2025/03/22 のログ
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ご案内:「タナール砦」にネヴェドさんが現れました。
ネヴェド >  
「蹂躙しろ」

黒髪を棚引かせた長身の女がそう一言発すれば、
オーガやミノタウロスといった巨躯の魔物の軍勢が咆哮と共に砦へと雪崩込んでゆく。

十分以上に武装された大型の魔物の戦力は、一つ一つがただの人間と比肩できるものではない。
魔法による足止めにすら手間取ってしまえば、その圧倒的な体力と侵攻の力に押し切られる。
実に力任せの突破術──しかしこの軍勢にとっては、それが理に適う。

程なくして配色濃厚となった砦の守りを中空に足を組み浮遊する女が見下ろし、小さく溜息を吐く。

「脆い。…軍や隊としては及第点なのだろうが、
 我が王の求める様な強者はやはりそういない、か…」

そう呟く女の翠玉の瞳には、紅く戦火があがりはじめた戦場が映っていた。

ネヴェド >  
鎧都市グレイゼルから派兵された軍勢は普段は獣人や夜魔などが多い。
此度の攻略にはあえてそうではない、力のみに戦力を集約させた編成となっていた。
ある意味で試験的な意味合いを持つ侵攻だったが──。

「大規模な魔術を展開する用意でもなければ、この物量を止める力はない、か…」

そもそものフィジカルが違うのであれば、同等以上の装備をさせることでそれは自明の理となる。
女の言葉通りの蹂躙が起こり、砦のあちこちでは一方的な戦いと、逃げ遅れた女騎士などへの凌辱が起こり始めていた。

それらを視界に収め、僅かその瞼を細める。
魔王ラストの名の下に統率された軍勢だけではない。
それ以外にも野の魔物か、あるいは別の指揮系統の軍勢か。

「───。品性のないことだ」

そんなものは、戦場には不要なものなのかもしれないが。

ネヴェド >  
大勢の決したこの戦場で、これを己の力のみで押し返す…あるいは突き破る。
そんな猛者がいれば、それはまさに我が王、魔王ラストの求める強者に違いない。
向こう(王国軍)にとれば英雄、こちらにとってみれば死神か。

「(それほどの逸材には、随分と出会っていないが)」

灼けゆく戦場を見下ろしながら、そんなことを思えば。
視界の端には更に砦へと踏み入ってゆく魔物や魔族達の姿も見える。
向こうの敗色が濃厚と知りやってきたか、あるいは機に乗る形でいずれかの魔王が派兵したか…。

ネヴェド > 事実。人間という資材を獲得する以外に然程この砦が重要だとは思えない。
砦を得たとてその先に進軍できるでもなく、魔族領への侵攻を未然に防ぐ価値がある程度だろう。

もっともこの女にとっては別の…自らを頂く王が求める強者を炙り出すという意図があるが。
時折に、人間達の中でも魔族に対しての精鋭と見られる軍がやってくるが、あれは個の力ではない。

「──魔王を打倒する勇者など、やはり古の絵物語だけのものか」

過去は…どうだったか。
自身を集中に収めてきた歴代の魔王達を思えば、やはりこの地にて人間に討たれた者は殆どいない。
一つ前…先代の持ち主である魔王くらいだろう。
とある人間に討たれ、自らもまたあの忌まわしい王城の地下で百年以上囚われることとなった。
その間に人間によって行われた仕打ちを思えば──あのような下劣な種族に英雄が必要とは思えない。

「……む」

過去を思い返し、僅かに人間に対する憎悪の炎が胸中に燻る。
運悪くその視界に入ったのは──逃げ遅れたか、隠れながらに近づき、せめて一太刀でもと女に向け走る人間の兵の姿。
力だけの集団では、こういった周辺の警戒といったことに疎いのが欠点か、と内心吐露しながら、女は地上へと降り立つ。

その手にはいつの間にか漆黒の刃鎌が握られ、凍るような視線を、人間の兵へと向ける──。

ネヴェド >  
突き向けられた長剣の刃は、女の刃鎌の一振りで砕け宙を舞う。
そしてそのまま…掌から放たれた凝縮された魔力をその胴体に受け、木っ端の如く吹き飛ばされる。

「──雌であれば、魔物の軍を束ねる者が弱いとでも思ったのか。思慮の浅い種族だ」

人間を絶命させることにはなんの躊躇も感情も湧くことはない。
下劣で穢れた欲望の化身。
自らのことしか考えることが出来ない救いようのない種。
人間の雄とはそのようなものであると、百年の時を王城の地下で過ごし、女はそう理解している。

「──陥落も時間の問題か」

地上に降り立った女は巨大な刃鎌を肩掛けに、戦火燃える砦を悠然と見上げていた。

ネヴェド >  
程なくして砦内での怒号や喧騒は消え失せ、
魔物が各々の"戦利品"を手に帰還する。
此方の言うことは聞くものの、知性に関しては高くはない連中のこと。
それらは捕虜としての待遇を受けるではなく、ただただ凌辱される運命にある。
──人間とて魔族を捕らえれば同じことをするのだ。同情の余地も何もそこにはない。

「──グレイゼルに帰還する」

そう言って踵を返す。
──今宵も強者が現れなかったことに、あの方は落胆を覚えるだろうか。

「(──であれば、褥にて私が主様の虚無を埋めて差し上げなければ)」

胸元に手をあて、深く瞳を閉じ、そう決意する。

ネヴェド >  
「(だが、しかし……)」

「(飽くなき闘争と強者を渇望される主様はさぞ落胆なさるだろう…きっと戦いに飢えているに違いない…)」

「(その渇望をもって、私をその滾る剛槍で魔獣の如く求められるのでは…?♡)」

「(ああっ、そんな主様をこのネヴェドが全身を以て埋めて差し上げます…♡♡♡)」

──妙に身体をくねらせながら帰路につく総指揮官を眺め、魔物達は一様に頭上に"?"を浮かべているのだった

ご案内:「タナール砦」からネヴェドさんが去りました。