2025/01/13 のログ
ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」」に影時さんが現れました。
影時 > 此れも仕事のようで――仕事ではない。私用だ。
「外回り」と嘯く学院生を伴っての校外演習、実習が少ない時期であれば、そうした私用に時間を費やすことが出来る。
勿論、金にならないようなことは極力しない。
特に雇い主が営む商会のサービスを活用して、行きの時間を短縮する以上は行先で珍しいものを買い付け、託す位はせねば。
ドラゴンの翼を借りて、遠出する以上はそれに見合う働き、少なくともその布石は打つべきだろう。
そういったことをやって、漸くやっと、自分のために時間を費やせる。とは云うものの。

「……迷宮の類とも、違うんだよなァこりゃ」

まるで水墨画に色を付けたような山河を眺め遣りつつ、岩場に腰掛ける姿が嘯く。
ここは八卦山。北方帝国シェンヤンの東方、異界と化した危険地帯。
そこに好んで踏み入るものは数少ない。任務を請けて踏み入るものが居ても、ここに長居したいとまでは思うまい。
好んで長居出来るものが居るなら、まさにそれは精神を疑われても仕方がないことだろう。
それは岩に腰掛ける男が、肩に乗せた毛玉めいた小さな二匹の獣にとってもそうであるらしい。
居心地悪げにそわそわ、そわそわと。落ち着いた様子でのんびりと携行食を齧り、水を呑む男とは相反するよう。

「やっぱまだ慣れねェよなあ。無理しなくても良いんだぞ?ン?」

そう声をかければ、男が纏う上着に色は違っても造りが似た服を着た二匹の毛玉が、まだ頑張る、とばかりに尻尾を立てる。
さよか、と頷きながら足元を見る。
山の斜面を縫うような細い細い道を、よくわからない奇妙な動物が下ってゆく。
妖怪――らしい。この山から下り、近隣の村を襲う同類を村人たちがそう呼んでいるのを聞いた。
故に妖怪で良いだろう。似たようなものなら、故郷でも何度も見かけたのだから間違いはあるまい。

影時 > ドラゴン急便を借りて、その背中を借りて先ずは北方帝国の帝都近くへ。これで移動時間を大幅に短縮できる。
そこで足にしたドラゴンのひとを待たせつつ、帝都で最近の流行りを聞き取り、茶葉やら珍しいものを買い込む。
そうそう、酒も忘れてはいけない。酒は買うなら一抱えある樽か壺位だ。
買い付け買い込みを終えた後は、少し急ぐ。待たせ過ぎてはいけない。
待たせていたドラゴンのひとに酒含め当座の必要物以外の購入物を託し、帰路がてら王都に送って貰う。
マグメールでは見かけない、若しくは入荷が少ない茶葉やら乾物等は、雇い主への実地調査のサンプル品も兼ねる。

それを終えた後は、目的地である八卦山を目指す。
途中立ち寄る村々から、昨今の状況や帝国の兵の動きを聞き込み、山に入る。
山に入った後にまず目指すは、或る廃墟。そこに酒樽をひとつどんと置いて、さらに奥へ。先へ。

その過程は迷宮探索と似て、非なる。迷宮では踏み込んだ先の部屋に、宝箱が見つかる場合が多いが、ここではそんな道理はない。
では、何のために此処に来るのか。
妖怪を倒したい? 否、討伐依頼は何も受けていない。強い敵と戦ってみたい? それはちょっと興味がある。
この異様な空気に慣れたい? そのつもりはあるが、それが全てではない。
携行食を食べ終え、残る包みを羽織の下の雑嚢に捻じ込む。
ゴミ含め、余程の事がない限り遺留物は残したくはない。そこから何かを辿られる可能性が――ある。何せここは。

「……――妖怪変化の仙人やら邪仙やらの仙窟、とは一口に言っても、まァほいほいと見つかるもんじゃねぇわな」

迷宮と違う。明瞭な意思、意図を持ちうるものたちが棲まう領域である。
その者達が住む、陣取る場にお宅拝見よろしく踏み入り、何やらを持ち帰り、奪取してみたい。
ないし、放棄されたものから何某かを得たい。そうすることで、己が技を磨き、高める糧としたい。
逆に己が餌食とされる可能性? そんなもの、端から承知の上だ。呑まれても呑み返す位出来なければ、何の意味が在ろう。
口元を釣り上げ、嗤いつつ襟巻を引き上げ、覆面と成す。
そんな飼い主の顔に顔を見合わせ、二匹の毛玉が肩を竦める。多少は奇妙な空気に慣れているだけ、この二匹もどうしてただものではない。

