くのは後詰に控えさせた残りの獣と、それらに跨る血走った目つきの亜人たちである。
乗り手たちの有様は、どこか尋常ではない。強い者には只管に卑屈でありながら、弱い者にはどこまでも残酷、残忍になれる亜人たちは、その性根を押さえつけられ、支配されている。
故に意のままに出来る手駒、走狗としては事足りる。使い潰せるものと気兼ねなく割り切れるからこそ。
「――突撃!」
あとは強くぶつかり、当たり、食い破る。
食い千切れるものがあれば奪い、持ち帰る。残るは凍てついた骸のみ。
ご案内:「魔族の国」からイェルドさんが去りました。