2023/10/02 のログ
ご案内:「魔族の国」にシェティさんが現れました。
■シェティ > 城門からエントランスホールへと伸びる長い廊下の入口で、侍女風貌の女は静かに佇んで居た。
其処は魔族の国の一区画、名前を持たない魔王の住まう居城の入口。
『今夜は客人が現れるので、丁重に持て成すように』という主人の命を受け、歓待の準備を整えてその訪れを待って居るのは良いのだが。
――問題は、その客人の詳細については何ひとつ知らされていないという事。
かの魔王と友好関係にある他の魔王が、賓客として訪れるのであればまだ良い。
されどこの城に仕えてきた経験上、他領の魔族が突如として友達感覚で遊びに来る事もあれば、
主人が戯れに招き寄せた人間が迷い込んで来るケースも少なくは無かった。
挙句の果てには城主の首と地位を狙う下位の魔族や、城の宝物庫を漁りに来た冒険者さえも、
己の主人は嬉々として迎え入れてしまうのが女としては頭の痛いところである。
無論、そういった客人には相応の『持て成し』を受けて貰ってはいるのだが――。
その場合、折角用意した紅茶と菓子が無駄になってしまうのは正直避けたいというのが本音であった。
■シェティ > 「――――……本当に、主様の気紛れにも困ったもので御座います。」
誰も居ない廊下で独り、嘆息混じりに零した呟きは過日の客人達が齎した苦労に思いを馳せてが故か、
或いは遠い玉座で女の様子を覗き見ているかも知れぬ主人に対するささやかな苦情か―――。
けれどもすぐに、口を噤んでから姿勢を正す。
正確な時刻は判らないが、もうじき主人の言っていた客人が現れても良い頃合い。
素性は知らずともその歓待を命じられた以上、魔王の従者の名に恥じぬよう完璧にこなすのが女の役目だ。
刹那、入口の城門がゆっくりと開かれてゆくのを見て取れば、侍女風貌の女は深く腰を折りながら、
開かれたその向こう側に立って居るであろう客人を出迎えようとして―――。
■シェティ > 「いらっしゃいませ。………ようこそお越しくださいました、どうぞ此方へ。」
そうして姿を見せた客人へ、女はスカートの裾を摘まみながら優雅な所作で一礼し、
等間隔に並べられた蝋燭の明かりが燈る長い廊下を案内するようにその歩みを進めてゆく。
その日現れた客人の素性と、かの人物を待ち受ける『持て成し』は、城外の余人には与り知る事は無く………。
ご案内:「魔族の国」からシェティさんが去りました。