「あの村跡の起点にしてあの山が、嗚呼、消えてねェか良かった。……こっちはまだ、行っていなかったかね」

腰裏をごそごそと漁り、取り出すのは巻物。しゅるりと広げれば墨跡で描いた地図らしいものが出る。
村跡の如き廃墟を探査の起点とし、回数はまだ少なくとも、歩いた限りを記す。今回はあちらに赴こうか。
目星をつけて巻物を戻し、おぅいと毛玉たちに声をかける。
手に乗ってくる毛玉ともども、腰裏の雑嚢の中に巻物を仕舞う。瘴気邪気含め、濃過ぎるとどんな影響が出るか分からない。
無事に仕舞い終えれば腰を上げ、跳ぶ。風の流れを読み、深い谷を飛び越えながらその向こうへ。

影時 > さて、誰かが棲んでいそうなところを探すとは一口に言うが、易いことではない。
包み隠すことでもそもそも無いが、手がかりが無きに等しい。
獣を狩るにはその足跡、排泄物、毛や削れ折れた爪等のような残留物を、探索の足掛かりとする。
故郷や隣国の概念で、古来より言われる仙人とは、自力で飛んだり空を歩いたりするような神通力を使ってみせるという。
或いは、その手の術か。忍術にも通じる術なら心当たりは幾つかあるが、それを基準にするのも違うだろう。

(――人を隠すには人の中とは云うが、邪仙を隠すなら妖山魔窟とか云うんじゃあるまいに)

羽織を広げて風を巻いて跳び、子分の片割れにも負けぬ滞空を経て、谷の反対側へ。
着地の最中で指を構える。立て続けに印を結び、氣と念を走らせて術を紡ぐ。
一人が跳び、着地する際は五人。七人。八人。十一人。寸分たがわぬ姿を持つ実体を持った分身を紡ぎ、思考を並列共有させて走らせる。
ただ独りでは易く済まぬのなら、最終的には力業だ。一人で駄目なら二人、二人ならば四人、さらに沢山。
散れ、と号令すれば術者以外の分身達が一斉に走り、飛び、怪しさを帯びた風景の中に紛れ隠れるように消えてゆく。
空を見上げれば、薄明るい。今が昼なのか。夜なのか。この土地に呑まれたような錯覚を得ながらも。

「殴り込めそうな奴がありゃ良いが。無けりゃあ、住んでそうに見える穴倉か」

谷底は河であるらしい。勢いを感じさせる水音を遠く遠く聞きつつ、腕組みした姿勢で周囲を見遣る。
此処もまた細い道のよう。木々もまばらで苔生した岩の量が緑より勝るようにも思える。

影時 > 妖怪の足取りを探し、辿る方が良いか? その考え方も間違いではあるまい。
妖怪とて生き物だ。霞を食って活力と出来る程の域に達しているならば、その行動原理は動物の本能には最早因らないと思われる。
水の流れや当てにし難いが山野の植生等々、住居を構えるに良さそうな処を分身達が探す。

先ずは見つかるか否か。

【判定(1d10)偶数:見つかる 奇数:見つからない】
[1d10+0→8+(+0)=8]
影時 > 「……――おっ、見つけたか」

どうやら、分身の一人が何か見つけたらしい。片目と瞑り、分身と視覚を共有しながら見遣るのは如何にもな洞窟の入口。
入り口付近の足跡の有無の検討をつけるが、獣も人も含めて足跡と判別できる、伺える痕跡が見当たらない。
しかしながら、此れは如何なるものだろうか。
存外あっさり見つかるのは何かの巡り合わせか。それとも誘われているのか。
少し考えて、その思考を断つ。考えるだけ馬鹿らしい。まずは行ってみないことには分かるまい。
そう判断して、身を屈める。仰げば見える山の斜面、岩肌は垂直に近い位に切り立っている。
岩壁も同然の山肌に跳ぶ。微かな出っ張りや指が入る窪み、割れ目を見つければ、それらを手がかり足掛かりにまた跳び。

「――戻れ」

分身が見つけた洞窟の入口に向かいつつ、探索に向かわせた分身達を呼び戻し、引き戻す。
術を解いてゆけば分身が身を薄れさせながら術者に重なり、氣に還元される。最後に洞窟の前に立った分身も消えて戻り、残るは一人。
ふぅ、吐息を吐き、眼前に見えるものを見遣る。自然の洞窟――ではあるだろう。だが、周辺の整いぶりはどうだろうか。

「手ぇ入っている臭いな。あとは中で何か――見つかると良いンだが」

あとは当たるも八卦当たらぬも八卦。仙宝やら宝具やらまでは、望むまい。
奥義書やら秘伝やら、術の痕跡とも思える名残などがあればいい。そう思いながら中に這入る。

入念な探索を経て見つけるのは、何者が居たらしい痕跡と。そして幾つかの竹簡、木簡といった巻物類――。

ご案内:「北方帝国シェンヤン「八卦山」」から影時さんが去りました。